インタビュー
大人じゃないと分からない部分も? 本日発売「PostPetDS 夢見るモモと不思議のペン」について,西 健一氏とアルファドリームの杉本晃子氏に聞いた
プレイヤーは,ペット達が暮らすポストペッ島に,唯一の人間として訪れ,ペット達と過ごすことになる。その中で明らかになるのは,この島の上空に眠る“バク”によって,半人前のペット達が夢を食べられてしまっているという設定だ。
そこで,半人前のペット達を一体ずつ飼い,一緒に遊んだり,お世話をしたりしながら夢を思い出させ,一人前に育て上げて送り出す……というのが,基本的な流れになっている。
今回,この作品で企画/監督を務めた西 健一氏と,開発を担当したアルファドリームの杉本晃子氏に,企画の成り立ちからゲームの見所,開発秘話までまとめて聞いてきた。
最初のうちはおっさんだけで企画が進められていた
4Gamer:
今日は「PostPetDS 夢見るモモと不思議のペン」という作品について,いろいろと聞かせて下さい。
本作は,西さんが企画と監督,アルファドリームさんが開発とのことですが,これはどういった流れで決まったんでしょうか?
もともと,ソネットさんとマーベラスエンターテイメントさんの間で,ニンテンドーDS用に「PostPet」のゲームを作ろうという話があったんですね。
で,実際に作るにあたって,和田康宏さん(マーベラスエンターテイメント 取締役)から僕にお声がけいただいたんです。
4Gamer:
ああ,西さんが参加される前からPostPetのゲームを作るのは決まっていたんですね。
西氏:
で,どう? ってことで(笑)。
PostPetというメーラー自体,初期にユーザーとして使っていましたし,ソネットのキャラでニンテンドーDSなの? みたいな部分にも興味を惹かれて,細かいことはよく分からないけど面白そうだねっていう話になったんです。
4Gamer:
なるほど。
西氏:
ただ,以前はスキップという会社を自分でやっていたんですが,フリーランスとしていろいろ好きなことをやりたいと思って個人事務所を作ってしまったので,開発現場を持っていないんですね。
なので,とりあえず企画概要だけ詰めていきましょうということで,マーベラスさんやソネットさんと何度かミーティングをしつつ,開発会社を探していたんです。
4Gamer:
そこで出てくるのが,アルファドリームさんですね。
杉本晃子氏(以下,杉本氏):
ほかのタイトルでマーベラスさんとご一緒させていただいていたご縁がありまして。
西氏:
実はアルファドリームさんの役員には,僕がスクウェアに在籍していた時代,一緒に仕事をしていた方が数名いるんですよ。でも,忙しくてお願いするのは無理かな? という話もあったんですね。
でもちょうど,杉本さんが関わっていたラインが終わって,何とか大丈夫そうだという話になって,今に至るんです。
それが2007年の12月ぐらいですね。最初はプロデューサーの大渕善久さん(マーベラスエンターテイメント),西さん,当社のプロデューサーという三人で企画を練っていたんですが,途中から私も会議に参加させていただくようになって。
西氏:
あれ? 最初からいなかったっけ?
杉本氏:
いないですよ(笑)。
私が参加した段階では,“バク”という新しいキャラクターを出したいということや,ふんわりしたスローライフ的な方向を目指していこうということは決まっていたんですが,具体的には完成品の要素の原石がチラホラのぞいているという感じでしたね。
4Gamer:
それまでは,男性ばかりで会議をしていたんですか?
西氏:
ええ。それまで顔をつきあわせてミーティングしていたメンバーって,オッサンばっかりだったんですよ。
でも,女性の感性も入れていかないと,ゲームがオッサンぽくなっちゃうんですよね。だから杉本さんが参加してくれたのは助かりました。根性があってしっかり働いてくれましたし。
4Gamer:
そもそもメーラーであるPostPetを題材に,どんなゲームを作ろうと考えていたんですか?
西氏:
一時期は,メール機能のようなものに軸足を置くべきではないか? という話もしていました。
でも,僕が作ってきたものってシステムにゆだねるよりも,キャラクターが立っていて生活があって,その空間で遊ぶことをプレイヤーが楽しめるようなものが多いですし,何よりそういうものが得意なんですよね。杉本さんもそういうものを作ってきた方なので,自ずと方向性は決まっていったんです。
ヘビーユーザー向けのハードなゲームにする必要はないし,スローライフとか,まったり,ゆっくりといったものにしよう,と。
杉本氏:
私自身もブームだったときにPostPetのユーザーでしたから,PostPetユーザーが期待しているものも,新規の方が食いつきやすいものも,ある程度見えていた部分があったんです。
でも期待されるものってきっといろいろあるので,そこからどれをピックアップして広げていくかが,作り手としては面白いと同時にたいへんでもありましたね。
既存ユーザーがある程度いるということで,不安はありませんでした?
杉本氏:
ここしばらくPostPetのキャラクターとは離れていたんですが,こういう機会をいただいてキャラクターとなじんでいくと,やっぱりモモは可愛いなぁって素朴に感じたんですね。
だから,このキャラクターならいけるという自信を持ちながら,作ることができました。
夢を忘れ,半人前のままでいるペット達と過ごす世界
4Gamer:
今回のシナリオは,どういった形で決めていったんですか?
舞台は,だだっ広い空間である必要はないので,島ぐらいの規模にしたんですね。そこから,その島がどんな島なのかを考えていきました。いっぱい人がいて,人間とペットが共存しているというのも考えたんですが,それだと人間のキャラが立ってきて,ペット達とふれあって楽しむ部分が薄まってしまいます。
そこで,ペット達だけが暮らしている島にしようということが決まったんです。
4Gamer:
まずは舞台設定ありきなんですね。
西氏:
ええ。そこに人間が一人だけ落ちて,ペット達と出会うことにしました。
それからペット達にも大人や子供がいるんだろうなと考えていくうちに,大人と子供の差は一人前か否かというところなんじゃないかということに。
4Gamer:
それで,半人前のペットを飼って,一人前にしてやるという流れが生まれたんですね。
西氏:
はい。じゃあ何で半人前のペットは一人前になろうとしていないのか? ということも考えていったんですね。
ただ単にやる気がないっていう設定も思いついたんですが……。
4Gamer:
やる気がないペットに,やる気を出させよう! って言われると,プレイヤーはちょっと困っちゃうかもしれませんね。
西氏:
ですよね。で,夢を忘れてしまっているということにして,それを思い出させるほうがいいなと。今度は,じゃあなぜ夢を忘れているのか? ということを考えていったんです。
魔法使いの魔法で,夢を忘れているという設定もあるんでしょうが,そういう世界観でもないよねっていう話で。
4Gamer:
なくはないでしょうけど,ちょっと違和感は残りそうです。
西氏:
そこでいろいろと考えたり,話し合ったりしているうちに,バクだな,と。バクが夢を食っちまってるから,ペット達は夢を失っちゃったんだ……という具合に,大枠が決まっていったんです。
4Gamer:
その大枠の中に,ペットごとの小さなストーリーを組み込んでいったという感じですか?
そうです。バクが夢を食っちまったんで,半人前のペットが一人前になることを忘れているという設定ができあがったんで,そこからペットごとのキャラを立てていこうと。
杉本氏:
みんなどんな夢を持っていたんだろうというところは,西さんも交えてみんなで案を出していきました。
4Gamer:
そのあたりは原作の縛りみたいなものが緩かったんですか?
杉本氏:
はい。12年という歴史のあるキャラクター達なんですけど,バックストーリーなんかは,自由に考えてくださいと言っていただけたので。
具体的なメッセージやキャラクターは,スクリプトの担当者が決めていったんですが,こちらが予想していなかったようなとんがったイメージも出てきましたね。
ヤングポストマンのツトムさんが,ネガティブで彼女がいないことをコンプレックスに思っているような奴だということは,シナリオを考えていくうちに生まれた設定です。こんな感じで,名セリフもけっこうあると思いますよ(笑)。
4Gamer:
短いセンテンスでも,グサッとくるセリフは少なくないですよね……。
西氏:
エンディングでも,メールを運ぶということをリンクさせていますので,結構うるうる来ると思います。
杉本氏:
ストーリーはミニマムなものの集合体なんですが,メールとバクとペット達ということで,うまくまとめることができましたし,ぜひ最後まで遊んでほしいですね。
4Gamer:
とはいえ,実は遊んでいるとクリアしたくなくなるんですよね。一緒にいるペットを一人前にしないで,ずっと側にいてほしくなるというか。
杉本氏:
旅立ちが見えていると,そういう気持ちになりますよね。
でも狙い通りなので,嬉しいです(笑)。
西氏:
別れの悲しさというか,そこで見えてくるものや感じるものってありますよね。
でも,基本的な立ち位置として,プレイヤーはペットの友達でもあるんですけど,親でもあると思うんです。だから,そこでペットに何をしてあげるべきかとなると,やっぱり一人前にしてあげるべきなんですよ。
4Gamer:
ああ,親としていつまでも子を側に置いておくわけにはいかないと。
西氏:
巣立っていくのはちょっと切ないけど,一人前にはなってほしい。でも一人前に近づくほど,別れも近づいてくる。そういう感じを味わってほしかったんです。
4Gamer:
それで一人前になった奴と再会すると,相変わらず危なっかしいことを言っていたりして,ちょっと心配になるんですよね。
西氏:
基本的には変わらないですからね,あいつら(笑)。
ペットと一緒に散歩をしたり,遊んだり,おやつあげたり……っていうのを,毎日少しずつ長期にわたって遊ぶべきなのかなぁとは感じました。そうすると,きっと過ごした時間の長さの分,別れの切なさも大きくなったりするんだろうなって思うんです。
杉本氏:
早解きしようと思えばできるんですけど,それよりも,ペットと一緒にいろいろなことをして,夢を叶えるだけじゃなく,思い出もたくさん作って旅立ちの日を迎えてほしいですね。
今回の作品は“プレ”PostPet
4Gamer:
今回飼えるペットは,11種類ですが,これは原作に登場したものをすべて入れたということですよね?
西氏:
一応,全部そろっています。
ひみつメカだけ,最新のものより古いデザインです。最新のものは進化してひみつロボという,もっと人型に近づいたものなんですが,ひみつメカのほうがファンが多かったので。
西氏:
みんな前のヤツが好きで(笑)。
杉本氏:
あとストーリー的なことをいうと,今回の作品は“プレPostPet”というところがあるんです。
4Gamer:
ああ,一人前のPostPetになれないでいる子達ですもんね,出てくるのは。
杉本氏:
ですから,初期型のひみつメカのほうが,しっくりくるんじゃないかというのがありました。
ひみつロボの設計図も,彼の部屋にはあるんですけどね。ああいう風になりたいという。このあたりは,ひみつロボも知っている方が,ニヤリとしていただけるんじゃないでしょうか。
西氏:
僕の中では,この世界で一人前になったペットが,あのメーラーになったという位置づけなんです。時代でいうと,初代のPostPetの前にはまる感じで。
杉本氏:
その設定があるからこそ,“ピクメモ”の配達がメール配達の練習という位置づけにできたんですよ。メールの配達となるとたいへんなことだけど,島の中で顔見知り相手にピクメモを配達するぐらいなら,気軽にできるということで。
既存のPostPetの要素だけだったら,また違う形になっていたと思うんですけど,PostPetがあるのはこういう歴史がキャラクターの背景にあるんですよってことを出せたのは,凄く良かったですね。
西氏:
それ,褒められてるってこと?
杉本氏:
ええ,今気付きました(笑)。
4Gamer:
西さんはもちろん,そういうことを考えて世界観を組み立てたんですよね?
西氏:
実作業やディテールは現場にお任せしていて,上がってきたものを見て,それについて何かを言うようなやりとりをしていたんですね。
でも現場で一生懸命にやっていると,外枠の部分が見えなくなっちゃうことがあるんで,そういうときに「プレPostPetですから」っていうのは言いましたね。2回ぐらい。
杉本氏:
意外と少ないですね(笑)。
女の人は自分撮りをしたがる
先ほども少し出ましたが,このゲームは写真撮影によく似た“ピクメモ”というシステムが大きな軸になっていますよね。これはどういう狙いで入れたものなんですか?
西氏:
僕のところにこのゲームの話が最初に来たとき,マーベラスの和田さんと一回だけミーティングをしたんですよ。そこで「一個だけリクエストしてもいい? 写真撮りたい」って,ボソッと言われて(笑)。
4Gamer:
ああ,和田さんのリクエストだったんですか……。
西氏:
なので,写真を撮るにしてもどうやって撮るとか,撮ったものをどう使うかといったことは何もなかったんですけど,とりあえず写真を撮るというものを組み込んでいったんです。
ただ,写真という言い方が男の子っぽすぎるでしょうということで,ネーミングはかなり考えました。
杉本氏:
最終的にピクメモになりましたけど,その前はポスピクとか……。
西氏:
ピクメモの撮り方にしても,いろいろ考えましたからね。
最近だと一眼レフを持ち歩いている女の子も多いので,カメラを出してもいいんじゃないかとも思っていたんですけど,キャラクター側の世界にカメラを持ち込むより,もっと魔法チックにして,線で囲めば撮れるみたいにしたほうが直感的で面白いんじゃないかと考えて,最終的な方向性が見えたんです。
杉本氏:
プロトタイプでは,プレイヤーキャラクターがカメラを持っている設定で,プレイヤーキャラクターが見ている方向であれば,自分の周囲360度どこでも撮れるというものにしたんです。
その場合,例えば家の裏に宝の地図が落書きされているのは,マップでは見えないんだけど,カメラのファインダーを覗くと見つけられるとか,そういう遊びにつなげられるメリットはあったんです。
でも,社内で女性にモニターしてもらったとき,自分を撮れないということが不評だったんですよ。
西氏:
僕らは男だから分からなかったんですけど,女の人は自分を撮りたいんですよね,基本的に。
杉本氏:
女子はそれが一番でしたね。
ペットが撮れるのは当たり前でしょう。でも,私だってこんなに着替えたりできるのに,なんで撮れないの? と。
西氏:
僕はもう,それで女の人が嫌いになりました(笑)。
杉本氏:
男女で分かれる部分なんでしょうね,こういうところが。
360度撮れるというのも,普段見えないものを撮れるかもしれないという点で,捨てがたいゲーム要素ではあったんですが,自分を撮れるようにしたほうがいいということになったんです。
これも結果オーライだと思うんですけどね。たぶん,どっちが正解で,どっちが不正解っていうことでもないと思うんですよ。
本当はねぇ,普通のビューじゃ見えないものも,カメラを覗いたら撮れる,普段は見えなかった世界も写真にすれば見られるっていうのは,ワクワクするじゃないですか。でも女はそんなこと関係ないですからね! 自分とペットをパシャッと撮りたがるんです!
杉本氏:
超重要です。
西氏:
ただまあ,ゲームっぽくしすぎて謎解きなんかがクリアできない人が,そこで放り投げちゃうようなものを作るつもりは全然なかったので(笑)。
ゲームとしての面白さというより,プリクラとか写メールとかの自分撮り文化とか,アバターみたいな感じを重視しました。お世話しているペットと一緒にオシャレして,いろいろな場所で一緒に写真を撮って,それに落書きもできるよ! という,ね。
男からすると何が面白いのか分からないんですけど,女の人ってずーっとやってるんですよね,こういうの。
4Gamer:
確かに,ブログなんかを見ていても男の人で自分撮りの写真をたくさんアップしているケースって,あんまりないですよね。
ペットブログなんかにしても,男の人はペットだけ。女の人はペットと一緒の写真が目立つような気がします。
西氏:
やっぱ何かが違うんですよね。だからこの件については,大げんかでした(笑)。
杉本氏:
流れが変わったのは,当社のプロデューサーが「囲んで撮ればいいんじゃない?」と言ってからです。
プロトタイプでは,ボタンでシャッターを押すような感じだったんですが,線で囲むことにしたら直感的な操作ができて,そのあたりから,徐々にこっちへ持ってきた感じです。
4Gamer:
それが“不思議のペン”の主要な機能になっていったんですね。
杉本氏:
はい,世界観ともうまくなじみましたね。
囲んだものを撮れるので,自分だけとか,ペットだけとかいろいろな撮り方ができるんです。この辺の不思議さも,不思議のペンだからしょうがない! という。
西氏:
適当だなぁ(笑)。
4Gamer:
まあ,不思議のペンだからしょうがないですね。
ピクメモの保存枚数は,上限が20枚ですが,これはメモリの都合ですか?
西氏:
そうです。
4Gamer:
せっかく撮ったピクメモを消さないといけないとき,凄く切ないんですよ……。外部ストレージに保存できないかなぁとか思うんですが……。
あ,ペットの家や額なんかにピクメモを飾ったりできるのは,そういう意味もあるんですよ。
4Gamer:
ああ,あれに外部記憶装置としての使い方もあったんですね。
杉本氏:
ほかのペットがいろいろなピクメモを欲しがるので,それを撮って送ってあげようというピクメモ配達のネタでもあるんですけど,実は外部アルバム的なところが狙いなんです。これはプログラマがギリギリで入れてくれました。
これを足すと,10数枚は外に保存できるので,捨てたくないピクメモはどんどん配達して,お気に入りのペットのところに飾ってください。
4Gamer:
了解です!
“合体”は,初期段階では”抱っこ”だった
4Gamer:
今回の作品のキャラクターモーションは,かなり可愛いものになっていますよね。個人的には,“合体”(プレイヤーキャラクターの頭の上にペットが乗る)した状態で,木の上にあるアイテムを取るときのしぐさがたまりませんでした。
あれは何度も作り直してるんですよ。
その結果,キャラクターごとに,おっかなびっくり手を伸ばしたり,ご機嫌で手を伸ばしたりといった感じで,個性も出していますし,可愛らしく,ちょっとシュールなPostPetらしいものに仕上がりました。
西氏:
可愛くしすぎるとあざとく見える部分もあるんですが,シュールさだったり,ちょっとしたブラックさっていうのが,PostPetの魅力なんですよね。PostPetの原作者である八谷和彦さんからも,「可愛くしすぎないように,可愛くしてください」と言われていましたし(笑)。
そのあたりは,うまく表現できたなと思っています。
杉本氏:
決して可愛いというだけで人気が出たキャラクターじゃないんですよね。難しい注文でしたが,そこを生かさないとダメだと肝に銘じていました。
4Gamer:
“合体”というネーミングは,どなたが考えたんですか?
杉本氏:
それは私です。そのぐらいばかばかしくていいのかなって。男の子向けか? みたいな声もあったんですが……。
西氏:
知らぬ間にあれに落ち着きましたね。
杉本氏:
ただ頭の上に乗っかってるだけなのに,合体だと言い張るバカバカしさがいいのかなって。
4Gamer:
なんで頭の上に乗せることになったんですか?
杉本氏:
実は,初期段階では“抱っこ”という設定だったんです。
ピクメモを撮るときに,好きな位置にペットを動かせるようにしたくて,そのために抱っこという要素があったんですね。ただ押すだけだと,モノ扱いみたいしてるみたいですし。
でも,主要キャラがもともとテディベアですから,それを抱っこするのってあまりに当たり前すぎるなということで,試行錯誤の末,頭に乗せてみたら可愛かったんです。
4Gamer:
最初から頭に乗せたかったわけではなかったんですね。
杉本氏:
ええ。いろいろ試して行き着いたものです。
やってみたら,プレイヤーキャラクター両手は空きますし,頭に乗せたままほうきで地面を掃いたりもできるというメリットが見えたんですよ。
そのうえ,なんかシュールな感じも出ましたし。
西氏:
杉本さんって,絵が凄くうまいんですよ。プランニングに関わっている人間の中で,一番描けるんで。
杉本氏:
一応,グラフィッカーですから(笑)。
西氏:
僕なんかは口頭で資料も作らずに進めちゃうっていう,良くない仕事の仕方をするんですけど,杉本さんはちゃんと資料をまとめて,しかも常に絵まで描いてくるんです。
だから抱っこも可愛いし,合体も可愛いし,全部やってみようという流れになってましたね。
杉本氏:
それが作戦です(笑)。
抱っこという要素を入れることが決まっていたところで,合体へ変更するというのは大きなターニングポイントになると思って,けっこう気合いを入れて可愛いものを描きました。
それがなかったら,木の上のものを取らせたりもできなかったかもしれないんですね。
杉本氏:
意外とできることが増えた部分はありますね。
でも機能的な部分だけじゃなくて,頭の上に乗せて一緒に歩けるというのは,自分とペットが同じ画面の中にいるという,メーラーのPostPetにはない独特な要素になったかなと思っています。
ペットのしゃべり方やBGMはバンプールが担当
4Gamer:
今回はペット達が声を出して喋りますよね。あれも可愛かったです。
PostPetが声を出してちゃんと喋ったことって,過去にちょっとだけアニメーションであったぐらいで,基本的にはなかったそうなんですね。
だから喋らせるということについては,もの凄く検討しました。喋らせるにしても,その声質を普通に可愛くしていっちゃうと,横並びの可愛さになってしまいますし。
4Gamer:
声質からして,キャラクターに合わせたものを用意しているんですね。
西氏:
ええ。12年という歴史のあるキャラクターなんで,ずっと親しんでいる方の中には,声のイメージも出来上がっていると思うんですよ。それを裏切らないようにうまく喋らせよう,キャラを立てようというのは,ずっと考えていました。
考えてるだけじゃなく,実際に作ってみて,これは違う……ということも多かったですね。
4Gamer:
声といいつつも,実際は何を言っているのか分からないサウンドになっていますよね。あれは,なぜですか?
西氏:
声優さんを起用して話させる案もあったんですが,メッセージ量も増えてしまうし,そもそも何かが違うなということになりました。
今回,サウンドを頼んだのは,僕がスクウェアから独立してラブデリックという事務所を作ったとき,一緒にやっていた連中の枝葉であるバンプールなんですが,彼らのお家芸が,キャラクターに変なボイスをのっけて喋らせることなんですよ。
4Gamer:
西さんがかつて手がけられた,「moon」なんかもそうでしたよね。
西氏:
実はmoon作ったやつが,ボイスとかもやってるんです。
ああいうのを,“ムーンボイス”とか“鼻モゲラ語”って呼んでるんですけど,そればっかりだと作ってる側も飽きるということもあって,今回は実験的に波形データを自動生成する仕組みにしています。さらに,会話のテンポ感を出すために,その場で間を生成するという変なこともあでやってるんですよ。
会話のテンポはいいですよね。
何を言っているのか分からない音を聞きながらセリフを読んでも,リズムが合っていることに驚きました。
西氏:
そこは相当調整しましたからね。
杉本氏:
何度も調整したり,ピッチを変えたり。かといって聞きやすさ重視で,のろまな設定の亀をペラペラ喋らせるのも違うし……。
この部分は,けっこうしつこく粘って,最終的にいい感じにできたと思います。
西氏:
杉本さんは,「これは違うと思います」って,駄目出ししながら凄く怒ってましたよ。
杉本氏:
怒ってはいないですよ(笑)。
4Gamer:
怒ってはいないけど,妥協はしなかったということですね。
杉本氏:
やっぱり期待されるであろうところはきちんと応えつつ,新鮮なところもいい感じに混ぜたいと思って,こだわってはいました。バンプールさんの皆さんも,粘り強く頑張ってくれましたね。
BGMもなんですけど,ギリギリまでクオリティアップのための調整をしてくださって,最終的に「これがPostPetの世界観なんだね」という納得感を得られたのが嬉しかったです。
4Gamer:
そういえば,BGMの使い方も印象的でした。
フィールドが変わるとBGMが変わるっていうだけでなく,自分の家のある「よもみ平」では,家のごく近く以外はほぼ無音で,ほかのフィールドに近づくと徐々にBGMが聞こえてくるんですよね。
西氏:
あれは僕がどうしてもやりたいって言っていたことなんです。
よもみ平って「ポストペッ島」の中心にありますから,どこへ移動するにも通過することになるんですよね。例えばポストペッ島の西にある「ハイカラタウン」から,よもみ平を経由して東にある「不思議の森」に行こうとすると,三つのBGMを聴くことになります。でもそうすると,絶対にせわしない気持ちを生み出すんですよ。
4Gamer:
確かに静かなところを通過すると,いったん,気分が静まる感じがありますね。
西氏:
ゆったりまったりしてほしいゲームですから,一番通ることの多いよもみ平は,なるべく何も鳴らないようにしようとしたんです。
実はこれも技術的に難しいことをやっているんで,最後までできないんじゃないかという話もあったり,これのせいでバグが出ちゃったりと,けっこうきつかったんですけど。
杉本氏:
無事になんとかなって良かったですけど,それまでは怖かったですね。
読み込み含めて,技術的な部分でかなり試行錯誤しましたが,苦労しただけの甲斐はありました。
最初は,自分の家の近くも何も鳴らさないでいいぐらいに言っていたんですが,「寂しすぎる」って凄く反対されて,監督権を剥奪されましたから(笑)。
で,じゃあ家から離れたらじんわりフェードアウトするようにってことにしたんです。
杉本氏:
アンビエントで虫の鳴き声なんかは入ってるんで,完全な無音ではないんですけど,あの静寂感で気分がリセットされるんですよね。じゃあ次は何をして遊ぼうという気分になれますし。
西氏:
じんわりフェードさせるっていうのは,バッファでデータを持っていないといけないんです。BGMのところにバッファを読み込ませて,それをクロスフェードでうまく切り替える処理って,ハードウェア的に重いし,メモリもけっこう食うんですよね。
時間と手さえかければ実現できるというのは,現場の方と相談して分かっていたんですけど,そこまでしてやる価値があるのかという話にもなって。
4Gamer:
価値,ありましたね。
西氏:
結果オーライで(笑)。
杉本氏:
やる前はボリュームとリスクの巨大さだけが見えていたんで,本当に怖かったんですよ……。
タッチペン重視のユーザーインタフェースを採用した理由
遊びながら気になった部分の一つに,ユーザーインタフェースがあるんです。ニンテンドーDSの特性上,タッチインタフェースを重視したデザインになっているのは理解できるんですが,例えば「はい」「いいえ」ぐらいはボタンで押せてもいいんじゃないかと思ったんですが,何か理由があるんですか?
西氏:
元々はハイブリッドでいけ! という命令があったんです。決定とキャンセルをボタンにも割り当てたり,移動も十字キーだけでなく,タッチペンで行きたい方向を押したりといった形で。
ただ,それをやるとどうしても複雑になってしまう部分もあって,シンプルで直感的な操作方法を重視していた結果,今のような着地点になりました。
杉本氏:
プロトタイプではハイブリッドでしたね。
開発の人間は,基本的にゲーマーなのでタッチペンとボタンを両方器用に使いこなすんですけど,経理の女の子達にやってもらうと,まずタッチペンを取り出すんですよ。何の説明もしていないのに。
4Gamer:
DSでタッチペンがあるんだから,タッチペンを使えばいいじゃない,といったところでしょうか。
杉本氏:
私なんかもゲーマーなんでコントローラ操作に慣れているんですけど,普段それほどゲームをやらない人ほど,タッチペンを選ぶんだなというのが分かって,残すならこっちだなと。
会話に関しては,ギリギリまでボタン操作も残していたんですけど,いたずらに迷わすぐらいなら,左手は十字キー,右手はタッチペンですよと決めたほうが,シンプルでいいかなって。
西氏:
ハイブリッドのほうが遊びやすい人もいるんだろうなって思っていたんですけど,逆に煩雑になってしまいかねないことや,女性が割とペンでの操作に抵抗感がないということが分かってきたんです。
杉本氏:
とくにこのゲームだと,ピクメモを撮ったり,ピクメモに落書きしたりできますから,ペンの起動が多いんですよね。
4Gamer:
それでも移動に関しては,十字キーだけに割り当てたのはなぜですか?
フィールドにタッチペンを当てたときの動作って,ピクメモの撮影と,足下をほうきで掃くのの二つが残っているんですが,これに移動も入れると,判定が三択になってしまうので複雑になってしまうんですよ。
4Gamer:
ああ,確かにそうかもしれませんね。
ちょっと話は変わりますが,ペットのお世話をするにしても,タッチインタフェースって凄く相性がいいと感じました。触感的に気持ちいいいというか。
杉本氏:
これは,せっかくニンテンドーDSで,直接タッチペンで触れるんだから,そういう感触を前に出せたらいいなという,原作者の八谷さんからのアドバイスでもあったんです。
きっとこれは,PostPetを知っている人であれば,誰もが求めるところでしょうし。
4Gamer:
洗ったり撫でたりしているとき,そういえばメーラーのPostPetでも,友達から来たペットをぺちぺち叩いたりしてたなぁって思い出しました。
杉本氏:
今回は殴るっていうより,つつくというのは入っていて,しつこくやっているとそっぽ向いちゃったりするんですよ。キーッてなって。
そういえば,最初はしつけの機能も考えていましたね。
西氏:
悪いこと,良くないことをやったら,軽いおしおきみたいなのをやって覚えさせるというのも考えていたんですが,なんか虐待っぽく見えたりもするので,なくしちゃいましたね。
杉本氏:
あと,ゲームの中では悪いことが曖昧だったりするんですよ。例えばペットには食べ物の好き嫌いがあるんですけど,人によってはあげたおやつを食べないことが,悪いことだと思うかもしれない……ゲーム的に悪いことをしたわけではないのに……みたいな感じで,もやーんとしちゃうんですよ。
なので,何かを強制するとか,そういうのはなくして,ゆる〜い感じでいいね,ということで落ち着きました。
ゆったりとゆるみながら楽しんでほしい
4Gamer:
ではそろそろまとめに入りたいんですが,このゲームをどんな風に遊んでほしいと思いますか?
西氏:
PostPetファンの方もそうではない方も,世知辛い世の中でほっこりできる作品になっています。ハードにグイグイ謎解きをして強くなったりするようなゲームとは真逆ですが,ゆったりとゆるみながら楽しんでいただければと思います。
ゆるみながら長い間楽しめるように,ピクメモの配達部分に関しては,けっこう地味な仕込みをたくさん入れています。例えば特定の季節にしか出てこないものを撮影すると,新しいおやつが登場したりといった形なんですが,こういう具合にゆる〜く遊んでいる中で,ちょっとずつやり込んでいける作りになっていますので,ぜひくまなくチェックして遊んでほしいですね。
それに,いわゆるスローライフゲームにはないようなストーリーが,それぞれのペットの夢として入っていますので,それを通じて,ペットがこういうこともするんだ,こういうことを考えるんだ,こういう子なんだ……というのも楽しんでください。
PostPetらしさと,新しさ,可愛さが全部入っています。
西氏:
可愛いだけじゃないっていうのは,PostPetのウリですし,この作品にも通じています。
パッと見,子供向けに見えるところもあるんですが,決して子供に向けて作っているつもりはありません。表層的な可愛らしい部分は,お子さんでも楽しんでいただけると思うんですが,バックボーンを想像するにはそれなりに人生経験が必要ですから。
4Gamer:
確かに,シナリオ自体は大人向けですよね。分かりにくいという意味ではなく。
西氏:
子供には100%は理解できないと思います。でも,よくできた絵本って,子供の頃には可愛いとか怖いとか悲しいみたいな部分だけしか分からなくても,大人になって読み返すとさらに深い部分が見えたりしますよね。そういう感じです。
4Gamer:
何となく,大人になって毎日仕事をしている人がこのゲームをやると,「あれ? 忙しくはしてるけど,夢を忘れてたな,もう一回夢を思い出してみようかな?」なんて思うんじゃないかなって気がしました。
西氏:
お,それいただきました。そういうことですよ。そんな大げさなメッセージとかはないんですけど。
4Gamer:
メッセージというほど,説教くさくはないですよね。
西氏:
あんまり説教くさくはしたくないですからね。感じ方も人それぞれでしょうし。
ただ一つ,こういう風に感じてほしいなぁって思っていたのは,ペットのために何かをしてあげると,最終的に自分に返ってくることの喜びというか……。
4Gamer:
返ってくる……?
ペットへ愛情を注ぐのって,見返りを求めてのことじゃないんですよね。一人前にしたからって,凄い利益があるわけじゃないんで。
それこそ,全部のペットを一人前にしないと島が沈んじゃうとか,そういう作り方もあるんですけど,この世界は別に一人前にならなくても成立しているんですよ。でも,ぼんやりとなんとなく思っていることを叶えてあげると,エンディングでいいおまけが返ってくるというか。
見返りを求めず救ったことで,あとで救われる構造にはなっているはずなので,ちょっと疲れた人なんかが,背中を押されたり,肩の力が少し抜けたりとか,そうなってくれるといいですね。
4Gamer:
それも大声で「頑張れ!」って言われるような感じではないんですよね?
西氏:
皆さんへの応援メッセージです! とかいうと,疲れてるんだから放っておいてよってなっちゃいますよね。そうじゃなくて,もっとぼんやりした感じで。
4Gamer:
西さんの作品って,そういうぼんやりしたメッセージってちょくちょくありますよね。直接的ではないんですけど。
西氏:
僕はね,おっさんですから説教くさいんです。小言を言いたくてしょうがないんですよ。でもあんまり言うとみんなから嫌がられるんで,ボヤッとまぶしてみようと(笑)。
4Gamer:
それぐらいのほうがいいですよね。
RPGでおっさんキャラから説教めいたこと言われると,テキストをろくに読まずにボタン連打しちゃいますもん。
西氏:
お金払ってまで説教されたくないですもんね。
ゲームって,もちろん商品でもあるんですけど,作った人の思いが伝わらないとただ単に消費されて終わりだと思うんです。
だからせっかく遊んでもらえるなら,楽しんでほしいし,驚いてほしいし,飽きないでほしい。かつ,何か一つでいいから心に残ってくれるといいなぁって思ってるんです。あんまり明確に結論づけたメッセージみたいにはしたくないんですけど,何かがこうボヤッと残るといいなって。
4Gamer:
残ると思います。ボヤッと(笑)。
ところで,お二人お気に入りのペットはどれですか?
西氏:
僕はひみつメカですね。とんちんかんの方向音痴キャラにしたんですけど,言ってることも方向音痴なんで。なのに一番ハイテクなメカみたいな設定は,面白く仕上がったんじゃないかと思います。ほかも全部可愛いですけどね。
個人的にはバクも,やっぱり。
西氏:
彼女がデザインしましたからね。
杉本氏:
八谷さんにも褒めていただいたんですけど,いつかはPostPetの仲間入りしてほしいです。
4Gamer:
その日が来るといいですね。
今日はありがとうございました。
「PostPetDS 夢見るモモと不思議のペン」公式サイト
※インタビュー収録:2009年12月17日
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