8月23日から27日までの5日間,ドイツ南東部の都市ライプチヒで恒例のGames Convention 2006が行われた(23日はビジネスデイ)。「どこかいつもと違う」という違和感がありつつも,例年どおり,ヨーロッパ産ソフトウェアの新作発表や,プレイアブルな状態で提示されている大作ソフトも多かった。まだ全部の記事を掲載したわけではないが,GC 2006の余韻を感じつつ,イベントの総括をしてみたい。
大混雑と大絶叫の裏で……
今年も,恒例となったGames Convention(以下,GC)の取材が終了した。先立って開催されていたGCDC(Games Convention Developers Conference)も含めて,実に1週間という長丁場。「ゲームイベントの現地レポートは体力勝負である」ということを,あらためて思い知らされた次第である。
Tシャツやポスター欲しさに大声を上げるGC 2006の熱狂は,現地でしか味わえない独特なもの。共産政権時代の傷をアチコチに残し,普段はどこか気難しい顔で市電に乗っているライプチヒっ子の,どこにこのパワーがあるのだろう?
今年のGCは,“次世代ゲーム機戦争”の前哨戦として,クリスマスに向けたコンシューマゲーム機市場の熾烈な宣伝合戦が繰り広げられるかと思いきや,蓋を開けてみればプレイステーション3はゲーム数本を編集したビデオ映像のみの公開で,期待が高まっているWiiも,一般客が本体に触れられるような場は設けられていなかった。
もちろん,すでにリリースされているXbox 360にはその点でアドバンテージがあったと言えるが,5月のE3(Electronic Entertainment Expo)でも指摘されていたように,そのアドバンテージを生かせるだけのラインナップを揃え切れていない印象だ。結局,ライプチヒメッセに来場したドイツっ子達は,プレイステーション2のパーティ系ゲームに群がるか,Nintendo DSやSony PSPのようなハンドヘルド機のゲームに興じていた。結局,GCというのは,“遊べてナンボ”の世界なのである。
GC 2006への一般客入場は,学生身分証があれば一日券が7ユーロ(約1050円)と,あまり娯楽のないライプチヒでは安価に楽しめる金額に設定されている。物価の高い当地では,マクドナルドのハンバーガーがセットで5.2ユーロ(約780円)もするのだから,会場に赴いてTシャツや携帯ストラップを集めて回るだけでも,十分に入場券の元は取れると踏んでいるのかもしれない。
とにかく,GC 2006では毎年のことではあるが,ゲームを楽しむ人,友人と戯れながらそぞろ歩きをする人,ブースでもらえるグッズを集める人が一体化し,日を追うごとに会場が異様な熱気に包まれていく。とくに,今年は次世代ゲーム市場への期待からか,出展会社は2005年より30%も増え,メッセにある五つのホールをフル稼動するに至った。5日間で,入場者も昨年より大幅に増え,19万人を超えたのではと見られている。
ゲームイベントの本来あるべき姿
さてPCゲームについてだが,ドイツでは現在でも市場の50%近くを占めると言われるだけあり,GC 2006におけるラインナップは,かなり魅力的なものだった。
Best of PC Gameは,並みいる話題作を抑えてElectronic Artsの「Spore」が受賞。同じElectronic Artsからは,地元のCrytekが開発を進めている「Crysis」も同部門にノミネートされていた。
詳しくはGC 2006の特集記事を見ていただきたいが,「Half-Life 2: Episode 2」や「Team Fortress 2」「BioShock」に「Stranglehold」など,アクションゲームでは具体的な情報が初公開された期待作が少なくなかったし,RTSでは「Company of Heroes」や「Command & Conquer 3: Tiberium Wars」などが光る。ほかにも,RPGでは「Hellgate: London」や「Gothic 3」,MMORPGでは「Vanguard: Saga of Heroes」に「The Lord of the Rings Online: Shadow of Angmar」,さらにシミュレーションでも「Flight Simulator X」「Rail Simulator」「Sid Meier's Railroads!」などなど,話題になりそうな作品には事欠かなかった。
GC 2006では,イベントの健全化の波をモロに受けたのか,ビキニで踊るダンサーなどもってのほか。ミニスカートやホットパンツのコンパニオンならオーケーなのだが,いろんな意味で“らしさ”がなくなるのは残念
その一方で,GC 2006はこれまでのGCと比較して,少し違和感のあるものでもあった。このイベントの文字どおりの“華”であった,ビキニ姿のお姉さんが踊る姿がまったく見られなくなっていたのだ。
暴力ゲームの規制が厳しいドイツでは,それに反比例するかのように,伝統的にセックス描写には厳しくない。ところが,ホットパンツのダンサーやコスプレ姿のコンパニオンはいても,「なぜここでビキニ娘が踊っているのか分からない」というクレイジーなGCの側面を演出していた名物が見られなかったのである。
ただのオジサンの下品トークと勘違いされないために(?)より詳しく解説しておくと,これまでそういう“なんでもアリ”のイベントを演出してきたドイツや東欧から参加する企業が,大手企業の積極的な参入によって隅へ追いやられたのが,その一因と思われる。また,GCが巨大化するに従い,“家族的なイベント”へと脱皮していくために,主催者が自主規制を行った様子だ。E3でも同様の規制があったが,GCも成長の痛みを感じつつ,進化を続けているということなのだろう。
GC 2006で好感が持てたのは,商談ブースやビジネスセンターの面積も増えていたこと。エキスポフロアが超満員・大絶叫の修羅場になっている横で,プレス関係者を含むゲーム業界の人々は,個室ブースにゆっくりと座ってゲームのデモを受け,互いの利益を求め合うことができるのである。ハードウェアはともかく,新作ソフトの発表が多かったのは上記のとおりで,ヨーロッパ市場を視野に入れたGCの重要性は今後も増していくはずだ。
本連載の第90回「E3が変わる,のニュースを読む」でも詳しく説明したが,E3が業界専用イベントとしての縮小を発表している中,GCがファンイベントとトレードショウ,そして業界セミナーをうまく融合させているのは感心する。「誰にとっても有益なイベント」というのが,娯楽・商売・技術の3拍子揃った,ゲーム産業系コンベンションの本来あるべき姿なのではないだろうか。
そんなわけで,あの騒音や雑踏には悩まされながらも,このイベントを愛する人が増えているのであろう。
子供(左上)も,大人(中央上)も,家族連れ(右上)も,ギャル(左下)も,ビジネスマン(中央下)も,日本サッカーファン(右下)も(?),……みんなゲームが好きなのだ
ドイツにおけるハードウェアの売り上げ(単位:100万台) |
PlayStation 2 | 18 |
PSP | 2 |
NINTENDO GAMECUBE | 4 |
GAMEBOY ADVANCE | 13 |
NINTENDO DS | 4 |
Xbox | 5 |
Xbox 360 | 1 |
PC | 25 |
資料: Take-Two Internal Research Department
次回は,欧米で注目される新商売についてお届けします。