企画記事
近頃よく見聞きする「itch.io」って何? プレイヤーだけでなく,クリエイターたちにも開かれたサイトの歩き方
だがその一方で,小粒でも突飛だったり挑戦的だったりで尖りまくった,かつての「インディーゲームらしさ」が薄まっていると感じている人もいるのではないだろうか。
そんな知る人ぞ知るゲームと出会いたくなったときは,ひと味違ったゲームの投稿・販売マーケット,itch.io(外部リンク)を訪ねてみるといいかもしれない。
itch.ioは,サンフランシスコ在住のLeaf Corcoran(リーフ・コーコラン)氏によって2013年に起ち上げられた,ゲームを中心としたデジタルコンテンツを取り扱うアメリカのオープンマーケットプレイスだ。
以前はプログラミング言語「MoonScript」(「美少女戦士セーラームーン」にインスピレーションを受けたとのこと)」の開発などを行っていたというコーコラン氏が,あるとき小さなゲームをつくったものの,自分が望むような公開場所が見当たらなかったことが,このサービス誕生のきっかけに,つながっていったのだという。
4Gamer読者なら,インディーゲームが購入できるサイトとしてのほか,大ヒットした「Vampire Survivors」が最初に公開された場所としてitch.ioを知っている人もいるだろう。
だが,実際にサイトを見てみると,ゲームに加えて,ゲーム開発時に利用できるアセットやツール,電子書籍やコミック,サウンドトラックといった,幅広いアイテムが並んでいることが分かる。一見普通のストアだが,特徴的なのは,基本的に誰に対しても,特にインディーデベロッパに向けて広く開かれているところだと言えるだろう。
そんなitch.ioとはどんなサイトで,どう使えばいいのか,本稿で紹介しよう。
実は日本語化もできる
itch.ioを活用したいなら,まずアカウントの作成をおすすめしたい。ゲームを購入する際に必要になるのはもちろんなのだが,アカウント設定画面にいくと,インタフェースをはじめとした多くの部分を日本語表示に変更できるからだ。
サムネイル下のテキストやマウスオーバーで表示される情報,ゲームの詳細ページなどを見ると,残念ながら日本語ではない部分も多くあるが,それでも随分と使いやすくなるはずだ。
アカウントを作成すると,日本語化に加えて,サイト内に投稿されているゲームに対してコメントが可能になったり,「https://ユーザーネーム.itch.io」というURLのウェブサイトが使えるようになったりする。
このユーザーごとに割り当てられるサイトは,プロフィールの公開やゲームの詳細ページを作成するために用意されている機能のようで,大抵はクリエイターによってランディングページ的な形で利用されている。
自由にデザインできる仕様になっており,テーマカラーやフォント,マウスポインタの形などは,クリエイターの意向によってさまざま。itch.io自体が非常にプレーンなデザインであるのとは対照的だ。
クリエイターなら自分の個性や作品をさらにアピールする場として使えるし,プレイヤーなら自分の好みに合うゲームを探すとき,こうしたウェブサイトの雰囲気をチョイスの参考にするのもありかもしれない。
さて,無事日本語化できたらゲームを探してみよう。ページ左上にある「作品を探す」から「ゲーム」をクリックすれば,Windows,macOS,Linux,Android,iOS上で動くタイトルが一覧に表示される。
そこから気になったゲームの詳細ページにジャンプすると,ブラウザ対応の作品なら「Run game」,無料でデータが配布されているなら「ダウンロード」,有料なら「購入」といったボタンが見つかる。そして,それらのボタンをクリックして先に進むと,次のようなダイアログが表示されることがある。
itch.ioがユニークなのは,ここで表示される金額(画像では$1.00)が,“固定”ではなく“最低”価格とされている点だ。
これは「pay what you want」(PWYW)方式と呼ばれているもので,クリエイターをもっとアシストしたいと思ったなら,任意の金額を上乗せできる。
クリエイター側の設定により,このようなダイアログがそもそも表示されない作品もあるが,寄付自体は強制ではないため,上乗せせずにゲームをダウンロードしても問題はない。
こうした寄付のシステムは,音楽配信プラットフォームの「Bandcamp」(外部リンク)を参考にして設けられたのだという。
もうひとつ,プレイヤーからは気付きにくい部分になるが,同じ支払いに関するものとして,itch.ioへ支払う手数料の割合をクリエイター側が決定できるという,さらに思い切った仕組みが採用されている。
デフォルトで表示されている10%という割合は,スライダーを動かすと自由に変更が可能。「思い切った」と書いたのは,0%にも設定できてしまうからである。
これは,例えば,意義あるチャリティバンドルの企画といったような,クリエイターやコミュニティによる活動などを応援したいという想いのもとでitch.io側が受け入れているリスクなのだそうだ。
そして現在まで,このオープンな収益配分のシステムは,節度あるクリエイターたちによって効果的に活用されているようである。
近年,大手のゲーム配信サービスは,その手数料の高さで批判を受けることが多く,パーセンテージを下げるところも出てきているが,クリエイター側が「手数料なし」を設定できてしまうのは,itch.ioがユーザーたちを信頼している表れなのかもしれない。
ゲームのインストールや管理が楽になる専用ランチャー
ランチャーのダウンロードページ
itch.ioのサービスは,ブラウザだけでなく,専用ランチャー(Windows,macOS,Linux)からも利用できる。
ランチャーにはアドレスバーがレイアウトされており,「itch.ioを使いやすくした専用ブラウザ」という説明が分かりやすいかもしれない。ベースカラーは黒になっていて,ブラウザ使用時とは全体のレイアウトなども少し異なるが,必要な項目が過不足なくコンパクトにまとめられている印象だ。
こちらがランチャーのトップ画面。試しにアドレスバーへitch.io以外のURLを入力してみたが,見ることはできなかった
ランチャーを使うと,ゲームがスムーズにバージョンアップされたり,ブラウザゲームをオフラインでプレイできたりといったメリットがある。
また,DRMフリーの作品などをはじめ,データが配布されているゲームの場合,ブラウザだと都度,圧縮ファイルのダウンロードと保存,解凍を行う必要があるが,アプリを使うとPC内の指定したフォルダにすぐインストールできるため,手間が省ける。ゲームの管理も楽になるはずだ。
目を引いたのは,「環境設定」の中にある「サンドボックス機能」の存在だ。サンドボックスとはPCの中に構築される,隔離された仮想環境のこと。PCの中にもうひとつPCがあるとでも言えばいいだろうか。そこでプログラムを実行することで,万一悪意のあるゲームがあったときに,本来のシステムをある程度は保護することができるとされている。
itch.ioは,誰もが自分のウェブサイトを簡単に持て,すぐにゲームを公開できることを謳っている。煩雑な手続きや難しい条件は少なく,ゲーム公開に至るまでの審査のハードルの低さは,善良なインディーデベロッパたちにとって大きな助けになっていることは間違いない。
しかしながら,誰もがゲームを手軽に投稿できる性質のサービスであるが故に絶対の安全はない,とitch.ioは注意喚起している。
そもそも,インターネット上から何かしらのデータをダウンロードする際,こうした慎重さは常に必要とされるものだ。危険性を極力下げたいなら,サンドボックス機能を活用したり,ブラウザ上で動くHTML5対応ゲームのプレイなどに留めることが推奨されている。
マーケットを賑わせる,小さくても元気なゲームたち
本稿の執筆時点において,ゲームカテゴリに分類されているタイトルは約99万本。そこには,ほかのゲーム配信プラットフォームなどでも見かける「Among Us」や「Vampire Survivors」(いずれも対応言語は英語)などといったタイトルも含まれているが,ほとんどは初めて目にするものだろう。
それもそのはず,「in game jams」というフィルタで絞り込むと分かるのだが,実は,ゲームの3分の1弱はitch.ioで開催されたゲームジャムで生まれたものとなっているからだ。
ゲームジャムとは,特定のテーマのもと,限られた時間でゲームを制作し,その成果を発表・評価し合う,お祭りのようなイベントのこと。
2014年に開催されたゲームジャムの「Flappy JAM」は大人気となり,itch.ioの規模が拡大する転機となったそうだが,今日までそうしたゲームジャムが常時開かれており,マーケットを活気付けているようだ。
itch.ioにはマルチプレイやVR対応など,さまざまな種類のゲームがあるが,ゲームジャム産であるなしに関わらず,9割以上が無料(もしくは低価格)であり,平均プレイ時間は長くて数時間程度のものが大多数を占めている。
大手配信プラットフォームの場合,クリエイターが作品を投稿するたびにフィーが発生するうえ,数時間未満のプレイの場合は返金ができてしまうシステムになっているものもある。これには低クオリティの作品投稿などをブロックする効果も期待できるが,開発者にとっての負担は小さくはないだろう。
対して,itch.ioにはフィーがないため,価格帯や総プレイ時間などを気にかける必要がない(もっとも無料の場合は返金の心配はないが)。気軽かつ手軽にゲームを公開できるシステムは,クリエイターにとって魅力的に映るはずだ。
プレイヤー側は,玉石混交であることには納得したうえで,その中から「玉」のタイトルを見つけたいところ。
というわけで,膨大すぎるゲームの中から,「ブラウザでプレイ」(Play in browserのラベルが付いたもの),そして「無料」という条件を軸に,ゲームジャムや特定のタグなどから見つかったタイトルをいくつかピックアップしたい。
RAGDOLF
開発者:Weenter「GMTK(Game Maker's Toolkit) Game Jam 2023」で総合73位の作品。RAGDOLFの世界では我々の知っている物理法則は通用せず,どんなに力を込めてショットしても,ゴルフボールは微動だにしない。
この奇妙なゴルフボールを利用して,プレイヤーはあるものをホールに入れるべくスイングするのだが……。プレイしたなら,その絵面のシュールさに不意をつかれて大笑いしてしまうはず。
クリアするとStorm remix levelsなるモードへのボタンが出現するので,暴風に気を付けながら,ぜひ続けてチャレンジしてみてほしい。新時代の紳士によるゴルフは,こんなスタイルがスタンダードになるのかも……?
「RAGDOLF」プロダクトページ
Holonomy
開発者:Fuzzyzilla「GMTK Game Jam 2022」で総合2位となった作品で,半透明なキューブの6つの面に表示されたマップ上の出口を目指して,ボールを操作していくゲーム。
RAGDOLFと違い,今度はちゃんとボール自体が動くので安心してほしい。ボールが別の面に移動するとキューブも一緒に回転する。例えば,天井だと思っていた場所が急に地面に切り替わったりするため,最初は面食らうはずだ。
キーボードでの操作がなかなか難しいので,パッドに切り替えてみたところ,個人的にはかなりコントロールしやすくなった。「Cylindric」「This way up.」「Freefall」「Forest.」「Maze」「Circuit.」「End.」の全7ステージ。自然なBGMも心地良い。
「Holonomy」プロダクトページ
mingle
開発者:cookiecrayon「GMTK Game Jam 2021」で総合143位の作品。記号に目が付いたようなキャラを自分が操作し,同じ形のキャラに近付いて「マージ」すると姿が変わるので,また同じキャラを探してマージしていく,というゲームだ。
50回ほどマージを繰り返すとクリアになるのだが,キャラはちょっと目を離すとどこかに移動してしまうし,グラフィックスがモノクロでほかのキャラと重なっていると同化して見分けづらいため,難しくはないが見た目ほど単純でもない。神経衰弱と間違い探しを組み合わせ,アクション性を加えたような印象だ。
耳を澄ますと,何やらゴニョゴニョとミ●オンのような話し声も聞こえてくる。早足だったり鈍足だったり,ときには立ち止まったりして何かを考えているように見えることも。愛嬌あるキャラたちが,ちょこちょこ動き回る姿を眺めていても結構面白い。
「mingle」プロダクトページ
Klifur
開発者:Torfi「Sports」タグからピックしたこの作品は,ボルダリングやロッククライミングのような体験が味わえるゲーム。手と足をどういった順番で運んでいくことがいかに大切か,個人的にとてもためになった。
両手を離してしまったり,長い時間ドラッグしたりすると力尽きて落下し,ゲームオーバーに。1つのステージをクリアすると,不思議とあと1つだけ……という気持ちになって,結局全12ステージを一気にプレイしてしまった。各ステージごとにクリアまでの時間が記録されるので,タイムアタックに挑戦しても面白い。
「Klifur」プロダクトページ
Chikutaku
開発者:Watson Amelia - hololive EN, CenTdemeern1純粋なインディーゲームとは言いづらいかもしれないが,バーチャルYouTuberのワトソン・アメリアさん(ホロライブEnglish所属)による初のオリジナルソングをミニゲーム化したという,とてもかわいい作品。
スタートすると,歌と同時にアニメ作品のOPやEDを思わせるようなグラフィックスが流れてくる。ノーツはなく,アニメの中で動くもの,例えば,犬の尻尾や時計の針,カメラのシャッターといったものとリズムに合わせてキーを叩くだけでいい。このあたりは「リズム天国」へのオマージュが感じられる作りだ。
最後にスコアが表示されこそすれ,いくらミスしても強制ゲームオーバーになることはないので気楽に遊べる。曲が終わる頃にはノリノリで「時空の歪み〜♪」などと歌詞を口ずさんでいるはずだ。
「Chikutaku」プロダクトページ
Take a Break
開発者:Strookベンチに座る人物の周囲に存在するものから,人の呼吸のタイミングと近そうな動きを探し,それに合わせてスペースキーを押し続けたり,離したりするゲーム。
「思考を止める」という行動は,意識するとなかなかできないものだが,本作には「Relaxing」タグが付けられているだけあってか,静かな夜景を見ながら呼吸を続けていると,いつの間にか雑念も消え,気持ちがゆったりと落ち着いていく。
星の流れる音,草木のざわめきや虫の鳴き声などとよく馴染むアンビエントなBGMには安らぎがあり,ASMRとして流したり,ちょっと気分転換したいときに遊んでみたりするとよさそうだ。プレイ後は少し原稿を書くスピードも上がった……ような気がする。
「Take a Break」プロダクトページ
こうして見ると,itch.ioというマーケットが,プレイヤー以上にクリエイターに寄り添ったサービスだということがよく分かるだろう。
インディーデベロッパの味方と言えそうなストアにはGame JoltやPLAYISMのようなサイトもあるが,今後,プレイヤーにとってはもとより,さまざまな角度から独立系クリエイターを応援するサービスが増えていくことにも期待したいところだ。
ところで,itch.ioの存在を,以前から知っていた人も,今回初めて知った人も,その正しい呼び方について知りたいと思ったことはないだろうか?
コーコラン氏によると,プロジェクトローンチ前にたまたま所有していたドメインをこのサービスに使用したそうで,実は自身の中でも呼称は定まってはいないとのこと。なので,「イッチドットアイオー」「イッチオー」「イッチアイオー」などなど,どんな呼び方でも気にしないと過去のイベントで語っている。
これで,これからは自信を持ってitch.ioの名前を呼んで利用できるはず。尖ったゲームを探して遊んだり,友人に紹介したり,そして,もし興味を持ったなら,ミニゲームづくりにチャレンジ,というのもいいかもしれない。
itch.io
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