コンバットミッション2 東部戦線・ベルリンへの道

Text by 松本隆一
22th Nov.2002


■「コンバットミッション2」があるじゃないか

まさにダイオラマが動いているかのような戦場シーン。いいねえ。本当は,あちこちに木が生い茂っているのだが,撮影のため,画面オプションで取り除いてみました

 私は戦車が好きだが,これといった戦車ゲームはそうそうないため,仕方がないから自分で作ろうと無料のCコンパイラを手に入れたのだ。占術的な根拠は何もない占いソフトをプログラミング練習のために制作して動かしてみたところ,いきなり「大凶」が出てしまい,恐ろしくてその日はずっと外出できなかった。というのはつい先日「ここ」に書いたような気がするが,書いていないような気もする(編集部注:書いてません)。いずれにせよ,舌の根も渇かぬうちにこうして戦車をメインとしたゲームを紹介しようというのだから,世の中これでいいのだろうか
 さて今回ここで取り上げるのは,マイクロマウス「コンバットミッション2 東部戦線・ベルリンへの道」(以下,CMBB)である。「2」なの? 調べてみたら「コンバットミッション 西部戦線1944〜」というゲームがすでに発売されているではないか。うーんなんということだ,重ねがさね知らなかった。タイトルどおり前作のステージとなっていたのは西部戦線で,今回は東部戦線というわけだ。泣く子も黙る東部戦線である。前科3000犯の恐れを知らないツルっぱげの精力絶倫の極悪人でも,「おまえは明日から東部戦線だ」とささやかれるだけで恐怖のあまり即座に改心して立派な宗教者になったかもしれない地獄の東部戦線なのである。著名な戦車戦が数多く行なわれただけに,ゲームのフィールドとしては文句なしだろう。

装甲擲弾兵を従え,攻撃発起地点に待機するパンターG型。転輪形状から見て初期/中期型だ 丸っぽいマズルブレーキから,たぶん4号F2型だと思われるが,誘導輪形状がちょっと異なる

■登場戦車300種類,兵科600種類……作った人の体が心配だ

ズリーニィ突撃砲小隊が射撃位置につこうとしている。たぶんダメだとは思うけど,私は諸君らに期待しているぞ

 ゲームシステムは,まず戦車に乗ってゴワーっと前進してズドーンと大砲撃ったらボカーンとやられてワーっと逃げたら機関銃でズガガガガとやられてギャー……,といった頭の悪いエッセイみたいな擬音だらけのものとは違い,ターンベースの戦略シミュレーションだ。つまりプレイヤーは"戦略フェイズ"で部隊の移動や挙動を決定し,"アクションフェイズ"でその結果を確認し,その結果を引き継いで次の"戦略フェイズ"が始まるというもの。アクションフェイズはゲーム内時間で60秒あり,その間は操作できない。ただ黙って成り行きを見守る60秒である。あ,しまった,こんなところに敵がいた! 分隊退却! と思ったときにはもう遅く,「兵隊さんのみなさん,どーもすいあせん」になるのである。こっちのお客さんだけ,笑ってください。「大戦略」シリーズなどの一般的なターン制ウォーシミュレーションと違うのは,こちらが戦略フェイズのときはCPUも同じで,こっちがアクションフェイズのときはCPUもアクションフェイズということ。つまり交互にプレイするんじゃなくて,お互い準備をしたのち"いっせのせ"で同時に戦うわけだ。これにより,敵の動きを見てからプレイすることがなく戦闘にリアリティが生まれ,しかもあたふたしがちなアクションゲームと違ってじっくり作戦を考えられるという一挙両得,一石二鳥,三方一両損のシステムを実現しているということなの。
 さらに,前作に比べて兵士や戦車のAIのおつむが良くなり,天候や爆発などのエフェクトがキレイになり,情報ボックスが見やすくなり,貫通シミュレーションが複雑になり……。などの改善が加わり,血と涙と汗と青春の東部戦線の激しい戦車戦を追体験できるのである
 とはいえ,読者はともかく戦車好きの私にとって特筆すべきなのは,なんといっても"登場車両300種類"という点であろうか。これはけっこう期待と不安の相半ばする文句だ。だいたい「全米ナンバーワン」の映画が面白かったためしはないし「開発費70億円」のゲームはナニだったしで,あんまり大きな数字を信じてはいけないのはニッポンの常識といえよう。そもそも東部戦線に戦車が300種類も出てきたのかね? えーとあれだろ,あれだろ,あれだろ……。

こんな戦車が続々登場 ああ,もうこんなに……
3号突撃砲G型。ザウコップと呼ばれる独特の砲身基部形状から,後期型であろう。砲身長から,おそらく105ミリ榴弾砲搭載タイプだ 短砲身の75ミリ砲を搭載した3号突撃砲。1941年6月のソ連侵攻時には6個大隊が投入された ゲーム中はSPW250/8となっているが,Sd kfz 250/8。搭載しているのは7.5センチ51式カノン砲。1943年の春に少数が製造された

正式名称はSd kfz 222。1936年から1943年までに989両が生産され,大戦全期間を通じて使用された。乗員3名で,最高時速は85km/h 有名な88ミリ対戦車砲。もともとは高射砲だったが,既存の対戦車砲で歯の立たない相手に使用したところ効果抜群。改良され,ティーガー戦車などの主砲にも採用された


■ハンガリー軍対ルーマニア軍,トランシルバニアの戦い……地味ですか?

奮戦むなしく投降する我が軍の兵士。敵の数は圧倒的で,さすがに負けました。結果を確認すると戦死者は敵のほうが上だったのが,せめてもの慰めである

 なにはともあれプレイ開始だ。それぞれの部隊に目標地点を指示し,しかるのち"GO"ボタンをクリックして戦略フェイズを終了し,アクションフェイズへと移行。すると兵士達が攻撃発起点から立ち上がり,ゆっくりと前進を開始する。期待と緊張の一瞬。敵の姿はまだ見えない。このゲームには索敵という概念があり,適切な距離まで近づかないと敵の姿は見えてこない。言い忘れたが目標はマップのところどころに立っているフラグであり,これらの戦略目標をすべて取るとあんたの勝ち。だが各シナリオには規定のターン数があり,あまり早く目標をゲットしてしまうと今度は最終ターンまでフラグを維持するのが大変だったりするので要注意だ。
 とかなんとか言ってたら,どこからともなく銃声が響いてきたぞ。接敵だ。叫び声があちこちにこだまする。何語だろうか……おお! "枢軸軍"を選んだからすっかりドイツ軍なんだと思ってたけど,どうやらあたいはハンガリー軍らしいぞ。ハンガリー! そうなのだ。CMBBはこの2か国以外にも,フィンランドやイタリアといった,ゲーム内では"負けるために生まれてきた"小国が,あるいは同じドイツ軍でも,そこらへん歩いていた人に腕章巻いてパンツァーファウストを一個かつがせただけの国民突撃隊からエリート中のエリートであるSS戦車部隊まで実に細かく分かれていて,マニアなら思わずウッ! と唸って前を押さえるが,普通の人ならソビエト陸軍NKVZ部隊ってなんだ? の世界である。しかも敵はルーマニア軍だよ
 ルーマニアは1944年末,戦況の悪化に伴なってドイツ枢軸を離脱,ソ連側についてしまったという裏切り者の日和見チキン野郎である。おまけにハンガリーまでもが単独講和を画策し,摂政フォン・ホルティ提督が西側への接触を図る始末。だが,それを知ったドイツ軍は"ヨーロッパでもっとも危険な男"オットー・スコルツェニーSS少佐を派遣,少佐指揮の特殊部隊がブダペストのブルグベルグ城を電撃制圧したうえホルティ提督を誘拐するという離れ業をやってのけたおかげで,ハンガリーは終戦まで枢軸側で戦うことになったのだ。うふふ,ちょっとウンチクをご披露しちゃったかしら。

どちらもチェコ併合によりドイツに接収されたスコダ社の生産していた戦車。大戦初期に大量に使われ,脆弱なドイツ戦車師団を支えた。大戦中期から後期にかけては,自走砲などの改造ベースとして,大戦の全期間に渡って使用された
 さてアクションフェイズ。森の中から現れたルーマニア軍の先頭ユニットは,こちらのシュバルツローゼ重機関銃の連射でばたばた倒れる。さながら203高地。山は死にますか? とはいえ感情移入しにくいなあ。なにしろルーマニア軍対ハンガリー軍ですもんね。映画「スターリングラード」なみに,どっちを応援していいやら分からない感じだ。しかし敵の数は卑怯なほど多く,ついには戦車まで出てきた。あれは……なんと,T-4Hではないか。T-4Hってなに? お恥ずかしいが,知らない。見たところ,4号戦車の長砲身タイプに見えるし,私物のまったく何が書いてあるかわからないポーランド語の網羅的な戦車参考書を見ても載っていない。たぶん,ルーマニアがドイツから供与された兵器を使い続けているのだろう。続いてTA突撃砲。TA突撃砲? たぶん,あれもドイツの3号突撃砲ルーマニア呼称であろうかと。ちくしょう,ゲーム中に聞いたことのない戦車が出てきたのは生まれて初めてである
 60秒のアクションフェイズが終わると,ターンが終了して「応援部隊が到着しました」の文字が。やったぜ,こちらにも戦車戦力の支援だ。どれどれ。こ,これは。トゥラーン戦車だと! チェコのT-22をハンガリー仕様にした戦車で,もともとたいしたことのないT-22をハンガリー仕様にしたせいでもっとたいしたことのない戦車にしてしまったというマニア垂涎のレアものだ。よしかかれ,トゥラーン戦車小隊4両よ。と命令するまでもなく,自分で敵を見つけて発砲する戦車小隊。これに限らずAIはなかなか頭が良く,特別に命令しなくても基本的なことは自分でこなす。だがしかし敵の攻撃を食うと,かなりあっさり"動揺"とか"混乱"とか"パニック"に陥り,戦闘不能状態に。カルシウム足らんぞ貴様ら。聞いたところによると,ソ連軍には"ヒューマンウェイブ"という攻撃法があり,ようするに全滅覚悟の万歳突撃らしいのだけど,いーのかね? ウラー! ウラー! やられてこちらへ逃げてくる味方を「臆病者」とかいって撃ち殺せたりして(筆者注:できません)。
 「応援部隊が到着しました」。よ,待ってました。次はなんだ? ズ,ズリーニィ突撃砲! これもまたハンガリー謹製のレアものお宝で,ドイツの突撃砲を真似たイタリアのセモベンテ突撃砲をさらに真似したという悲しい過去を持つ突撃砲だ。やや,敵にも新戦車。くわー,TACAM60自走砲とルノーR35戦車ですってよ奥さん。これではたしかに300種類もあるはずだ。いちいち説明するのはやめますが,どいつもこいつもまだ田宮模型のプラモにもなっていないようなオタク戦車ばかり。そんなのが動き回り砲撃し,やられて煙を吹き上げる様子は,まさに広告にあるように「ダイオラマが動き出したよう」(ただしダイオラマ作者は小国戦車マニア)。視点変更機能で高い位置から戦場を見下ろすと,あっちでボン,こっちでギャー,あっちで突撃,こっちで全滅と,よくできた戦場絵画を眺めているような気分だ。とかなんとか言っているうちに,中央の旗を守っていたこちらの部隊は全滅。応援のドイツ軍部隊も激しい砲撃に前進あたわず。ワレ応援要請ス。すまん,キミたちに送る部隊はもうない。という感じで,よくできたAI兵士が両手を上げてどんどん投降しているではないか。裏切り者どもめ
 ……かくして名もなきトランシルバニアの渓谷に,兵士の流した血のような色の夕日が沈んでいくのであったとさ。
大戦初期のソ連軍の中心となったBT戦車。BTとは「快速戦車」のロシア語の頭文字。アメリカのクリスティー戦車を元にして製作し,路上ではキャタピラをはずして走行できた ソ連の傑作中戦車T34の主砲を85ミリのD5TかZIS-S53に換装した,T34シリーズ最高の破壊力を持ったタイプ。1950年代まで東欧各国で使用された フランスのルノー社が生産したルノーR35戦車。ドイツの電撃戦によって1600両以上のルノー戦車がドイツ軍の手に落ちた。とはいえ,あまり役には立たなかった


■まとめのお言葉

わがハンガリー軍トゥラーン戦車小隊による反撃。このグラフィックも35(t)の流用で,ちょっと残念。ともかく撃て,撃つんだ

 ちょっ言わせていただければ,TACAM60はドイツのマーダー自走砲,ズリーニィはドイツの3号戦車G型とまったく同じグラフィックを使っている。登場戦車は300種類だが,グラフィックが300種類あるわけじゃないということだ(編集部注:驚いたことに後日パッチでこの問題は解決されました)。やっぱそうだろうね,とは思うが残念。それぞれの戦車の描き込みはなかなかのものがあり,有名戦車の場合はタイプによる細かい違いも再現されている。プラモデルとまではいかないが(戦車プラモの再現精度はすさまじいのである),食玩の「ワールド・タンク・ミュージアム」ほどのディテールはあるだろう。
 などと考えながらふとプレイしていて思い出すのは,ちょっと唐突だけど昔々ほんの少しだけハヤったウォーゲームだ。紙や発泡スチロールで戦場を作り,おもちゃの木を植え,72とか75分の1の戦車のプラモを配置し,サイコロと砲撃判定用のゲージを使って進めるウォーゲームである。知ってる? 知らないだろうなあ。戦車から見える範囲を確認するために潜望鏡をひっくり返したような道具を作った人もいたし,ホビージャパンで連載もしていたのだ。だがすぐに紙のコマを使った手軽なウォーゲームに取って代わられ,それが今じゃ,もっと手軽なPCゲームになったのだ。このCMBBには,そんなかつてのウォーゲームの古き良き雰囲気が濃厚にある。ゲームの進行に重要な砲撃の命中率が"確率"に大きく左右されるところもよく似ているし,なにより高い位置からの見た目がそっくりだ。だがそれだけに,結局ハヤらなかったウォーゲームと同様,このCMBBはプレイヤーを選んでしまうゲームなのかも知れない。
 できる操作が多く命令もわりと複雑だから,私も必勝法などまだとてもとてもの状態。部隊編成や兵器など,専門家でなければ知らないような知識があれば楽しめるが,このへんも初心者には高いハードルだと思う。だが一発開き直って「負けるぐらいなんだ! 負けるってすてき!」と思えば,初心者でも面白い。面倒な操作は優秀なAIに任せ,進む方向をざっくり指示し,しかも策敵モードを外して敵も味方も丸見えにすれば,小さな敵と味方が箱庭的戦場の上でドンパチやってくれる。「シムピープル・東部戦線でハチャメチャ編」といったところか。これはこれでかなり愉快である。視線を下げると兵隊はなかなか命がけだが,見ているのは楽しいなぁ。


 もしかするとこの前方に戦車ゲームの一つの未来が,理想があるのかもしれないなぁ。なんてことをぼんやり考えながら,その筋の人々にはぜひワンプレイをオススメしておく。マイクロマウスの公式サイトにはデモ版もあるので,その筋じゃない人々にもワンプレイをオススメしておく。

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■発売元:マイクロマウス
■価格:8800円
■動作環境:Windows 98/Me/XP,Pentium/500MHz以上,メモリ64MB以上