さて,前置きが長くなってしまったが,開発者インタビューに入ろう。今回インタビューに答えてくれたのは,セガ第一AM研究開発部副部長であり三国志大戦のプロデューサー西山 泰弘氏と,同タイトルのディレクターを務めた大原 徹氏の両名。本作を作るうえで注意したことや開発苦労話など,いろいろな話を聞くことができた。
4Gamer:
本日はお忙しいところありがとうございます。
西山 泰弘氏:(以下,西山氏)
いえいえ,こちらこそ三国志大戦に興味を持ってもらってありがとうございます。
4Gamer:
早速ですが,まずは簡単に三国志大戦の現状から教えてもらえますか?
ゲームセンターで体感する限りでは,かなりの盛況ぶりだと感じますが。
西山氏:
率直に言うと,我々もびっくりするくらい遊んでもらっていますね。インカムでいえば,回転率は理論値に近いくらい。
4Gamer:
現状,プレイヤー数はどのくらいでしょうか?
西山氏:
正確な数字は分かりませんが,アクティブユーザーは少なくとも10万人以上はいるかなぁって感触ですね。
4Gamer:
10万人! やはりかなりの人気ですね。でもそれなりにお金のかかるゲームですし,そこを考えると相当な人気だといえるのでは。
西山氏:
たくさんのプレイヤーに遊んでもらっているのもそうなんですけれど,やっぱりプレイの頻度というか,回数が多いというのも特徴だと思います。それこそ17時以降は100%に近い回転率だったりで。
4Gamer:
僕のよく行くゲームセンターでも大勢並んでいて,遊ぶのに苦労してます(笑) ただそういったプレイヤー数の多さも影響しているのだと思いますが,一時期,回線/サーバー周りが不安定な時期がありましたね。
大原 徹氏:(以下,大原氏)
ええ,そこはプレイヤーの皆さんに本当に迷惑をかけてしまったと思っています。ただいろいろと手を入れて調整したので,今はもう大丈夫かなと。
4Gamer:
確かに今は快適ですね。そういえば,筐体数自体はどのくらい出ているのでしょうか?
西山氏:
ごめんなさい,正確な数値はちょっと言えないんですが,大型筐体という意味では多分トップクラスの販売台数になっているんじゃないかと。まぁサテライト数(補注:プレイヤーが座われる席数)では,1セットで8席ある「WORLD CLUB Champion Football」には敵わないかもしれませんが(笑)。
4Gamer:
ところで,本作の企画が立ち上がったのはいつ頃なのでしょうか?
西山氏:
企画は2002年の「WORLD CLUB Champion Football」(以下,WCCF)が出た後ぐらい。あの「フラットリーダー」を使ったゲームは作れないか? という模索から始まりました。でも一番最初は,カードゲームにするかどうかすらも定かではなくて,私と大原の大好きな「三国志」という題材をゲームにしようという話と,「対戦」というキーワードだけがあったような状態でしたね。
大原氏:
ただ対戦に関しては,店舗間対戦が大前提でしたね。全国のプレイヤーと遊べたほうが絶対に楽しいだろう,みたいな。
西山氏:
そうだね。当時はちょうどセガの「ALL.net」の話が立ち上がってきたという時期で,技術的にどこまで出来るのか? とかいろいろと問題もありました。
大原氏:
少なくとも企画の段階ではまだALL.netの具体的な話は私たちのチームに来てなかったですし,回線もまだISDNとかそういうのが主流で,「そもそもリアルタイムでできるのか?」という時期もあって……。そのときは,リアルタイム制ではなくてターン制のゲームシステムを考えてみたりしましたね。
4Gamer:
やはりターン制になる可能性もあったんですね。
西山氏:
ええ,今の形の雛型が出来るまでの間はかなり試行錯誤がありましたよ。
大原氏:
企画段階でもそうですけど,開発の初めのほうでは技術的な課題がいろいろあって,カードを激しく動かしてちゃんと読み取れるのかとか,どこまでリアルタイムな通信が可能なのかとか,大変でした。
でも回線の問題もそうなんですけど,技術的な課題がクリアになっていき,さらには「こんなこともできる」みたいな部分が分かっていくと,今度は企画側が「じゃあ,それはこういう使い方はどうだ?」とか,技術的な側面と企画的な側面が交互にステップアップしていったというか,そういうやり取りはかなり長く続きました。それが結果的にゲームのクオリティアップにつながっていったんじゃないかなと思っていますね。
西山氏:
いろいろ考えてたよね(笑)。
大原 徹氏:
カードの読み取りにしても,カードの方向まで読み取れると分かった段階で,「じゃあユニットに"向き"の要素を設けようか? でも向きの要素があると,リアルタイムで操作しきれないかも?」とか,いろいろチーム内では相当議論しました。
今でこそ計略などはボタンを押して発動する形なんですけど,「ボタンはないほうがいいんじゃないか?」みたいな議論もあって,ユニットの向きの要素がないときに,カードを横向きにすると計略発動! みたいな操作も考えましたね。
西山氏:
あったあった(笑)。でもその操作方法は駄目だったね。「操作してたらカードって横向きになっちゃうじゃん!」みたいな(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。じゃあ,今のような形になるまでに相当時間はかかったんですね。
西山氏:
方向性が固まる段階までで,足かけ1年くらいかかってたかもしれないですね。今思い返すと三国志大戦は,"これならイケると自信を持てた瞬間"というのが,なかなか訪れなかった作品といえるのかも。
大原氏:
そうですね。カード,フラットリーダー筐体,オンラインなど,要素だけ見ても相当挑戦的な作品ですし,かなり試行錯誤が必要だったと思います。
4Gamer:
ところで,開発でとくに苦労した/気を張った部分というのはどのあたりなのでしょうか?
大原氏:
まぁ当然あらゆる部分に気を配りはするんですが,とくに気をつけた部分でいえば,やっぱりインタフェース周りだと思います。アーケードゲームにしては複雑な内容ですし,状況の把握とかも含めて分かりにくいゲームなのは理解してましたから。
4Gamer:
なるほど。そういえば,ゲームシステム的には「RTSみたいな要素が色濃いな」と思っていたのですが,RTSっぽいゲームシステムというのは最初からの方向性だったんですか?
大原氏:
いえ,先ほども言いましたけど,開発にあたってはまず「対戦」というのが大きなキーワードになっていて,カードゲームなんだけど目指す方向性は,あくまでも「バーチャファイター」なんだっていう意識が非常に強くありました。
4Gamer:
え,「バーチャファイター」ですか。
大原氏:
ええ。ですから"対戦ゲームらしさ"みたいな部分には相当こだわりましたよ。
また実を言うと,RTS的なゲームシステムが念頭にあったワケでもありませんでした。三国志で,対戦で,オンラインで,リアルタイムで,とかいろいろな要素を考えていくうちに,自然とRTSっぽい形に近づいていったというのが正しいんです。「結果的にRTS然としたゲームになった」という。だから今のRTSっぽい形というのは実はかなり後付けで,開発途中にRTSっぽい要素が見え始めてから,あらためてAge of EmpiresみたいなRTS作品を研究しました。
4Gamer:
でもRTSってもの凄く難しいゲームですよね。
大原氏:
ええ,正直に言ってしまうと,いろいろなRTSを研究すればするほど,「これは作りたいゲームとはちょっと違うな」というのを感じていました。それは画面の分かりにくさであったりとか,ルールの難しさであったりとか,いろいろあるんですけど。
4Gamer:
三国志大戦を見ていると,アーケードゲームらしい演出がうまい具合に"分かりやすさ"につながっているな,と感心します。キャラクター(武将)のカットインが入って「撃破!」とか「撤退!」とか,カッコイイに加えてそれ自体が「状況の説明になっている」なぁと。
これは普通のRTSを遊んでいると大抵の人が当たる"壁"だと思うんですけど,「いつの間にかやられちゃってる」とか「知らない間に戦闘が始まってる」とか,そういう難しさがあるじゃないですか,RTSって。三国志大戦では,そういうとまどいが生まれないのが素晴らしいなと。
大原氏:
そうそう! 三国志大戦も開発途中のバージョンでは,そういう分かり難さが残っていたときがあって,「これじゃ駄目だ」と。ここも「カットインがいちいち入るのはウザくないか?」とか試行錯誤があったんですが,結果的に今のような形に落ち着きましたね。
西山氏:
インタフェース周りなんかも,本当に苦労したというか,手探りだったよね。
大原氏:
視点の位置にしても,今の形に落ち着くまではいろいろ試しましたね。分かりやすいという意味では真上からマップを見下ろした形が一番いいんですけど,それだと凄くつまらなそうなゲームに見えたり。逆に操作はいわゆるミニマップだけで行って,メインでは演出的な映像だけを流し続けるのはどうだ? みたいな。本当に何パターンも考えました。
西山氏:
そのへんの試行錯誤,工夫という部分では,チームのみんなが本当にがんばってくれたと思う。
大原氏:
あと三国志大戦の開発では,セガ社内のノウハウをいろいろと吸収できたのも大きいと思いますね。
西山氏:
ああ,それはあるね。いろいろな意味でタイミングが良かった。ネットワークに関しても,セガの「ALL.net」が動いてくれていたからそれに乗ることができたし,カードという部分に関しても,WCCFやアヴァロンみたいな先行しているタイトルがあったからこそ,作っている段階でいろいろなことが見えました。技術的な部分もそうですけど,レアカードの比率はどのくらいがちょうどいいのかとか,ゲーム性だけじゃなくてビジネスに絡む部分も含めて。
大原氏:
アーケードゲームという部分でもまさにそうですね。私たちは元々コンシューマゲーム系の開発部に所属していたのですけれど,セガの長年のノウハウを今回は吸収させてもらったといいますか。
西山氏:
社内的に相談しやすい空気があるというのも大きかったね。
大原氏:
いろいろな人にお世話になりました。本当に感謝しています。
4Gamer:
最後になりますが,三国志大戦の今後の展開について聞かせてください。
西山氏:
まぁ,皆さん気になるところだと思いますが,バージョンアップや大会などのイベントも含めて長い目で見ていろいろ考えていますよ。
4Gamer:
バージョンアップというのは,いつ頃にどのくらいの規模を予定しているのでしょうか?
西山氏:
ああ,えーと……(チラリと広報担当の目を見ながら)ごめんなさい,まだ僕の口からははっきり言えないですが,小さいものや大きなものをいろいろ。もうこのへんで許してください(笑)。
4Gamer:
流石に難しいですか(笑)。
西山氏:
今後もっともっとゲームを進化させていく予定ですので,ぜひ期待してほしいですね。そしてまだプレイしたことがない人には,一度三国志大戦を遊んでみてほしいです。
4Gamer:
そうですね。私なんかも,新しいカードが追加されたら,また眠れない日々が始まってしまいそうです(笑)。ともあれ,作品のますますの発展を期待してます。本日はありがとうございました。
今回のインタビューで筆者が改めて感じたのは,三国志大戦というゲームも,いろいろな"下地"があって初めて成功できた作品なんだということ。それはセガがカードゲームのノウハウを蓄積してきた部分であったり,ALL.netなどの技術的基盤の整備であったりとさまざまなワケだが,一時期その衰退ぶりが嘆かれていたアーケードゲーム業界も,工夫と新しい試みを重ねていくことで,まだまだ開拓する余地があるのだということを強く再認識させられた次第である。
「甲虫王者ムシキング」やWCCF,そして今回紹介した三国志大戦と,アーケード向けのカードゲームという新しいジャンルで,現在,非常に大きなムーブメントを起こしているセガ。三国志大戦ともども,今後の動向に注目していきたい。