●Preview#33:WarCraft III:Reign of Chaos

Text by TAITAI

 世界中のゲームファンの期待を一身に集める3DファンタジックRTSゲーム「WarcraftIII:Reign of Chaos」のβテストが,つい先日ついに開始された。今回,forGamerでもそのβテストCD-ROMを入手し,テストに参加することができた。さまざまな情報が氾濫しながらも,なかなかその詳細が見えてこなかったこの作品。E3やインタビューなどで何度も何度も目にしてきたが,見るたびにさまざまな変更が施されており,最終的にどういう姿になるのかなかなか見えてこなかったこの作品。実際にβ版をプレイした感触や明らかになったシステムの詳細を早速お伝えしていこう。
 ただ,今回入手したβ版では残念ながらシングルプレイを行なうことができず,バトルネットを使った対戦のみがプレイ可能なものだった(Blizzardのβ版はいつもそうだが)。これからお伝えする情報も,対戦プレイをしたときに判明したモノという点をご了承戴きたい。と,わざわざ断りを入れているのは,「シングルとマルチでは若干ゲームシステムが違う」という話を筆者がE3だったかどこだったかで耳にしたことがあるのだ。なんでも,シングルは"よりRPG的な要素が強い"とのこと

RTS界の金字塔:Warcraftシリーズ

 Warcraftシリーズは,日本でも大ヒットしたアクションRPG「Diablo」の開発元として知られるBlizzard Entertainmentの作品で,同じRTSの名作"Command&Conquerシリーズ"と共にRTSというジャンルを世に広めた往年の傑作ストラテジーゲームだ。多くのプレイヤーにRTSの面白さを気付かせた,いわば功労者的な作品である。斬新なゲームシステムを細やかなユニットアニメーションと練り込まれたインタフェースで表現したこの作品は,多く人を魅了するには十分な内容を誇っていた。実際,このシリーズをやってRTSの面白さに目覚めたという人も少なくないだろう。

 その最新作となるWarcraftIIIだが,フル3Dで画面が描画されている点がまず大きな特徴の一つだろう。ファンの間からは「3D化なんて全く必要ない!」などの声も聞かれるが,滑らかなユニットのアニメーションやディテール,細部にまで描き込まれた背景,ド迫力の魔法エフェクトなど,丁寧に作られた職人技的な画面効果の数々を実際に目にすると,やはり唸らずにはいられない。このあたりは,さすがに一級品の匂いを感じさせる作り込み。期待を裏切らない内容だといえるだろう。
 WarcraftIIIの基本的なゲームシステムは,今ではオーソドックスなスタイルである
 資源回収 > 生産 > 戦闘
という一連の流れで構築されている。しかしながら,今作ではマップ上にはモンスターが徘徊していたり,ヒーローを中心したゲーム展開をシステム化しているなどあらゆる挑戦的な試みがなされており,とにかくユニットを作って突撃させるだけのRTSとは一線を画す,斬新なゲームシステムの形成を目指しているのだ

まずはファーストインプレッション

 ビジュアルやサウンド面での完成度が高いのは先も触れた通りだが,ゲームを本当に面白くする部分は,なんといってもシステム面である。本作でまず目に付くのが,プレイヤーの扱える種族が四つに増えた点だろう。ここで特徴などを軽くまとめておこう。

Human:
人間を始めとした,エルフやドワーフ族なども含めた連合勢力。攻守に渡る総合的なバランスに優れた勢力のようで,なかなか使いやすい。ヒーローは,Paladin,Arch-Mage,Dwarven Mountain Kingの三種類。

Orc:
オーク族とトロール族などが含まれる。肉弾戦が強いユニットや強力な攻城兵器など,とにかく押しの強い種族のような印象だ。ヒーローには,肉弾戦に長けたBlade Masterやauren Chieftainがいる。

Night Elves:
夜での戦いを得意とするエルフ族。最初に生産できる兵種が射程の長い弓兵というせいもあり非常に扱いやすく,βテスターの中でも人気の種族のようだ。ヒーローも,遠距離攻撃を行なうPriestess of the Moonなどが登場する。

Undead:
アンデッド(不死者)達を中心にした勢力で,GhoulやGargoyleなどが登場するほか,死体からユニットを作り出すNecromancerなど独特の戦術が特徴的だ。また,基本的には"侵食し汚染させた土地"だけにしか建物を作ることができない。

 さて本作の基本的な流れは,既存のRTSに"Heroes of Might and Magic"のシステムを組み合わせたような展開になっている印象だ
 最初に人口の上限を増やす「Farm」などの建物を作りながら,Barrackなど軍事ユニットの生産が可能な施設を建設し,一人のヒーローを含めた数人の部隊をまず編成する。
 今回は,マップ中に中立のモンスターが配置されている点が一つの特徴となっており,プレイヤーは最初に作成した部隊を率い,まずは近くに生息するモンスターを退治しながら,アイテムの獲得やヒーローの育成に勤しむ。簡単な肩慣らしみたいなアクションといえば良いだろうか。入手できるアイテムの種類はランダムになっているようで,ここで若干の運不運が生まれるのだが,ゲームの行方を決定づけるほどではなく,適度に一喜一憂できる点は嬉しいところだ。またこれは個人的な見解なのだが,モンスターを配置することによって,プレイヤーの最初の攻撃目標がほかのプレイヤーではなくなる点が,これまで問題の一つとされてきた"Rush"の抑制になっている印象を受けた。また,戦術的な要素では昼と夜の概念が導入され,主に視界などに影響を及ぼすようになっている。
 序盤のモンスター退治を経たあとで本格的な戦いへと発展していくのだが,内政自体が比較的簡略化されたシステムを持つだけはあって,ゲーム展開は非常にスームズで小気味が良い。かといって大味にならず,後述する"維持費ルール"の存在などゲームの本質を見据えた鋭いルールの数々は,さすがに世界的な注目作だけのことはある。

 ただ,若干ではあるが操作システムについては多少の不満を感じてしまったのも事実である。一つには,まとめて選択できるユニットの数(一舞台)が最大12ユニットと少なめになっている点だ。人口の最大数自体が90人で,ユニットがハチャメチャに多くなることがないとはいえ,この部分はハッキリいって不便としかいいようがない。また,軍団を管理するインタフェースも"今の時代にしては"練り込み不足で,マウス一つで登録した軍団へジャンプしていけるようにするなど,いくつかの改良を期待したいところ。
 またゲームのルールとは異なるが,ゲームタイプやマップなどの条件を入力することで自分に合ったゲームを自動的に探してくれるシステムが用意されているほか,β版では実装されていなかったがリプレイ機能なども搭載しているらしく,ユーザーをサポートする機能にも抜かりはない雰囲気だ。

"ヒーロー"を主軸に据えた新機軸ストラテジーゲーム

 思い起こせば去年のE3,会場のBlizzardブースにおいて「この作品ではヒーローを中心にした戦いが繰り広げられるんです」と説明を受けはしたものの,それが具体的にどう機能していくのかまでは正直見えてこなかった。ちょっと強いだけのユニットでは意味がないし,かといって強すぎても駄目。ゲームバランスのさじ加減が難しいのはもとより,ヒーローという要素をシステム的に盛り込むことの難しさを感じずにはいられなかったからである。
 しかし,今回β版をプレイしてみてその疑問は解消された。"流石はBlizzard!"といえる絶妙のバランスと素晴らしいアイディアによって,上手くヒーローという要素が盛り込まれていることが分かったからだ。

 では,ヒーローというモノがゲーム中に"どう機能している"のか?

 ヒーローは,戦闘のときに中心的な役割を果たす存在だ。高い基本能力に加えてさまざまな特殊技能を持ち,戦いを有利を導いてくれる。さらにヒーローは戦って経験を積むことによって成長していき,成長すると基本能力が向上,加えてレベルが一つUpするごとに好きな特殊能力を一つ強化していくことができる。ちょうど,Diablo2のスキルシステムの簡易版みたいなモノを連想してもらえれば良いだろう。また,基礎能力を上昇させる装備品や体力や魔力を回復させる薬など,登場する数々のアイテムを最大六つまで装備することもできるなど,ちょっとしたRPG的な要素が含まれているのは以前でも紹介した通りだ。
 生産(雇用)は勢力の拠点となる施設(HumanならTown Hall)で行うことができ,各種族ごとに3種類のヒーローが用意されている。見たところ,戦士系,魔法使い系,サポート系におおよそ大別できるようだ。最初の一人めは無料,次からは高いコストを払って雇用することできるのだが,この"最初の1人は無料"という点がミソ。おかげでプレイヤーは序盤からヒーローを使えるようになり,まさしくヒーローを中心にしたゲーム展開が望めるようになっているのだ

 また,先ほどの意見を覆すような答えかもしれないが,ゲームでのヒーローの扱いは,意外にも"使い捨て"にできるモノである。つまり,たとえ戦闘中に死んでしまっても"取り返しが付かない"ということはない(別に楽しいわけでもないが)。
 なぜなら,建設できる施設の中に「Altar of Kings」(この表記は"人間族"の場合)というヒーローを復活させられる建物があり,そこでお金さえ払えばヒーローが死ぬ前と同じレベルのままで復活できるからだ。さて,ここで「なんでそんなのでヒーローが重要なんだ!」と思われるかもしれない。だが,少し考えてみると分かることなのだが,RTSというゲームのシステム上,たった一つのユニットに常に注意を集中させておくことは,そのプレイヤーに課された忙しさから考えるととても不可能なことだといえる。そんなシステム上の大前提がある中で,ヒーローを絶対に死なせられないルールを搭載したらどうなるだろうか? ヒーローが死んでしまった時点で勝負が付いてしまったり,大味なゲーム展開になってしまうのではないだろうか?

 WarcraftIIIにおけるヒーローシステムは,RTSの基本的な性質(とても忙しいという性質)をしっかりと見据えたモノだと感じられる。このシステムのおかげで,プレイヤーは積極的に英雄を使いこなすことができ,ゲームをよりアグレッシブでテンポの良いモノへと仕上げているのだ。
 重要だけど死んでも大丈夫……という,なんとも微妙なさじ加減がポイントなのだろう。

ストラテジーゲームの根本的な問題点を覆す意欲作


 この作品はRTSの基本的なスタイルを持ちながらも,ゲームの本質を見つめ,その問題点を解消しようと試みる多くの新ルールを搭載している。
 その一つが"維持費ルール"だ。
 これは,ユニットの総人口が多ければ多いほど"維持費が高い"と判断され,収入(Gold)の効率が著しくダウンしてしまうというルール。具体的には,

 人口 0〜30:維持費なし
 人口 31〜60:収入が30%減少
 人口 61〜90:収入が60%減少

と設定されており,勢力が大きくなればなるほど資金的には苦しくなってしまう。逆に,敵にやられてしまったりして勢力が落ち込むと収入が多くなり,軍備を再建しやすくなるという寸法だ

 このルールを見たとき,筆者は思わず「おおっ!」と唸らずにはいられなかった。例えるなら,漫画「美味しんぼ」で海原雄山の料理を食べて「ば,ばかな……!」と驚く山岡のような感じである。……と,謎な例えはさておき,このルールの意味と効果を説明するとしよう。それにはまず,RTSというゲームの本質について説明しなければならない。

本当に本気にならないと,このルールは生み出せない

 リアルタイムストラテジーゲーム(RTS)は,非常に高い戦術性を誇るジャンルだ。それゆえに,実際の戦争で培われた戦術理論のいくつかも,そっくりそのまま当てはめることができる。なかでもとくに代表的なのが「戦力二乗の法則」と呼ばれるモノだ。まぁ,そんな理屈いわれてもなんのこっちゃと思う人も多いだろうから,ささっと簡単に説明しておこう。
 例えば,装備などの条件がまったく同じという前提の下,戦力10のA軍と戦力8のB軍が全滅するまで戦うとしよう。そのとき,兵数に勝っているA軍の最後の残存兵力はいくつになるだろうか? 答えは,2ではなく6である。つまり,

 10二乗−8二乗=36= 残存兵力6

 という計算が成り立つのである。これは"ちょっとでも兵力が勝るほうが圧倒的に勝つ"という事実を意味しており,この理論はゲームにも適用することができる。そしてここからが大切なのだが,この理論を通してRTSというゲームを考えると,RTSというジャンルが"ゲームとして大きな欠陥を持っている"ことが分かってくるのだ。

 例えば,一対一のゲームの序盤でちょっとした小競り合いが起き,そこで負けてしまったとしよう。その場合,それまで10:10であった戦力のバランスが,10:9と変化することは疑う余地はないハズだ。さて,ここで考えてみよう。もしこの状態で"10:9"の戦闘が起これば,勝つのはどちらになるだろうか? 戦力のバランスからいって,十中八九"最初の戦闘に勝ったほう"の勝ちになるのである。
 これは,突き詰めると"最初に叩いたモノ勝ち"という状況を生み出し,大きな戦いではなく"小さな最初の小競り合いがゲームの全てを決定してしまう"という,ゲーム性上の大きな,そして根元的な問題点となっているのだ。

 "維持費ルール"はそんな問題に正面から取り組み,ゲームとしての完成度の高さを追い求める,開発陣の姿勢の表れということができるだろう。ただ戦術性を"再現するだけ"なら,こんなルールはむしろ不適切だと思うからだ。まさに,Blizzardのゲームに対する情熱と真摯な態度を,このルールから感じとることができる。
 ただ,上記の問題点を"リアルさ"だと捉えるプレイヤーも多いことだろう。しかし歴史モノのゲームならともかく,ゲームとして面白さを追求するWarcraftIIIのような作品の場合は,リアルさが必ずしも面白さには繋がらないことを筆者は主張したい。格闘ゲームにおいて,パンチが一発当たったらフラフラでなにもできなくなってしまったら,やはりそれは"ゲーム"にならない。ゲームである以上,工夫と抽象化は面白さを引き出すうえで大切な部分だと思うし,この"維持費ルール"はまさしく開発陣の工夫と試行錯誤の集大成だといってもよいだろう。

 ユニット管理に関するインタフェースやショートカットの使いやすさなど若干の不満点こそあるものの,WarcraftIIIが今年を代表する作品であることはまず間違いない。発売予定日(まだ正式には決まってない)は6月頃とまだちょっと遠いが,今から製品の登場が待ち遠しい限りだ。妥協を許さない徹底した作り込みには定評のあるBlizzardではあるが,もう発売日が延びないことを祈るのみである。

  なお,当サイトも延々と追いかける「Warcraft3」のムービーやScreenshots集などの情報は,「こちら」にどうぞ。

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