Clive Barker's Undying英語版日本語マニュアル付き
Text by 虎武須(Kobs)
10th Apr.2001
クライブ・バーカーは,短編集「血の書」シリーズなどで有名なホラー小説家である。その活動は小説だけにとどまらず,自らの小説「ヘルバウンド・ハート」を「ヘルレイザー」として映画化したほか,「キャンディマン」シリーズのプロデュースをするなど,多彩な方面で活動をしており,ホラー界ではスティーブン・キングと人気を2分しているほど。
このところ映画制作のプロジェクトに参加することが多かったようだが,彼の世界をPCゲームで表現しようとしたのが,本作「Clive Barker's Undying」(以下Undying)である。クライブ・バーカーが,小説や映画とは異なったインタラクティブ性のある語り部としてPCゲームというプラットフォームを選択し,その制作に携わったというのはとても興味深い。
ストーリー重視の3Dアクションなのだ
Undyingは,発売元のエレクトロニック・アーツ・スクウェアとしては珍しく,一人称視点シューティング(いわゆるFPS)の形式を採用したアクション・アドベンチャーである。現在日本語マニュアル付き英語版が発売されているが,2001年5月17日には完全日本語版がリリースされる予定だ。英語版から完全日本語版への有償アップグレードサービスも用意されているので,完全日本語版が待ちきれない人はとりあえずこの英語版を買っておくのもいいだろう。
しかしこの英語版,非常に残念なことに英語字幕を表示するオプションが用意されていないので(ゲーム中のセリフは英語音声のみ),英語が苦手だと少々つらいかもしれない。ストーリー重視のゲームなので,英語のヒアリングが全くダメだという人は,日本語吹き替えされた完全日本語版まで待ったほうがいいだろう。
西アイルランドに出現した異世界の魔物を封印しろ
舞台は20世紀初頭の西アイルランドの孤島にあるコブナント家。長兄エレミア・コブナントと4人の弟妹たちが,遊び半分で古ぼけた儀式書の呪文を唱えたことにより,おぞましい惨劇に見舞われてしまった。呪われて不気味な怪物と化してしまったコブナント一族の秘密を暴き,封印するのがプレイヤー操る主人公のパトリック・ギャロウェイだ。
探検はコブナント家の館や,修道院だけでなく異世界オネイロスなど現世と異世界が入り混じったステージを行き来しながら進行する。途中には「咆吼するもの(ハウラー)」,「シル=リス」など異形の魔物が行く手を阻むわけだが,これに対抗するのが8タイプの武器と8種類の呪文だ。武器は,FPSではお馴染みのリボルバー,ショットガンといったものから,クロスボウのような飛び道具である"スピアガン"や,行動を鈍くさせる効果を持つ"チベットの龍火砲"に加え,巨大な鎌で切り裂く"ケルトの大鎌",さらには火炎瓶といったユニークなものまでが用意されている。また,呪文は攻撃魔法や防御魔法のほかに,その場で起こった過去の出来事を垣間見る魔法などがある。
探検の途中で発見したり会得したりするこれらの武器と呪文を使い分けて窮地を切り抜けていかなければならないわけだが,アドベンチャーゲームとして謎解きに比重が置かれているために,ただ闇雲に撃ちまくるだけでは進めない。
ちなみにゲームの難易度は3段階用意されているので,シューティングが苦手な人はEASY設定でプレイするといいだろう。
ゴシックホラーの世界を満喫できるグラフィックス
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過去の出来事を垣間見ることのできるSCRYEというスペル。このスペルをうまく使わないと,大事なヒントを見逃すことがあるかもしれない。またもう一つの使い道として,暗闇を照らすときにも使用される。いずれにしても,重要なスペルなのだ
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Unrealエンジンを改良したシステムを駆使したUndyingのグラフィックスは,印象的なクライブ・バーカーの世界をあますところなく表現することに成功している。特に"クロス・モデリング・システム"と呼ばれる,布などのはためきを表現する機能は特筆に値する。長い廊下で窓のレースのカーテンが風になびくさまは,緊迫感のあるホラーの雰囲気を存分に醸し出しているといえるだろう。
また,風を表現する新システムも導入されていて,プレイヤーの動作によって炎が微妙に揺らぐなどの効果は,まさに"空気を感じる"ほどの描写力を見せている。主な舞台となる洋館の古めかしい様相を呈する外観,柱や壁紙といった内装,ランプや家具,絵画といった調度品に至るまでが美しく細かく描写され,ゴシックホラーの雰囲気は満点である。グラフィックス面においては,現時点のFPSでは最高水準であるといえるだろう。ただし要所要所に挿入されるCGムービーは,最近のPCゲームのクォリティから考えると平均的となっているのが残念なところ。
緻密なシナリオと美しいグラフィックス,巧妙なトリックと痛快なシューティング。これらが見事に折り合い,緊張の連続でプレイヤーを恐怖に陥れる。そんなクライブ・バーカーの恐怖の世界を存分に味わえるのがUndyingの魅力だ。謎解きがやや難しいような気もするが,ホラーが苦手でなければ,ぜひ挑戦して欲しい。純粋にアドベンチャーゲームファンにもお勧めだ。
最後に,Undyingを満喫するためには,ぜひ3Dサウンド環境を用意してプレイしてもらいたい。どこからともなく聞こえる魔物の咆哮にドギマギするはずだ。そして急に魔物が目の前に飛び降りてきたときには…少しばかりちびってしまうこと請け合いだ。
と,こういうことはいくら文字で語っても語り足りない部分も多い。まずは黙って「ここ」にあるデモ版をプレイしてみてほしい。巨大なファイルサイズでダウンロードする気分も萎えそうだが,かなりコワイその感覚を,少しばかりでも(いや,結構長いデモ版なのだが)体験できることだろう。