「タイタン クエスト 日本語マニュアル付英語版」(以下,タイタン クエスト)については,過去に週刊連載枠で取り上げていたのをご存じの読者もいるだろう。連載では攻略データを中心に掲載していたわけだが,しかし読者にとって最も気になるであろう「結局ゲームとして,どこが面白いのか面白くないのか」といった評価面に関しては,そこではあまり触れていなかった。そこで今回は,ゲームとしての質に焦点を当てたレビュー記事をお届けしよう。
3Dモデリングと物理エンジンを駆使したグラフィックスは必見
クリックタイプのアクションRPGは数多くリリースされているが,本作はそれらの中でも,久々の正統派といえるタイトルである |
タイタン クエストは,神話世界をモチーフとしたアクションRPGである。この作品を制作したIron Lore Entertainmentは,かつて「Age of Empires」の共同開発者として知られたBrian Sullivan氏が率いており,その処女作が本作ということになる。
最初にストーリーの概要を説明しよう。舞台となる世界は,暗黒の魔術師「Telkine」によって混乱の最中にあった。Telkineには,封印されたタイタン「Typhon」を解き放ち,それによって神々に復讐を果たすという野望があるのだ。そこでプレイヤーが扮するキャラクターは,これを阻止するためにTelkineを追い,ギリシャ/エジプト/アジアの3地域を股にかけた冒険を繰り広げる……というのが大筋の流れである。
続いて本作のゲームシステムだが,単刀直入にいうとクリックタイプのアクションRPGである。……と聞くと,該当作品が10や20はすぐに思い浮かぶような人気ジャンルであり,読者の中にも「またかよ」などと思ってしまう人がいるのではないだろうか。しかし本作には,アクションRPGならではの軽快なプレイフィール以外にも,さまざまな魅力が盛り込まれているのだ。
まず,本作に触れた誰もが最初に驚くのは,そのグラフィックスである。画面写真を見れば一目瞭然だが,フル3Dによるグラフィックスは「緻密」の一言に尽きる。しかも単純にグラフィックスが綺麗というだけでなく,モーションの完成度も高い。筆者は,先述の週刊連載の執筆作業を通じて何千枚ものスクリーンショットを撮影したが,そのどれを見ても,キャラクターの姿勢に不自然さが感じられないのだから,大したものである。
また世界観に関しては,一般的な「中世ヨーロッパ風ファンタジー」ではなく,ギリシャ,エジプト,アジア地域の神話世界がモチーフとなっているため,登場キャラクターだけでなく背景についても,それに即したデザインが採用されている。
ゲーム中には「アテネ神殿」「ナイル川」「万里の長城」などといった,神話や歴史にちなんだマップ,建造物がふんだんに登場するため,現実の風景を思い浮かべながらプレイするのも楽しい。プレイ中はときおり立ち止まって,画面を(建造物やNPCの衣装などを見るために)拡大して見てみたくなることも多かった。
なお,本作の3Dオブジェクトは物理エンジンで処理されている点にも注目しておきたい。例えば,モンスターを倒したとき,派手に吹っ飛んだり,坂道を転がり落ちたりする描写,壁に跳ね返る魔法のエフェクト,宝箱から飛び出すアイテムといった,実に細かな部分にまで,物理エンジンの効果が発揮されているのだ。
このような処理が行われているアクションRPGは,現時点ではあまりなく新鮮だ。物理エンジンの秀逸さを確認するためだけに,モンスターを崖から突き落とし,落下する様を見てニヤニヤしてしまうのは,なにも筆者だけではないはずだ。
だが,物理エンジンの利用が,あくまで演出レベルに留まっている点は,残念といえば残念だ。人によっては,「地味」あるいは「もったいない」と感じるところかもしれない。せっかくこれだけの素材があるのだから,例えば物理エンジンを利用したパズル要素や攻撃手段などが用意されていてもよかったのではないだろうか。
それともう一つ,これはあえてそういう仕様にしたのかもしれないが,キャラクター作成時の入力/選択項目が,名前/性別/服の色のみで,カスタマイズ性が皆無なのも残念である。とくに本作は,キャラクターを何体も育成したくなるタイプの,リプレイアビリティの高いタイトルなので,どのキャラクターも(装備品を除けば)変わり映えがしないというのは,少々寂しい。せめて髪型くらいは,複数のデザインの中から選ばせてほしいところだ。
とはいえ,グラフィックス関連で気になったのは以上の2点のみで,それを除けば,個人的にはほぼ満点といえるクオリティである。しかもこれだけのグラフィックスを実現しながらも,必要とされるマシンスペックが意外と低めなのが嬉しい。さすがに,ロースペックPCでもサクサク動く,というレベルではないものの,多くのプレイヤーが,クオリティの割には必要スペックが低いと感じるのではないだろうか。もしスペック面で不安を感じる人は,一度体験版をプレイしてみるとよいだろう。
次々と新たなキャラクターを育成したくなる
マスタリーシステム
マスタリーを軸にしたキャラクター育成システムは,本作の最大のアピールポイント。このマスタリーとスキルの選び方には,さまざまな可能性が秘められている |
続いては,キャラクターの育成面について。キャラクターのクラス(職業)は,「Warfare」「Defence」「Nature」「Spirit」「Earth」「Storm」「Rogue」「Hunting」の8種類ある「マスタリー」と呼ばれるスキルジャンルの中から,二つを選ぶことで28種類の中から決定される。各マスタリーには20前後のスキルが含まれており,レベルアップ時に得られるポイントを,それらスキルに注ぎ込むことで,キャラクターの個性を形成していくのだ。各マスタリーの特徴が知りたいという人は,こちらを参照してみるといいだろう。ある程度アクションRPGに親しんでいる人なら,見ているだけでもワクワクしてくるに違いない。
本作のキャラクター育成システムは,かなり秀逸だ。その理由は「マスタリーの完成度の高さ」「マスタリーの組み合わせの幅広さ」「スキルポイントの振り直しが可能」の三つにあると感じられた。
マスタリーはそれぞれが個性的ではあるが,マスタリー間には極端な優劣の差がない。二つ選べるマスタリーのうち1個しか使わなくてもゲームは十分クリアできるほど,それぞれのマスタリーが「使える」のである。こういったマスタリー(クラス)のバランシングがしっかりしているので,二つのマスタリーを組み合わせることで,プレイの幅は大きな広がりを見せる。それでいて,特定のクラスのみが突出するようなこともないのだ。
一度注ぎ込んだスキルポイントを,金銭を払うことで元に戻し,ある程度はキャラクターの「育て直し」ができる点も素晴らしい。一体のキャラクターは最大で40ものスキルを習得できるが,ポイントは有限であるため,通常であれば,スキルの成長ルートをあれこれ試すわけにはいかない。しかし本作の場合は,ゲーム内通貨と引き換えにスキルポイントが取り戻せるので,さまざまな成長パターンや戦術を,気軽に楽しめるのだ。
同じクラスのキャラクターでも,どのスキルにポイントを注ぎ込むかで,キャラクタースペックが大きく異なってくる。プレイヤーがゲームに費やせる時間も有限だろうし,これは実にありがたい仕様だ。最初は全スキルにポイントを割り振って一通り試してから,後で気に入ったスキルに注ぎ込むといった遊び方もできる。
マスタリーの内訳を分類すると,ファイター系が4,マジックユーザー系が4といったところ。組み合わせるマスタリーによって,違う性能を引き出せるのが面白い |
マスタリーのうちの一つ「Storm」は,基本的にはマジックユーザー系の性能で,スキルにはそういったタイプのものが揃っている。しかし中には例外もあって,「Heart of Frost」は武器に魔法をエンチャントして敵の移動/攻撃スピードを下げるという効果があり,ファイター系との相性が良いスキルだ。またほかにも,「Storm Surge」は敵から攻撃を受けたときにスタンを伴ったダメージをカウンターで与えるもので,これもファイター系にとっては実にありがたいスキルである。
これは「Storm」に,「Warfare」などのファイター系マスタリーを組み合わせた場合,重宝するスキルとなる。しかし「Earth」のようなマジックユーザー系マスタリーと組み合わせた場合,近接戦闘用のスキルを使う機会はあまりないだろう。
何が言いたいのかというと,たとえ同じマスタリーでも,二つの組み合わせ方によって有用となるスキルが微妙に変わり,違った顔が見えてくるのである。筆者は本作をプレイしていて,こういった新たなスキルの活用法がひらめく瞬間が最も楽しかった。一人のキャラクターをとことん育てるのも面白いが,それよりも,8種類あるマスタリー用スキル全部を,そして28種類あるクラスを,とことん試してみたくなってしまったほどだ。
大抵のアクションRPGは,2〜3のキャラクターを育てると飽きが来てしまうものだが,本作の場合はこれらのマスタリーの組み合わせが多彩なためか,気が付いたら5〜6体を育成していた,というケースもままある。それどころか筆者の場合,ゲーム中盤から終盤にかけてモチベーションは下がるどころか,逆に上がっていったのだ。今まで数多くのアクションRPGに触れてきたが,このような体験をしたのは本作が初めてである。
そしてマスタリーやスキルバランスの完成度が高いだけでなく,アクションRPGとしての基礎がしっかりしているのも,プレイヤーを飽きさせないもう一つの大きな要因だろう。この手のゲームでは,操作時のレスポンスが悪かったり,移動中に地形等に引っかかったりすると,途端にストレスを感じてしまうものだが,本作ではプレイヤーとキャラクターがシンクロしていると常に実感できた。
スキルポイントの割り振りを何度でも行えるのは,とても助かる。育て間違いを恐れずに,さまざまな戦術を気軽に試せるのだ | レベルアップ時には,スキルポイントとは別に「アトリビュートポイント」も得られる。後者はステータスなどに関与するが,やり直しが利かないので要注意 | たとえ同じマスタリーを選んでも,プレイスタイルによって“使える”スキルはまったく違ってくる。このあたりの試行錯誤が実に面白い |
シングルプレイ重視の仕様を理解しておけば
買って損はない
本作には基本的に,マルチプレイの必要性があまり感じられない。ゲームのテンポが速いため,むしろ一人でプレイするくらいでちょうどいいだろう |
とまあ,実に良く出来た作品なのだが,不満がないというわけではない。とくに気になるのは,マルチプレイ関連がおざなりになっていることだ。一応,Gamespyによるマッチングサーバーには対応しているものの,必要最少限の機能しか実装されておらず,「マルチプレイも不可能ではない」程度のレベルなのである。しかもキャラクターデータはローカル保存なので,チート問題はどうしても避けられない。
だが,これに関しては,個人的には仕方のないことかなとも思える。もともとスピード感のあるゲーム展開であるため,マルチプレイを行ったとしても全員の動きを把握しにくく,結果として大味なプレイになりがちなのだ。また,仮に満足なマルチプレイ環境を実現するとなると,セキュアなキャラクター管理やチート対策などを継続的に行う必要があるわけで,莫大な費用が掛かってしまう。そういったリスクを背負う代わりに,MODツールを同梱させるなどして,シングルでも長く楽しめるように煮詰めたのではないだろうか。
完璧なマルチプレイ環境が用意されていた名作アクションRPG「Diablo2」(battle.net)と本作とでは,この点で決定的に異なり,ここをどう受け止めるかで本作の評価は変わってくる。だが,少なくともシングルプレイに限れば,ゲームバランス,キャラクター育成,トレジャーハント,グラフィックスといった多くの面で,決して「Diablo2」にひけを取っていない(個人的には完全に上回っているとさえ思う)。これまで数多のアクションRPGが「Diablo2」を超えようと志したが,客観的に見て本作は,それに最も近づけたタイトルなのではないだろうか。
それだけに,いっそのこと完全にシングルプレイを前提として作ってほしかったなと,個人的には(極論かもしれないが)考える。例えば,キャラクター間でアイテム移動を行う手段が,マルチプレイを経由するしかないのは不満である。せっかく何人ものキャラクターを育てたくなるゲームで,魅力的なマジックアイテムがたくさん登場するのに,中途半端なマルチプレイの仕様が足を引っ張ってしまっているように思えるのだ。このあたりの環境整備は,現在制作中と噂される拡張パック「Titan Quest: Immortal Throne」に大いに期待したい。
本作の格調高い世界観やキャラクターデザインは,ぱっと見だとインパクトが弱いのかもしれない。有名声優も起用されておらず,(当然だが)萌え要素もなく,日本市場ではさほど大きな注目を集めないのかもしれない。しかし,その中身は紛れもなく本物である。
正統派のアクションRPGを愛するすべての人,とくに「昔はDiabloにハマったけど最近は燃えるタイトルがないよね」「近頃のクリックゲーなんてどれも一緒じゃないか」などと思っている人には,声を大にしてお勧めしたいタイトルだ。