■美しく幻想的なグラフィックスと,物悲しさの漂うBGM
巨大なキノコが立ち並ぶ通路。遠くには何かの建物も見える。ドニの人々は,自然と文明の調和した世界を創っていたようだ |
新世代アドベンチャーゲームの代名詞ともいえるミストシリーズの中でも,異色作の「URU:Ages Beyond Myst」。その本編に,「URU:To D'ni」と「URU:The Payh of The Shell」という2本の拡張パックをカップリングして日本語ローカライズしたものが,本作「ミスト ウル:コンプリート クロニクル 日本語版」(以下,ウル クロニクル)だ。プレイヤーは謎に満ちた古代のドニ文明を探索し,その驚異の世界を目の当たりにすることとなる。
ウル クロニクルを起動して最初に感じるのは,シリーズの伝統でもある風景の美しさだろう。抜けるような青空と,どこまでも果てしなく広がっているような荒野。高層ビルのような巨大な木々が立ち並び,昼なお暗い森。洞窟の中に忽然と出現する,ピラミッドを思わせる謎の建造物などなど。ゲームに登場する場所は,どこも美しく幻想的な色彩を帯びている。
このゲーム,実はえらく単純な作りをしている。プレイヤーは,ドニの人々が移動に用いていた特殊な本を使い,いろいろな場所へ赴いては,用意された仕掛けを解き明かして先に進んでいく……。これの繰り返しなのだが,行く先々が個性的な風景を持っているので,まず見飽きるということがない。
そして,この風景をさらに魅惑的にしてくれるのが,時折流れてくるBGMだ。普段は風の音だとか,水の流れる音とか,機械の作動音といったSEしか聞こえないのだが,ゲームの要所でゆったりと漂うように流れてくる。リラクゼーションに使うと良さそうな,少し物悲しいメロディで,それがふと気がつくと聴こえているといった感じで流れてきて,いつしかプレイヤーをドニの世界に引き込んでくれる。このBGMは,本作の日本語公式サイト「こちら」のバックでも流れているので,ぜひ聴いてもらいたい。
見上げるばかりの巨大建造物。実はプレイヤーが立つ場所と向こうの建物は,それぞれ逆に回転している | ドニの終末を見届けたであろう,水辺にそびえる巨木。文明は滅んでも,自然だけは変わらぬ歴史を歩み続ける | 人手が加わっているのか,いないのか,不思議な景観の世界。ここは,とある時代のスタート地点だ |
いろいろといじっていたら,なぜかこんな格好に着替えさせられてしまった。一体何のための装備なのだろうか | プレイヤーにドニの歴史を語る謎の女性。彼女は数千年も前の人間で,これは記録されたホログラフィー映像だ | ピラミッドのような不思議な建造物。中ではパズルがプレイヤーを待ち受けており,解かないと先に進めない |
■これ本当に一人で解ける? 難度は……かなり高し
いかにもパズルといったボタンの並ぶ計器版。とある順番で押すことで奥に見える扉が開くというのは誰にでも分かるが,問題はその順番だ |
このような三人称視点スタイルを採用したのには理由があり,もともとウルは「ミストのオンラインゲーム」として開発されていたタイトルなのだ。複数のプレイヤーが,一つの世界で協力して謎を解いていくというコンセプトのゲームだったが,開発途中で路線変更し(破綻したのだろう),結局はシングル専用タイトルとして完成した。というわけで本作ではステージのデザインなど,端々でオンラインゲームだった頃の名残が垣間見える。
これもオンラインゲームだったころの名残なのか,ウル クロニクルのパズル要素は難解なものが多い。ヒントが用意されているパズルもあるのだが,そのヒント自体がヒントと気づきにくかったり,単純にすべての組み合わせを試す必要があったりと,難度はかなり高い(難しいのもシリーズの伝統だが)。
ゲームがスタートした瞬間から,多くの人が途方に暮れるのではないだろうか。プレイヤーは,草木のほとんど無い荒野の只中に,一人ぽつんと立っているところから始まるのだ(少し移動すると,ヒントをくれる人が一応いる)。行けるところにはすべて行くとか,押しボタンがいくつかあったら,そのすべての組み合わせを試してみるといった根気が必要だと,言い換えたほうが良いかもしれない。
正直なところ,短気な人には向かないだろう。グラフィックスは美しいし,少しづつ分かってくるドニについてのストーリーは面白いだけに,このパズルが解けなくて先に進めず,結果として途中で投げ出してしまうとしたら,それは残念なことである。どうしても詰まって先に進めなくなってしまったら,投げ出してしまう前に,検索サイトを利用してウルの攻略サイトを探すのも手かも。
謎のテレスコープ。覗き込んで操作することで,行く道が開ける。ヒントは,ここの少し前の場所に…… | 果たしてただの装飾なのか,それとも何かのヒントなのか。おや,と思ったらどんどんメモしていこう | 失敗? 結末? なんとも思わせぶりな走り書きのある,判読不明の文書が出てきたが…… |
主人公は,顔や服装などを細かく選べる。ゲームの途中で新たな服やアクセサリを手に入れることも | ゲームスタート直後のシーン。とにかく歩き回ってみよう。看板の裏とかを見ると良いことがあるかも | なかなか人の出てこないゲームだが,白骨化した死体と出会う。周りには金銀財宝が山と積まれている |
■操作性には不満あり
こんなところで一体何をしているんだ? というところに,一人でリラックスしているおじさん。ヒントをくれるのだが,「一緒に来て手伝えよ」と思ってしまうのは,筆者だけではあるまい |
本作はミスト従来の"パノラマ紙芝居"的な移動スタイルではなく,三人称視点3Dアクションゲームのような移動スタイルを採用している。この三人称視点での操作時,キー入力に対する反応が良くないようで,かなりフラストレーションがたまってしまった。
例えば来た道を引き返したいときは,キャラクターをぐるりと振り向かせてから前進キーを押すという操作になるのだが,この振り向く角度が,うまく一発で決まってくれないため,まっすぐに戻れないで千鳥足のように左右に振れてしまったりする。崖の上の細い道のようなところでは,たいへん不満に感じた点だ。ゲームパッドを使えば良いのかもしれないが,少なくともキーボードでの三人称視点操作はどうにもやりにくかった。
「リアルミスト」を思わせる一人称視点モードのほうが,操作は若干しやすい。ただしハシゴを上り下りするような場面は自動的に三人称視点に切り替わり,上りきった(または,下りきった)ところで一人称視点に戻る。この視点が戻るときも,一拍おいてという感じになる。キー操作に対するキャラクターの反応全般が,ゆったりとしているようだ。好みの問題かもしれないが,筆者には不満に感じられた点だ。
ウル クロニクルは,アドベンチャーゲームが好きな人には,間違いなくお奨めできるゲームだ。早く先に進もうなどとは思わずに,時間に余裕のあるときに,ゲームの雰囲気に浸りながら,ゆったりとした気分でプレイしてもらいたい。とくに,人が寝静まった深夜にヘッドフォンを使ってプレイすると,最も気分が出るようだ。ぜひ試してみてほしい。
とあるところで発見する,ドニの生物のスケッチ。なんだかサッパリわけの分からない生物のようだ | 目もくらむ崖の上の一本の道。文明が発達しているのに,なぜ普通の橋をかけないのだろう | バルコニーから見下ろすと,そこには街の風景が。しかし,人間はプレイヤー以外に一人もいない |
KIと呼ばれる,ドニ文明の発明品。腕時計のように手に付けて携帯でき,カメラの機能も持っている | ゲームで重要なアイテムとなる,手形をかたどったタペストリー。セーブポイントも兼ねているのだ | 一つの時代をクリアすると訪れる,壁画が描かれた部屋。床の大きな穴を覗くと,宇宙が広がっている |