複数のジャンルがクロスオーバーした作品
ドイツ軍の戦車に対戦車ロケット弾が命中! 物理エンジンの搭載により,戦車だけでなく周囲の兵士も吹っ飛ぶことになる |
「FACES OF WAR」(以下,FoW)は,第二次世界大戦後期を舞台とした3DミリタリーRTSだ。だがスクリーンショットを見て「ん……? これってRTSなの?」と思った人も多いのではないだろうか。
近年発売されるゲームは,既存のジャンルでは分類しきれないものが多い。多くのアクションシューティングはストラテジー要素を加味しており,ストラテジーはユニットのレベルアップなどRPG要素を取り入れ,RPGはもはやアクション性のないものを探すほうが難しい……。といった具合に,それぞれのジャンルの中からオリジナル色を出し,傑出した作品となるよう,さまざまな要素を付加している。ありきたりの作品ではヒットが見込みづらいゆえに,ジャンルのクロスオーバー化が進んでいるのである。
今回紹介するFoWもそうだが,スクリーンショットを一見しただけで,RTSと思えるだろうか。もっとも,アクション色の強いRTSというのは以前から存在していたので,とくに目新しいというわけでもない。だがFoWでは,さまざまなアイデアを注ぎ込むことによって,個性的なプレイ感を醸し出している。FoWはジャンルでいえば3DミリタリーRTSなのだが,そのプレイ感はこれまでのRTSにはないものだ。
FoWは,日本語版も発売された「ソルジャーズ」(原題:Soldiers : Heroes of World War 2)と同じ,Best way社が開発したゲームで,プレイ感やグラフィックスなどに多くの類似点が見られる。しかしソルジャーズで見られたほどに,プレイの自由度は高くないようだ。
ちなみに本作は,日本語マニュアル付き英語版である。ゲーム内も日本語字幕などは一切ないので,英語はさっぱりという人は注意が必要だ。それは仕方ないが,マニュアルには操作方法しか書かれておらず,なんの色気もないマニュアルなのが気になった。販売元であるフロンティアグルーヴのウェブサイトも,ほんの1ページに箇条書きが載っている程度である。販売元にはぜひとも「売る気」を見せてほしいところだが……。
オープニングムービーより。割と短めだが,スピード感あふれ,気分を高揚させる内容のムービーだ | メニュー画面。チュートリアルはキャンペーンに組み込まれているため,項目としては表示されていない | キャンペーンはドイツ軍,連合軍,ソビエト軍の三つが用意されている。それぞれ内容の濃いミッションだ |
ミッション選択画面。人物ごとに五つのミッションがある。下の人物ほどエリートで,より高度な作業ができる | 川に停泊していた砲台つきの台船を,バズーカで撃沈! FoWは爆発のエフェクトが派手で,見た目にも爽快だ | FoWにはさまざまな兵器が登場し,中には火炎放射器もある。火だるまで逃げ惑う敵の兵士が分かるだろうか? |
従来のRTSでは考えられないテンポの良さの理由は?
FoWで,戦車を破壊する方法は一つや二つではない。状況に応じてどんな方法で敵を無力化させるかも,腕の見せどころだ |
本作を特徴づけているのは,その特殊な操作性に起因する,ゲーム進行のテンポの良さだ。まず,立つ/しゃがむ,応戦するといった基本的な動作は,マップ上に存在するすべての兵士達がそれぞれの判断で行う。例えば敵との交戦中に手榴弾が飛んで来たとき,プレイヤーが手榴弾から離れるよう指示しなくても,兵士達は勝手に手榴弾から逃げ,地面に突っ伏す。歩兵との交戦中に戦車が目に入れば,対戦車ロケット砲に持ち替えて攻撃する……といった具合だ。ある程度まではAIが勝手に行動してくれるので,プレイヤーはより広い視野での指示に専念できる。
しかも,その指示方法が洗練されている。例えば遮蔽物を利用した移動の場合,何らかの利用できそうな遮蔽物にカーソルを持って行くと,そこに分隊のシルエットが表示される。実際には遮蔽物はそこかしこにあるので,ひとたびカーソルを動かせば,ありとあらゆるパターンのシルエットが矢継ぎ早に表示される。そこから最適な位置取りを選択してクリックすれば,そこに分隊が移動し,選択時にシルエットがとっていた姿勢になる。
また,兵士がとれる行動もバラエティに富んでいる。基本的な動作のほか,死体や乗り物を調べる,壊れた車両を修理する……など,戦場で必要な行動はおよそカバーされているだろう。ただ,あまりにも選択肢が多いため,ショートカットキーのパレット切り替えなどが必要で,場面によってはもどかしさを感じる部分もあった。そのうえ視点(カメラ)の移動も手動なので,操作が忙しく感じられてしまう。とはいえAIがしっかり働いてくれるので,多くのRTSのように腱鞘炎になるほど操作が忙しいというわけではない。
先述のとおり,AIは非常によく作り込まれていて,プレイヤーが何もしなくても兵士達は遮蔽物を活用した応戦などの反応を示す。AI兵士達は,ほぼその時点ですべき最適な基本的行動をとるのだ。ただし自発的に体力を回復したり,弾薬が尽きて周囲に落ちている適当な武器や弾薬を拾って攻撃したりといった細かい動作はしない。プレイヤーの作業(判断)は,移動,どの遮蔽物を利用するのか,あるいはどの敵を攻撃するのかといったことが主になる。
全体的なゲーム性としては,コマンドスシリーズに近いかもしれないが,ハッキリそう言ってしまうのも乱暴だろう。コマンドスシリーズはアクションアドベンチャーに近いが,FoWは三人称視点のシューティングゲームに近い存在といえる。実際,レティクル(照準)をプレイヤーが直接操作して,意のままに射撃できるのだ。そっちの敵は無視して向こうの敵を攻撃してほしいのに,どうしても違うほうを攻撃してしまう……というのは,RTSでよくある悩みだ。しかしFoWの場合,そんな場面ではプレイヤーが直接,特定のユニットのレティクルを操作して撃てばいいのである。その間も分隊のほかの兵士は(移動はしないまでも)しっかり働いているので,安心して一兵士の操作に専念できる。
画面左下に写っている白い人形のようなものが,「シルエット」だ。身を隠す遮蔽物や体勢を指定できる | 夜間での戦闘も臨場感たっぷりだ。激しい戦闘のなか,暗闇に光るマズルフラッシュが恐ろしくも美しい | 激しい戦闘のあった場所には,敵味方の兵士が落とした武器や装備品が散らばっている。もちろん拾って使える |
敵の戦車が渡ってくる前に,橋を爆破! これはスクリプトによるものだが,ドラマチックな演出に成功している | チュートリアルミッションでは,走り方,泳ぎ方,梯子の登り方,扉の開け方など,あらゆる基本動作を習得できる | 箱や車両,遺体などを調べるとインベントリが開かれる。マスに収まる限りの装備品,携行品を頂戴してしまおう |
大味だが新たな可能性を感じさせる
実際にここまでカメラをユニットに接近させても,きちんとRTSとしてプレイできるゲームは稀だろう。臨場感では右に出るものなしだ |
キャンペーンはドイツ軍,連合軍,ソ連軍の三つが用意され,それぞれ10個のミッションが収録されている。そのうち二つはチュートリアルなので,実質のミッションは24個と考えていいだろう。少ないと感じるかもしれないが,実際にやってみるとひとつひとつのミッションにボリュームがあるので,かなり手ごたえを感じることだろう。「ノルマンディ上陸作戦」「バルジの戦い」など,有名な戦闘も多く含まれていて,実にやりがいがある。
ミッションが始まると,ブリーフィングもなくいきなり最前線へ送り込まれる。ちょっとしたCGムービーで戦況やミッションの目的などが語られるが,これが英語のまま(英語字幕は表示される)なので,筆者のようにさほど英語が得意でない人にとっては,分かりづらいのが難点だ。戦場の臨場感はかなりのもので,そんじょそこらのFPSにも負けてはいない。
3D描画は独自のエンジンによるもので,テクスチャも細かく,スクリーンショットからも分かるようにRTSとは思えないほどの描画だ。物理エンジンも搭載されているようで,爆発によるエネルギーの波及で周囲のものが吹っ飛んだり,壁が破壊されたりする。マップ上のすべてのオブジェクトが破壊できるあたりは「ソルジャーズ」譲りで,戦術にも活用できることだろう。また鋼板などの硬質なものに当たったときの跳弾や,頭部をかすめたときヘルメットが吹っ飛ぶといった細かい部分も表現され,リアリティ豊かな戦場が描かれている。
だが描画以外では,逆にリアリティを削いでいる部分もある。バンデージ(包帯)で体力をフル回復できる,戦車の砲弾や手榴弾で吹っ飛ばされてもしばらく失神するだけで死なない,戦車があまりに簡単に破壊できる……などだ。とはいえ,そもそもFPSではないわけだし,小人数を操作するRTSであることなど考慮すれば,ゲームとして成立させるため仕方のないところなのだろう。しかし大味なゲームになってしまっているというのは否めない。ハッキリいってしまうと,全体的に今一つ練られていないのではないかと感じた。
……書けば書くほど説明の難しいゲームである。ジャンルとしてはRTSで間違いないと思うのだが,明らかにオーソドックスなRTSとは異なる。「コマンドス」を引き合いに出したが,それとも違うし,「SWAT」や「ゴーストリコン」とも違う。筆者にとって,この作品はかなり困惑させられるゲームとなった。
「で,ぶっちゃけ面白いわけ? 面白くないわけ?」と問われれば,少なくとも私は「面白いよ」と答える。このゲームのテンポ感や臨場感は,ほかのゲームではなかなか味わえないもので,ミッション内容も非常に楽しめる仕上がりである。
面白いのに,いろいろ難癖つけたくなるという,何とも不思議なゲームである。ありきたりのゲームではないことは確かだ。本作はやや中途半端な印象を拭えないものの,次回作,あるいはその次あたりで大化けするポテンシャルを秘めているように感じた。プレイヤーによって好き嫌いの分かれる作品だとは思うが,多くのミリタリーファンに,ぜひ一度プレイしてみてほしい作品だ。
家だろうと塀だろうと,マップ上にあるオブジェクトはすべて破壊可能。こんなに手荒に屋内の敵を排除する方法もある | 夜間に敵に奇襲をかけるべく,揚陸艇で海岸に上陸。スニークミッションに使われそうなシチュエーションだが…… | 視点を目いっぱい上に引き上げると,こんな感じになる。こうするとオーソドックスなミリタリーRTSに見えなくもない |
RTSとしては驚きな,ディテールにこだわった描写がされている。マシンパワーもそれなりに必要となるのだが | 迷路のような庭園での戦闘。夜間どこから撃たれているのか分かりづらいが,敵のハイライト表示もできる | 塹壕での戦闘は,敵味方ともに弾が当たりにくいので多少イライラする場面。遺体から手榴弾をかき集めておこう |