■欧米で有名な「Warhammer 40K」をベースにしたRTS
WAのオーダー側のキャンペーン。オルクの最終兵器が同時に2体も押し寄せてきた。援軍が来るまで持ち堪えられるか |
「Warhammer 40,000: Dawn of War」(以下,DoW)は,2004年9月に欧米で発売されたSF 3D-RTSで,GameSpyが主催する「Game of the Year 2004」のRTS部門で大賞を受賞した作品だ。e-Sportsイベント「World Cyber Games 2006」(WCG)の公式種目にも選ばれているように,世界中で支持されている人気作なのだが,これまで日本では発売されていなかった。 しかしこのたび,拡張パックである「Warhammer 40,000: Dawn of War - Winter Assault」(以下,WA)の海外での発売に合わせ,ようやく日本でもDoW本編と拡張パックがセットになった「Warhammer 40,000: Dawn of War Gold Pack 日本語版」がフロンティアグルーヴから発売された。
もともと「Warhammer 40K」は,ファイティング・ファンタジー「火吹山の魔法使い」などのゲームブックで有名なスティーブ・ジャクソン氏とイアン・リビングストン氏が設立した,ゲームズ・ワークショップ社から1980年代に発売された,ミニチュアフィギュアを使用して遊ぶウォーゲームの一種だ。20年以上の歴史を持つゲームで,現在では第3版が流通している。ちなみにWarhammerとWarhammer 40Kは異なるゲームで,前者はファンタジーウォーゲーム,後者は紀元4万年を舞台としたSFウォーゲームである。
壮大なストーリーと,「Codex」と呼ばれる各種族の膨大な資料から成る世界観を持ち,その世界は現在も広がり続けている。ミニチュアフィギュアの存在が非常に大きなファクター(むしろゲームそのものよりも重要かもしれない)で,使用するミニチュアを製作したり,ペイントしたりといった行程が,どうしようもなくマニアの心を刺激するようだ。
しかしミニチュアの入手性の悪さや,やや高価な価格設定が災いしてか,こと日本に関してはWarhammerおよびWarhammer 40Kは流行しなかった。おそらく4Gamer読者でも,あまり聞き覚えがないか,期待のMMORPG「Warhammer Online」のニュースで初めて知ったという人も多いのではないだろうか。
少々前置きが長くなってしまったが,DoWを見ていくことにしよう。日本語版として発売されたGold Packでは,DoW本体とWAがセットになっているので,本稿ではWAまでをインストールした状態でのレビューをしていこう。
Warhammer 40KがベースであるDoWは,“第41千年紀という遠い未来の,とある惑星”が舞台。人類は飽くことを知らない探求心により全宇宙に広がり,やがて帝国と呼ばれる勢力を形成した。オーク,ケイオス,エルダーなどの異種族はこれに敵対し,人類を抹殺すべく戦いを挑み続けている。今やそこは,戦争しか存在しない混沌とした世界となっていたのだ。
……といった感じのベースストーリーがあるわけだが,Warhammer 40Kの世界は数行で物語れるものではなく,数多くの作家達がその世界観をベースにしたSF小説を書いているほど,重厚で壮大なスペースオペラなのである。これらの一部はDoW,WAのキャンペーンを通じて垣間見ることになるだろう。
キャンペーンのストーリーはオリジナルと思われるが,これだけでもWarhammer 40Kの世界観にグイグイ引き込まれてしまう。そんなストーリーに沿ったキャンペーンだが,DoWでは「スペースマリーン」を主人公としたものが1本,WAでは「オーダー側」(インペリアル・ガードとエルダー)と「ディスオーダー側」(ケイオス・マリーンとオルク)の2本が用意されている。DoWのキャンペーンはやや簡単だが,ストーリーが非常に練られており,WAのものはやや難度が高くゲームそのものが非常に手応えがあるといった感じだ。
キャンペーンでのミッションブリーフィング。ここでミッションの目的とマップの概略が確認できる | ケイオスのリーダー,ケイオス・ロード。ゲーム内ではコマンダーユニットとして登場する。アップでは顔が怖すぎ? | 3Dゲームらしく描画の設定も豊富だ。この程度の解像度なら,設定を最高にしてもサクサク動く |
ドレッドノートがオルクの歩兵を爪でつかみ,粉砕したうえで放り投げる。歩兵ユニットはこの一撃で即死だ | ケイオスのオブリテレータースカッド。悪魔に乗っ取られたスペースマリーンで,強烈なプラズマガンを放つ | WAは2本のキャンペーンが用意されている。すべての種族は互いに敵対しつつも共同戦線を張らざるを得ないのだ |
■原作の重厚さを反映させた豊富なユニットオプション
通常のゲームではこんな視点ではプレイしづらいが,勝ち戦ともなれば,こうして眺めるのもオツなものだ |
まずゲームを始めて驚くことは,その非常に派手な演出と細かなアニメーションだろう。銃弾やレーザーキャノンが飛び交い,大きな爆発が起こり,ユニットが吹っ飛び,血飛沫が飛び散る。3Dということでさまざまな角度に視点を持っていけるわけだが,試しに前線に視点を向けると,そこでは阿鼻叫喚の戦いがド迫力で展開されている。普段は何かと忙しいRTSだが,ときにはユニット視点にまでカメラを落として,自軍が敵をゴミのように殲滅していくさまを間近に観賞するのもオツなものだろう。とくに「ディーモン」などの最終兵器は,強力なストンプで敵を吹き飛ばし,斧でメッタ刺しにしたうえ,上空に放り投げて斧でホームランを打つのだから,その動きについつい見とれてしまう。そこまで多彩な動きを見せるユニットなど,RTSではほかに類を見ないだろう。それほど描写に関しては素晴らしい出来だ。
ではDoWのシステムを説明する前に,ここでRTSのキモともいえる“各勢力”(種族)をざっと紹介しておこう。
・スペースマリーン
人類が築き上げた「帝国」における少数精鋭部隊で,遺伝子操作と人工頭脳学による改造によって超人間的な戦闘能力を有する。遠距離戦闘が得意で,ユニットあたりの単価は高め
・ケイオス・スペースマリーン
帝国に反旗を翻したスペースマリーンで,帝国と皇帝の破滅を目指している。もともとがスペースマリーンであったため,ユニットもよく似ている。悪魔に魅入られたカルト組織だ
・オルク
戦いに飢えた,破壊の限りを尽くす野蛮な種族。個々の戦闘能力もさることながら,とにかく数が多くコストも安いので,数で押したいプレーヤーにはうってつけの勢力だ
・エルダー
かつては広大な帝国を領していたが,今は衰退して少数となった非常に古い種族。銀河系で最も優れたテクノロジーを保有し,それぞれのユニットはなんらかの技術に特化した能力を持つ
・インペリアル・ガード(WAのみ)
人類の帝国における正規軍。超人的なスペースマリーンと異なり,帝国の一般人で組織されている。コストが安く,ユニット数も揃えやすい
以上の5種類が本作で使用可能な種族だ。オリジナルのミニチュアゲームではさらに多くの種族に関するCodexがあるので,今後追加パックなどでさらに増える可能性にも期待できそうだ。5種類の種族はそれぞれ特徴があり,得意な戦術も異なっている。インペリアル・ガードとオルクは数で押したい人に向いているし,エルダーはDoWで最も特殊な種族なのでやや玄人向けといえるだろう。残りの2種族は使い勝手としては似たような感じだろうか。どの種族も歩兵,ビークル共に非常に魅力的なユニットが豊富に揃っていて,プレイヤーの戦術的な探究心をくすぐる。
さて,いよいよDoWのシステム面に目を向けてみよう。資源を確保してユニットを生産し,さらに強力なユニットの生産に向けて研究という,RTSでお決まりのパターンにDoWも沿ったスタイルとなっている。「物資」(レキシジョン)は,リソースストラテジックポイントと呼ばれる,3種類の拠点を占有することで得られる。その3種類は「戦略ポイント」「重要拠点」「レリック」といい,一般的なRTSにおける「森林」「金鉱」など以上に,本作ではこの拠点の奪い合いが直接的な目的となる。
生産/研究に必要なもう一つの要素は「パワー」で,これはプラズマ発生装置を設置することで得られる。これは基地周辺などの,建設可能な範囲なら好きな場所に建てられる。まあ発電所みたいなものだ。
一旦供給が始まれば,物資はリソースストラテジックポイントを敵に奪取されない限り,パワーはプラズマ発生装置が破壊されない限り,自動的に供給され続ける。つまりマップ上に点在するリソースストラテジックポイントをいかに多く占有するかが勝敗の鍵を握ることは間違いない。オルクだけはもう一つ「オルクリソース」が必要なのだが,詳細は割愛する。
ユニットは「スカッド」と呼ばれる部隊が一つの単位となる。例えば歩兵部隊を1ユニット生産すれば,4人の歩兵から成るスカッドが生産される。ここがDoWの大きな特徴の一つで,スカッド内の歩兵は,資源がある限りいつでもその場で補充することが可能なのだ。つまり序盤で一つ歩兵スカッドを生産して初期ラッシュをかける場合,指示しておけば移動中に人員がどんどん補強されていき,攻め込まれたほうは充分な備えをしていない限り手がつけられなくなる。
「ではどう対処するべきか?」というところに,DoWならではの駆け引きが生み出されており,特異なスピード感を演出している。無論,1スカッド内の最大構成数などはあるのだが,これも種族やユニットの種類ごとに異なっている。
またスカッドには人員補強以外に,重火器を持たせるなどのアップグレードオプションも個々に用意されている。例えば“スペースマリーン”スカッドの場合,「プラズマガン」「火炎放射」「へヴィボルター」「ミサイルランチャー」で装備を強化できる。この4種類を1丁ずつ持たせて万能型にするもよし,ミサイルランチャーを4丁持たせて対ビークル能力を上げるもよしといった感じで,同じ歩兵でもスカッドごとに個性を持たせられるといった細かさは,原作譲りといったところだろうか。
オルクとインペリアルガードの最終兵器同士の対決。どちらもユニット数が多いのだが,動作は非常に軽い | オープニングムービーより,スペースマリーンの歩行兵器ドレッドノート。どの種族の歩行兵器も動作が素晴らしい | 序盤からリソースポイントをめぐって,激しい攻防が繰り広げられる。ポイントの制圧には時間がかかる |
敵の砲撃を受けるインペリアルガードと歩行兵器センチネル。原作に裏付けられたストーリーも見どころ | DoWの攻撃エフェクトはとにかく派手だが,見とれているヒマはない。歩兵だけでビークルに立ち向かえるだろうか? | エルダーは見た目も建物も,戦術すらも特異な存在だ。古代種族で,かつては栄華を誇ったが今は衰退している |
■RTSの新たな真打ちとなれるか
使用する軍の各部位を色付けできるアーミーペインター。ミニチュアを使ったWarhammer 40Kがベースならではの機能だ |
最近のRTSにおけるトレンドとして,ヒーローユニットの存在が挙げられる。DoWでは「コマンダーユニット」と呼ばれており,スカッドに特殊な恩恵を施し,敵に大きなデメリットを与える存在だ。ただし経験値によってレベルアップしたり,それに伴って能力が上がったりということはなく,能力は研究によって付加される。通常ユニットよりは倒されにくいが,決して超絶な存在ではないのだ。
むしろ「最終兵器」こそが文字どおりの超絶な存在で,防御も固いうえに攻撃力も非常に強いので,これを先に手にした軍が勝利を収める可能性は高い。しかし最終兵器は1ユニットしか作れず量産できないので,最終兵器の開発を急ぐあまり軍の増強を怠っていても勝てないというわけだ。
またDoWでは,スカッドごとに「戦意」というパラメータが盛り込まれている。敵の攻撃や仲間の死によって戦意は損なわれていき,戦闘能力(与えるダメージや命中率)に強く影響を及ぼす。戦意を喪失させる能力を持ったユニットや,逆に戦意を回復させるユニットも存在し,完全に戦意を失ったスカッドは敵に攻撃してもほとんどダメージを与えなくなってしまう。例えばユニット数で負けている場合でも敵の戦意を喪失させる策を講じれば,戦闘を有利に進められる可能性が残されており,地味ながら戦闘にバリエーションを加えることに貢献している。
マルチプレイでは専用ロビーが用意されており,もちろんオートマッチも用意されていて,日本語版でも問題なく好みのゲームに参加できる。本作におけるマルチプレイの賑わいも,RTSを購入する基準を十分に満たしているといえるだろう(2006年2月現在)。なおマルチプレイに参戦するときは,日本語版でも自動でパッチが当たるので,その点で心配することもない。
全体的に見て,DoWは“オーソドックスなRTS”の“オーソドックスな進化系”,その上位に位置するものといえる。ほかの多くのタイトルと同じように,発売当初は種族間でのバランス面や,初期ラッシュが強すぎるなどの問題も散見されたようだが,細かなバージョンアップによって現在は改正されている。
見た目の派手さやキャラクター描写の濃さでゲーム本来の持ち味を見落とされがちなタイトルのようにも思えるが,RTSとしての破綻がなく,豊富なユニット構成,スカッド拡張のオプションなど自分なりの戦術で軍を育てていく楽しみも豊富に用意されている。もちろんWarhammer 40Kの世界観もどっぷりひたれる壮大なものだし,戦闘画面の派手さも見ていて気持ちのいいものだ。個人的には,最終兵器を手にしたときの,すべてを破壊するかのようなカタルシスに悶絶してしまうのだが,対人戦ではその前に決着がつくことも多いのが残念である。
ド派手なエフェクトで,しかも緻密な描画がされているにもかかわらず,動作が軽いという点も評価したい部分。総括的に非常に完成度が高いタイトルで,WCGの正式種目に選ばれるというのも納得がいく話だ。長く遊べる作品であり,すべてのRTSプレイヤーは必ず一度は体験しておくべき秀作である。
エルダーとケイオス・スペースマリーンの最終兵器同士の直接対決。通常ユニットだけでは太刀打ちできない強さだ | エルダーのコマンダーユニット,ファーシアーのアビリティを発動させた瞬間。広範囲にダメージを与える | アースシェーカーキャノンを備えたバジリスクは,反則的なまでの射程を持つが,砲撃までの準備に時間がかかる |
DoW第6の勢力となるか? 機械仕掛けのアンデッドのようなネクロンは,かつてエルダーを没落へと追いやった | 全面対決! 凄まじい数のユニットが激突しているように見えるが,実は半分くらいは死体なのである | ユニット製造のアクションも見もの。スペースマリーンはポッドが落下してきたり,輸送船によって運び込まれたり |