[CEDEC#01]ラグナロクの父が語る「成功するオンラインゲーム企画の主眼点」
2004/09/07 00:00
■オンラインゲームの開発はYahooやAmazonに近い!?
 注目されるオンラインゲーム市場。そのトレンドと将来についての講義となる「成功するオンラインゲーム企画の主眼点」のセッションを担当したのは,ご存じラグナロクオンラインの開発者として知られるKim, Hakkyu氏。氏の経験談を交えながら,成功するオンラインゲームを作る上でのポイントや,オンラインゲームを作る上での注意すべき点,そして氏の考える今後のオンラインゲームの方向性についてなどなど,多くの興味深い意見が聞けた充実した講義となった。
 会場には100人を超すほどの視聴者が集まり,オンラインゲームに対する注目度の高さが伺えた本セッションだが,多種多様な分野の人が集まるであろうことを考慮してか,最初は,オンラインゲーム(MMORPG)についての基本的な解釈についての説明から始められた。
 まずHakkyu氏は,パッケージゲームとオンラインゲームの違いを,

  ・パッケージゲーム = 製品(プロダクト単位)
  ・オンラインゲーム = サービス


と端的に説明。オンラインゲームは一定の開発期間を経て「完成」する製品ではなく,あくまでもそこからのサービス/継続的な開発こそが重要だと解説し,「オンラインゲームの開発は,Amazon,Yahoo,eBayを作るのに近い」として,既存のゲーム開発との違いを強調した。


■遊び込むユーザーにどう対処すべきか。ユーザーの遊ぶ速度に
ゲームメーカー側がついていけない問題について

 続いて氏は,オンラインゲームの特性として,ユーザーのプレイ時間が非常に長くなることや,それに伴って"コンテンツの消費速度"が非常に速まること,そしてその結果,ゲームメーカーの"開発スピードがユーザーの消費速度に付いていけない問題"があることを指摘するなど,オンラインゲームの開発手法に関して鋭い見解を披露した。
 Kim氏はこの点の問題解決に対して,ゲームに「空白」を用意しておくことが重要だとして,開発者だけが一方的にコンテンツを用意してユーザーに提供するのではなく,なんらかの形で"ユーザーが介入できる"部分を用意しておくべきだという考えを示した。その中で氏は,グループ機能やギルド機能,あるいはベンダー機能などに関して言及。「こういった機能は,仕組みとしては簡単だが,ユーザーのコンテンツ消耗に対しては非常に強い特性を持つ。これらの機能の作り込みは重要な要素だ」として,コミュニティやユーザーが自発的に行動する機能を軽視してはならないことを強調した。
 またKim氏は,ラグナロクにおけるチャットルーム作成機能が,本来の使われ方をせず,ルーム名がポップアップして表示される部分のみが使われた例などを示し,ユーザーは常に開発者の想像を超えた行動を起こすことを説明。オンラインゲームのサービスでは,そういった動きに対して柔軟な姿勢で対応しなければならないとした。

 氏の講演の内容の中でもとくにユニークだったのは,オンラインゲームには「空白」を用意しておく必要がある,としていた点だろう。氏は「Pretty Blank」という言葉を使っていたが,要は,面白味のある拡張性が必要だということであり,この点が"完成品"として世に売られるパッケージ型ゲームとの大きな差だという話だ。元々こういった「空白」は,まったく意図的なモノではなく,いろいろな事情があって偶然そうなったのだというが,結果論として,「空白」が拡張性の高さへと繋がり,またそれがユーザーを惹きつける"進化/変化"として機能したのだという。
 氏は「空白」という言葉に対しては広い概念を適用しているようで,さらにベンダーシステムのようなモノも,本来ゲーム側で設定すべき値段を"空白"にしてユーザーに介入させる,という意味では「空白」の要素だと説明。今後は,こういった部分をより意図的に設計していく必要があると語った。



■安定したインフレ経済がオンラインゲーム運営の秘訣?
 基本的なオンラインゲームのポイントを説明したところで,Kim氏は,コミュニティについての見解を披露した。「オンラインゲームの華はコミュニティです」と言いながらも,放っておくだけではコミュニティが成長しない点を指摘。それらを積極的に活性化させる手段としては,ユーザー間の交流を促進させる"動機付け"が欠かせないと説明した。例としては,強力なボスモンスターを登場させる手法や,あるいは「EverQuest」におけるパーティシステムを挙げた上で,「ただ既存の作品と似たような手法は,ユーザーに強い印象を残せず,動機付けには繋がらない。まずはなんらかの方法で強い印象を与える必要がある」と,新規性も重要なポイントであることを解説した。
 Kim氏の話は,社会活動(コミュニティ)から始まって,アイテムやゲーム内通貨,リアルマネートレードなどといった経済活動へと及ぶ面白い内容に。氏はその中で,「安定的なインフレーションをもたらすことが成功の秘訣」だとして,支出よりも収入を多く設計しないとユーザーに不満が溜まる傾向があることなどを説明。さらにゲーム内マネーの流通量が増えた(モンスターを殺すなどして)からといって,安易にアイテムの値上げなどをすると,貧富の差が開いてしまってゲームが面白くなくなるなどの注意点を挙げた。
 またKim氏は,「こういったインフレーション傾向は,PC市場に近いのではないか?」というユニークな見解も披露。CPUがどんどん高性能になり,またそれらを必要とするアプリケーションが登場し,絶え間ない需要を作り出すというロジックが,オンラインゲームにも適用できるという考えを示した。ただ「あまりに大きな数値のインフレーションは,ユーザー離れに繋がる」という説明も行い,数値の見せ方には工夫が必要であることも付け加えた。


■「すべての国での成功は考えていない」……安易なグローバル展開に警鐘
 講義の最後のほうでは,オンラインゲームの開発体制についての話が行われた。Kim氏は,運営チーム(GM)もゲーム開発の重要なポジションだと説明しながら,過去,自らの所属する会社で,開発チーム(プログラマ)が運営チームを敬遠していたときのことを解説。「それだとユーザーからのフィードバックを得ることができず,開発に大きな支障が出る」と説明しながら,運営チームを開発メンバーの一員として認識させることの大切さ,そういった組織体系作りの必要性を語ってくれた。このあたりの考え方や方法論は,GMの経験もある氏の信念が見え隠れする部分だろう。

 全体を通して,非常に明快かつタメになる話が多かったKim氏の講義。最後の質疑応答でも独特の答えが多く面白かったのだが,中でも特徴的だと感じたのが,グローバル展開やカルチャライズ(国別ローカライズ)に関する質問で,Kim氏が「すべての国での成功は考えていない」とキッパリと明言していた部分だろう。説明の中でKim氏は,「カルチャライズという手法の限界やその定義づけに関しては,いずれ論じなければいけないかもしれない。それに私は,ゲームの本質的な面白さは国境に左右されないのではないかと考えている」と,兎にも角にもグローバル展開を目指すという今の風潮に警鐘を鳴らした。
 Kim氏は最後に,「私は,自分のターゲットとするユーザーに愛されたいし,そういう人に向けて開発を行う。とくにコアユーザーの意見を積極的に取り入れていきたいと考えている」と,自身の目指す方向性を語り,万雷の拍手をもって講義は終了。Kim氏といえば,現在「Granado Espada」「こちら」参照)というオンラインゲームを開発中であるわけだが,どんなゲーム(出来)になるのか,今からその内容が気になる講義内容であった。(TAITAI)




友達にメールで教えよう!

この記事へのリンクはこちら
http://www.4gamer.net/news/history/2004.09/20040907000013detail.html