連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第14回:ヘルハウンド(Hellhound)

 ゲームファンには比較的知られているヘルハウンド(Hellhound)は,地獄や魔界で生まれたとされる,犬型のモンスターである。大きさは普通の大型犬から小牛程度で,黒い体毛と燃えるような真紅の目を持っていることから,しばしば黒妖犬などと訳される。また,「地獄」といえば「業火」が連想されるためか,犬でありながら火を吹く特殊能力を備えていることがある。ゲームでは複数で襲いかかってくることがほとんどだが,神話/民間伝承などでは,1匹で登場するケースが多い。

 猟犬や闘犬の例を見れば分かるように,犬の運動能力/闘争本能は侮れない。ヘルハウンドも,仲間とのコンビネーションを駆使して獲物を追いつめ,鋭い爪や牙でトドメを刺そうとする。合わせて炎を吐くことを考えると,近〜中距離での戦闘では苦戦することになりそうなので,距離が離れているうちに,弓や魔法で対処したいところだ。
 また,火炎攻撃への抵抗力が高そうなので,安易に火炎系の魔法で攻撃するのは危険かもしれない。
 なお,ファンタジー小説などでは,ヘルハウンドは魔女や悪魔に付き従う使い魔として登場することがある。ヘルハウンドの姿を見たら,その主人がいるかもしれないということも,念頭に置いておいたほうがいいだろう。

 

 ヘルハウンドというネーミングはいたって単純。地獄を指すヘル(Hell)と,猟犬を指すハウンド(Hound)の合成語である。ファンタジーファンであれば,ネーミングの由来などを調べるのは楽しい作業だが,そのまんま「地獄の猟犬」という意味だ。ヘルハウンドとは,地獄に住む犬の総称として使われる語だったのだろう。
 そう考えると,ギリシャ神話で冥界の門を守る地獄の番犬ケルベロスや,北欧神話で冥府の女神ヘルを守護するガルムなども,ヘルハウンドの一種として分類できるだろう。とはいえ,それらをここで紹介するとキリがないので,別の機会にしっかりと紹介してみたい。

 さて,一般的なヘルハウンド像に合致するモンスターを探してみたところ,イギリスを中心とした地域の民間伝承に,それらしい妖犬が登場する。それはバーゲスト(Bargest),モーザ・ドゥーグ(Mauthe Doog),ブラックドッグ(Black Dog)などである。
 名前は違えど,どれも夕闇に紛れてどこからともなく出現し,こちらからちょっかいを出さなければ,もしくは興味を持たれなければ危険はないとされている。燃えるような瞳と黒い毛を持つ犬という点は,まさにヘルハウンドそのものだ。
 ちなみにモーザ・ドゥーグは,現地で「黒い犬」を指す「マーザドゥー」という単語がなまったものなのだそうだ。

 ウィリアム・ヘンダーソン著の「イングランド北部諸州と境界地帯のフォークロアについてのノート」(1879年)には,地方の著名人の死に際にバーゲストが現れ,その地域のすべての犬を従えて,唸り声や遠吠えを上げたと記されている。
 またほかの伝承では,鎖をぶつけるような,こすり合わせるような音がするので不審に思っていると,どこからともなくバーゲストが出現したというケースもある。その話では,「バーゲストは流れる水の上を渡れない」ことを思い出した男が,橋を渡ってバーゲストをまこうとしたところ,バーゲストは水源を迂回してついてきたという内容が紹介されている。
 なお,悪霊などは流れる川や水を渡れないという話をよく耳にするが,多くの伝承では,流れる水には聖なる力が備わっているとされている。とくに南に向かって流れる水にはより強い力が宿るとされているので,もしものときのために(?)覚えておくといいかもしれない。
 ヘルハウンド達は,ごくまれに人間に協力することもあるようで,ウィルトシャーの伝承では,ヘルハウンドが殺人犯の逮捕に協力したという逸話が残っている。ほかにも,牧場の羊を柵に追い立てたり,子供の面倒を見たりすることもあるそうだ。といっても,これらは彼らの気まぐれでしかなく,基本的には気が抜けない相手であることは,間違いないだろう。

 

次回予告:カーバンクル

 

■■Murayama(ライター)■■
最近はぬかみそ漬けに凝っているというMurayama。うまい漬物を食べるためなら,ぬかみそのニオイも,漬ける手間も惜しまないそうだが,だんだんと,ぬかみその育成(?)そのものが楽しくなってきたそうだ。「ゲーム感覚で」という形容が,どちらかというと悪いイメージで使われることが多い昨今,ゲーム感覚でぬかみそを育てる彼の存在は,貴重といってもいいかもしれない。


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