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「ATI Radeon HD 2600」シリーズ最上位モデルとして,GDDR4メモリを搭載した「ATI Radeon HD 2600 XT」カードが登場した。販売の始まった2007年7月上旬時点の実勢価格は2万円台前半と,コスト的には悪くないが,GDDR3メモリ搭載版からメモリパフォーマンスのみが上がったGDDR4メモリ搭載版には,果たしてどれだけの性能向上を期待できるだろうか?
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SAPPHIRE HD 2600 XT 256MB GDDR4 PCI-E
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:2万2500円前後(2007年7月10日現在) |
DirectX 10対応ミドルレンジ向けGPU(グラフィックスチップ)としてリリースされたAMDの「ATI Radeon HD 2600 XT」(以下HD 2600 XT)。同GPUを搭載するグラフィックスカードには,2007年6月28日のプレビュー記事でベンチマークテスト結果をお伝えしているGDDR3メモリチップを搭載した製品とは別に,最上位モデルとしてのGDDR4メモリ搭載モデルが存在する。AMDのリファレンスでは,コアクロックこそ800MHzで変わらないが,メモリクロックはGDDR3の1.4GHz相当からGDDR4では2.2GHz相当へと大きく向上しており,そのパフォーマンスが気になっていた人は少なくないのではなかろうか。
4Gamerでは,Sapphire Technology製のGDDR4メモリ版HD 2600 XT搭載カード「SAPPHIRE HD 2600 XT 256MB GDDR4 PCI-E」(以下SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR4)を販売代理店のアスクから借用できたので,さっそく同グラフィックスカードのポテンシャルを確認してみたい。
“X1950 Pro相当”の大きさになったGDDR4版
PCI Express外部給電は不要
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GDDR4版とGDDR3版でGPU(=HD 2600 XT)自体に違いはない |
SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR4の外観で最も特徴的なのは,実測で228mmというそのカード長だ。GDDR3メモリを搭載した,同じSapphire Technology製のHD 2600 XT搭載カード「SAPPHIRE HD 2600XT 256MB GDDR3 PCI-E」(以下SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR3)は同168mmなので,60mmも長い。
ちなみに228mmというのは,「ATI Radeon X1950 Pro」(以下X1950 Pro)搭載グラフィックスカードのリファレンスデザインと同じ。このサイズでPCI Express用の外部給電コネクタを必要としないというのは,なかなかインパクトがある。
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左は1スロット仕様のGPUクーラーを外したところ。ご覧のとおり,PCI Express外部給電コネクタは用意されていない。右はX1950 Proのリファレンスデザインを採用するCFD販売(玄人志向)「RX1950PRO-E256HW」(写真の右側)と並べて置いてみたところ |
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カード裏面。メモリチップ×4用の空きパターンを確認できる |
カードサイズが大きくなった考察は後ほど行うとして,メモリ周りに視点を移そう。
GPUを囲むように,512Mbit品のメモリチップが4枚配置されている点ではGDDR3版と変わらないが,カードの裏面を見るとメモリチップ4枚分の空きパターンが用意されており,グラフィックスメモリ512MB版も容易に実現できるような設計になっていることが分かる。
なお入手した個体が搭載していたメモリチップはSamsung Electronics製の0.9ns品「K4U52324QE-BC09」だった。
1スロット仕様のGPUクーラーは,エアフローを固定して外部インタフェース側へ送るタイプ。筆者の主観になるが,ファンの動作音はSAPPHIRE HD 2600 XT GDDR3が搭載するものよりも大きく感じられた。
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試用した個体が搭載していたGDDR4メモリチップ(左)と,GPUクーラーの底面(右) |
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付属品一覧。デジタル/アナログRGB(DVI-I)−デジタルYCbCr&RGB(HDMI)変換,デジタル/アナログRGB(DVI-I)−アナログRGB(RGB)変換アダプタを1個ずつ同梱。ゲームは付属しない |
さて,2007年7月2日の記事でお伝えしたとおり,AMD関係者は,2007年7月10日現在で一般に入手できるグラフィックスドライバ「ATI Catalyst 7.6」以前だとATI Radeon HD 2600への最適化が行われておらず,統合型シェーダユニットを振り分ける部分の精度に問題があるとしていた。そこで今回は,「ATI Catalyst 7.7」で採用予定となっているバージョン8.38.9のRC2(RC:Release Candidate,公開候補版)を利用してテストを行う。
比較対象としては,GDDR3版HD 2600 XT(SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR3),そしてAMD関係者がパフォーマンスで上位としたX1950 Pro(RX1950PRO-E256HW)を用意。GDDR3版HD 2600 XTのスコアは「ATI Catalyst 7.5」ベースのバージョン8.38でも取得してあるので,これは
6月28日の記事から再掲し,8.38.9と比較したい。
また,NVIDIA陣営からは,実勢価格でGDDR4メモリ版HD 2600 XTのそれぞれ上位/下位となる「GeForce 8600 GTS」「GeForce 8600 GT」を用意。正確を期すと,GeForce 8600 GTSのスコアはこれも
6月28日の記事から流用している。
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SAPPHIRE HD 2600XT 256MB GDDR3 PCI-E
2万円を割る予価のDX10世代ミドル
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
予想実売価格:1万8500円前後(2007年7月10日現在) |
8600GT-256
最安では1万5000円台のGeForce 8600 GTカード
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:1万7000円前後(2007年7月10日現在) |
ベンチマーク方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション3.2に準拠。そのほかテスト環境は表のとおりだ。
細かい話だが,以下とくに断りのない限り,グラフィックスカードの製品名ではなくGPU名で表記を行う。さらにグラフ中はATI Radeon HD,GeForceの表記も省略するほか,バージョン8.38のデータのみ,区別すべくバージョンを併記してある。これらはあらかじめお断りしておきたい。
最大1割強のパフォーマンス向上を期待できるGDDR4版
高負荷設定時はレンダーバックエンドによる限界も
いつものように,「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果から見ていこう。
グラフ1,2を見ると,「標準設定」「高負荷設定」とも,GDDR4メモリ版HD 2600 XTはGDDR3版よりも1割ほどスコアが高い。標準設定の1024×768ドットではわずかだがX1950 Proを上回っている点にも注目したいところだ。
しかし,画面解像度が上がったり,描画負荷が高まったりするとX1950 Proと比べて大きくスコアが落ちていく。同時に,ドライバのバージョンアップによるスコアの変化は認められない。
グラフ3,4に示したFeature Testの結果に目を移すと,GDDR4メモリ版HD 2600 XTのスコアは,とくに頂点シェーダ(Vertex Shader)で伸びが顕著だ。
ただし,統合型シェーダユニットの振り分けが改善したというバージョン8.38.9(RC2)で,GDDR3版HD 2600 XTのスコアはむしろ下がっている。このあたりは,まだ最適化が100%ではないということだろう。現時点におけるドライバの成熟度は低いが,逆にいえば,今後パフォーマンスの向上する余地がかなり残っているということでもあり,なかなか評価が難しい。
続いてグラフ5,6は,同じく3Dベンチマークソフトである「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)の結果をまとめたものだ。3DMark05と比べて,描画負荷が大きくなったために数値は低くなっているが,全体的には似た傾向だ。標準設定の1024×768ドットではX1950 Proに匹敵するパフォーマンスを見せるGDDR4メモリ版HD 2600 XTだが,それ以上の描画負荷環境では非力さが目立ってくる。
以上の傾向を踏まえて,実際のゲームにおけるスコアを見ていこう。
まずFPS「Quake 4」(Version 1.2)における平均フレームレート(グラフ7,8)で比較したとき,GDDR4メモリ版HD 2600 XTは対GDDR3メモリ版では相応のスコア向上を見せているものの,X1950 Proからはかなり離されている。「GeForceファミリーに最適化されたタイトルだから仕方ない」といえばそれまでだが,高負荷設定でGeForce 8600 GTに置いて行かれるケースもあるのは少々気になった。
続いてATI Radeonに最適化されたFPS「Half-Life 2: Episode One」のスコアをグラフ9,10にまとめた。
標準設定のスコアはさすがの一言で,GeForce 8600 GTSに完勝しているだけでなく,X1950 Proともほぼ互角。しかし,高負荷設定では大きくスコアを落としており,やはりここでもGDDR4メモリ版HD 2600 XTはGeForce 8600 GTの後塵を拝す。
また,細かい点だが,Half-Life 2: Episode Oneでも,8.38.9ドライバで8.38よりもスコアが下がっている点は指摘しておきたい。
もう一つFPSから,「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果をグラフ11,12に示したが,F.E.A.R.のスコアはQuake 4のそれを先鋭化させたような印象で,標準設定でもGDDR4メモリ版HD 2600 XTはGeForce 8600 GTに敵わない。X1950 Proとの差も顕著で,1024×768ドットで25fps以上というのは,ちょっと厳しい感じだ。
ただし,GDDR3メモリ版と比較すると,スコアが順調に伸びているのも事実。また,GDDR3メモリ版のスコアを比較すると,バージョン8.38.9のドライバが8.38に対してスコアを伸ばしており,最適化の効果が窺える。
次は,プレビュー時にGDDR3メモリ版HD 2600 XTが好成績を残したRTS「Company of Heroes」(Version 1.70)のスコアを見てみよう(グラフ13,14)。
プレビュー時に,シェーダ負荷の高い状況におけるHD 2600 XTの優位性を指摘したのを憶えている人もいると思うが,GDDR4版とGDDR3版では,GPUアーキテクチャもコアクロックも同じため,スコアの向上は誤差程度しかない。メモリだけ高速になっても,ほとんど意味はないというわけだ。絶対的な性能では,X1950 Proを前に歯が立たない。
もっとも,対GeForce 8600のスコアは優秀。高負荷設定での落ち込みは大きいが,標準設定での大きなリードが幸いして,GDDR4版HD 2600 XTのスコアは,対GeForce 8600 GTで互角以上,対GeForce 8600 GTSも互角まであと一歩のところで踏みとどまっている。
続いて,比較的描画負荷の低いタイトルである,レースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)の結果をグラフ15,16にまとめた。
まずお断りしておくと,プレビュー時にも発生した「高負荷設定の1024×768ドットで,ATI Radeonファミリーだとアンチエイリアシングが有効にならない」問題が今回も繰り返された。色分けしているので注意してほしい。
そこを除いて改めて見てみると,標準設定におけるGDDR4版HD 2600 XTのスコアは,GDDR3版より若干高い。GeForce 8600 GTSには一歩及ばないが,GeForce 8600 GTには有意な差を付けているのも分かる。だが,高負荷設定ではF.E.A.R.の結果を踏襲したようなグラフになってしまう。
最後はMMORPG「Lineage II」の結果である(グラフ17)。1024×768ドットではGDDR4版HD 2600 XTがX1950 Proを上回り,最も高いスコアを見せた。しかし,画面解像度が上がるにつれ,GDDR3メモリ版HD 2600 XTとのスコアを一定の状態で保ったまま,スコアが大きく落ち込んでいく。
GDDR4採用で消費電力はわずかに増加
TDP 45Wなのに消費電力が高い理由とは
GDDR3版からメモリがGDDR4に変わり,同時に動作クロックは上昇した。果たして消費電力は増えたのか減ったのか,気になる人は少なくないだろう。今回も,OSの起動後30分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間で最も高い消費電力を示した状態を「高負荷時」とし,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーにより測定した。
結果は
グラフ18のとおりだが,GDDR4版の考察に入る前に,「なぜTDP 45WのGPUを搭載しながら,GeForce 8600 GTSを搭載したときと同じようなスコアになっているのか」について,少し考えてみたい。
前回のプレビュー時に用いたGDDR3メモリ版HD 2600 XTカード,Tul製「PowerColor HD 2600 XT 256MB GDDR3」が搭載していたメモリチップはHynix Semiconductor製の「HY5RS123235B FP-14」だったのだが,これは2.0V駆動品だ。そして,今回テストに用いたSAPPHIRE HD 2600 XT GDDR3が搭載していたのはQimonda製の「HYB18H512322AF-13」となっている。同チップについてのデータシートは(7月10日時点では)見当たらないのだが,同社の型番ルールからすると,2.0V駆動品である可能性が高い(1.8V駆動なら,末尾が「AFL-13」となるはずだ)。
一般にGDDR3メモリの駆動電圧は1.8V。2.0V駆動品を搭載したことが,高めのスコアをもたらしてしまったようで,これは残念である。
さて,肝心のGDDR4メモリ搭載版HD 2600 XTだが,SAPPHIRE HD 2600 XT 256MB GDDR4 PCI-Eが搭載するメモリチップは前述のとおりK4U52324QE-BC09で,これは1.8V駆動となる。
ただし,データシートによると,バーストモードでは最大1130mAの電流が流れるとのこと。先に挙げた(PowerColor HD 2600 XT 256MB GDDR3の)HY5RS123235B FP-14だと,バーストモードの電流値は最大950mAなので,GDDR4版は180mAも多くの電流が流れることになるわけだ。一度に大量のデータを扱うことの多いグラフィックス処理では,たいていバーストモードでデータ転送が行われると思われるので,電源回路は1130mAに対処できるものを用意しなければならない。それがカードサイズを大きくし,消費電力を増やしてしまった原因と考えられる。
参考までに,PCケースに組み込まないバラックの状態で,アイドル時と高負荷時それぞれの時点におけるGPUの温度をモニタリング&オーバークロックツールである「ATITool 0.27β2」を用いて計測したものがグラフ19である。
GPUクーラーによって温度は当然変わってくるうえ,RX1950PRO-E256HWはATIToolから温度を測定できなかった――ATI Catalyst Control Centerからも測定不可能――のでN/Aとなっており,横並びの比較はできないが,PowerColor HD 2600 XT 256MB GDDR3のクーラーは実に優秀だ。一方,SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR4だと高負荷時にGPU温度は70℃に達しており,冷却能力は今一歩だ。今後,サードパーティ製の優秀な対応クーラーが登場することに期待したい。
レンダーバックエンドの制限が痛いものの
低解像度前提なら「3Dゲーム+ムービー」用としてアリ
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SAPPHIRE HD 2600 XT GDDR4の製品ボックス。小型なのはポイントが高い |
メモリパフォーマンス以外の仕様が変わらないGDDR3版HD 2600 XTと見比べてみるに,従来換算で4基という,ミドルレンジGPUとしては非常に少ないレンダーバックエンド(=ROPユニット)の数が,どこまでもボトルネックになってしまっている印象だ。
ドライバのアップデートでも,シェーダ負荷の高いF.E.A.R.とCompany of Heroes以外ではそれほど効果がなく,統合型シェーダユニットの振り分けを最適化しても,“出口”の小ささが足を引っ張ってしまっている可能性が見て取れる。DirectX 10対応ゲームでは状況が変わるかもしれないが,少なくともDirectX 9世代のゲームをプレイする限り,ATI Radeon HD 2600 XTには,高解像度,あるいは高負荷時に存在する限界を認識しておく必要があると思われる。
しかし,低解像度に限ればX1950 Proに迫るパフォーマンスを得られる可能性がある。ドライバの完成度に起因する(と思われる)問題で,ゲームごとにスコアのぶれが大きいのは現状の課題だが,そこそこの3DパフォーマンスとAvivo HD,そしてDirectX 10世代への保険が手に入るという意味で,2万円台前半で購入できるGDDR4版HD 2600 XTには相応の価値があるといってよさそうだ。
ただし,DirectX 9での絶対的な性能を重要視するのなら,2007年7月時点において2万円前後の価格で販売されている例があるX1950 Proを選ぶほうが安全なのも確か。X1950 Proはしばらく併売されるので,何を重視するかが,選択のポイントになるだろう。