Illustration by つるみとしゆき |
分かりやすいテーマに,エルフやドワーフといった仲間との出会いや別れ,凶悪なモンスターとの戦い,フロドを追いかける幽鬼や,冥王サウロンの軍隊など,全編にわたって緊張感のあるエピソードが楽しめる。また本作品は映像化が不可能といわれていたにも関わらず,ハリウッドで見事映画化されて大成功を収めたこともあって,ここ数年のファンタジーブームの火付け役といってもいいだろう。
物語中には魔法の(と思われる)武器が多数登場しているが,今回ここで紹介するのはスティング(Sting)である。これは主人公のフロドが,養父のビルボからミスリルの鎖帷子とともに受け取ったもの。書籍では"つらぬき丸"と表記されていたので,そう呼んだほうが昔からのファンには馴染みがあるかもしれない。
スティングは,フロドの養父ビルボがトロールとの戦いの末に手に入れたもので,そのエピソードは「ロード・オブ・ザ・リング」ではなく小説「ホビットの冒険」で描かれている。この物語の中でビルボはドラゴン退治の冒険に出かけ,途中で3人のトロールに出会ってしまい食べられそうになる。が,魔法使いガンダルフの機転によって一行は夜明けまで時間を稼ぐことに成功し,トロール達は弱点である日光を浴びて石になってしまう。そして,そのトロール達の住処から発見されたのがスティングだったのだ。
ちなみに「ロード・オブ・ザ・リング」の第一部で,ナズグルの剣によって傷ついたフロドを治療するため,アラゴルンが薬草を探すシーンがあるが,背景をよく見ていると石になった三人のトロルが見える。実はこの石化したトロールこそ,ビルボ達が倒したものであるらしい。なおスティングというネーミングは,ビルボがたった一人で巨大クモを倒したときに,自分でつけたものである。
一方「ロード・オブ・ザ・リング」では,ストーリー中盤でフロドがモリアの坑道を訪れたときのスティングが印象的だ。といってもホビット族は勇猛果敢な種族ではないので,剣を振るって大立ち回り……というわけにはいかなかったが,迫りくるオーク達の存在を感じ取ったスティングが青白く輝き,フロドに危機を知らせるというシーンが記憶に残っている人も多いだろう。警告を発する剣というシチュエーションは,なかなかに新鮮なものであった。
さて,映画や小説の中ではスティングについてあまり語られることがなく,残念に思っている人も多いかもしれない。そこで,いくつかの資料をもとにスティングについて考察していこう。
スティングは人間から見ると,ダガー程度のサイズであったようだ。ホビットにとってはショートソードくらいの大きさであろう。製作者は不明だが「ホビットの冒険」で,エルフの都市の統治者であるエルロンドが,トロールの住処から見つかった,スティング,グラムドリング(Glamdring:なぐり丸),オルクリスト(Orcrist:かみつき丸)の三振りの剣を見て,これらはかつて存在したエルフの隠れ都市"ゴンドリン"で鍛えられた品で,ドラゴン,ゴブリン,バルログによって町が襲われ,破壊されたときに盗み出されたものだろうと話している。
また前述した三本の剣は,鍛えられた場所が同じであるだけに留まらず,邪悪なる者の存在を感知すると青白く光るという同じ特性も持っている(映画ではなぜかグラムドリングの光り輝くシーンはカットされていた)。ここまで酷似しているのだから,おそらく三本とも材質は同じと推測できそうだ。ちなみに小説の中でグラムドリング,オルクリストの二振りは,軽くて丈夫なことで知られる魔法の金属"ミスリル"で作られた剣と表記されているほか,スティングについても非力なホビットが上手に扱っていることから,同様にミスリルである可能性は高そうだ。
小説や映画以外に関連書籍などを調べていたところ,「ロード・オブ・ザ・リング」をテーマにしたテーブルトークRPG「Middle Earth Role Playing」の資料の中に,グラムドリングとオルクリストの材質はイシルナウアであると書かれていた。この金属はエルフが好んで使ったミスリルとチタンの合金で,これによって作られた武具は軽く,強靭で柔軟性すらもあるという。まさに武具にとっては理想的な金属といえよう。
危険を知らせるシグナルは,1000フィート以内から青く発光を始め,101〜500フィート,100フィート以内と危険が近づくごとに段々と強く光り輝くようになる。単に光るだけではなく,距離に応じて光の強弱が変化する設定は面白い。
今回はスティングを中心に紹介したが,「ロード・オブ・ザ・リング」の世界には,非常にたくさんの魔法のアイテムが存在するので,機会があればそちらも紹介してみたいと思う。