ジェネラル・サポートの「グロス・ドイッチュラント2」(以下,GD2)は,ドイツにとっての第二次世界大戦を,兵器・人物・外交・内政・産業そして物的/人的資源など,あらゆる面から再現した戦略級ストラテジーだ。1ターンは1週間,連合側と枢軸側が交互に1コマンドずつ実行するシフト制を採用しており,プレイヤーは時間に追われることなく次の一手を考えられる。
艦船は1隻,航空機は1機,戦車や装甲車は1両,歩兵は1個小隊単位で再現されており,それらの生産と運用に必要な鉄やアルミ,燃料はもちろんのこと,そのまた原料となる鉄鉱石やボーキサイト,原油やセメントまで1t単位で扱われている。都市と道路で構成されたポイント・トゥ・ポイントのマップはヨーロッパ全域と北アフリカをカバーし,アメリカ本土への攻撃もルール上は可能だ。
第二次世界大戦の全期間を扱うキャンペーンシナリオのほかに,各年のハイライトシーンから始まるショートシナリオを収録する。ただし,ショートシナリオの終了期限を延長して,そのままキャンペーンとしてもプレイできる |
プレイバランスの設定項目は,戦闘の種類ごとに攻撃の有効確率を変えられるなど,詳細を極める内容だ |
一つのターンは技術開発,資源の採掘と加工,作戦など複数のフェイズに分かれており,プレイヤーはそれらを順にこなすことで,戦争を構成するさまざまな要素をコントロールできる。陸海空軍の部隊編成や作戦はもちろんのこと,「ロケット兵器を優先するか,レーダーの開発を急がせるか」「ボーキサイトが足りないが,どこから何と引き替えに輸入するか」「スペインに参戦圧力をかけるべきか」「VI号戦車の開発は予定どおりに進めるか」などなど,その課題は史実に忠実かつ,本当に細かく再現されている。
動員できる全要素を活用して,ドイツを勝利に導くのがプレイ目標であり,イギリス・フランスを早期に打倒して戦争を終わらせるのも,ソ連・アメリカをも相手にして真の勝利を目指すのも,クーデターを起こされて政権から滑り落ちるのもプレイヤーの手腕次第なのだ。
プレイバランスをさらに細かくいじりたいなら,将軍の能力や根拠地のデータ,個々のユニットのスペックまで書き換えられる |
兵器開発の優先度を±30%の範囲で調整可能
陸戦兵器の開発画面と,そこから参照できる兵器の予定スペック。このゲームのシステムで「故障率25%」は,リアルな設定と知りつつも「そりゃないよ!」と言いたくなる水準 |
このゲームでは陸軍の各車両と空軍の航空機各タイプについて開発の優先度を決められるのはもちろんのこと,さまざまな兵器の発揮性能に影響を与える科学兵器についても,どれに力を入れるか選択できる。
車両については,III号戦車,IV号戦車といったシャーシ(後述)の系列単位で,航空機についてはメッサーシュミット,ユンカースといったメーカー単位で,科学兵器では潜水艦関連,レーダー関連,ロケット関連に,それぞれ開発ポイントを配分する。
いずれにおいても,10ポイントが史実どおりの配分で,割り振れる上限は13ポイント,下限は7ポイントとなっている。車両/航空機/科学兵器それぞれで,割り振れる開発ポイントの合計数値は一定なので,例えばIII号戦車系列を優先させたかったら,ほかの車両の開発が遅れるのを覚悟でポイントを融通することになる。
開発が完了すると,新たな開発機種/車種が現れるのだが,例えば明らかに性能が思わしくない場合,試作機/試作車両が出来た段階(全開発工程の80%)で破棄すれば,次の型の開発着手が早められる。有望な型だけ量産に回すのだ。
航空機の開発はメーカーごと。世界初のジェット戦闘機はどこか,史実でほとんど造られなかった四発重爆撃機を使うならどこかなど,考えるべきことは多い | 科学兵器開発には,海洋兵器と電波兵器,ロケット兵器の3項目があり,前の2項目では該当する戦闘ユニットの発揮性能が上がる。A10ロケットが完成すればアメリカ本土すら攻撃可能だが,幸か不幸か核開発は不可能となっている |
鉄鉱石と原油が足りない……
ドイツ領およびドイツ占領下の根拠地(都市)では,地域に応じた資源が産出され,自動で加工施設に運ばれて,兵器や弾薬の材料になる。ドイツでは石炭こそ十分に採掘されるが,鉄鉱石やボーキサイトは足りず,原油にいたってはほとんど産出しない。第二次世界大戦を戦い抜くに当たって,そうした資源をどこからどうやって手に入れるかが戦略になる。
また,資源の産出と加工の量は「国民士気」や「治安度」にも左右されるので,こまめに政治集会や治安の強化を行うのが重要だ。連合軍の戦略爆撃で加工施設が大損害を受けたりしないよう,気をつける必要もある。
ドイツらしく,戦車のシャーシは転用可能
資源を加工して得られた鉄やアルミニウムを使って,航空機や車両,火砲などを生産する。生産量を決めるのはここでも,各地にある航空機工場や兵器工場の能力の合計値である。どの兵器を何台作るかといったプランは,「パターン」として登録しておくことで操作を簡略化できる。
ドイツをモチーフにしたゲームにふさわしく,戦車の生産は凝っている。まず「シャーシ」を生産し,それを材料に戦車を作る形なのだ。各兵器は解体して鉄材に戻せるが,戦車を解体すると鉄材とシャーシになる。もちろんここでシャーシも解体して鉄に戻してもよいのだが,例えば初期型のIV号戦車を引退させて回収,解体し,そのシャーシを「IV号突撃砲」など,同じシャーシを使う車両に転用すれば,工業力の節約になる。
平和的な資源外交は難しい
生産関連に続いてプレイヤーが処理するのは外交案件だ。外交ポイントを用いて,小国を「懐柔」したり,「恫喝」したりできるほか,資源の貿易交渉もできる。交渉がまとまると相手はより友好的になり,欲しい資源も手に入って言うことなしといきたいところだが,各国が提案してくる反対給付条件は,正直かなり高くつく。
敵を増やしてでも資源産出地を手に入れたいというドイツの利害は,たいへんうまく再現されてしまっているのだ。
ドイツの鬼門? 海軍と海戦
潜水艦隊の任務は「攻撃せよ,沈めよ」だが,イギリスの喉元を存分に締められるのは,おそらく大戦前半までだろう |
海軍フェイズでは,潜水艦隊並びに水上艦隊を組織して,各海域に送り出す。とはいえ,周知のようにドイツ海軍は,英国海軍とすぐさま渡り合えるような規模ではない。本気で英本土への上陸を狙うなら,然るべきタイミングが来るまで水上艦は温存することになるだろう。最終的な見通しがあるにせよないにせよ,おそらくは艦隊現存主義が基本だ。一方潜水艦は,積極的に通商破壊に活用することになるだろう。それが唯一の任務であるし。
艦船が航行中に陸上基地の航空機に狙われることは,ルール上ない。太平洋戦線と異なり,航空機の目をかいくぐって行動することが,このゲームの大前提になっているのである。
戦略級ゲームでありながら,たまにえらく細かいところまで指示可能。まあUボートは確かに,1隻1隻が戦略兵器なわけだが |
意外なほどブラッディな陸戦
攻撃できるのは敵の最前列のみ。3倍の弾薬を消費して,1.5倍の火力を叩き出す「猛攻」も使えるが,巧みに防御されるとなかなか厳しい |
ゲームの核となる作戦フェイズでは,空軍部隊と陸上部隊を動かして,敵の部隊や根拠地を攻撃する。部隊規模は軍団以上軍以下といったユニット数で,移動できるのは,経路でつながった隣の根拠地まで。敵が占領している根拠地に移動して行うのが戦闘というわけだ。
戦闘は,マス目で区切られた戦場で部隊を進め,敵をすべて撤退/降伏させれば勝ちという,抽象的なもの。ただし,進撃するごとに地形に応じた落伍/故障ユニットが出るなど,数的なシミュレーションは実に細かい。野砲や重砲を装備した部隊は離れたマスから攻撃できるのに対し,歩兵や戦車は隣接するまで攻撃できないのだが,火砲による損害はシャレにならない。「近代の陸戦における死傷の9割は砲兵が稼ぎ出す」と言われるが,本当にそんな感じだ。
ユニットの損害とは別に,部隊には「戦意」が設定されていて,これが下がると戦闘を続行できなくなる。部隊に指揮官を設定しておけば,その能力に応じて戦闘開始時点での士気が上がるほか,戦闘中に低下した分をある程度回復してくれる。このゲームでは,優秀な指揮官を多く持っていることが,ドイツ軍の強さの表現ともなっているのだ。
陸戦マップで,攻撃先根拠地を指定しているところ。地形と天候,道路の質や橋の有無が戦闘効率に大きく響く | 兵器ごと,地形ごとに落伍率が算出され,部隊が前進/後退するたびに戦力が減る。故障率が効いてくる場面だ |
攻撃判定は射程ごと,同射程ならイニシアティブ値ごとに行われる。駆逐戦車より牽引砲のほうが判定が早いのだ | このゲームにおけるドイツ軍の強さの秘密は,優秀な将軍達にある。戦死されたりすると,かなりショックが大きい |
戦闘開始前にはこのように,将軍が見通しをコメントする。当たっているかどうかは,将軍の能力と忠誠度,性格による |
通常の部隊は,1ターンに1回移動ないし戦闘を行ったら,それで行動終了となるのだが,装甲ユニットのみで構成された「装甲軍」は,もう1回行動できる。いわゆる電撃戦の再現であり,敵により深甚な打撃を加えられるというわけだ。
このゲームにおける陸戦は,総じてブラッディである。戦闘を2,3回行うと,勝ち続けていても部隊戦力はたちまち半分くらいになってしまう。ユニット管理の単位が細かくても,このゲームは正真正銘の戦略級であり,そうした莫大な損害に,国家を挙げてどう耐えるかがプレイの課題となる。
1ターンが1週間とやや長いためか,航空戦闘における損耗もかなり激しい。戦闘機による迎撃はもちろんのこと,対空放火による損害も多く,長期間にわたる連合軍の戦略爆撃において,搭乗員の3分の2が生きて帰れなかったというのも納得がゆく。とはいえ,迎撃が難しい序盤の夜間爆撃はドイツにとってかなりの痛手で,生産力に蒙る打撃もシャレにならない。
昼間の迎撃では,空軍もかなり頑張ってくれるが,イギリスお得意の夜間都市爆撃は,なかなかに手厳しい |
それでもドイツの戦争は続く
いろいろな意味で気まずい人達も,ナチスドイツのゲームを彩る。気になった人名については,自分なりに調べてみよう |
このほか,根拠地の陣地レベルを強化したり,工場の規模を拡大したり,敵スパイを一斉摘発したりといった地道な努力を交えつつ,プレイは進んでいく。
操作性やインタフェースの分かりやすさといった点を見れば,本作はお世辞にも親切とはいえないものの,戦争を徹底して定量的に再現する作風で,この作品の右に出るものはない。
多大な犠牲を払って手に入れた資源と,前途有望な若者達で部隊を作り,またも莫大な犠牲に向けて進んでいく。本作は,ルール上の勝利に向けて真の意味での努力を求めるやり応えを持つのみならず,その一筋縄ではいかない仕組みを通して,戦争に対する一種の批評性すら獲得した作品だと思う。見てくれで敬遠することなく,この作品の重厚なゲーム性とメッセージ性を,より多くの人に受け止めてほしい。
外交/宣伝/諜報/治安の4分野は,力の入れ具合をポイントで調整する。兵器開発などと同じく,±30%の範囲でポイントを増減させることにより,コマンド数などが決まる | ドイツの泣きどころは,やはり人的資源である。徴兵年限を引き下げていくと,手っ取り早く戦力が手に入るものの,国民士気に影響する。たぶんプレイヤーの士気にも |