ついに世界公開されたRPG,「Fallout 3」は核戦争後のOblivionだった!
■Bethesda Softworks,メディア向け発表会を開催
Bethesda Softworks本社
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アメリカ東部標準時2007年6月12日午前11時,Bethesda Softworksはメディア向けの発表会を,ワシントンDCにほど近いメリーランド州ロックビルの本社で開催した。メインとなったのは,もちろん同社が2008年秋の発売を予定しているシングルRPG,「Fallout 3」だ。数点のアートワークと,一本のムービーが公開されただけで,今日まで厳しい情報管理下に置かれていたタイトルである。このメディア向け発表会で得られた情報にも解禁日が決められており,それが現地時間の7月1日(日本時間7月2日)だったというわけである。 ということで,ここではそんな神秘のベールに包まれたニュータイトル,Fallout 3について紹介していこう。とはいえ,そもそもFalloutシリーズってなんすか? という読者も多いはず。まずはここまでの経緯を軽くおさらいしよう。ええ,ちょっとじらしてますよ。
「Fallout」は,1997年にInterplay Productions(当時)から発売されたターン制のRPGだ。クエストに縛られることなく何をやってもかまわないという高い自由度,RPGでは珍しい,核戦争後の荒廃した世界を舞台にしたバックストーリー,そしてゲーム全編を覆う暗いユーモア感覚などから欧米ではヒットしたものの(同年のRPG of the Yearにも選ばれている),その年に発売されたアクションRPG,「Diablo」の大ヒットの陰にすっかり隠れてしまった感のある不遇のタイトルである。1998年には続編「Fallout 2」が発売され,またコンシューマ機向けにもリリースされたりしたが(コンシューマ機版はあまり評判が良くなかった),あくまでカルト的な人気にとどまり,メインストリームになることはなかったのである。 その後,コードネーム“Van Buren”の名の下に「Fallout 3」の開発も予定されていたが,デベロッパのInterplay Entertainmentの資金繰りが悪化し,同社の傘下でFalloutシリーズを開発してきたBlack Isle Studiosが解散。Interplayが事実上PCゲームから撤退したことで,すべての企画は宙に浮いてしまったのである。
かくして,根強いファンは,ああ,これでもFalloutシリーズも終わりだろうとあきらめムードになってしまったが,だが,そんなときに開発に名乗りを上げたのがBethesda Softworksというわけだ。2004年7月に,Interplayのライセンスを受けてFallout 3の開発開始を発表し,つい先日の2007年4月には,Fallout 3のIP(知的財産)に関するすべてを購入したと伝えられた。購入価格は575万ドル(約7億円)とのこと。
公開されたコンセプトアート
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だが,こうしたFalloutをめぐる流れに対する日本の反応は,おおむね「ふーん……」というところであった。もともと日本においてはFalloutの知名度が低いことに加え(そもそも日本語版が発売されていないのだ),2006年3月までBethesda Softworksというデベロッパ/パブリッシャの実力があまり知られていなかったのがその理由だろう。The Elder Scrollsシリーズによって日本にもある程度のファンはいたが,「The Elder Scrolls IV: Oblivion」が出てくるまではやはり,“それなりに普通のメーカー”という雰囲気だったのである。 この状況はOblivionによって一変する。とくに「The Elder Scrolls Vの予定はないのか?」と聞かれたBethesdaの関係者が,「Oblivionのメンバーの多くがFallout 3を作っているので,当分難しい」と答えたことから,年季の入ったFalloutファンの血中アドレナリン値は急上昇したのだ。文明も秩序も失われた核戦争後のアメリカを舞台にOblivionのようにあんなことやこんなことを……。うう,凄い! ということである。
■ついに明かされたFallout 3の正体は……
Fallout 3のエグゼクティブプロデューサーであるTodd Howard氏。Oblivionでもプロデューサーを務めており,海外サイトを丁寧にフォローしている人なら,あちこちのインタビューで彼の姿を見かけただろう。Bethesda創立に関わるキーパーソンでもある
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Bethesdaの本社は,合衆国首都であるワシントンDCから北西に車で40分ほどのところにある。本社といっても,なんの変哲もない低層の貸しオフィスの一棟で,自社の看板すらないというきわめて質素な雰囲気の建物だ。カメラ映えはまったくしないが,話によるとアメリカではどこのデベロッパの社屋も似たようなものらしい。 正面に大きなスクリーンが据えられた地下のカンファレンスルームに集まったメディアや関係者は,約50名。MTVなどのテレビクルーの姿も見られ,またアメリカだけでなくオーストラリアやヨーロッパ各国のメディアも来ており,率直な話「そんなに凄かったっけ,Falloutって?」という気持ちもしないでもない。これは,Falloutシリーズの最新作に対するというよりは,Bethesda最新作への期待感の高さの現れだ。 もちろん,4Gamerを含めて日本のメディアも数社来ていたが,どちらかといえばお目当てはコンシューマ機用にスパイクから発売される日本語版「The Elder Scrolls IV: Oblivion」であり,PCゲームメディアである我々と日本のほかの取材陣とでは,Fallout 3に対する若干の温度差があったのも事実だ。
それはともかく,Fallout 3のエグゼクティブプロデューサーであるTodd Howard氏による挨拶およびこれまでの制作経過の説明に続き,いよいよ実際にゲームを動かしてのデモンストレーションが行われた。ちなみに,動いていたのはXbox 360版で,今のところ最も開発が進んでいるのがXbox 360用だとのこと。対応プラットフォームとして予定されているのはXbox 360とPlayStation 3,そしてもちろんPCである。 オープニングムービーに続いてスクリーンに映し出されたのは,レトロフューチャー感覚溢れる,誰もいない研究室だ。部屋の大型コンピュータの磁気テープがくるくる回り,ターミナルは懐かしいグリーンモニター。グラフィックスのトーンは,「1950年代の人々が想像し,恐怖した核戦争後の世界」という一ひねり半ぐらい加えた設定であるため,ハイテクなようでいてどこかローテクな雰囲気だ。 グラフィックスエンジンは,基本的にOblivionでも使われたEmergent Game TechnologiesのGamebryoが使用されているが,剣と魔法の世界から銃撃と爆発の世界に変化したことにより,さまざまな改良が加えられている。 とくに人物の再現と,銃撃によってえぐられたり破壊されたりといった表現,そして弾痕のリアリティなどが主眼に置かれているとのこと。とはいえ,荒廃した世界が舞台となっているためデモを見る限りでは,Oblivionで美しい木々の姿を見せたSpeedtreeの出番はなさそうだ。 画面写真からも分かるように,ディテールはあくまで細かく見事だった。事前の説明でさんざんFalloutシリーズの2D画像を見せられていたせいもあるだろうが,あらためてその違いに驚く。初登場から10年経っているのだから,まあ当然と言えば当然だが。
■舞台は核戦争によって荒廃した270年後のアメリカ
時代は2277年と,それなりに先の未来だ。200年前,つまり2077年に起きた核戦争で地上は荒廃し,人類は“Vault”と呼ばれる地下シェルターの中で生まれ,育ち,死んでいく。ここは,そんなシェルターの一つ,Vault101。今や“Capital of Wasteland”(荒れ果てた首都)として知られるかつてのワシントンDCのほど近くにある。 FalloutはRPGであり,Oblivion同様にシングルプレイ専用だ。彼らがシングルプレイにこだわるのは,ゲームのストーリーを最も重要視しているからである。ほかのプレイヤーとの関わりの中でストーリーが刻々と変わっていくマルチプレイも確かに面白いが,そういうゲームを作るつもりは今のところないとのことだった。 ゲームの基本視点は一人称だが,コンシューマゲーム機のプレイヤーに受けがよい三人称視点に切り替えることも可能だ。Oblivionではあまり評判のよくなかった三人称視点だが,さまざまな要望を取り入れて,カメラの動き方などを細かく改良してあるという。いずれにしろ,一見すると最新FPSのワンシーンのようだ。
プレイヤーキャラクターはこのVault101の病院で生まれ,ある年齢までここで暮らす。この部分はチュートリアルも兼ねており,訓練しテストを受けることでSkillを獲得したり,ステータスポイントを自分のキャラクターに割り振ったりする。主人公の父親も登場し(母親は主人公が生まれるときに亡くなっている),彼の口からさまざまな情報を得ることになる。ちなみにキャラクターは父親のDNAを受けついでおり,彼の容姿は作成した自分のキャラクターによく似ているとのことだ(順序としては逆だが)。 この幼/少年時代のパートはかなり長く,プレイヤーが自分のキャラクターに親近感を抱くことも目的の一つになっているが,どれくらい長いのか,どういう出来事があるのかについては開発中で,まだ確定的なことは言えない。 重要なのは,ここで手にするPip-Boy Model 3000というデバイスだろう。腕に装着して,特別に伸ばしたいスキルの選択やステータスの割り振りなどを行うという,要するにユーザーインタフェースなわけだが,フィーチャーされているのがFalloutシリーズを通して登場する,Pipboyというキャラ。なにやら1950年代のSFアメコミのような能天気な絵柄だが,いくつか紹介されたイラストでは「可愛い顔してやることは残酷」といったアンビバレントな雰囲気を持ち,Fallout 3(およびシリーズ全作)のイメージを象徴するマスコットになっている。 ちなみに,“S.P.E.C.I.A.L.”と名付けられたスキルシステムはOblivionとよく似ており,かなり多くの数が用意されたスキルの中から,特別に成長させたいものを三つほど選べる。銃をバリバリ撃てば銃撃のスキルが伸び,スニークを多用すればスニークのスキルが伸びるという仕組みだが,スキルの成長のさせ方についても,まだいろいろと変更が加えられる予定である。
■高い自由度と意外なほどの残酷さ ■そして特徴的な戦闘シーン
そんなある日,主人公の父親が指導者達の意向に逆らって,Vault101から姿を消すという事件が発生する。ゲーム全編を通して父親は重要な役割を演じることになり,ボイスアクターとしてハリウッドスターのリーアム・ニーソンさんが起用されているほどだ。というわけで,主人公も父親の後を追い,警備員の制止を振り切ってシェルターの外へ出る。 生まれて初めて見る太陽。いまだに放射能を帯びた危険な大気。そしてもちろんモンスター,盗賊,ギャング,さらにはミュータント。危険きわまりない世界へようこそ。 外の世界はオープンエンドで,プレイヤーは自分の好きな場所に行けるが,エリアからエリアに移動するときにはローディングが起きる。また,残留する放射線の値が高かったり,単純に強力なモンスターが多くて,それなりのスキル/装備が整わないうちは行けない場所というのも存在するらしい。 清潔な病院のようなVault101内と比べ,外の世界は荒れ果てている。全壊した家屋やビルの残骸,そして核の炎に焼かれて舗装のめくれ上がった道路など悲惨きわまりないが,それでもどこかアメリカの,というかワシントンDC近郊の雰囲気を漂わせている。
やがて主人公は“メガトン”と呼ばれる町に入り,そこで怪しげな男からミッションをオファーされる。メガトンは,Oblivionの拡張パックである「The Elder Scrolls IV: Shivering Isles」をプレイした人ならその雰囲気を想像しやすいと思うが,狂気に満ちた小さな町だ。町の入り口に立っている男はわけの分からないことを言い,町の中央にある不発の核爆弾に祈りを捧げる司祭がいる。ミッションは,その不発弾に起爆装置を仕掛け,その後,廃墟の某所で落ち合おうというもの。受けるも受けないも自由だが,発表会でのデモンストレーションでは,受けることにしていた。 言われたことを実行してメガトンを出ると,本格的な戦闘が待っている。地下に下り,荒廃した水路を進んでいくと突然,武装したミュータントが攻撃してくるのだ。戦闘はまるでFPSで,とりあえず右に左に動き回り,オブジェクトの陰に隠れて銃弾を交換することになる。残念ながら,今のところ敵のAIはそれほど優秀とは見えず,同じ場所に立ちっぱなしで攻撃し続けたり,こちらに一直線に向かってきたりする。このあたりは,これから練り込まれる部分だろう。
V.A.T.S.戦闘システム
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ここで,これまたPip-Boyを使うV.A.T.S.(Vault-Teck Assisted Targeting System)と名づけられた戦闘システムが紹介された。これは,ポイントを消費することで戦闘にポーズがかかり,敵の部位ごとの命中公算が表示され,攻撃する順番などを決定できるというものだ。なんとなくターン制の戦闘を思わせ(攻撃は一方的にこちらが行うわけだが),アクションが苦手という人でも問題が少ないかもしれない。また,消費ポイントは時間と共に回復するので,なくなったらしばらく逃げ回ることになる。 プレイヤーはミュータントの頭部を狙い,時間を戻すと見事に命中。モンスターの頭は木っ端微塵に吹き飛び,弧を描いて飛んできた目玉が側溝に転がった。 そう,残酷さやむごたらしさもFalloutシリーズの大きな特徴である。プロデューサーのTodd Howard氏は,「The Simpsons」の劇中(残酷)アニメ,「Itchy & Scratchy」を例にひいて,「残酷さとユーモアは表裏一体の関係にあるんだ」と語る。事の是非はともかくとして,Falloutシリーズは,暴力とドラッグとアナーキズムが支配する世界が舞台。会話も大人っぽく,インモラルなミッションも数多い。スプラッタムービーを見て大笑いするように,徹底した残酷さを,ブラックジョークの域に高めることもまた開発目的の一つなのだ。 まあ個人的には,さほどの残酷さを感じなかったものの,Oblivionで一躍メジャーデベロッパとしての認知度を上げたBethesdaが,次のタイトルとして,ある意味非常に危なく,コアなゲーマーにしかアピールしなさそうなFalloutを選んだところに,同社の個性がよく見られるのかもしれない。
その後,「小型核ミサイル投射機」といったいかれた武器でボスモンスターを倒したり,簡単なパズルを解いて200年間休眠していたロボットを再起動し戦いに参加させたりなど,さまざまな要素を我々に見せたあと,プレイヤーキャラクターは怪しげな依頼主と落ち合った。彼はトランクを開いて起爆装置を見せ,主人公が言われるままにスイッチを押すと,メガトンの町は本当にメガトン級の核爆発によって消滅してしまうのだ。あらまー! 実際のゲームにおいてこのミッションを受けてクリアすれば,当然ながらこれ以降,メガトンの町で受けられるはずのミッションはなくなってしまう。だが,例えばメガトンに対抗する町で主人公の評判が高まり,そこで新しいミッションが発生するだろう。こういった具合に,ストーリーラインは単純ではなく,またマルチエンディングにもなっているため,Oblivion同様,リプレイ性は高そうだ。その複雑なストーリー展開や雰囲気からウォーレン・スペクター氏の「Deus Ex」を思い出した人もいるだろう(私は思い出した)。うまく開発が進めば,ゲーム史上に残る傑作Deus Exを凌ぐゲームになるかもしれないという予感もしてくる。
■日本での知名度はイマイチだが,今後の展開が楽しみ
以上でデモは終了となり,次いでTodd Howard氏に対するメディア合同のQ&Aが行われた。それに絡め,ここでちょっとFallout 3についてまとめてみる。 まず,Oblivion関連の開発は,Shivering Islesをもって完全に終了し,Oblivionのメインスタッフ(約60名)は,すべてFallout 3の開発に移行している。ただし,Falloutシリーズの従来作を制作してきたBlack Isleのスタッフは参加していない。 発売は2008年秋を予定しており,対応プラットフォームはPCおよびXbox 360とPlayStation 3。PC版はDirectX 10には対応予定だが,Windows Vista専用になるかどうかは未定であり,Todd氏からは「どうも,Vistaは……」と微妙な発言も。 繰り返すが,ジャンルはシングルプレイ専用のRPGで,正義のために生きようと,悪人になろうとかまわない自由度の高さ,S.P.E.C.I.A.L.と呼ばれるスキルシステム,V.A.T.S.と名付けられた戦闘システムが三大特徴だ。暴力とドラッグが支配する荒廃した世界を背景にしたブラックなユーモアとクセの強いキャラクターという要素は,シリーズ従来作を強く踏襲したものとなる。
日本では「Falloutの新作だ! やったー!」という人はそんなに多くないと思うが,ある意味かなりとんがったタイトルであることに間違いはなく,今後の展開次第では日本でもアピールするかもしれない。本日の公開以降,さらにさまざまな情報が出てくると思われるので,今後もこの問題作についてはフォローを続けていく予定。ぜひぜひお楽しみにしてほしい。
最後に,今回入手したFallout 3のティーザームービーを掲載しよう。すでに公式サイトで公開されているムービーと内容は同一だが,その高解像度版。ごきげんなオールディーズが流れる中,荒れ果てたワシントンDCの姿が映し出されるというシンプルなものだが,ゲームの底にある雰囲気がよく分かる一本となっている。ぜひダウンロードしてほしい。(松本隆一)
→ムービーのダウンロードは「こちら」(2分25秒:WMV) ※ダウンロード詳細:131MB(138,078,104バイト)
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