産業用バーチャルリアリティ展開催,「触れる3D映像」って?
本日(6月27日)から東京ビッグサイトで,産業用バーチャルリアリティ展という催しが開かれている。名前のとおり「産業用」なので,民生用ゲームには直接関係ないのだが,ゲームの世界,とくに3Dゲームは,ある意味バーチャルリアリティの普及分野でもある。今後のゲーム業界に関係があるかないかは不明だが,バーチャルリアリティの動向を紹介しておこう。
●触れる3D映像? 旭エレクトロニクスが展示していたTangible-3D(開発はNTTコムウェア)は,3Dディスプレイとフォースフィードバック付きグローブを使用したコミュニケーションツールだ。ウリは,3D映像に触ることができるというもの。 ここで使われていた,フォースフィードバック付き3Dデジタイザグローブ「CyberForce」自体はすでに商品化されているもので,一部の3Dデザイナーが使うこともあるようだ。3Dディスプレイと組み合わせて3D空間とリンクさせることで,3D空間に触っているかのように,フォースフィードバックを発生させる。 デモでは,遠隔地(にいることになっている)の人と,画面を見ながら握手ができる様子を実演していた。腕から先,そして指のそれぞれを機器に固定し,画面で見える位置に手を持っていくと,何かにぶつかったような応力がある。 握ってみると,確かに「手応え」がある。まだ,感触云々を問えるレベルではないが,相手が握手した手を動かすと,こちらにも伝わるといった感じで,大雑把な動きは伝えられる。 現在はまだ片方向でしか処理が行われていないので,こちらには相手の手をつかんでいるような感触があっても,向こうでは単に手を差し出しているだけである。双方向でやり取りできるようになれば,コミュニケーションツールとしても使用できるだろう。商品化などについては,双方向化を実現してからのことになるという。 現状では1000万円くらいのお値段ということで,ゲーム用など遠い話ではあるが,産業用以外に民生用への展開も考えているということではあった。
■最近の3Dディスプレイ
会場には,立体映像を表示する3Dディスプレイも多く出展されていた。大画面のもの,ヘッドマウントディスプレイなど方式はいろいろだ。アメリカ製のものでは「用途:戦場における兵士のデジタル化」とかいうものもあった。もはや本気なのかゲームなのか分からない。 以下では,画面型のものについてざっと簡単に説明しておく。画面型3Dディスプレイは,メガネをかける方式と裸眼の方式に分けられる。それぞれの代表的な製品を見てみよう。
●フィリップスの裸眼式3Dディスプレイ 裸眼で3D映像が見えるディスプレイは,液晶ディスプレイなどの画素それぞれに特殊なフィルタ(レンズ)を付けて,正面に出る光を曲げていると考えればいい。右目があるべき位置と左目があるべき位置めがけて,別々の絵を見せるように調整している。 表面が凸凹したビニールのシート(レンチキュラーレンズ)で立体に見える絵や,角度を変えると絵が変わるようなシールと原理は同じである。ただ,これだけだと特定の位置の人にしか立体に見えないので,さらに複雑なレンチキュラーレンズを使って,複数の方向で立体映像が見えるようにしている製品が多い。
会場の目立つ位置に展示されていたフィリップスの裸眼3Dディスプレイでは,5方向に対応していた。 レンチキュラー式の裸眼立体ディスプレイで問題となるのは,解像度の低下である。原理上,同じ画素から複数の絵を同時に出すことはできないので,複数のピクセルでそれぞれの方向の絵を担当することになるわけで,どうしても解像度が低くなる。 フィリップスの製品では,見た目にさほど解像度は気にならず,どうしているのか聞いてみたところ,普通にフルHD液晶を使用しているだけとのことだった。ここ最近,急激に普及しつつあるフルHD解像度の液晶であれば,解像度が下がってもそれなりの絵は表示できるということだ。フィリップスでは,縦横の解像度をそれぞれ半分にしているという(計算が合わない気はするが)。1920×1080ドットの半分なら960×540ドット。旧式テレビよりは遥かに高い解像度である。 この方式の欠点は,フルHD液晶を使っていても,フルHDコンテンツを楽しめないところである。フィルタを取り外すことはできないので,3D専用ディスプレイとしてしか使えない。そのためかフィリップスのディスプレイでは,2D映像を3D映像に変換するデバイスを使用したデモも行っていた。この手の2D−3D変換の試みはかなり以前から行われているが,最近の技術は素晴らしく向上している。ごく普通の映像コンテンツが,かなり自然に立体映像となっていた。 さて,一度に5方向からの左右両眼用画像を用意するには,普段の数倍のレンダリングが必要になるわけで,リアルタイムゲームなどに適した方式とは言い難い。ゲーム用としては,あまり期待できない方式といえる。それでも特別なメガネなしで複数の人が立体映像を楽しめるという利点は大きい。
写真だと立体感が伝わらないが,キーボードの手前あたりに浮いている感じ
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●有沢製作所のメガネ式3Dディスプレイ 会場内をざっと見た中で,一番自然に3Dを表示していたのが,有沢製作所のブースで展示されていたメガネ式ディスプレイだった。有沢製作所では,複数の方式のディスプレイなどを展示していたが(先ほどのフィリップスディスプレイで使われていた2D−3D化技術などもここの提供らしい),イチ押しがこれ。 ここで使われていたメガネ式3Dディスプレイは,画面の1ドットごとに90度ずれた偏光フィルタを貼り付けてあり,偏光フィルタ付きのメガネをかけると,右目用画像と左目用画像が別々に見えるという方式だ。これは古典的手法ではあるのだが,ここの製品は完成度が非常に高い。3D変異量が多いとどうしても二重に見えたりしがちなのだが,このブースの製品では実に自然でクリアな立体映像が実現されていた。聞くと,二重映しなどは偏光フィルタの精度が問題なのだという。実は,有沢製作所というのは,そのフィルタ部分を作っているメーカーだ。 デモ機で展示されていたF-16の映像は,最初はごく当たり前の3D映像なのだが,次第にF-16が近づいてくる様子がリアルに表示されていた。よく「飛び出す映像」と言われているとおり,ディスプレイから50cmほど手前の空間にF-16が浮かんでいるとしか言いようがない。「手を出せば触れそう」というのもありふれたフレーズだが,実際,目の前に存在感を持ってしっかり浮いてるのだから,手も出そうになる(ここまで飛び出させると目の負担も大きいそうで普通はあまりやらないとのこと)。 さてこの方式では,偏光フィルタがついたままでも,3Dモードを切ってメガネさえ外せば通常の2Dディスプレイとして使用できる(解像度の低下はない)。また,NVIDIAのステレオドライバなどを使えば,通常の3Dソフトにもそのまま対応できるということだった。ぜひゲーム用ディスプレイで広く採用してもらいたい技術である。
●光ファイバー式モーションキャプチャ装置 ゲーム関連から少し外れるが,会場で見かけた変わったもの(この会場内にはかなりたくさん変わったものがあるのだが)の一つが,光ファイバー式モーションキャプチャ装置だ。ShapeWrapIIという製品名からして新製品ではなさそうだが,こういう方式を見たのは初めてだ。
最近の3Dゲームでは,キャラの動きはモーションキャプチャの垂れ流しかモーフィングかといった感じで,モーションキャプチャ技術は必須のものとなりつつある。大手のゲームメーカーでは自前で設備を持っている場合もあると聞く。 現在主流のモーションキャプチャ方式というのは,身体の表面に付けたマーカーの動きを複数のカメラで撮影して,それぞれの画像から3D座標を算出していくというものだった。原理は難しくないが,設備は大がかりになる。 新川電機ブースで使われていたのは,光ファイバーである。デモを見ると,身体の手足に沿って,青いテープ状の計測具(シェイプテープ)が貼り付けられている。身体が動くと,このテープ部分が曲がったり,ねじれたりして,それを検出しているらしい。 話を聞いてみると,テープ状の計測具の中には,何本も光ファイバーが入っているという。よく見ると,ところどころ途中でファイバーがUターンしており,それぞれのファイバー1本で1か所の曲がりを検出するようになっている。1本のテープで30か所くらいの曲がりを具合を測定できるらしい。 検出部分ではファイバーに傷が入っていて,曲がるとそこから漏れる光が多くなる。こうして出力される光の減衰量を計ることで,その部分がどれくらい曲がったかを検出する仕組みとなっているという。では,テープの曲がりとねじれはどうやって区別されているのかと聞くと,テープの表裏で2通りのファイバーが入っており,両者の減衰量で判別するそうだ。 腰と頭の部分だけは,ジャイロ式センサで位置測定を行っているものの,ほかはファイバーで動きを追っているという。これだけでちゃんと測定できるものだろうかと思うのだが,画面では身体の動きに合わせて,簡易モデルが動きをトレースしている様子が映し出されていた。うーむ,凄い。
この方式の最大の長所は,導入コストが安いこと,特別なスタジオなどが必要ないこと,ワイヤレスでのデータ測定もできるので,屋外などでも使用できることだという。また,車の中など,カメラ式のモーションキャプチャ装置で扱いにくい場面でも利用できることが利点として挙げられていた。そのほか,曲げ情報を使っているので,手袋に付ければ,指の動きなどをリアルにキャプチャでき,そのデモも行われていた。 得手不得手はありそうだが,カメラ方式では難しい複数人でのモーションキャプチャも簡単だろうから,より複雑な格闘系やスポーツ系ゲームの開発が一気に盛り上がる可能性もある。今後,ゲームのリアリティ向上に一役買うかもしれないデバイスである。(aueki)
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