Rick Seis氏インタビュー

 

 日本でもお馴染みのBill Roper氏を始めとした主要メンバー4人の退社が報じられ(当サイト「こちら」のニュース),今後の動向が注目されていたBlizzard社だが,forGamerでは,同社の新プロジェクトリーダーとして任命されたRick Seis氏へのコンタクトに成功。Blizzard社の今後の方向性など,いくつかの質問を投げかけてみた。

forGamer(以下,4G):
 まず始めに,Blizzard Northの新リーダーとなったRick Seis氏とはどんな人物なのか? この点に関して,メディアを含めた多くの人が興味を抱いていると思います。Seis氏は,1994年にBlizzardに入社して,「Diablo」ではシニアプログラマーを,「Diablo II」ではリードプログラマーを務めていたと聞いていますが,ほかに開発に携わった作品などがあったら教えて下さい。

Rick Seis氏(以下,Seis):
 私はシカゴで3人兄弟の末っ子として育ちました。母は台湾人で父はドイツ,アイルランド,ノルウェーの血を引いており,とても多文化的な教育を受けてきました。また幸運なことに私の父にはやや"ゲーマー"的な部分があったため,かなり年少期からゲームに触れる機会が多かったのが,今の仕事につながったといえるかもしれません。
 父が「Telstar Pong System」を買って帰ってきたのは今でもよく覚えていますね。私は文字通り"釘付け"になり,初めて触った瞬間から「将来ゲームを作っていきたい」と強く願うようになったんです。

 好きなゲームジャンルは,主にRPGとアドベンチャーゲームですね。基本的にはどんなゲームでも好きなんですが,やはり記憶に残っているゲームはRPGが多いです
 ただ私の場合,"RPG"と一言でいっても自分流のかなり大まかなジャンル分けをしているんですよ。例えば,自車をアップグレードさせながらレースをこなしていく「グランツーリスモ」も,「車が"プレイヤー自身"の延長となる」という考え方から,ある意味RPGであると思っていますし,「Quake」や「Unreal」などといったゲームも一種のRPGだと考えています。
 またこれは手前味噌になってしまうのですが,最近遊んでも遊び足りないほどに興味を抱いているのが,我々が開発中の「World of Warcraft」だったりします(笑)。「World of Warcraft」の開発状況を全体的に見ていくのは非常に面白く,その完成が私自身も待ち遠しいほどですね。

 私の仕事についてですが,Blizzardでは「Diablo」でシニアプログラマー,「Diablo II」ではリードプログラマー,そしてその後はBlizzard Northのテクノロジ部門のディレクターを務めました。現在はご存じようにBlizzard Northのリーダーとして活動しています

4G:
 Seis氏はリーダー就任に伴い,Blizzard Northの次のキープロジェクトに携わるとの話でしたが,それは具体的にどういったプロジェクトなのでしょうか

Seis:
 新しいプロジェクトについては,その時期がきた段階で詳細をお話しする予定です。とりあえず現時点では,Diablo II 1.10パッチの完成が近づいており,これが終わることによって,始めて100%のリソースを新たなプロジェクトにつぎ込めると考えています。
(※編集部注:2003年10月29日現時点では,Diablo II 1.10パッチがリリースされている)

4G:
 「StarCraft」や「Diablo II」の韓国での実績など,Blizzard社はアジア市場で最も成功している企業の一つだと思いますが,今後アジア市場を見据えた展開や展望について,何かお考えがあればお聞かせ下さい。

Seis:
 アジア市場は将来のゲーム業界全体にとって非常に重要であり,なかでも日本や韓国はその水準を上げている代表国だといえるでしょう。PCやコンシューマでの遊びは,米国よりもアジアのほうが主流の文化になりつつあります
 ただアジア市場に対して私達が成功する最善の方法は,結局のところ自社タイトルをできる限りバランスの良いものに仕上げると同時に,アジアにいるBlizzardファンの意見を真摯に受け止めることだと思いますね。

4G:
 現在Blizzard社は「World of Warcraft」というMMORPGを開発中ですが,Blizzard社のオンラインゲームビジネスに対する考えや展望をお聞かせ下さい。
 「100万本売れないソフトは作らない」とまでいわれるBlizzard社のことだから,業界内でも「厳しい」といわれるオンラインゲームビジネスについて,なんらかの勝算があるのではないかと勘ぐっているのですが。

Seis:
 オンラインゲーム市場は,ゲームを一般社会にとっての"テレビや音楽のような"成功した拡張性のあるメディアにするために,我々ゲーム開発者が渡らなければならない橋のようなものだと考えています。
 プレイヤーの嗜好を取り入れながらコンスタントに進化し,プレイヤーのニーズを満たす"体験"を提供することによって,オンラインゲームは,ゲーム自体をテレビのように楽しく,満足感のあるものへと変化させていくことができるんです
 「World of Warcraft」においては,私達はこれまでのゲーム制作ノウハウを十分に生かして取り組んでおり,発売後もゲームがさらに発展するよう,継続的に開発を続けていくつもりです。つまりWorld of Warcraftでは,発売後もサポート/コンテンツチームをフルに稼動させる予定なのです
 プレイヤーというのは,発売当日から次世代を見据えた目で豊富なコンテンツを要求して来るものです。そういった期待に応えるためにも,「World of Warcraft」が冒険と刺激に満ちた素晴らしいゲームになるよう,十分な開発期間を設けて制作に取り組んできました。
 「World of Warcraft」は,プレイヤーが何年もの時間をかけてでも遊びたいと思う,最高のオンラインゲームとなると自負していますよ

4G:
 最近だと,コンシューマ市場向けの「StarCraft:Ghost」も記憶に新しいBlizzard社ですが,今後も自社のブランドタイトルを多角的に展開していく(コンシューマ向けに別途開発していく)予定はあるのでしょうか? 例えば,「Warcraft III」に登場するHeroが敵をなぎ倒すアクションゲームだとか。

Seis:
 現時点では,ほかのコンシューマ機向けタイトルの開発については何も発表していませんが,今後のタイトルの開発プランについては,コンシューマも視野に入れて十分な検討を行っていくつもりです
 ただ我々としては,自社のブランドタイトルをベースにした新たなゲームの開発にも積極的に取り組む予定で,その中にはコンシューマ市場向けのタイトルも含まれるかと思います。
 これは余談ですが,もし将来的に我が社がコンシューマ向けタイトルを開発することがある場合,外部のデベロッパーとの連携が必要不可欠になると思います。現在の「StarCraft:Ghost」のチームもそうですが,外部のデベロッパと十分に協力し合って仕事を進めていくことが,今後はより重要になるでしょうね。

4G:
 最後に,「Diablo III」および「StarCraft II」の開発や予定について,ぜひお聞かせ下さい。またもし可能であれば,コンセプトアートや画面写真などが見られると嬉しいのですが……。

Seis:
 さすがに現時点では「Diablo III」や「Starcraft II」の開発プランについての発表はできません(苦笑)。ただ我々としても,DiabloやStarCraftの世界観には常に触れていますし,ゆくゆくはそれらのタイトルの世界に舞い戻りたいと考えています。
 ともあれ,プレイヤーの皆さんが我々のゲームに興味を持ってくれるのは,本当に光栄だと思います。今はまだ発表が出来なくて申し訳ありませんが,今後のBlizzard社の活動に注目してください。

4G:
 ありがとうございました。


 さて,結局のところ具体的な話を引き出すまでは至らなかった今回のインタビューだが,Seis氏の話を統合して考えてみると,コンシューマやアジア市場を見据えたBlizzard社の戦略が,見え隠れしていたのが分かる。先日発表された「World of Warcraft」の韓国での展開などを考えると,Blizzard社がアジアならびオンランゲーム市場にかなり積極的な姿勢でのぞんでいるなのは,まず間違いのないところ。今後同社がオンラインゲームが大流行している中国などにも展開していくのか否か,その動向が注目されるところだろう。
 またこれは詮索が過ぎるというものなのだが,「Diablo II 1.10パッチの開発が終わることによって,新しいプロジェクトに注力できる」というSeis氏の言。裏を返せば,氏が指揮を執るといわれる新プロジェクトには,Diablo IIの主要スタッフが大きく関わるという可能性が高い。プロジェクトの詳細が表に出てくるのはまだまだ先の話だろうが,今からその内容が気になるところである。

 今までは"縁の下の力持ち"的な存在だったRick Seis氏。どのようなプロジェクトに関わり,またどういった作品を生み出していくのか,今後のSeis氏の活躍に期待したい。

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