― レビュー ―
Monte Cristoのライトな第二次世界大戦RTS第3弾
1944〜バルジの戦い〜
Text by UHAUHA
2005年12月2日

 

■ドイツ最後の攻勢作戦「バルジの戦い」を再現したRTS

 

アルデンヌの森一帯で,歴史的な戦闘が繰り広げられたバルジの戦いを描いた本作。メインは極寒の森林地帯や市街地での戦車戦で,連合軍とドイツ軍による押しつ押されつの激しい攻防戦を味わえる

 第二次世界大戦末期に行われた,ドイツ軍最後の攻勢作戦である「バルジの戦い」を再現したリアルタイムストラテジーゲーム「1944〜バルジの戦い〜 日本語版」が,ズーより発売された。

 

 本作は,「デザートラッツ 〜 砂漠の鼠 vs 北アフリカ軍団 〜」「D-DAY 〜ノルマンディー上陸作戦〜」(共に日本語版がズーから発売中)と同じゲームエンジン,ゲームシステムが採用されており,シナリオが違うだけでほかの部分は同じなので(チュートリアルも共通だ),前作をプレイした人であればマニュアルを読む必要すらない。基本的な部分やインタフェースなどは,前作のレビューで触れているので,併せて読んでもらいたい。

 

 「バルジの戦い」とは,ドイツ軍の進攻により戦線の一部が突き出したことから,バルジ(突出部)の戦いと連合軍が名付けたもの。この戦いは「アルデンヌ反攻」(またはアルデンヌ攻勢)として知られているが,ドイツ軍の正式作戦名は“ヴァハト・アム・ライン(ラインの守り)作戦”といい,連合軍情報部に情報が漏れたとき防衛作戦と思わせるために,この作戦名が付けられたという。

 

 1944年9月4日,イギリス軍は戦略物資(兵員,兵器)の陸揚げ港となるアントワープ(ベルギー)を解放し,ここを連合軍の補給拠点としようとした。だが,アントワープを使われると敗北が見えているドイツ軍は,アントワープそのものこそ奪われたものの,周辺を制圧して補給経路を明け渡さなかった。この状況を打開するため,9月17日にドイツ本土へ侵攻するマーケット・ガーデン作戦を連合軍が行なうが,失敗に終わる。
 補給を受けられない連合軍は進撃を中断し,補給経路を確保する必要があった。同じ時期,独ソ戦となった東部戦線もソ連軍の進攻が止まって小休止状態にあり,この機会に乗じてヒトラーが計画した作戦がバルジである。アルデンヌの森を進み,一気にアントワープを奪回,西部戦線北側の連合軍を壊滅させるという“奇襲”ともいえる作戦だ。決行は悪天候のため連合軍の制空権を無効にできる12月に定められ,そして1944年12月16日,ついにドイツ軍の進撃が始まった……。

 

歩兵の中には冬季迷彩服を着用している者もいるが,発見されにくいなどの違いは感じられないかも 特殊攻撃(砲塔/キャタピラ攻撃)を使うと敵戦車を奪取しやすい。多くの敵戦車を奪い取れば有利になる 森林地帯で火炎放射を使う(使われる)と,一気に燃え広がる。運用を誤ると,逆に自軍の被害となるのだ

 

航空機による爆撃要請も可能。遠距離攻撃可能な砲台などを発見したら,爆撃で叩いておくと展開がラクに フリーカメラモードを使えば,RTSとは思えない迫力の視点に。とはいえ,この視点のままプレイするのは難しい ゲーム中のテキストはすべて日本語化されている。シナリオ冒頭のストーリーを見逃しても,あとで確認可能だ

 

 

■シナリオごとに自軍が連合軍,ドイツ軍と入れ変わるキャンペーン

 

最強の71口径88mm砲を主砲に持つ,ドイツの重駆逐戦車ヤークトパンター。たった3両で多くの連合軍戦車を破壊して進んでいく姿は迫力満点だ。大量生産で頭数を揃えた連合軍,製造台数は少なくても性能を重視したドイツ軍の違いを感じられるかも

 メインとなるゲームモードは「キャンペーンモード」で,第一章「バルジの戦いへのプレリュード」,第二章「バルジの戦い」,第三章「ノルトヴェント作戦と最終的な一連の戦闘」の3章に分けられた,計20のシナリオに挑戦できる。各シナリオにクリアすべき主目標のほか,隠し目標があるのは前作と同様。同一キャンペーン中に,連合軍側だけでなくドイツ軍(枢軸軍)側のシナリオも含まれているところが面白い。ドイツ軍の攻撃に耐えながら反撃していく連合軍側,そしてアントワープ奪還を目指し進軍するドイツ軍側,双方の視点から激しい攻防戦となったバルジの戦いを味わえるのだ。

 

 一度クリアしたシナリオは「シナリオモード」で何度でも挑戦できるが,前作では標準の部隊編成のほかに自由に部隊編成を作ってプレイできたのに対し,本作では標準の部隊編成のみ使用可能となっている。同じシナリオでも,部隊編成を変えることで違った面白さが味わえただけに,少々悲しいところ。

 

 また,前作D-DAYでは「Normandie Memoire協会」の全面協力により,各シナリオのブリーフィング画面から「歴史的背景」「ミッション史」が見られたり,メインメニューにある「付録」で,当時のさまざまな資料や情報を参照できたのだが,このへんが今回はない。一読してからプレイすると一段とゲームの世界に引き込まれただけに,非常に残念である。

 

 IP接続とGameSpyによる最大4人までのマルチプレイモードでは,15種類の専用マップが用意されており,「征服」「フラグ奪取(CTF)」「デスマッチ」の3種類のゲームモードを楽しめる。登場するマップは,バルジの戦いが冬季だったこともあってか,雪景色のマップが多い。なお,マルチプレイではMP(ミッションポイント)を消費することで自由に部隊編成が組めるので,出会ってみないと分からない対戦相手の部隊編成を予測しつつ,自軍の部隊編成を組み立てるといった駆け引きがある。

 

建物の中からの攻撃も,戦車部隊の前には無力だ。戦車部隊を進軍させて敵を蹴散らしていくのも本作の醍醐味 戦車がダメージを負ったら,後退させて修理トラックを向かわせる。1台でも失うと戦力低下を実感させられる 兵器に歩兵を乗せると歩兵ボーナスが付く。将校を戦車に搭乗させるのがお勧めで,かなりの戦力アップになる

 

世界最強のヤークトティーガーは道路以外を走るとキャタピラが破損するため,地雷を撤去しながら道路を進む 各シナリオにはクリアに必要な目標のほか,隠し目標も用意されている。これを達成するのも本作の面白さの一つ リュティヒ作戦,グライフ作戦,バストーニュ戦など有名な戦いもある。史実を把握して挑戦すると面白さ倍増

 

シナリオ一覧

●第一章 バルジの戦いへのプレリュード

ノルマンディからフュルトゲンの森まで

  • コーモンにあるヤークトパンター(枢軸軍)
  • リュティヒ(モルタン)作戦(連合軍)
  • カール谷(連合軍)
  • フュルトゲン森のフォッセナック(連合軍)

 

●第二章 バルジの戦い

アルデンヌ地域におけるドイツ軍反攻

  • ビュトゲンバッハ(連合軍)
  • ローズハイメルグラーベン(枢軸軍)
  • クリンケルト・ロッヘラート(連合軍)
  • ウィルツ河の横断(枢軸軍)
  • サン・ヴィット(連合軍)
  • グライフ(奪取)作戦(連合軍)
  • ロングヴィリー(枢軸軍)
  • バストーニュ(連合軍)
  • バラック・ド・フレートゥール(枢軸軍)
  • ユマン(枢軸軍)
  • マンヘイ(連合軍)
  • セル・ポケット(連合軍)

 

●第三章 ノルトヴェント作戦

(アルザス地域におけるドイツ軍の攻勢)と最終的な一連の戦闘

  • ラ・グレーズ(連合軍)
  • ノルトヴィント作戦(枢軸軍)
  • コルマール・ポケット(連合軍)
  • レマーゲン橋(連合軍)

 

 

 

■頼れる戦車部隊も,市街戦では不利になることが多い

 

シナリオの中には次々に敵が攻めてくるものもあり,敵の攻撃に耐えうる兵器を配置して対応することになる。歩兵を搭乗させて歩兵ボーナスをうまく使い,少ない車両で対応するのも手だ。それにしても物凄い数の死体(敵兵)だ

 本作に登場するユニットを見てみよう。兵士ユニットは,将校,ライフル兵,機関銃兵,狙撃兵,バズーカ兵,火炎放射兵,偵察兵,工兵,衛生兵で,前作から変更なし。一方,兵器では新しいユニットが追加された。
 連合軍ではカリオペ,M4A3シャーマン105mm,M3A1,P47サンダーボルト,M8グレイハウンド軽装甲車,枢軸軍では遠距離攻撃可能なネーベルヴェルファー(ロケットランチャー)のほか,ヤークトパンター,ヤークトティーガー,シュトルムティーガーといった重量級戦車も登場し,歩兵,兵器ユニットと合わせると85種類を扱える。
 メインメニューから選べる「兵器事典」で,各ユニットの詳しい説明や特性などが見られるので,兵器マニアでなくても一読しておくと,ためになるだろう。

 

 今回は戦車戦がメインなので,歩兵は建物に配置して防御線に使ったり,兵器に搭乗させて探索範囲を広げたり,射撃精度を上げたりなど,加味されるボーナス要素のために使うことが多い。もちろん,これは筆者のプレイスタイルであり,あくまで歩兵部隊を使って敵を撃破していくというのもアリだろう。

 

 RTSの戦車戦というと,グループ化して大編隊でドカドカと突進していくイメージだが,いつもそううまくいくとは限らない。本作では市街戦が多く,何も考えずに街の中に戦車部隊を入れると,大きな損害を被ることになりかねないのだ。というのも,市街地では道幅が狭いうえに両側に建物があるため,戦車の動きは自然と制限される。先頭の戦車がキャラピラを破壊されただけで,後続の戦車がすべて身動きの取れない状況になるのだ。
 しかも,敵戦車が見えていても建物が邪魔をして攻撃できず,あたふたしている内に攻撃を受けて破壊されたなんてことは多い。そうならないためにも,斥候を出して先の状況を知る,歩兵をうまく運用する,移動ルートにある建物を破壊しながら進むなど,状況に応じた対応が必要だ。

 

 また,味方にいると心強く,敵側にいると気が滅入るのが遠距離攻撃兵器だ。偵察兵を使って敵の位置を把握し,これらの砲撃兵器を射程圏に移動させて攻撃する。意外と命中精度が高く,ボーッとしている敵が次々と死んでいくのを見ているのは「ざまーみろ」と思ってしまう気持ちの良さだ。とくにシャーマンの上にロケットランチャーを搭載したカリオペは,移動性能,射程,攻撃力とも申し分なく,使いこなせば有利に展開していける。
 だが逆に,敵にこちらの位置を察知されると,途端にどこからともなく砲撃を受ける。必然的に,少し進んで近くの敵を倒し,遠距離攻撃でダメージを受けたら後退して修理……といった,地味な戦法になりがちだ。
 前作では戦車部隊同士のぶつけ合いになりがちだったマルチプレイは,これらの兵器の登場で戦術が大きく変わるため,一味違った対戦を楽める。

 

 本作はいわば前作のシナリオ追加版で,新要素がほとんどないのは残念だが,シリーズのファンはぜひ“続き”をプレイしてドイツ軍敗北までのストーリーを堪能してほしい。大量の戦車部隊を動かして敵を倒していくというのは,ミリタリーRTSでしか味わえない部分でもあり,とくに本作は戦争終盤の強力な戦車による力押しが楽しめる。そのため前作D-DAYよりも初心者向きで,シリーズとしては後発だが,むしろ本作から始めてもいいくらいだ。ぜひ本シリーズで歴史を体験してほしい。

 

圧倒的火力で進軍する戦車部隊も,市街地の細い道路では機動力がゼロになる。ここで攻撃されればアウトだ 市街戦では建物が邪魔をして攻撃できないことも多い。建物を破壊して死角を解消するのも手だろう M4A1シャーマンにT-34ロケットランチャーを取り付けたカリオペ。遠距離攻撃で離れた位置から敵を粉砕できる

 

フリーカメラモードでしか見られない,キャタピラに付いた雪。RTSでここまで再現しているのは珍しい 兵器事典で歩兵,兵器ユニットの詳細が見られる。前作のものに追加されたため,本作に登場しないものもある 前作はシナリオ単体でプレイする場合,自由に自軍部隊編成を組めたが,本作ではマルチプレイでのみ可能となった

 

タイトル 1944〜バルジの戦い〜
開発元 Monte Cristo 発売元 ズー
発売日 2005/11/25 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98SE/Me/2000/XP(+DirectX 9.0c以降),CPU:Pentium 4/1.40GHz以上[Pentium 4/2.50GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

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