ポスタル2

Text by 松本隆一
25th Apr. 2003

 2003年4月11日金曜日は早起きして秋葉原へ出かけ,オーバートップで世界最速発売の「ポスタル2」を購入。急いで帰ってインストール。起動画面を見ながら,久しぶりにドキドキ。なにしろ5年ほど前に彗星のように登場し,欧米各地で彗星のように発売禁止になったという伝説の残酷ゲームの続編なのだ。世界中の残酷ゲーマーから期待され,しかも完成品はかなーりすごい残酷らしいという噂なのだ。「可哀想だから」という理由でヒヨコまんじゅうを頭から食べられないような私(尻から食べる)に,そのような残虐なゲームが果たして耐えられるのだろうか!? 途中で投げちゃったら,買ったお金はどうしてくれるのか? そんなポスタル2,遊んでみました。

伝説の残酷ゲームがFPSになって,ついに我々のもとに帰ってきた!

至近距離からのショットガンがレッドネック野郎の頭にヒット。おつむがすっきりして気持ちいいだろ。なんちゃって

 事前の情報によると,ポスタル2は前作のような無差別殺人ゲームではなく,日常生活シミュレータなのだそうな。「牛乳を買う」だの「仕事場へ行って給料をもらう」だの,簡単なおつかいを与えられ,それをこなせば平穏無事な一日が終わる。うーん,日常生活。
 ところが,牛乳を買いにスーパーへ行くと長い行列で店員の態度は最悪。給料をもらいに会社へ行けばいきなりクビ。犬には噛まれる。と,世の中はストレスのたまる状況で満ち満ちているではないか。ついには堪忍袋の緒が切れまして,おや? 気がつくとコートの下にはショットガンが。……という設定。

 これだけ聞くと,かなり挑戦的なゲームじゃないか。と思っていたのだが,実際にプレイしてみたところ必ずしもその通りではなかった

 主人公のポスタル・デュードが住むのは人口4000人ほどの町,アリゾナ州パラダイス。トレーラーハウスに,口うるさい妻と二人暮らし。ミッションが始まる前に主人公デュードの姿をちらりと見られるのだが,ゲーム起動画面のような鬼気迫る雰囲気はあまりなく,黒ずくめのちょっとトッぽいお兄さん風。べらべらとよくしゃべる。前作と同一人物なのかは不明である。さて一日のスケジュールを確認したら,さっそく行動開始だ。
 いうまでもなく,ポスタル2はプレイヤーがデュードを操るアクションゲーム。前作は見下ろし型の2Dスタイルだったが,製作元のRunning With Scisssors(以下,RWS)は続編の制作に当たって,Unrealエンジンを使った一人称視点のゲームシステムを採用した。さらなるリアリティと現代性を狙ったのだと思う。
 実際に歩いてみると,町の様子はかなりいい出来だ。まさに,なんの面白みもない中西部の田舎町の雰囲気を実によく再現しているではないか。ただ停まっている車は多いものの,走っている車が一台も無いのが奇妙といえば奇妙。道を歩いている人々も,ほとんど同じ年齢層。若者ばっかりの田舎町なんですね。
 キャラクターのモデリングは通常レベルだが,女の子たちが意外にかわいいのでびっくり。それぞれのモーションも悪くない。ところが道ばたでぶつかったりすると,すごい形相で「おたんこなす!」などと叫ぶので侮れません。

教会と,その前でゲロを吐く人。最新のエンジンで描かれたグラフィックスは美しいが,最高レベルにすると,私の環境ではやや重く,画面のちらつきが見られた どういうわけか警棒は非常に強力。一撃で粉砕しちゃうんだからね。なにを? 下に倒れている人を見ればだいたい分かるはず 撃ち合いに巻き込まれた気の毒な女の子。BGMはなく,聞こえるのは環境音だけ。雲はゆっくりと流れ,どこからともなく悲鳴が聞こえる。なんとなくシュールな情景だ

日常生活シミュレータというユニークなシステムは,どこまで実現されているのか?

昔っからパレードは嫌いなんだ

 まあ,どいつもこいつもいずれ俺様のライフルの餌食になるのさふふん,と思いながら町の北にあるRWS本社に向かう。既報のとおり,デュードはなんとRWSの社員だった! ところが社長のヴィンス(実在の人物)の部屋に行くと「キミのこと嫌いじゃないが,クビ」と,いきなりリストラ宣言。「だって私,まだ一日しか働いてませんよ」と反論すると,ヴィンス大爆笑。
 英語圏の人なら,ここでムカっとするのかもしれないが,残念ながら英語なので気にならない。そういえば,さっきスーパーで牛乳を買ったときの長蛇の列も,態度の悪い店員も,正直あまり気にならなかったなぁ。うーん,もしかしたらとは思っていたが,ゲームの中で真剣に腹を立てるのはやはりなかなか難しいらしい。怒りには個人差があれば,国民性や文化の違いもある。なにより英語でバカにされても,いっぺん脳の中で通訳が入るわけだから「なになに? アーハーン? おお,ふぅむ,なるほど」と,ストレートには怒りにくい。

 そのとき突然,それまで外で「お下劣ゲーム反対」のピケを張っていたデモ隊がRWS本社に突入し,どういう了見か知らないがデュードをバンバン攻撃し始める。このまま死んでしまうとゲームオーバーなので,途中で拾ったハンドガンで反撃だ。RWSのバカ社員どもも機関銃で援護してくれる。デモ隊が血まみれになって倒れると,社員は手を叩いて大喜び。
 こんなふうに,ポスタル2にはFPSらしい普通のイベントもちゃんと発生するのだ
 だいたい,おつかいミッション三つにつき二つぐらいの割合で,好むと好まざるとにかかわらず殺し合いが起きる。それをクリアしないと一日が終わらず,クリアすると,そのイベントで撃ち倒した連中の仲間,たとえば図書館で「森を守れ,本を焼け」とデモっていた森林保護団体や,パパのお墓におしっこをかけていたときにデュードを誘拐しておかまを掘ったレッドネック達などが敵に回る。一度敵に回ったやつらは,デュードを見かけると所かまわず攻撃してくるし,こちらが反撃のため武器を取り出すと,今度はその場にいた警官達がデュードを逮捕しようと迫ってくる。こうして不可避の銃撃戦が始まり,失った体力を回復するアイテムを得るため近くの民家に飛び込むと,当然ながらその家の住民が悲鳴を上げ,なかには攻撃してくる者もいるので,また殺し合いが発生する。
 このように,最初に聞いていた"キレる若者を体験"的な要素も随所に散りばめられてはいるが,それ以外の仕掛けによって,どうしても殺戮を繰り広げざるを得ない仕組みになっている。基本的に,人を殺さずに生活することはできない町のようだ。しかし銃を持って襲ってくる相手をなぎ倒すことを,残虐とは呼びにくい気はする。

ある有名なテロ組織のリーダーによく似た人物。いいんかい? 最強の敵で,もっぱら教会を攻撃してくる。手榴弾,ロケットランチャーなど炸裂系が得意技のようだ 本当は降参しているのじゃなくて,恐怖のあまり悲鳴をあげている人。アメリカ人ってオーバーアクションだなあ 平和な行進も,象に向かって投げられた一発の手榴弾によって阿鼻叫喚の地獄に変身する。いひひ。逃げまどうパレードを見て大喜びする観客もいるので,投げた私もうれしい
可愛い顔して意外と強敵のクランチー。ロケットをバンバン撃ってくる。銃弾ではほぼ倒せないので,こちらもロケットを撃ちまくってやろう 図書館でデモをする過激な環境保護団体。「ヒトラーも本を書いた」「知識のあるやつは共産主義者だ」などと,思わず笑っちゃう主張を繰り広げている 非致死性武器としてスタンガンが使える。電撃を食らわすと,ぶっ倒れて失禁。変な凝り方がさすがという雰囲気だ。時間が経つと頭を振りながら起き上がってくる。もういっちょ!

 

意外とあっさり味のバイオレンスにはちょっと物足りなさを感じるかも

スコップの新しい使い方。最初やったときは相当びっくりした。しばらく死体の傷口から血がほとばしり続けるのもショッキング

 残酷度について,発売前に公開されていたスクリーンショットとムービーには次のようなものがあった。スコップで首ポーン! ショットガンで頭ボーン! 燃〜えろよ燃えろ〜よ,焼死体。実際にプレイしてみる,さすがにかなりの迫力だ。なかでも火に巻かれながら逃げまどい,焼けただれた体になってもまだ動いている被害者の姿はショッキング。黒こげの姿で「お母さん!」とか叫ぶし。
 とはいえ,ポスタル2に用意されているゴアシーンは,実をいうとそれだけ。まあ,それで十分という気はするけど。砲撃で手足が千切れて吹き飛ぶとか,死体をナイフで切り刻むといったハードな描写はない。せいぜい,おしっこをかける程度。そちら方面の凝り方は「ソルジャー オブ フォーチュン」シリーズなどの方がよほどイッちゃっている。負傷した敵が命乞いをするのも,また最近のシューターでたまに見られる仕様だ。
 弾丸の命中部位によるレスポンスの違いもないようで,足だけ狙って撃ち続けても,規定の弾数が命中するとちゃんと死んでしまう。そんなこんなで,残酷さについては事前に予想されていたほどではないという印象だ。もっとも,これはあくまでPCゲームに慣れ親しんだ筆者の個人的見解。たとえば家庭用ゲーム機の経験しかない人がポスタル2をプレイしたら,残虐さのあまり卒倒して吐き戻してデモ隊に加わりRWSの社員と銃撃戦を繰り広げる可能性も大だ。

 こうして,口うるさい妻に命じられたおつかいをすべてクリアしながら,月曜日から金曜日までを過ごすとゲーム終了となる。後半に進むにしたがって(ミッション内容そのものは相変わらず簡単だが)発生イベントの難度が上がり,敵も強力になる。
 結局のところ,日常生活シミュレータという企画(建前?)はある程度はうまくいっているものの,全体として"田舎町を舞台にした普通のFPS"というムード。消音器代わりにネコを使ったり,いわゆるFワードや4文字言葉を連発したりとアナーキーな演出もあるが,残虐性も予想していたよりおとなしいというのが実感だ。でも個人的には「思ったより普通で良かったー」って気もする。

ゲーリー・コールマンという実在のハリウッドスターがゲスト出演している。大人なのに子役をやっていたというウサン臭さがゲームにぴったりマッチ。ま,本物の子供を虐殺ゲームに出すわけにはいかんからね フォルダを見るとUnrealシステムの物理計算を専用に担当するKarmaエンジンも使用しているようで,そのため爆発シーンや死体をけっ飛ばしたときの動きが非常にリアルになっている 教会の墓地にはいろいろなものが埋葬されているようだ。これは「ポスタルのストーリー」のお墓。埋まってんのね。それ以外にも没になった武器やキャラとおぼしき物多数あり
スタンガンを食らわせると,顔色がこのようになって失禁する。でも,しばらくするとふらふらしながら起き上がってくるので安心だ(なにが?) けが人の上に乗って移動しながらゲロを吐く変な人。まったく,このパラダイスの町にゃいろいろなやつがいやるよ(P.デュード談) 図書倉庫で見つけた狙撃ライフルの試し撃ち。倉庫の2階にそっと置かれたライフルって,やっぱダラスの暗殺事件のイメージなのだろうか

 

面白いか面白くないかはプレイヤーの創意と工夫にかかっているのだ

 いろいろ言いはしたが,購入して以来ずーっと遊んでいるのである。皆殺し残酷ゲームのわりには,まなじりを決し必死にプレイ! というより,まったりと遊んでいる。うまい言葉が見つからないが「のどかに殺す」という雰囲気だ。中西部のやたら広い空,退屈な町のムードがポスタル2にピッタリくる。パラダイスの各エリアを移動するたびに,ちょっぴり長すぎるほどロードが入り,あちこちで「ゲームのスピードを削ぐ」と不評のようだが,個人的にはそれもまたまったり感を高める要素だと思っている。殺伐とした現実の息抜きに,束の間の安息を求めてポスタル2をプレイ。ああ,心が安らぐ。

 本作にはレベルエディタが同梱されているので,これからマップやMODがいくつも出てくるだろう。マルチプレイ対応の予定もあるようだ。前作のようにオタクやヌーディスト,ホームレス,ギャルなどが登場すれば,また一段と面白くなることだろう。
 個人的には,手をつなぎ道をふさいで歩いているカップルがほしいなぁ。道ばたでウンコ座りしてタバコ吸っている学生も。けしからん,俺様の怒りのスコップを食らえ! あと大声で携帯でしゃべっているオヤジ。それから行列に割り込んでくるチンピラ。ゆ,許さん,俺様の怒りの黄金水を食らえ! それからそれから……。

見逃せないのが猫。あちこちにいて,仕草もリアルでたいへん可愛い。しかもマシンガンの消音器としても使えるというリーズナブルさ。人と見ると噛み付いてくるバカイヌどもよりよっぽど偉いぞ 警官に追われているのに警察署の前に出てしまった! それにしても警官なのに,そんなに見境なく町中で発砲していいんでしょうか? 停まっている車に何発が撃ち込むと,うっとりするほど派手に吹き飛んでくれる。手前のおじさん,爆風でなんか変な風になっちゃってます M16,ショットガンとも,それなりの威力しかない。燃焼系が便利だが,場合によるとこちらも巻き込まれるので痛し痒し熱しって感じ

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■発売元:マイクロマウス
■価格:オープンプライス
■問い合わせ:マイクロマウス TEL 03-5352-7609
■動作環境:Windows 98/Me/XP,PentiumIII/733MHz以上(Pentium4以上推奨),メモリ128MB以上,空きHDD容量1.2GB以上
英語デモ版
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