連載第1回から続けてきた,「エバークエストII」(以下,EQ2)の(「エバークエスト」(以下,EQ1)を参照したうえでの)ゲームデザインの説明は,今回で最後になる。第3回は,これまで続けてきた「戦闘およびグループメイキングに施された工夫」に補足を加えつつ,マップ/ゾーンの構成について見ていきたい。「こちら」の用語解説も併せてどうぞ。
各クラスが持つ能力の特色は保ちつつ,アンバランスな部分を排し,グループの組みやすさを向上させることで,EQ2がEQ1よりも遊びやすいゲームになっていることは前回まで述べてきたとおり。これをさらに向上させる要素として見逃せないのが,本作に「サブクラスが24種類も用意されている」という部分である。
EQ1においては,グループ内に同じクラスの人間がいると,なんとなく違和感が抱かれることがあった。とくにウォーリアー,クレリック,エンチャンター,モンクなど,一つの仕事の専門家と呼べるクラスが,グループ内に2人存在することはほとんど見られなかった。EQ2では各クラスの役割を多角化することで,この問題をある程度は解決できているが,それに加えて,各クラスがサブクラスに分岐していくことが,レベル20以降のグループの組みやすさに一役買っているように見える。
具体的な例を挙げてみたい。ここにガーディアン,バーサーカー,テンプラー,インクイジター,イリュージョニスト,コウアーサーというフルパーティがあったとする。タンク,サブタンク,ヒーラー,サブヒーラーがいて,そこにキャスターが2人と,バランスのとれたグループに見える。しかし,もしサブクラスの分岐がなかったとすると,このグループはウォーリアー×2,クレリック×2,エンチャンター×2という構成である。これはEQ1的センスで考えると,なんとなくイケてない印象だ。
しかし,サブクラスが細かく分かれているおかげで,EQ2ではこのような組み合わせを心理的に違和感なく受け入れられるし,実際このグループで出掛けていってもなにか不満に思うことはないだろう。
実際には,もとのクラスが同じであるサブクラス同士の基本的な能力と役割に,それほど大きな差はない。しかし,それほど大きくなくてもやはり差はあって,とくに以降覚えるアーツ/スペルがまったく別の名前になるのは重要だ。ほぼ同等の機能を持つアーツ/スペルでも,上書きされずに両方が有効になるので,そのあたりの心配をせずに済む。サブクラスが細分化されている利点は,このような部分にもある。
クラスの相関関係がすっきりと分かりやすいものになっているように,EQ2ではゾーンの難度とキャラクターレベルの関係も,秩序を感じられるものになっている。
EQ2の世界は"レベル1のキャラクターでも行こうと思えばどこにでも行ける"という具合にはなっていない。そもそも,すべてのキャラクターはケイノスもしくはフリーポート,どちらかの町の所属となるため(その前に全員が難民の島からスタートするが),ゲーム開始早々に人の集まる場所まで命がけで移動するような必要も生じない。町を一歩出れば,そこはもう適正難度のゾーンなので,簡単にハンティングを始められるのだ。
ケイノス側ではアントニカ,フリーポート側ではコモンランドがレベル10台の狩り場となるが,この2ゾーンは非常に広大なうえ,ゾーン内にいくつもダンジョンやインスタンスが存在するので,レベル20程度になるまでは,このゾーンだけで冒険が可能だ。ほかのゾーンにも足を伸ばせるが,この段階ではメリットがないので,適正レベルのプレイヤーはみなここに集まることになる。そのためグループは組みやすい。
レベル20になるとケイノス側プレイヤーはサンダリングステップに,フリーポート側プレイヤーはネクチュロスフォレストに足を伸ばせるようになる。どちらも広いゾーンなので,レベル30程度まではこの近辺での活動が可能だ。そしてこれ以降の冒険も,レベル30台が適正なゾーン,40台が適正なゾーン,といった具合に続いていく。
つまりEQ2では世界中に散在する,さまざまな難度を持ったゾーンをあちこち渡り歩くのではなく,レベル帯ごとに順序よく並べられたゾーンをステップアップしていくようなかたちで冒険が進んでいく。適正レベルのプレイヤーが同じゾーンに集まるようなこの仕組みは,グループの組みやすさを向上させ,またゲームの全体像を把握しやすいものにしている。少し道を間違えると,たちまち凶悪なMobに遭遇してやられてしまうような,EQ1の混沌とした世界に比べれば,EQ2の世界は格段に冒険しやすい。
半面,手慣れたプレイヤーには,行き先を自分以外の誰かに決められてしまっているような印象を与えるのも事実だ。だが,進入するのに条件が必要なインスタンスや,攻略にチームワークが必要なダンジョン,達成が困難なクエストなど,チャレンジに満ちた要素もEQ2には存在するので,コアなプレイヤーが目標を見失うということはなさそうだ。
|
そのレベル帯を代表するような大きなゾーンがあり,その各地にダンジョンやインスタンスが複数存在する。ダンジョンなどは,メインエリアに比べると攻略の難度が高くなっている。また,ダンジョンやインスタンスは,これまでにパッチなどによっても追加されている。今後も少しずつ増えていきそうだ |
これまで述べてきたように,EQ2はEQ1での蓄積を活かしつつ,そのいびつさが解消され,すっきりして遊びやすいものになっている。戦闘においては,必須の役割はあるが必須のクラスはなく,より多くのクラスが必須の役割の候補となれる。クラスとその能力,そして役割のつながりが分かりやすく,グループメイクがしやすい。本稿ではあえて細かい点をつついたが,基本的には理解しやすくなっているため,これまでにあまりMMORPGを経験していないプレイヤーでもクラスの機能や役割を簡単に把握できる。むしろEQ1の常識(主にいびつであった部分)にとらわれているプレイヤーのほうが,初めは戸惑うのかもしれない。
ゾーンに関しても同様で,今行くべき場所や世界の全体像を把握しやすい。ライトな新参ゲーマーが,どうしようもなくなって途方に暮れるといった事態は,EQ2ではあまり見かけないはずだ。
EQ1で作り上げられた面白さを捉え直し,同じ方向性を保ちつつ再構成したゲーム内容を見ていると,「ああ,確かにこれはEQの"2"なんだ」と実感できる。かつていびつだったヤジロベエは,非常に洗練されたきれいな形のヤジロベエに作り替えられた。
ただ,一つ不安材料はある。それは「形の整ったヤジロベエは果たして面白いのか?」という疑問である。これは現段階では分からない。ヤジロベエもモビールもそうだが,すごくごちゃごちゃして一見バランスが悪そうなのに,なぜか釣り合いが取れているからこそ見ていて面白いものだったりもする。「レベル50でアイスコメットを使えるようになるまではイマイチ」とか,「トゥルーショットを取るまでは弓はあんまり意味ない」とか,「コンプリートヒール以外やることない」とか,「ここから先は常に大人数でレイド組まないとゲームが進まない」とか,「初心者向けのゾーンをレベル30オーバーのMobが徘徊している」とか,「アクセスが悪くて誰も寄りつかないゾーンが無数に存在する」とか,そういった「なんだよそれ!」的な厳しい部分にこそ,実はEQ1の面白さがあったという可能性は否定しきれない。スマートに整えられていて,とても遊びやすいEQ2の世界と,とっつきは悪いがそれゆえの奥深さも感じられるEQ1の世界,果たしてどちらが魅力的なのか。その答えは,これからプレイヤーによって出されていくものだろう。