「この連載は,第二次世界大戦あるいはその後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。」
フランドルとワロニアを再独立。とくにメリットはないが,パルチザン対策も面倒なので独立させた
さて,中東の赤化が完了して,ヨーロッパは空爆すらない平和な日々が続くようになり,赤軍主力がインドとスエズを突破したいま,この戦争は事実上終了したといえるだろう。
米軍は最新式の戦車と自動車化歩兵を主力とした140個師団をブレーメンに置いているが,これはもはやソビエトの喉に引っかかった小骨程度のプレゼンスしか発揮しない。原子炉の規模が十分に大きくなって共産圏初の核爆弾が完成すれば,核爆撃に続く一斉攻撃で140個師団を壊滅させることなど,造作もないからだ。
英軍はデンマーク方面で強力な抵抗を試みるが,数の暴力の前に敗退,アフリカでなおもエチオピア/南アフリカ軍を中心にした抵抗を続けるものの,南アジアから東南アジアにかけては,もはや兵力らしい兵力を保持できていない。
IC勝負なら,ソビエトの有効ICが320強。アメリカが400,イギリスが150近くあるものの,東欧諸国+イタリアを合計して考えれば,ほぼ対等の勝負に持ち込んでいる。こうなると,防衛線の長い連合軍に対し,戦闘正面を可能な限り限定したうえ,基本的にあらゆる戦場が地続きになっている共産圏の地政学的優位(ハートランドとはロシアのことだ)が明らかになる。ソビエトは多正面作戦を脱し,なんとか「内線の利」といえる状態を達成したのである。
アメリカのクーデターに成功。戦争は実質終わっていたが,これで完全に終わったといえよう……とか思ったのだが
またアメリカの大きなアドバンテージであった核攻撃も,この段階に入るとあまり効果を発揮しなくなってくる。
核攻撃は都市のICを下げ,資源生産を停止し,VPを1まで低下させて,部隊の戦力と指揮統制を激減させるが,最も嫌なのは「投下された国の国民不満度を増大させる」ことだ。だが,ここまで共産圏は世界全域で占領地域を再独立させ続けてきている。直接核攻撃が行われた国は生産に支障を来たすとはいえ,それ以外の友邦は歩兵や機甲を安定的に生産し続けるため,総体としてのダメージは小さくなる。この作品で核攻撃の被害を最小に抑えるためには,民族自決が最善の策なのである。
核攻撃すら決定打にならないとすれば,もはや事実上の戦後処理段階だ。と思いつつ,資金が余っていたのでなんの気なくアメリカにクーデターを仕掛けてみたら,1発で成功。これである意味戦争の目的を完遂したことになるし,あとは米海軍におんぶにだっこで英海軍を粉砕してもらえば,英本土上陸作戦も楽だしと思い,共産アメリカに同盟を打診する。成功率は70%強だったが無事成功。ツイてるときはこんなものだ。
だがこの米ソ共産同盟は,言葉の珍妙さ以上に,不思議な「戦後」を描き始める。
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中東の赤化に成功,インドとスエズに向かって戦線を拡張しようとする赤軍。サウジも敵だが砂漠の行軍に時間がかかるので後回し。石油生産もさして多くはないし |
インドをほぼ制圧完了。イラク・ペルシア・クルディスタンも再独立させる。本当はトルコも再独立させたいのだが,イスタンブールがブルガリアに支配されているため不可能 |
アメリカは,ソ連との同盟締結=連合国への宣戦布告を行ったとたん,カナダとメキシコから激しい攻勢を受けることになった。ほぼ全陸軍をヨーロッパと済州島に派遣しているタイミングで,である。両国の侵攻を阻む術はなく,その国土は瞬く間に二分割されていく。
だが,そうした状況にあっても,ゲーム内のアメリカ人が連合国への敵意を消すことはなく,唯一残った核爆弾をイギリスのバーミンガムに投下してみたりする始末である。なんというか,その……事態を鑑みるに,再建途上にあるソビエト海軍を使って英海軍を撃滅し,同盟国アメリカの本土回復戦争をするのが,筋といえば筋なのだろう。
だが,別にこのままでいいんじゃない? という天からの声が聞こえてきてしまうのも否定できない。なにしろ,これまでさんざんこっちに核爆弾を打ち込んできた国である。おまけに戦争が事実上終わってるにもかかわらず,テロ同然にイギリスを核攻撃した,ならず者国家である。いったいなんでソビエトがソビエト人民(および同盟諸国民)の血を流し,カナダ人とメキシコ人の血も流して,このゲームのアメリカを助けなければならないのか。
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すごい勢いでメキシコとカナダに占領されていくアメリカ。中南米は一時的に支配したものの,そこすらもブラジルとメキシコに追い出される。何やってんだか |
欧州最後の巨星,イギリスでクーデター。アメリカがああなってしまった以上,イギリス凋落の日は相対的に遠のくはずだが
というわけで,アメリカのことは体よく無視する。VP合計を見てみたら,アメリカ全土が連合国占領下に入った場合でもなお共産圏が勝っているので,無視したところでまったく実害はない。代わりにといってはなんだが,イギリスにもクーデター攻勢を仕掛け,革命の輸出に成功する。今度こそ,本当に戦争は終わった。
――と思ったとたん,なぜかここで共産フランスがソビエトに宣戦布告する。あまりの凄まじい自殺行為っぷりにしばらく呆然としたが,確かにこちらもフランス国境線にはろくに部隊を置いていない。ワロニアやフランドルといった友邦は,抵抗する術もなく併合されていった。
共産主義スペイン。ちゃっかりジブラルタルを領土に収めているあたりが図々しい
だが中東にいた部隊を戦略再配置して反撃を開始するや否や,フランスの拡張は瞬く間に頓挫。そのまま包囲も空爆もせず,平押しだけでフランス軍を押しつぶし,最後はスペイン国境で封殺した。パリ占領あたりからフランス軍は部隊の戦力補充もままならず,普通に戦って撤退するだけで師団数が減る有様だった。
赤軍はそのまま余勢を駆ってスペインに宣戦布告,ついでに赤化する。スペインは戦争初期に何度もソビエトに宣戦布告しては,防備の甘いプロヴィンスに強襲上陸を試みてきた経緯がある。講和したとはいえ,相応の対価は支払ってもらうべきだろう。
ともあれ,旧ドイツ分割線から始まったヨーロッパの赤化と革命の旅は,ここに終点を迎えたのである。
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共産主義サウジアラビア。サウド家がどうやってマルキズムとイスラムを両立させているのか興味が尽きない |
共産インドの統合参謀総長はなんとスバス・チャンドラ・ボース。チャルカの旗はいつの間にか赤くなっているのだろう |
一応アメリカ本土上陸に向けた海軍と上陸部隊は整備したが,やはりどうにもプレイヤーの士気が上がらないため,作戦は中止。アメリカは主に旧ドイツ領ブレーメンと日本列島から成る斬新な国ということに落ち着いた。実効ICは30程度,ソビエトからの資源援助がなくては,ほとんど何もできない衛星国家である。ちなみに首都はプエルトリコだ。
フランスを再度征服し,独立させたところ。旧政権とほとんど閣僚が同じで,少しは粛清しろ(!)と言いたいところ
フランスは海外にVPプロヴィンスを広く持っているため,完全占領は不可能かとも思ったが,ここで奥の手「パルチザン支援」を利用し,海外VPプロヴィンスを続々とパルチザンに占領させることに成功。共産フランスは内部から崩壊し,ついにソビエトによる併合案を呑んだ。ちなみにこの状態でフランスを再独立させたら,以前の共産フランスとほぼ同じ面子でもう一度内閣が立った。1953年にはスターリンが死ぬとはいえ,ソビエトもずいぶんお人よしである。
中国は中国共産党がほぼ全土を支配。満州が満州共産党(でも政府首班は溥儀)の支配するスターリン主義の満州国だったり,こまごまと不思議なアジアにはなっているものの,おおむね史実どおりの展開といえるだろう。幸い,ゲーム終了まで中ソ対立が表面化することはなかった。
ソビエトはスターリンの死後,あろうことかベリヤが国家首班に就任。もちろんフルシチョフという選択肢もあったのだが,ベリヤ書記長が選べるなら,ついついそれを選んでしまうのが人情(?)だ。ちなみにベリヤは,まあ,書記長として有能とはとうていいえない人材と評価されている。妥当なところだろう。
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スターリン主義に染まった満州。それでも支配者は溥儀。満州人がそれでよいならよいのだが |
フルシチョフでなく,ベリヤが指導するソビエト。住み心地がよいとは,ちょっと思えない |
クルディスタンの最大領土。ただし資源的には何かあるわけではない
以上のように,DOOMSDAYキャンペーンは,きちんと共産圏で勝利できることが証明された。今回はフランスに対するクーデター工作という変化球を用いたが,プレイした感触で言うなら,純粋に軍事行動だけに絞ってもフランス攻略は不可能ではない気がする。いささか困難であったとしても,決して不可能ではないはずだ。
フランスを戦争から脱落させ,中東の支配権を確保すれば,共産圏の優位は動かなくなる。続いて核開発を完了すれば,諜報に頼らずヨーロッパから連合軍を放逐するのも容易だろう。まあ,そのあと海軍の建設まで間に合うかどうかは,微妙なところかもしれないが。
プレイバランスは,よく言えばデリケート,悪く言えばアンバランスだが,ソビエトプレイヤーにはたくさんの選択肢があるし,その多くはどうにかこうにか生存と勝利に結びつけられる。大国を思うがままに操って歴史を切り開いていくのではなく,大国でありながら不利な状況に振り回され,キャットウォークを歩んでいく。そんなスリルを味わいたいならば,このシナリオは絶妙なセッティングといえるかもしれない。
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共産主義インドシナ。それでもというか,それゆえというか,支配者はポル・ポト。インドシナ人がどう思っているか心配だ |
共産主義支配下でも,トップはラーマ9世。政体に対する柔軟さはもしかしたらタイらしいと思うべきなのかも |
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北アフリカにも続々と共産国家が成立。戦略的意味はほとんどないが,直接支配するメリットもほとんどないので,再独立させた |