4Gamer:
……テクノロジーの話ばかりなので,ちょっとコンテンツ寄りの話もいいでしょうか(笑)。現在はカプコンさんのタイトルを大々的にやっていますが,そのほかのところとはどんな感じでしょうか。
小野田哲也氏:
ほぼあらゆるゲームタイトルオーナーにお話をしているという段階です。
4Gamer:
クラビットさんの経営発表会などでは,オリジナルタイトルも今後強化していきたいという発表がありましたよね。
小野田哲也氏:
そうですね。今後は当然ながらオリジナルタイトルなどもあったほうがよいだろうと考えています。
4Gamer:
現在,具体的な話は進んでいるところはありますか?
小野田哲也氏:
「検討中」という言葉だけにさせてください(笑)。
4Gamer:
しかしあれですよね,オリジナルで作る場合,ハードウェアスペックの上限がなくなるわけですよね。コンシューママシンの場合は性能が一定なのですが,G-Clusterの場合は,配信効率はともかく,性能がある意味天井なしとなるんですね。
小野田哲也氏:
そうですね。最新のサーバーを組み合わせた場合,性能の上限はほぼなくなります。
4Gamer:
そういった,既存のハードウェアでは実現できないゲームというのは非常に面白そうですね。
小野田哲也氏:
確かにそういった方向性もありますね。しかし一方では,ゲームマシンを持っていない人もまだまだいるわけです。ゲームをわざわざ買ってきてプレイすることがない人といいますか。映画でいえば,映画館に足を運ぶまでもないけど,レンタルビデオに出たら借りてみようかというような人達ですね。そういう人は大勢いるわけです。
本当に好きな人はDVDを買うんでしょうが,たいていの人は,古いか新しいかにかかわらず,「まぁ借りてみるか」と考えてみると思うんですよ。同じようにゲームでも,まず“借りて試してみる”といったことができないかと考えています。そのあたりの需要には今後かなり期待してるんですよ。
4Gamer:
なるほど。確かに可能性は高そうですね。でもそのためには,PCないしコンシューマ機からの移植作業が必要になると思うんですが,たとえば,家庭用ゲームマシンなりのプログラムをコンバートするためのツールなどを提供することは考えてますか?
小野田哲也氏:
そうですね。現在そういったものを準備しようとしているところです。なるべく早いタイミングでサーバーに載せられるように,そういったツールを開発しているところです。G-Clusterへの移行(ポーティング)を簡単に進めるためのSDKなりを準備していくことが重要だと思います。現在は,移行が簡単なものから作業を進めているという感じですが。
4Gamer:
G-Clusterでコンシューマゲームのラインアップがずらっと揃っていれば,非常に面白いことになりますね。
小野田哲也氏:
ええ。日本の場合は,まだまだコンシューマの市場が非常に大きくて3000億以上ありますが,PCゲームソフトの市場だと100億円ないんですよね。
4Gamer:
オンラインゲームからの新規参入組の影響か,シングルゲームの市場もちょっと復活の兆しがありますよ。
小野田哲也氏:
そうなんですね。これが海外だと,まだまだPCゲームの市場も大きくて,ユーザーもPCでゲームすることに慣れているので様子が違ってくるんですけど。
4Gamer:
今の日本のPCゲームはオンラインゲームに席巻されてますからねえ。
ところで4GamerはPCゲームを主に扱った情報サイトなんですが,たとえば,いま秋葉原で普通にPCを買ってきて,最新ゲームも買ってきたとして,たいてい動かないんですよね,それが。
ゲーム専用ということでなければ,グラフィックスを統合チップセットで済ませちゃったりしているPCが多かったり,昔みたいにタワー型のPCを買う人が少なくなって,コンパクトPCになったりノートPCが増えてきて,ゲームをするうえではいろいろ問題が多くなっています。そういったPCでもG-Clusterであれば,3Dゲームが楽しめるんですよね。それはすごく注目すべき点かもしれません。
小野田哲也氏:
なるほど,確かに。ちなみにG-Clusterでも,MMORPGなどの搭載は技術的に問題がありませんよ。
4Gamer:
むしろサーバー内部ですべて完結できるので向いているのかもしれませんね。
小野田哲也氏:
MMORPGのパブリッシャの方ともいろいろ話をしているのですが,MMOゲームというとRPGが多いじゃないですか。みんなで集まって何かをするとか,そういうことになるとテキストチャットの問題が出てくるんです。
4Gamer:
キーボードですね。
小野田哲也氏:
そうです。セットトップボックスなどにもUSB端子は付いてますし,キーボードをつなごうと思えばできるのですが,そこまでしてMMORPGをやるかというのは疑問ですね。
4Gamer:
セットトップボックスだと,普通キーボードは付いてませんしね。
小野田哲也氏:
そうですね。リモコンとかコントローラのようなものになります。
4Gamer:
ボイスチャットという手もないではないですが。
小野田哲也氏:
ボイスチャットは大いにアリですね。セットトップボックスとテレビの組み合わせだと,画面解像度も低くてテキストチャット向きではありませんし。最近の薄型大型テレビの解像度はPCに追いついてきていますので,そういったものでPCゲームの移行が進むかもしれませんけど。
4Gamer:
ハイデフ対応機ですね。
小野田哲也氏:
ええ。現状のゲームでハイデフ対応なのはPCゲームだけです。ハイデフ対応のゲーム機も出てはきましたが,タイトルはまだまだですね。また,ハイデフになると開発により多くのコストがかかると伺ったことがありますので,現状ではまだまだリスクは大きいと思います。ゲームタイトルの店頭寿命は短いですので,販売後はG-Clusterに載せて収益を上げるような形に持っていってもらえるとよいのですが(笑)。
4Gamer:
ハイデフになるとそれだけ帯域も多く使うようになりますが?
小野田哲也氏:
それはそうですね。でも今後ハイデフ環境が一般化してくるころには,光回線のような高速回線ももっと普及しているでしょうし,サーバーの能力も上がっているでしょうから,ハイデフに必要な帯域などは対応できると思います。
4Gamer:
現状でボトルネックになっているのはCPUですか? ネットワークの部分ですか?
小野田哲也氏:
どっちもですが,どちらかというとネットワークの部分でしょうか。4M,5Mbps出してもいいんですけどね。さすがに綺麗ですよ,ブロックノイズ見えなくなりますし。でも現状では受け取れない人が増えちゃうんですよね。
ネットワークの速度が速くなったり,価格が安くなったりというのは今後どんどん進行していきます。しかし,それ以上のスピードでハードウェアというのは進化しているんですよね。G-Clusterは,そういった,いろいろな人が開発した技術の進歩を直接お客様に還元できるようなシステムになっているわけです。
4Gamer:
なるほど。本日は色々とありがとうございました。
当日は,ゲームのデモなども見せてもらったのだが,帯域幅の問題から,どうしても画面が大きく切り替わる部分ではブロックノイズが乗った画面になってしまう。逆に画面がほとんど動かない部分ではオリジナルそのままの高画質である。動きが大きいときには細部はあまり気にならないといえばそれまでだが,もう少し帯域がほしい感じだった。ゲームのレスポンスは「ごく普通」といった印象だ。フレームレートは決して高いわけではないが,ほとんど違和感はない。
言葉で説明しても分かりにくいので,G-Clusterの動作状況をムービーで紹介しよう。これはクラビット社内のセットトップボックスでプレイしたものである。いくつかテストプレイしたうちで,いちばん負荷の高そうなものということで,カプコンのプレイステーション2タイトル(PC版もあるが)「カオス・レギオン」のプレイムービーを掲載する。同じシーンをPS2で遊ぶとかなり処理落ちするとのこと。もちろん,基本のフレームレートが違うのでコマ落ちと性能を単純に比較はできないが,終始滑らかに再生されるほうがゲームとして遊びやすいのは間違いない。なお,テレビ画面をデジカメで撮影しているという劣悪な条件なので,色味などがおかしいのはご了承を。
ネットワーク越しのレンダリングということで,非常に制限の大きな環境ながらこれだけの動きが実現されている。ゲームタイトルはPCゲームや家庭用ゲーム機に対応できる実力があり,今後,ネットワーク環境やハードウェア環境の飛躍的な進化も期待できる。またPCパッケージゲームに関しては,違法コピーを防げるというメリットもあるのではなかろうか。そんなこんなの色々な意味を考えると,たいていのゲームはG-Clusterで足りてしまいそうな気さえしてしまうシステムである。コンシューマゲーム機を不要とするところまで普及するかどうかは分からないが,ゲーム配信の新しい形として今後も注目していきたい。