さかのぼること約4か月,2005年9月に行われた東京ゲームショウ 2005会場で,コーエー広報の口から,三國志シリーズの新作の話を聞いた。このときの東京ゲームショウでは,同社のPCゲームタイトルとしては「信長の野望 Online〜飛龍の章〜」と「大航海時代 Online」が映像出展されていたのみ。コーエーのブースを取材したものの,どう記事化するか考えあぐねていた4Gamer取材班に対するリップサービスだったわけだ。
そして2005年12月22日,コーエーは予告どおり,三國志11を正式に発表した。とはいえ,無理をおしての発表だったのか,出てきた情報は豊富とは言えなかった。そのため前回の記事では,想像と推理と妄想で,三國志11について筆者なりの予想を書いてみたが,実際のところは,まったく違うゲームとなっているかもしれない。そこでその答え合わせをするべく,神奈川県横浜市にあるコーエー本社に赴き,本作のプロデューサーを務める北見健氏に話を聞いてみた。
この時点でも全貌は明らかにされなかったが,それでも十分,本作のコアとなる部分は垣間見ることができたと思う。どうやら三國志11は,いい意味で,予想を裏切ってくれそうだ。
なおこのインタビューは,1月中旬に行った。そのため,今となっては
本日公開情報などで明らかなことも質問しているが,あらかじめご了承を。
三國志11 プロデューサー
北見 健(きたみ けん)氏
1992年,コーエーに入社。「Winning Post 3」「同4」のディレクターを担当し,「太閤立志伝IV」で初のプロデューサーを務める。その後,「三國志X」のプロデューサーとなり,最新作「三國志11」も手がけている。
4Gamer:
こんにちは,本日はよろしくお願いします。以前,わずかに公開された情報と画像をもとに推理して記事を書いたんですが,本当のところはどうなのか,ぜひ聞かせてください。
北見氏:
どうもこんにちは。前回はあまり情報を出せなかったから,どこのメディアさんも,記事化には苦労していたようですね。
4Gamer:
実際にリリースに書かれていた具体的なことといえば,タイトル名と2006年春という発売時期,価格,そして3D一枚マップということだけでしたし。
ではそのタイトルから聞いていきます。どうしてアラビア数字(0〜9。同シリーズはこれまで,II,IV,Xなどローマ数字が使われていた)になったのでしょうか?
北見氏:
三國志シリーズは,もちろんこれからも続いていきますので。14作目とか18作目とかになったときに,ローマ数字だと分かりにくいですからね(笑)。10作目までを一区切りとすると,きりもいいですし。そのときそのときのプロデューサー次第ではありますが,今後はずっとアラビア数字でいくのではないでしょうか。
あと,「三國志孔明伝」などと区別するために,サブタイトルをつけることもまずないでしょうね。
4Gamer:
信長の野望シリーズでは,同じく11作目の「信長の野望・天下創世」で,タイトルが従来のパターン(サブタイトルは覇王伝以降漢字3文字で,伝,記,録のいずれかが付いていた)から脱却し,心機一転を図りましたよね。同じ意図があると考えてよろしいのでしょうか。
北見氏:
そう考えていただいて結構です。ただ,まったく新しいものを作るというよりは,シリーズ本来の魅力をしっかりと押さえつつ,見せ方という部分で,新しさを出していこうと思っています。
4Gamer:
なるほど,シリーズファンにとっては確かにそのほうが嬉しいかもしれませんね。その具体的な話はこれからじっくり聞くとして,次は「3D一枚マップ」について聞かせてください。この情報から,本作は「三國志IX」および「信長の野望・革新」の流れを汲むと予想したのですが,実際はいかがでしょうか?
北見氏:
まったくの間違いではないですが,正解とも言えないですね。まぁ,順番に説明していきましょう。まず,本作は君主担当制で,かつターン制です。
4Gamer:
おお,いきなり核心を突いてきましたね。君主担当制というのは予想どおりですが,まさか3D一枚マップでターン制とは,少し驚きです。そういえば以前公開された画像で,日付が「1日」のものが1枚,「21日」のものが2枚でしたが,つまりこれは,1ターン10日刻みということですか?
北見氏:
細かいところまで見ていますね(笑)。確かにそのとおりです。1日,11日,21日と,1か月を3ターンに分けています。
4Gamer:
となると,1年間で36ターン。ターン制にしては,かなり細かい刻み方ですね。1ターンではあまり多くのことはできない?
北見氏:
いや,うーん,状況次第でしょうね。
4Gamer:
少なくとも,1ターンいくつ,とコマンド数が決まっているわけではないと……。ではイメージとしては,何か行動力のようなポイントがあり,それを消費してコマンドを出すという感じでいいのでしょうか?
北見氏:
いやまぁ,そこまで話すつもりはなかったのですが……そのとおりですね。
4Gamer:
しかしそうなると不思議なのが,3D一枚マップを採用していることです。一枚マップというのは,三國志IXや信長の野望・革新のような,半リアルタイムシステムでは向いていたように思います。こちらでは内政をしていて,画面をスクロールさせていくと向こうでは戦闘をしている……というのが,楽しいというか。
でも,本作はターン制なんですよね。
北見氏:
いや,おっしゃるとおり,一枚マップの面白さというのは,そこですよね。もちろん本作も,同じマップ上で,戦争も内政も行いますよ。
4Gamer:
ん? ……そうか,勘違いしていました。一枚マップというからには,戦闘で切り替わることもないわけですよね。ということは,信長の野望・革新では任意のタイミングで時間を止めたり進めたりできましたが,三國志11では,10日に一度,コマンドを出すタイミングが訪れるだけで,基本は同様で,内政も戦争も同時進行できるわけですね。
北見氏:
ええ,そうなります。フェイズを分けたりはしていません。
4Gamer:
つまり戦争も内政と同時に,10日刻みのターンでコマンドを出していく,と。内政では10日刻みは細かいと感じましたが,戦争だと,逆に大ざっぱな印象があるのですが。
北見氏:
実際の戦争は,1日単位で細かく状況が変化するものではありませんので,10日くらいのスケールで区切っても,さほど問題ないでしょう。逆に1か月単位だとやりすぎだと思いますけどね。火計で火を付けたとして,同じ場所が何か月もズーッと燃えているのはイヤですよね(笑)。
4Gamer:
広大な中国での戦争は時間のかかるものですし,そのスケール/システム次第では,10日刻みで表現できるかもしれませんね。まぁ大体システムについては分かってきました。しかし,なぜこのシステムでターン制にしたのでしょうか?
北見氏:
理由としては,まず,3Dグラフィックスのストラテジーというと,そのほとんどがリアルタイムシステムなので,違うものにしたかったというのがあります。また,プレイヤーからのアンケートを見ると,ターン制の人気が高いというのももちろん理由の一つです。
しかし最大の理由は,三國志シリーズのもつ魅力/特性には,ターン制のほうが合うだろうと私が判断したことですね。三國志シリーズが従来持っている魅力とは,なんでしょうか。いろいろと考えられますが,私としては,「キャラクター」という要素が実に大きいと思っているんです。そのキャラクター性を重視した結果が,ターン制の採用なんですよ。
4Gamer:
もう少し詳しく説明してください。
北見氏:
多くのRTSでは,部隊はあくまで一ユニットでしかない。コマの一つに過ぎないんですよ。またRTSでは,一ユニットに対してあまり細かい指示を出せませんよね。いちいち指示を出している時間がないといいますか。そのため,多くのユニットにまとめて指示を出して,勝つか負けるかはユニット次第……というのが,普通のRTSでしょう。
しかし三國志では,部隊に命令を出したら,もうその画面を見なくてもいい……という状況は避けたかったんです。広大な中国で,同時多発的に戦争が起こっているとき,そのすべての状況を細かく把握し,じっくりと腰を据えて考え,的確に命令を出す……というのが,三國志ファンの求めるプレイではないでしょうか。
確かに,リアルタイムにはリアルタイムの良さがあります。ただキャラクターに重きを置いた三國志シリーズには,一人一人の武将をどう動かすのか,この場面でどう部隊を操るのかを熟考できる,ターン制が向いていると判断したわけです。
4Gamer:
なるほどなるほど,これが先ほどの「シリーズ本来の魅力」という言葉につながってくるわけですね。
北見氏:
そうです。シリーズごとに毎回進化はしていますが,1作目の衝撃は,また別格だと思うんですよ。だから本作は,もともと三國志というゲームが持っていた魅力を生かしつつ,新しいゲームにしたいと思っています。そのため,かなり初期の三國志を意識した作りになっていますよ。
あまり詳しいことはいえませんが,初期作で,有名武将が火計を喰らってあっさり死んでしまっていたような「シビアさ」も,何かしらの形で表現したいと思っています。
4Gamer:
ふと,私の家に友人達が集まって,大勢でマルチプレイをしていたシリーズ初期の頃を思い出しました。ターン制なら,複数人プレイも可能そうですね。
北見氏:
もちろんできますよ。
4Gamer:
おお,……やはり8人までですか?
北見氏:
ご名答(笑)。もはや8という数字にさほど意味はないのですが,そこは従来作に合わせて,1台のPCで8人までプレイできます。
4Gamer:
ちなみに,オンラインでのマルチプレイはできますか?
北見氏:
いえ,1台のPCを使用してのマルチプレイのみですね。1台のPCを使ってのマルチプレイは入れましたが,やはりサブタイトルの付く番外編を除く三國志シリーズは,基本的には一人で遊ぶものではないでしょうか。