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印刷2024/08/30 13:34

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アバターの未来にあるデジタルアイデンティティ。デジタル空間における「もう一人の自分」の可能性を探る[WebX]

 2024年8月29日,WebX 2024「デジタル・アイデンティティの形成:メタバースにおけるアバターの未来」(Shaping Digital Identity:The Future of Avatars in the Metaverse)と題されたパネルディスカッションが開催された。FlickplayのCEO Pierina Merino Alaimo氏,AwwのプロデューサーSara Giusto氏,AKA VirtualのCEO兼共同創業者Jia Shen氏が登壇し,MAWARI CTOのAleksandr Borisov氏がモデレーターを務めた。

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 まずは,登壇した面々の紹介から。

Pierina Merino Alaimo氏(Flickplay CEO & Founder)
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 Alaimo氏は,Flickplayの創業者であり,CEOを務めている。Flickplayは,エンドツーエンドの消費者向け製品を提供する企業で,世界最大級のフランチャイズと提携し,デジタルトイを新しい製品カテゴリーとして展開していると述べた。具体的に挙げられたパートナーには,Disney,Bandai Namco,Warnerなどの名前があった。
 その事業は以下の3つの柱から成り立っている。
・ゲームレディなデジタルキャラクターのための,コマースプラットフォーム
・ファンがオンライン・オフライン双方の体験やゲームを発見し,デジタルトイと対話できる機能
・ファンがプラットフォーム上で集まり,参加したい体験を見つけることができる包括的なコミュニティ機能


Sara Giusto氏(Awwプロデューサー)
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 Giusto氏は,AIやリアルタイム3D CGなどの最先端技術を活用して,バーチャルインフルエンサーを作成しているバーチャルヒューマンカンパニーであるAwwでプロデューサーを務めている。
 具体例として,Giusto氏は会社の代表的なプロジェクトを挙げた。「Instagramでピンクのボブヘアの女の子「imma」を見たことがあるかもしれません。彼女は,CoachやPorsche,BMWなどのブランドキャンペーンから,TikTokダンスやアーティストへのインタビューまで,幅広く活動しています。
 彼女はインターネット上でバーチャルキャラクターとして存在していますが,多くの人は彼女が実際にはバーチャルであることに気づいていません。我々は,バーチャルと現実の境界線を越え,そこからUAP(Unidentified Aerial Phenomenon)を作り出しているのです」

Jia Shen氏(AKA Virtual Inc. CEO & Co-Founder)
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 Shen氏は,AKA VirtualのCEO兼共同創業者として登壇した。同社はバーチャルキャラクターを創造し,アニメーションキャラクターを用いてストーリーを語ることを可能にする制作会社である。
 氏によると,AKA Virtualは幅広いバーチャルキャラクターに対応しており,ソニックやムーミンといった既存のキャラクターから,ホロライブのようなVTuberまで,多岐にわたるキャラクターの制作を手がけている。
 同社の主要なミッションは,これらのキャラクターがNetflixや映画のような従来のメディアよりも,よりソーシャルメディアに近い新しいメディアでコンテンツを作成できるよう支援することだという。デジタルキャラクターとオーディエンスとの関係性をより身近なものにし,インタラクティブな体験を可能にするアプローチをかけている。


アバターの進化:単なる視覚表現を超え,独立したアイデンティティを持つもう一人の自分


 モデレーターのAleksandr Borisov氏は,最初の質問として「アバターがどのように単なる視覚的表現を超えて,より複雑なデジタルアイデンティティへと進化していくと考えるか」を投げかけた。

 Alaimo氏は,物理的な玩具と比較しながら,デジタルキャラクターの進化について語った。「何世紀もの間,私たちは物理的な玩具で遊び,頭の中でストーリーを作ってきました。これらの物理的なアイテムを通じて創造性を刺激し,想像の世界や体験を構築してきたのです」
 技術の進歩により,デジタルと物理的な世界が近づいていることを指摘し,「デジタルな存在が単なるアイデンティティのトークンやオンラインエンターテイメントへのアクセスだけでなく,現実世界での日常的な活動を表現し体験する方法にもなっていくと考えています」と述べた。
 氏はFortniteのプレイヤーがゲーム内で勝利ダンスを解除し,それをソーシャルメディアや現実世界でのダンスに活用する様子を挙げ,デジタルアイデンティティと現実世界のつながりが強まっていることを示唆した。

 一方Giusto氏は,ストーリーテリングの重要性と,ストーリーテリングの媒介が変化していくことに焦点を当てた。「ストーリーテリングは人間の本質的な行為です。私たちは映画を見たり,お互いに話をしたりします。世界を理解する方法,自己表現の方法,すべてがストーリーテリングに関わっています。以前は映画や新聞など,大規模な予算と長い制作期間を要するものが主流でした。しかし今では,TikTokやInstagram,Xなどが使われています。今や誰もがストーリーテリングを行っているのです」
 物理的なつながりを越えて,いまはSNSからの情報を見て,相手はどこで誰と何をしているかを推測できるようになると述べた。
 そして,このようなストーリーテリングはバーチャルキャラクターでも可能だと述べる。「バーチャルキャラクターも,Kylie Jennerと同じようにストーリーを語ることができます。バーチャルキャラクターは映画やゲームだけのものではなく,私たちのソーシャルメディアチャンネルに,より没入型で存在するようになるでしょう。あるいは,私たち自身がバーチャルヒューマンになるかもしれません」

 Shen氏は,アイデンティティの二面性から議論を始めた。「アイデンティティには2つの側面があります。自分をどのように発信したいかということと,人々があなたをどのように認識するかということです。だからこそ,私たちの会社名をAKA(Also Known As)としました。これは本質的にあなたの別の自分,オルターエゴに関するものです」と説明した。
 インターネット初期の匿名性に触れ,「インターネットが始まった頃,みんなテキストでコミュニケーションを取っていて,ある程度の匿名性がありました。人々は新しい形のアイデンティティを受け入れていったのです」と述べた。
 例えば,アメリカのトップストリーマーの一人であるアイアンマウス(Ironmouse)は,VTuberで顔出しをしたことがないにもかかわらず,実世界のアイデンティティとは別に,最も有名なインフルエンサーの一人となっていると。「これこそがAKAという言葉が体現するもの,つまりあなたの別バージョンになることの意味です」。

@ironmouse(Vshojo)
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 「VRゴーグルを装着して鏡を見たときに別の人物になっていると,脳の働き方も少し変わります。この新しい形のアイデンティティと技術により,リアルタイムのコンテンツ制作が可能になり,非常にエキサイティングな展開が期待できます」とVR技術がアイデンティティに与える影響についても言及しつつ,日本の文脈での仮想アイデンティティの可能性にも触れた。
 「日本には,大学教育を受けたにもかかわらず働いていない人口が多く,特にそれは女性に多い傾向があります。仮想アイデンティティの創造を通じて,一般的な認識の枠外で活動できるようになることは,将来的に興味深い展開につながるでしょう」と予測した。


技術に偏る議論になりがちなWeb3は,より感情的な体験に価値をもたらしてくれるか


 続いては,「WebX」のテーマに近い「アバターの所有権と移植性の未来において,ブロックチェーンとNFTがどのような役割を果たすと考えているか」という質問で話を続けた。

 Alaimo氏は,ブロックチェーンとNFTが,デジタル所有権とインターオペラビリティにおいて重要な役割を果たすと強調した。

・ブロックチェーンにより,デジタルキャラクターやアイテムのデジタル所有権を確立できるようになる
・ユーザーは自分のデジタルキャラクターをクロスプラットフォームで体験することも実現しやすくなるだろう
・価値の創造と移転:NFTにより,デジタルアセットの価値がより明確になり,プラットフォーム間で移転可能になる
・コミュニティとアクセス:デジタルキャラクターの所有が,特定のコミュニティへのアクセスや特別な体験への参加権利につながる
・オープンエコシステム:ブロックチェーンにより,異なるプラットフォームやIPが連携しやすくなり,よりオープンなエコシステムが実現する


 Giusto氏は,Web3技術がバーチャルヒューマンIPとの親和性が高いことを肯定した。「Web3が,技術からコミュニティ作りに至るまで非常に有益であることは明らかです。これはあらゆるIPや仮想キャラクターが存在するために不可欠です」と彼女は述べた。
 「実在の人物が自身をスキャンしてゲームに登場させようとしているのを見かけますが,仮想人間の強みの一つは,すでにそれはCGI仮想キャラクターであり,Instagramからゲーム,ライブストリーミングまで,基本的にあらゆるプラットフォームを横断できるIPだということです」とバーチャルキャラの強みを語った。

※Computer Generated Imagery:読んで字のごとく,コンピュータグラフィックスによって生み出された画像や映像などのイメージ全般を指す

 しかし一方で,現在のWeb3に関する議論の多くは技術に偏っているという意見を述べつつ,十分なストーリーテリングや,人々の心を動かす方法についての議論が足りないと指摘した。
 「人間は本質的に感情的な生き物です。例えば,ディズニー映画を見ると,キャラクターが実在しないにもかかわらず,最後には涙を流します。本当のコミュニティを作るには,そのような情熱が必要です。もしその情熱や人間のつながりがWeb3技術とうまく組み合わさるなら,私たちはこれまで見たことのないものを目にするでしょう。それは,何千人もの人々が同じものを見て興奮を共有するライブコンサートのような体験かもしれません。そのような人間の一体感が私たちの生活に価値をもたらすのです。これがWeb3と仮想キャラクターによってアップグレードされる可能性があります」と期待を述べた。

ファッションブランドまでプロデュースしている「imma」@imma__jp
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 Shen氏は,ブロックチェーン技術の重要性を認めつつも,基本的なデータと帰属の重要性を強調した。「インターオペラビリティなどについては多くの議論がありますが,技術的に特定の事物を将来にわたって保証するのは難しいです」と彼は指摘した。
 氏は,ハリウッドの声優や演者の例を挙げ,アイデンティティの所有権に関する問題を説明した。「声の才能や臨床的な死後のアイデンティティの所有など,ハリウッドは独自のアイデンティティ危機を経験しています。彼らは法的な枠組みを作ろうとしていますが,米国のシステムと日本のやり方は相互運用できません。これも壊れています」
 彼は,分散型システムが実際に有効に機能する領域について述べた。「将来にわたって有効で分散化されたものは,基本的なデータと帰属です。私たちが考えているのは,誰かが『私はこれを本当に所有している』と言えるようにすることです」
 Shen氏は,UGC(ユーザー生成コンテンツ)の文脈でこの問題を考えている。「価値のないアイデンティティを生み出す人もいれば,『これは本当に私のものだ』と主張する必要のあるものを生み出す人もいます。弁護士を通じて権利団体に申請するのではなく,一般の人々が『このキャラクターは誰々によって作られた』とチェックできる公共のものがあるべきです」


AIと機械学習の役割


モデレーターを務めたMAWARI CTOのAleksandr Borisov氏
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 議論が進む中,最後にモデレーターのBorisov氏は,アバター技術におけるAIと機械学習の役割について新たな質問を投げかけた。「AIと機械学習をアバター創造に活用する際,人間の創造性と作業のバランスをどのように考えるべきでしょうか。高品質なアバターを作成し,感動的で優れた体験を提供するために,クリエイターはどのように関与すべきでしょうか。また,どの部分をAIと機械学習に委ねることができるでしょうか。」

 Giusto氏は,AIと人間の創造性のバランスについて,現在の技術の限界と将来の可能性の両面から意見を述べた。現時点では,AIは人間の想像力や細部へのこだわりを完全に再現するには至っておらず,高品質なアバター制作には人間の介入が不可欠だと指摘した。特に,感情表現や細かなニュアンスの表現には,クリエイターの感性が重要な役割を果たすという。
 一方で,AIの急速な進歩により,将来的には驚くべき創造性を発揮する可能性も示唆した。例えば,若年層がAIを駆使して独創的な作品を生み出す時代が来るかもしれないと予測している。
 氏は,AIをクリエイティブな作業を妨げるものではなく,むしろ創造性を拡張し,より多くの人々に表現の機会を提供するツールとして捉えている。CGやAI技術の普及により,専門的なスキルがなくても簡単に創造的な作業ができるようになり,若い世代がより早くからクリエイティブな活動に参加できるようになると考えている。AIを恐れるべきではなく,誰もが容易にクリエイティブな表現ができるようになる可能性を秘めたツールとして前向きに捉えるべきだと主張した。

 Shen氏もAIをクリエイターの能力を拡張するツールとして捉えている。現状のAIツールはクリエイターのニーズに完全には応えられていないが,データセットの充実とともに,創造プロセスの効率化や質の向上が期待できると述べた。
 音声複製技術など,すでに実用化されているAI技術の例を挙げ,これらがコンテンツ制作に新たな可能性をもたらしていると指摘した。また,AIの採用に関する国際的な差異にも言及し,特に中国企業の積極的なAI導入とそれに伴い30%のリストラがあったと,雇用への影響を例示した。

 両氏の見解から,AIと機械学習がアバター創造において重要な役割を果たす一方で,人間の創造性と専門性が依然として不可欠であることが浮き彫りになった。AIは創造のプロセスをより効率的かつアクセシブルにする一方で,感情や表現の細かいニュアンスを捉えるには人間の関与が必要不可欠であるという共通認識が示された。

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 本セッションを通して,アバター技術が単なる視覚的表現を超え,デジタルアイデンティティの形成,ブランドとの関係構築,そして新たなストーリーテリングの手段として進化していく可能性が示された。ブロックチェーンやNFT技術の活用により,デジタルアセットの所有権や移植性が向上し,より豊かなメタバース体験が実現される可能性があるのだ。
 今後,これらの技術がさらに発展し,融合していくにつれ,メタバースにおけるデジタルアイデンティティの概念はさらに複雑化し,豊かになっていくだろう。そして,これらの変化が私たちの現実世界での自己表現や人間関係にも影響を与えていくことが予想される。
 メタバースの未来は,技術の進歩だけでなく,それを使いこなす人々の創造性と,新たな可能性を受け入れる社会の柔軟性にかかっている。このパネルディスカッションは,その未来への重要な一歩となったと言えるだろう。

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