― レビュー ―
寂れた地方都市に活気を! 街興しシミュレーション
蒼い空のネオスフィア
Text by 三須隆弘
2005年04月21日

 

■天才工房師が街の産業を活性化させるべく大奮戦

 

ここがナノカがアイテム開発を行う自分の工房。最初は選べるコマンドも少ないが,ゲームを進めると徐々に増えていき,部屋も賑やかに
 かつては栄華を誇ったものの,今では腐敗した元老院に政治を支配され,すっかり寂れてしまった浮遊都市ネオスフィア。そんな枯れた国を舞台に,改革派である王女の依頼を受け,主人公である14才の天才少女,ナノカ・フランカが街の建て直しのために活躍するのが,都市育成系シミュレーション「蒼い空のネオスフィア」である。
 主人公のナノカは工房師と呼ばれる存在で,学者であり,科学者であり,職人であり,コックであり,企画屋であり,何でもありの超天才。精密機械の修理から国家予算規模の都市計画事業,DNA操作による害虫駆除にワクチン開発,果ては地方特産グルメメニューの開発まで,あらゆる分野を幅広く手がける。そんなナノカを操作し,1年間の期限付きでネオスフィアを発展させていくのが本作のゲーム内容だ。

 本作は「蒼い海のトリスティア」に続くシリーズ第2弾であり,基本的なゲームの流れについては前作と同じだが,システム面でいくつか大きな変更が加えられている。例えば以前は店ごとに売り込みをしていたアイテムが,本作では地区を管轄する役所で一括して行うようになり,またアイテム同士を掛け合わせて研究したりもできるようになった。さらに主人公ナノカの体調管理の要素も付け加えられている。前作に登場したキャラも多数話に絡んでくるが,会話でしっかり背景やら設定がフォローされているので,本作から初プレイの人(実は筆者もそうだ)も,まったく問題なく楽しめるので安心していい。
 逆にシリーズを通してのファンで,よりマニアックな視点での評価を求めている人は,ぜひ「こちら」「キャラゲー考現学」第12回を読んでほしい。

 

ゲーム序盤のネオスフィア。人口も少なくたいした産業もない小国だ。ここから各地区のパラメータを上げていく 各地区で店が建つスペースは有限だ。農家や果樹園系は通常の店の2倍と,場所を大きく取るのが悩むところ アイテムを売り込みに外を歩き回っていると,新発明のレシピを思いついたりする。すぐ家に帰って徹夜で開発だ

 

アイテムの売り込みは区庁舎で行い,売ったアイテムに応じて街に店が建つ。序盤はガラガラで人も少ない 物語はアドベンチャーゲームのように,イラスト+メッセージ形式で進行していく。かなりコミカルな雰囲気で進む 画面右下が主人公の体調。アイテム開発スピードや成功率に影響する。カレーやコーヒーで調子を上げろ!

 

 

■やり込み要素の強い正統的育成シミュレーション


ネオスフィアが発展すると,各地区の人口増加と共に人通りも増え,賑やかになってくる。お祭りの日なんかは,さらに人が増えて大賑わいに

 ネオスフィアの各地区には農業,工業,商業,観光といった産業のパラメータがあり,その度合いに応じて人口や発展度も変化していく。それぞれの地区を統括する役所にアイテムを売り込むと,その地区にアイテムを取り扱うお店が建ち,産業のパラメータも上昇していく。お店が増えれば研究,開発のモトとなる新素材も入手が容易になり,さらに別のアイテムを発明しやすくなっていく,という仕組みだ。
 港があって貿易が盛んな地区や,鍛冶屋が多い地区,緑が多く農業に特化した地区など,地区によって得意とする産業も変わるため,どのアイテムがどのパラメータに影響するかも考えながら売り込んでいく必要がある。また,同時にさまざまな場所から「こんなアイテムを作ってほしい」という依頼イベントが入ってくるため,とくに序盤から中盤にかけてだいぶ忙しくなる。
 この依頼イベントが実は重要で,達成した数によって迎えるエンディングも変わってきたりする。イベントで製作依頼されるアイテムも,最初は作りやすいものが多いが,そのうちどうしても素材が見つからず,納期が間に合わないものも出てくる。
 通常,アイテムを開発するには素材を手に入れて研究するほかに,街をブラついていると突然ひらめいたり,また知り合いからヒントをもらったり,特定の期間に特定の場所へ行くと始まるイベントで開発プランを入手したりする。机にかじりついて素材の研究ばかりしていると,大事なフラグの日を取り逃してしまうこともあったりするし,かといって研究が疎かになると,依頼日までに製作が間に合わなくなったりというジレンマもある。

 また,アイテムの開発はそれまでに売り込んだアイテムや地区に出店しているお店の品揃えなんかも関係してくるため,なかなか一筋縄でいかない。
 例えば,ある特殊な野菜は"温室菜園"が完成していないと買えないのだが,それにはまずビニールを発明して,売り込んでおかなければならない。また別の特殊な繊維は,カイコを研究して売り込んでおき,その地区に養蚕家を開店させ,そこで購入した繊維を研究,開発する必要がある。ゲーム中にポンと新発明アイテムをひらめいても,その材料の発見,開発に四苦八苦することも多く,しかもこれらのアイテム入手方法や攻略パターンが何通りもあったり,序盤で一度チャンスを逃すと二度と手に入らなくなるものもあったりで,一度のプレイですべてを入手するのはかなり難しい。なかなかボリュームのあるやり込みゲームといえるだろう。

 アイテムの開発は食物,化学,雑貨,機械,書物に系統立てされ,トータルで300種類近くにもなる。食物は研究/開発費が安く,機械は逆に高い。書物はまずアイデアを思いつかないとダメだったりと,それぞれ異なった特徴がある。序盤は安い食物を重点的に発明し観光客を集めるか,イベントで必要になりがちな機械を先に開発しておくか,早めに書物に手をつけて大型施設の建築を狙うか……。そのアドベンチャーゲーム的なストーリー進行から,最初はイベント重視で攻略がガチガチにパターン化された作品かとも思ったが,実際はプレイの自由度がとても高い作品であった。

 ゲームもメリハリのある展開で,最後まで飽きさせない工夫がされている。序盤はまず各地区への行動範囲の拡大,中盤からはテンザン(ロボット)を使った土地の造成やエリアの確保,終盤になると公共施設の建築やストーリーに密接に関係してくる重要アイテムの開発など,プレイがルーチンワーク化して飽きる前に,やるべき作業が次から次へ増えていくのだ。ストーリーも,よくこれだけの内容を詰め込んで,破綻させずに収束させたなぁと思えるくらいの濃縮展開だった。

 ちなみにプレイは1年間という期間だが,実際に遊んでみるとこれが結構なボリュームだった。慣れないうちは試行錯誤の連続になるので,ゲーム中の3か月に現実時間で3日かかったりすることも。初めてのプレイなら,エンディングまでタップリ1週間以上は遊べるボリュームだろう。サクッと3日もあれば終わってしまうゲームが多い中,本作はなかなかの遊び応えといえる。
 ゲームの世界観やキャラのセリフ,演出等,アニメ的というか漫画的であり,しかもだいぶマニアックなところも多い。筆者のような30代以上のオッサンがニヤリとする小ネタがちょいちょい出てくるあたりや,わざとやってるようなオタク的クドさを笑い飛ばしつつ,素直に楽しめる余裕がある人なら,とても魅力的な世界である。  ちなみに筆者は,ヒロインであるナノカちゃんの声(CV:川澄綾子)がツボらしく,たいへん可愛く感じられた。ただ,キャラがしゃべるシーンは序盤は多いのだが,中盤以降はたまーにしかしゃべらなくなるのが残念。

 

登場するアイテムは,食物,機械,雑貨など多彩だ。それぞれ地道に研究しながらコツコツ開発していく 最初にお店で売っている,なんでもない石材を研究して,新たな素材を開発する。そこからまた新アイテム発明だ 生き物だって製作! ただの牛にビールを与えて,より生産能力の高い牛に。農業力が上がりそうなアイテムだ

 

ロボで廃墟を破壊しお店スペースを確保できるが,無計画に造成してると公共施設を建てるスペースがなくなる 農業力を上げるべく農産物ばかり売り込んでたら,農場ばかりになる。お店のバランスコントロールも考えたい 前作のキャラもチョコチョコ出てきて話にからむ。この娘は,ナイスバディだが腰が砕けそうなアニメ声の友人だ

 


■あっさりすぎるエンディングに後ろ髪ひかれ隊


夏には湖畔でバーベーキュー(もちろん水着)したり,年末はクリスマスで盛り上がったり,各季節に応じてかなりの数のイベントが用意されている
 本シリーズ初体験の筆者が一通り遊んでみて,唯一惜しいというか残念だったのはエンディングだ。本作には達成したイベントやネオスフィアの復興レベルに応じて,複数のエンディングが用意されている。筆者の初プレイでは,後半の猛チャージによりネオスフィア自体は結構なレベルまで復興させたものの,序盤どーしても見つからない素材があったりで,重要イベントのいくつかが達成できなかった。
 そのせいか,エンディングは非常にアッサリしたもので,「えっ!? 終わり?」みたいな印象が強かった。詳しく書くとネタバレなので避けるが,なまじ世界にハマりこんで遊んでいたので,まるでディズニーランドから何の余韻もなく自宅へ強制送還されたような心境だったのである。スコアが記録されたり評価されたりすることもなく,サラリと終了してしまうのが実に残念だった。

 ラストが気になって,もう一回……そういう意味では,何度もプレイさせる気になるゲームといえる。もっと豪華なエンディングがあるのか? キッチリ物語が解決しているパターンもあるのか? ネオスフィアが工業や農業に特化していたら……,そもそもあまり復興してなかったらどうなのか? システム面でやり込み要素が多いのも手伝って,何度も遊べて攻略し甲斐のあるゲームだと感じた。まぁそんな理由で,筆者も第一回反省会のあと,さっそく再チャレンジに入ったわけだが。

 ゲームの動作に関してはPentiumIII/800MHzにメモリ128MBが必要スペックであり,PCに優しいゲームである。一昔前のノートPCでも十分快適に遊べる。実際筆者の場合,上記の推奨環境を若干下回る旧型ノートPCでコタツや布団に寝っころがりながらプレイしたり,仕事の合間,合間に立ち上げて現実逃避にネオスフィアへ赴いたり,かなりチョコチョコと進めてきた。一気にデスクトップPCにかじりついて攻略するよりも,まったり細く長く,そんな遊び方が似合うゲームかもしれない。

 

ゲーム終盤は行ける地区も増え,産業も人口もガンガン上がっていく。どんどん復興してくる様子にニンマリ アイテム同士を組み合わせて研究もできる。商業,農業レポートを合わせ,市場の建設案を作成だ! 食物系の研究は安くできるので序盤に重宝する。早めにカレーを作っておけばナノカの体調管理もしやすい

 

序盤はキャラがしゃべりまくり。とくに主人公のナノカちゃんの声は反則的にかわいすぎます。メロメロですよ? タイトルから"アイテム図鑑"を選ぶと,今まで開発したアイテムを確認できる。全部埋められるの……? イベントのイラストも,タイトルからアルバムで見れる。コレクションですな。というかまだこんなにあるのか……

 

タイトル 蒼い空のネオスフィア
開発元 工画堂スタジオ くまさんちーむ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2005/03/25 価格 9240円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上,メインメモリ:128MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 8.1以上に対応,HDD空き容量:600MB以上

(C)2005 KOGADO STUDIO,INC./KUMASAN TEAM,INC.