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韓国の若きゲーム制作者を育成する「ゲーム人材院」とはどのような学校なのか? 運営陣に聞いてみた[TGS2024]
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とはいえ,日本から見るとそもそもゲーム人材院とはどんな学校で,何を教えているのかはあまり分からない。そこでゲーム人材院のCHO(最高人事責任者)を務めるHyun Hoon氏を中心に,ゲーム人材院で教鞭をとるSean Kwon教授とDongwon Lee教授にいろいろと突っ込んだ話を聞いてみることにした。
果たして韓国政府肝いりで設立されたゲーム開発人材を育成する学校は,どのようなカリキュラムで,どんな人材を輩出しているのだろうか。
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2年制,3コース,学費無料
そもそも,ゲーム人材院には前身となる学校があった。Game Academyと銘打たれた学校が2000年度に設立され,6年前に今の「ゲーム人材院」になったという。2023年2月には第2キャンパスが開校となり,これまでの1学年最大65名から1学年最大120人と,ほぼ倍の規模に拡張されている。
学校は2年制で,学位は出ない。「韓国ゲーム産業のトップをリードする1%のエリートの育成」「現場ですぐに活躍できる人材の育成」が掲げられており,13週を1学期として1年4学期の構成となる(ちなみに4学期末に1週間の休みがあるが,夏休みや冬休みはない)。また,KOCCAが運営しているということもあり,学費は無料とのことだ。あえて日本で言えば,「国立の専門学校」とでもなるだろうか。
高校卒業直後に入学可能だが,それ以降も入学の機会はある。現状の学生の比率は40%が高卒,30%が大卒,30%が大学在学中だ。ゲーム業界への就職率は82%と高く,このうち90%がゲーム開発会社への就職,10%が自分の会社を立ち上げるという。
コースは,ゲームデザイン・ゲームグラフィックス(アート)・ゲームプログラミングの3つに分かれ,それぞれ独立したコースとなっている。
とはいえゲームエンジンの基本的な使い方といった,現代ゲーム産業に関わるのであれば必須となるスキルは,どのコースでも必修となっているそうだ。一方,例えばゲームプログラミングコースであれば,「ゲームエンジンを自分で作る」といったレベルで専門技術を深めていくことになる。
TGS 2024でのゲーム人材院の展示は,所属する学生によるインディーゲームの展示が中心となるが,これもカリキュラムの内側に入っている。学生は最初の1年で基礎的な技術や理論を学び,2年目にはチームを作ってなんらかのゲームを完成させねばならない。このためTGS会場に展示されているゲームのなかには数週間で完成にこぎつけたものもあるとか。とてもではないがそうは見えない作品ばかりで,ゲーム人材院の教育課程と所属学生の持つポテンシャルを感じさせられる。
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この困難な目標を達成できる理由として,「目標がはっきりしているから,ゲームを完成させられる」と指摘された。が,これ以外にも学校の施設が毎日夜10時まで利用でき,意欲ある学生は毎日のように放課後(17時以降)の時間を自習にあてているという点もまた,無視できないだろう。
また教師陣の層の厚さも重要なポイントとなる。ゲーム人材院では専任教授を大手ゲーム開発会社から獲得しているほか,ゲスト講師として現役のゲーム制作者を招くこともあるという。
これに加えて前身となるGame Academyの卒業生がゲーム人材院で教鞭を取っているというケースも見られるようで,今回の取材に対応してもらったSean Kwon教授とDongwon Lee教授もGame Academyの卒業生とのこと。この「教育のサイクルが自力で回っている」状況を成立させるのはとても難しいことで,ゲーム開発者教育という面で見ると,世界的にも珍しいケースと言える。
韓国インディーゲームの隆盛
さて,インディーゲームに詳しい読者であれば,いま韓国発のインディーゲームのクオリティが急激に上昇していることに気づいているかと思う。個人的にも韓国インディーゲームは,世界全体で見て,もっとも注目すべき領域であると感じている。
実際,TGS2024でのゲーム人材院の展示は,すべてインディーゲームだ。しかも短期間で作成されたとは思えない,強いインパクトを持つ作品が目立つ。なかでも地雷解体ゲーム「被亜」はSelected Indie 80にも選ばれており,国際的な注目を集めている。だがこの盛り上がりは,どこから生まれたものなのだろう?
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Hoon氏らは,「まずそもそも韓国のプレイヤーがインディーゲームを求めるようになった」という点を指摘する。プレイヤーの需要の変化があり,それに素早く対応できたことが,いまの盛り上がりを産んでいるというわけだ。またAAAゲームや巨大なオンラインゲームに比べてインディーゲームは参入が容易であるという点も,当然ながら無視できないという。
これに加えて韓国政府は,10年くらい前からインディーゲームに対して投資を開始しており,これが近年ようやく開花したのではないか,という見解も示された。これもまた,大変に興味深い指摘と言えるだろう。撒いた種が花を咲かせるには,やはり一定の時間が必要というわけだ。
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さて,このようにすでに大きな成果をあげているゲーム人材院だが,前述したように現状,卒業した学生は基本的に韓国国内で就職するか,起業している。ここからさらにグローバルな展開を目指すため,TGSに出展したというのが今回の出展の経緯だという。「日韓交流を進め,お互いに学びあい,協力していきたい」とHoon氏は語っていた。
また,現状では海外からの留学生の受け入れは行っていないが,こちらもフランスなどから打診があるとのこと。「留学についてもこれから検討したい」とのことだ。
次世代のゲーム産業を担う人材をどのように育成していくべきかという論点については,全世界的に見てもまだまだ「これが正解」というカリキュラムやメソッドが見つかっているとは言い難い。そんななか着実に成果を上げ続けてきたゲーム人材院が今後どのような活動をしていくのか。また,ゲーム人材院を巣立ったクリエイターがどんなゲームを作っていくのか,注目が必要だろう。
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