― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第12回:神よ,アフリカに祝福を:前編(南アフリカ)

 第二次大戦期の全世界を再現したストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,思わぬところから戦争に参入してみる本連載,今回はここ,南アフリカ連邦からお届けします。

 

 オランダ人移民(→ボーア人)によって作られたケープ植民地をルーツに持つ南アフリカは,19世紀末のボーア戦争を経てイギリスの傘下に収められます。その背景にあったのは,今も南アフリカの特産品として知られる金とダイヤモンドです。ボーア戦争の舞台は南アフリカでしたが,そこで争ったのは白人同士,争ったものは鉱物資源であって,現地の政治的主導権は二義的な要素に過ぎませんでした。
 南アフリカは,イギリスの自治領時代を経て1934年には英連邦内の独立国となります。その内部ではイギリスの支配に対するオランダ系住民の反発が陰に陽に続くものの,それと並行して有色人種差別が強化されていったところに,この国が背負った宿命,アフリカは誰のものなのかという命題の複雑さが見え隠れします。
 イギリスに協力する形で空軍を含む20万人もの兵力を提供し,第二次世界大戦を終えた南アフリカは,その後も金とダイヤモンドとレアメタルで経済を支え,西側陣営への協力を交えて冷戦時代を乗り切ります。アパルトヘイト(人種隔離政策)は国際社会から(ときに形式的なものであれ)非難を浴びますが,南アフリカはその声を,外部からの不当な干渉としてはねつけ続けます。
 そうした南アフリカ政府の対応,それを支持する国民世論の裏には,ボーア戦争以来の経緯で強化されてきた,海外からの介入に対するアレルギーがありました。南アフリカの差別/抑圧政策は,少なくともその一面において,イギリスの露骨な利益追求と,アメリカ主導のダブルスタンダードな陣営維持策が,落とした影をまとっていたのです。
 有色人種主体の抵抗運動が実を結び,制度としてのアパルトヘイトが撤廃されたのは,実に1991年になってからのことでした。

 ここでクエスチョンです。消費財でなく少数品目の輸出用一次産品への依存(=低廉な労働力への依存と,国際経済における地位の不安定さ),アフリカ系住民の意思を汲み取れない政治体制など,南アフリカ連邦および南アフリカ共和国は,固有の問題とアフリカ共通の問題の両方を抱え込んでいました。反英/親英という軸はさておいて,南アフリカが自分の足で歩もうと考えたとき,そこにはどのような選択肢があり得たのでしょうか?

 

南アフリカを選択したときの画面。選挙の結果として,英連邦を離脱して枢軸に加盟するという選択も可能だ。まあでも,そんな怖いことできませんって

 

実はきっちり参戦しています

ほぼ限界までハト派なのが最大のネックと言ってもいい。大臣はどれもこれも似たり寄ったり。マイナス影響の大臣に平然と居座られるのが,少々つらい

 北アフリカ戦線を扱ったストラテジーゲームをプレイしたことがあれば,その連合軍サイドに「インド師団」「ニュージーランド師団」「オーストラリア師団」といったユニットを見たことがあると思う。
 北アフリカでの英独(+伊)戦争は,世界帝国最後の輝きを放つイギリスと,これから世界帝国を目指すドイツの戦争であったといっていい。主に空軍によるスマートな戦いに終始したバトル・オブ・ブリテンに対し,陸上兵力が正面きって戦った北アフリカ戦線は,さまざまな点で極限状態の戦争であった。……そして両軍ともに最後の一滴を絞り尽くすような戦闘であればこそ,イギリスは自らが保有する世界中の植民地から兵士や駐留軍をかき集めることにもなったのである。今回扱う南アフリカもまた,そのようにして北アフリカ戦線に投入された部隊の一つとして名前を確認できる。

 正直なところ北アフリカ戦線はドイツとイギリスの戦車戦(地雷戦?)が最高潮であり,次点はアフリカの星・マルセイユの活躍と悲劇というところ。インド師団や南アフリカ師団のめざましい話題はついぞ聞かない。もちろん,世の中には北アフリカにおけるイタリア軍の奮戦を映画にする人々もいたわけだが,それは例外中の例外といっていい。
 だが,過去の記事を見ていただければ分かるように「ハーツ オブ アイアンII」ではイタリアでさえ快進撃を成し遂げたではないか。イタリアが活躍できるなら,すっかり「戦場の背景」扱いの南アフリカにだって,できることはあるはずだ。ということで今回は,南アフリカを通じてアフリカの未来を作ってみよう。

 はじめにお断りしておきたいが,この連載は第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていない。ときに過激な表現が出てくることもあるが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものである。あらかじめご了承いただきたい。

 

 南アフリカでポイントが高いのは,れっきとした独立国家であることだ。満州などとと違って宗主国はいない。英連邦の一員であることは動かないので,連邦から独立してドイツと組むなどといったことは難しい(だが不可能ではない)が,それ以外はフリーハンドである。
 ICは11と平凡だが,平凡ならざるスタッフがそろった研究チームに注目したい。軍用艦艇の建造で名高いヴィッカース・アームストロング社と,軍用車両開発で定評あるマーモン・ヘリントン社が使える点に関しては,もうずるいとしか言いようがない。ほかにもいくつか有用なチームが並んでいる。
 最後に,ドクトリンの研究がかなり先まで進んでいる点を指摘しておきたい。陸軍ドクトリンは「塹壕戦」が開発終了,海軍に至っては1936年時点ですでに,1939年のドクトリンが一部研究終了している。
 残念ながらフィンランドのように最初から最新装備の陸軍がいたりはしないが,輸送船6船団が初期配備されているのは嬉しい。正直,かなり恵まれた国である。

 

1936年段階での技術開発状況。海戦ドクトリンの開発状況が目覚しい。歩兵も最低限はクリアし,自動車化歩兵への道も近い。そしてなにより高度な技術開発スタッフ。南アフリカ鉄道も優秀だ

 

試しにサウジアラビアに宣戦布告してプロヴィンスを占領……でも南ア領は増えず。このままでは意味がない

 では南アフリカの問題は何か。IC11だと研究ラインは1本ということで,1936年時点のアドバンテージは数年で消え去ってしまう。つまり目指すべきプレイスタイルは,技術的に追いつかれないうちに軍を育成し,征服戦争に出ることだ。これさえできれば未来は明るいはずである。
 ……そしてまさに,これが問題である。南アフリカの周辺を見渡すと,陸路でたどり着ける範囲で征服可能な領土といえば,エチオピアしかない。しかも仮に長駆エチオピアに侵攻した(強襲上陸するには輸送艦の足がとどかない)としても,イギリス領アフリカからイタリア領エチオピアに攻撃をしかけることになるので,ルール上,占領した後はイタリア領エチオピアがイギリス領エチオピアに変わるだけである。
 南アフリカ人の貴重な血を流して(実際に流すのは誰だかいま一つ分からないが),イギリスにICと資源生産力を渡したのでは,何をやっているのか分からない。英連邦とはいえ仮にも独立国家,自国の戦争をして,自前のナショナルインタレストを追求したいではないか。まして今回の目的は「アフリカの未来を(勝手に)作る」ことにある。アフリカはアフリカ独自の道を歩むべきなのだ。
 しかしアフリカの未来と一口にいったところで,それはいったいどのようなものであり得るのか? そしてまたアフリカが自立するといっても,果たして自立に耐える経済力や政治力(あるいは軍事力)を養うことは可能なのだろうか?

連合軍を支えます。お代は安くないけれど

 アフリカの未来を描くために必要な,今回の戦略目標は以下の3項目になるだろう。

 

  • 連合国の勝利に貢献する。負けていては未来も何もあったものではない。
  • 連合国の中でも発言力が持てるだけの実力をつける。旧宗主国から搾取され続けるのでは意味がない。
  • アフリカのインフラを発展させる基礎を作る。イギリス人とフランス人が自国のためにやったことを,南アフリカが独自に行う。

 

 少々抽象的すぎる気もするが,これを基本方針として具体策を考えていこう。最初の項目,連合が最終的な勝利を収めるためには,

 

  • 北アフリカで勝つ
  • イタリア上陸作戦で勝つ(さすがにノルマンディに貢献できる可能性は低い)
  • ソビエトが勝つ

 

 差し当たりこの条件を揃えねばならない。そうなると明白なのは,北アフリカ戦線に貢献できるだけの軍事的実力をつけること,そのうえでイタリアに上陸できるだけの海兵隊を育成すること,となる。
 とはいえ,研究ライン1本でその両方を満たしたうえ,さらにアフリカ独自の何かを構築するなど,おそらく無理だ。戦争の過程で,南アフリカの国力を伸ばすべく,新たな領土を獲得するしかない。いきなり西ヨーロッパに介入しようとしても足が届かないので,アフリカ戦線を優先する。まあソビエトが勝つかどうかは,神(レーニンでも可)のみぞ知る事柄なので,考えないことにしよう。

 

ちなみにこんなイベントも。下の選択肢を選べばドイツと同盟を結ぶことも可能だ。可能というだけで,あっという間にイギリス軍に上陸を許しそうだが

 さてここで,ハーツ オブ アイアンIIのシステムを思い出してみる。このゲームでは,占領した土地がどの国のものになるかという基準が,割と微妙である。基本的にはそのプロヴィンスを占領した軍隊をコントロールする国の下に収まるのだが,前述のとおり南アフリカの軍隊がイギリスの領土を出発して他国のプロヴィンスを制圧した場合,そこはイギリスのものになる。
 つまり,普通にプレイする限りにおいて,南アフリカが独自のプロヴィンスを獲得できる可能性は皆無だ。この原則は強襲上陸,空挺降下で覆せるが,南アフリカの軍港から上陸できるのはマダガスカル島くらい。南アフリカ国立動物園のためには良い考えだが,それ以上ではない。空挺降下ならもう少し可能性が広がるものの,輸送機と空挺師団のICを考えると,まず無理だ。
 つまるところ領土拡大のカギは「自国の領土を出発する」ことにある。イタリア領エチオピアを南アフリカ領にするには,そこに隣接する,つまり攻撃策源地となる南アフリカ領があればいい。

 


ゼイラ購入の駆け引き。まだまだ戦争が本格化していないので,痩せたプロヴィンス一つにもこんな大金が必要だ。でも買い取れるという事実がいまは大切である

 ここで外交メニューを開けてみる。外交のなかには「交渉開始」という選択肢がある。資源,技術の青写真,プロヴィンスなどのやりとりについて,包括的な交渉ができるコマンドである。これを使って,イギリスからプロヴィンスを買えばいいのだ。資源産出エリアになると,イギリスはまずもって交渉に応じないが,資源0,IC0の土地ならば,5000物資程度で売ってくれるようだ。
 幸い,イギリスはエチオピアに隣接し,海にも面したプロヴィンス「ゼイラ」を保有しており,このプロヴィンスは資源0でIC0という,典型的なアフリカ・プロヴィンスである。
 物資5000を筆頭に,鉄鋼5000,エネルギー3500,希少資源600,石油1100に新技術の青写真1枚をつけたところ,交渉成功率表示は85%,ドキドキしながら「OK」をクリックしてみると,イギリスはゼイラを南アフリカに割譲した! 素晴らしい。
 ゼイラには小さな港が最初から存在する。そこで海軍基地を“生産”して配置することで,ゼイラは突如,南アフリカの前線基地となった。ここからなら,中東が強襲上陸の射程圏内に入る。

 

エチオピアの解放に勇んで進軍する南ア兵。民兵は占領地確保用に連れてきたが,実は最後まで大活躍する

 それはともかく,まずはイタリア領エチオピアを攻略しよう。現段階で生産できる,最も足の速いユニットは騎兵。これに工兵をつけた6個師団をゼイラに待機させる……と,経済が弱い南アフリカは軍の維持コストで破産しそうになるので,ゼイラのお隣のイギリス領に配置する。これで補給物資はイギリス様のお支払いとなる。なんだかそれってどうなのよと思うが,ゼイラの海軍基地にはフランス海軍やイギリス海軍がときおり駐留しては補給物資を奪っていくのだから,お互いさまというべきであろう。
 やがて時は過ぎて1939年,ついにドイツはポーランドに宣戦布告し,1940年にはドイツとイタリアが同盟を組んだ。待ちに待った対イタリア戦開始である。騎兵6個師団は思い出したようにゼイラに移動すると,そこからイタリア領エチオピアに侵攻,アジスアベバを含むエチオピアのIC/資源エリアを完全制圧し,南ア領とした。喜ばしい限りである。

アフリカ縦断政策,そしてアラビアへ

アフリカ買取作戦随時進行中。イギリスが資源不足に陥ったときに持ちかけると,安く買える。我ながらあこぎな商売だ

 さて,北アフリカでイギリスとイタリアが激しい戦闘を繰り返す中,南アフリカは次の一歩を進めることにした。
 北アフリカ戦線が激化するにつれ,イギリスは物資不足に陥っていった。南アフリカは旧宗主国の危機を知り,生産ラインのほぼすべてを物資生産に回して,5000物資あたり1プロヴィンスの破格のお値段でイギリスに提供する。
 また,無意味に輸送艦を走らせたり,石油を消費する部隊を動き回らせたりすると,オランダなどの連合国産油国や,連合国寄りのアメリカなどが無償で石油を南アフリカに供給してくれる。こうして備蓄された(本当はほとんど使わない)石油は,イギリスが石油備蓄に不安を覚えるたびに,物資とセットで提供される。当然,お代は請求させていただくわけだが。

 いったい何のためにそんな因業なマネをしたのか? 答えは簡単,最初に掲げた目標の3番目,「アフリカのインフラを発展させる基礎を作る」ためである。この地道な買収劇で,1942年にはエチオピアから喜望峰までが南アフリカ領として一続きになる。いわゆる「アフリカ縦断政策」を,独自(?)に成し遂げ直してみたのである。喜望峰から紅海に抜ける鉄道が開通すれば,アフリカの経済は大きく変わるに違いない。
 イギリスが戦争を遂行するに当たって,物資生産と石油確保が重大な障害になり得ることはゼイラ割譲の頃から明白であった。そこで1941年,これまでの選挙などを通じて独裁制を敷くに至った南アフリカは,サウジアラビアに奇襲をかける。サウジの石油を確保すれば,よりハイペースで領土拡張が可能だ。もちろんイギリスも,石油で苦労することがなくなるに違いない。

 


サウジアラビアの併合完了。石油が出るだけでなく,ICの増加もあって一挙両得。独裁的だが開放的な社会のおかげで,占領地でのレジスタンスを警戒する必要はほとんどない

 とはいえ,普通にサウジアラビアに侵攻したところで,イギリス領サウジが出来てしまうだけで面白くない。そこで例によって中東のサウジ国境プロヴィンスをイギリスから購入,ついでにシナイ半島南部も購入して橋頭堡にすると,南アフリカ領パレスチナからサウジアラビアへと侵攻したのである。サウジの抵抗は少なく,南ア軍は砂漠の進撃に苦労した程度で,素早くサウジアラビアを併合した。ここに産油国南アフリカが誕生したのである。エルサレムとメッカを領有する,宗教的な見地に立つと実に微妙な国である点は少々気になるが。

 サウジ併合後は騎兵を北アフリカ戦線に投入,イタリア軍を強く感じる接戦が繰り返されて将来が危ぶまれたものの,英軍と歩みを揃え,ついには北アフリカからイタリア軍を駆逐した。
 めぼしい土地には進出を果たして,今後はイギリスの対日戦がよほど激しくならない限り,イギリスからの領土買い取りと新天地進出も難しくなるかなと思っていたが,その頃世界はプレイヤーの予想を超えて不思議化を始めていたのだった。
 すでに史実からは想像もつかない領土拡張を成し遂げ,アラビア半島主要部を手中に収めた南アフリカが,大戦後半にどんな運命を迎えるか。結果は次週までしばしお待ちいただきたい。

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
マイナー参戦国に並々ならぬ愛情を注ぐ(ことを強要される?)ゲームライター。史実への理解がこの連載を支えているのは間違いないのだが,「まあ,ワーテルローにもインド人部隊が参加してたしね」といった話題から入りかねない電話打ち合わせは,編集部内でもかなり奇異に映るものらしい。人が現に何を知っていて,何を知っていなければならないか,考え込まざるを得ない話ではある。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

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