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デジタルゲームの最先端に立つ人々が集合した,「第4回ボードゲーム交流会」レポート
このイベントは,ボードゲームを通じてゲームデザインやゲーム開発についての知見を深め合い,また業界内部での交流を促進することを目的として開催されているもので,今回が第4回めとなる。
もしかしたら,なぜコンシューマー/PCゲームの開発関係者が,まったくの異業種かつ異分野であるボードゲームを? と疑問に思うかもしれない。
だが,デジタルゲーム業界にはたいていの会社にボードゲームのサークルがあるし,海外におけるアカデミックなゲーム学の現場では,ボードゲームとデジタルゲームを垣根なく議論することも一般的だ。また,とある伝説的なPCゲーム雑誌の名物編集長は,「コンピューターゲームが発展していくためには,アナログゲームという土壌が豊かでなくてはならない」と訴えていた(と記憶している)。
イベントは3部構成で,第1部が講演会,第2部がボードゲームの大会,第3部が懇親会となっている。
第1部は,アナログゲームの同人即売会であるゲームマーケットの主催で行われ,遊戯史学会員/パズル懇話会員といった肩書きを持つ草場純氏と,アナログゲーム「シャドウハンターズ」のデザイナーであり,コンシューマー畑でもさまざまなゲームの制作現場に携わってきた池田康隆氏による講演が行われた。
草場氏は,自分がデジタルゲームを一切プレイしないことを前提に,長年慣れ親しみ,また研究し,いくつも実際に商用ゲームのデザインに参加してきた経験を基に,「ゲーム」というものの構造をロジカルに解説した。
「ゲームの構造」について講演を行う草場氏。元小学校教員ということもあってか,難しくなりがちな話題を分かりやすく解説していた |
草場氏の提言する双曲線。相反する要素の存在を意識し,そのバランスをとっていくことの重要性が訴えられた |
ゲームというものの有り様を「収束」「発散/解析」「平衡/打倒,独立」の3軸に切り分け,その空間におけるバランスによってゲームの面白さが決まるという氏の理論は,よく整理されたもので,会場の共感を勝ち得ていたようだった。途中に簡単なゲームを挟んで,実学的な理解を促していたのも効果的だった。
残念ながら,日本においてはこのように理論的にゲームを解析するという文化が育っているとは,まだまだ言いがたい。その必要性を訴えるとともに,そこで展開される理論は必ずしもアナログ/デジタルというジャンルで分断されるものではないということを示す講演として,意味あるものだったと思う。もっとも個人的には,ゲームを「ルールと闘争性のある遊び」であるとする,その定義自体が,若干の経年劣化を起こしているという問題点を指摘しないわけにもいかないのだが……。
池田氏は,誌面では具体的に書きにくいくらい多彩な経歴を披露しつつ,そのなかで開発を続けていく過程をつぶさに語った。
「Shadow Hunters制作日誌」を語る池田氏。ゲーム業界には波乱万丈な経歴をお持ちの方も多いが,氏の波乱万丈っぷりは割とトップランカー。講演の中心はまさに「制作日誌」で,理論的側面はあえて語られなかったが,ときに事実は小説より奇なりと申しまして |
また氏は,自分の仕事は多くの協力者があってこそできるものであり,そのことを「当たり前のことかもしれないが,『人』が一番大事なのだ」と締めくくった。氏の作品が構築されていった過程には,古巣であるグループSNEにおける数多くのスタッフの協力もあれば,本サイトでも登場願った鈴木銀一郎氏との対話も含まれている。ときには旧知の友人の助けを借りてドイツのボードゲーム見本市に出向いて自分のゲームを売り込んでみたり,ゲームエンジンの心臓部ともいえる,ランダマイザーのメカニズムを,数学が得意な友人の助言を100%取り入れる形で実装したりといった逸話は,氏の熱意と人柄があればこそのことであろう。
余談になるが,「ドイツの見本市などでは,ゲームにおける重心が国によって違うことを実感しました。日本ではキャラクター,アメリカではデータ,ドイツではシステム,イタリアではにぎやかさ――『飲むときに邪魔になるゲームは良くない』と言われましたね」「ヨーロッパじゃあボードゲームっていうのは家族の遊びなんだから,殺し合いをモチーフにするようなゲームはダメだとも言われました」といったエピソードには,ゲームを海外展開することの持つ難しさがよく現れているように思う。
講演会が終わったところで行われたアンケートと,その趣旨説明も,非常に興味深いものだった。
これは,東京工業大学で行われている,インディーズゲームの開発に関する研究の一環として実施されたアンケートで,会場に集まったプロのデジタルゲーム関係者に「現在,仕事で使っている技術(プログラミングやシナリオ作成など)をどこでを学んだのか?」を問うもので,研究の目的は,次世代を担うべきゲーム制作者予備軍の実態を調査することにある
実際,同様のアンケートがインディーズでゲームを制作しているグループに対して行われたようで,そこで浮かび上がってきたのは,インディーズで創作をしている人々の6〜7割は,それがPCゲームであろうが,小説であろうが,漫画であろうが,「独学」で技術を修得したという事実だ。
詳しい分析は研究の進展を待たねばならないが,この職人気質的な「独学」の姿勢が,ジャンルごとの境界線の高さ,交流の少なさを加速しているのではないかという推論は,説得力の高いものである。日本特有といっていいほど巨大なジャンルを為している「ツクール」の特徴を踏まえたうえで,今後の進捗に大きく期待したい研究である。
全体に,持ち込まれたゲームがいささか古めなのは気になったが,つい先日発売されたばかりの話題作がプレイされているテーブルもあり,意識の高さが伺えた。「単にボードゲームオタクなだけでしょ」と言ってしまえばそこまでだが,まあ,そこは,あれだ。
会場には秋葉原のメイドカジノ「アキバギルド」および「art maid cafe シャッツキステ」からメイドさんたちが出張してきており,いかにも秋葉原な風情を漂わせていた。取材に同行した4Gamer編集部のカメラマンも大喜びである。
いずれも店舗も,サービスとしてメイドさん達との本格的なゲームが楽しめるだけあって,メイドさん達はれっきとしたゲーマーでもある。ゲームのインストラクションやプレイヤーを楽しませる技術,そしてなによりプレイヤーとなったときに見せる勝利への執念は印象深かった。
ちなみにボードゲーム大会のチーム戦では,セガやバンダイナムコゲームスといった大手チームを押しのけて,アナログゲーム関係者によるチームが3種目で1位,1位,2位を獲得,ぶっちぎりのトップとなった。「今年のテーブルゲームフェスティバル(リンクは昨年のもの)の宣伝に来たはずなんですが」と言いながら圧勝してしまうあたり,オトナげないことこのうえないが,日本のアナログゲーム界には,「ゲームに勝つコツは,まず,勝つことです」という鈴木銀一郎氏の名言があったりするのだ……。
アキバギルド提供によるモノポリーのバリエーション,「萌えポリー」 |
「カタンの開拓者」。カプコンが日本語版を大規模に販売していたことでも有名な作品。今回のチーム戦でも公式種目の一つになった |
懇親会では,フードシアターの名にふさわしい豪華な料理が振舞われたが,ほとんどのテーブルで,それらを素早く食べてから,そそくさとゲームを広げていたのがとても印象的だった。やはり,ゲームが好きだということ,それがゲームを作る人達の根底にあるのだという当たり前の事実を,再認識させられる風景でもあったといえよう。
会場にはゲームのインストラクトやディールをするメイドさんも登場。これだけで一気に秋葉原っぽくなるのが不思議だ |
こういった交流会における技術や発想の交流は,即座に数字としての効果が現れるものではない。傍目には,業界のゲーム好きが集まってゲームをしているだけと一刀両断にすることも可能だろう。しかしゲームという作品の競争力と完成度を高めていく過程において,ゲームという言葉に本来的に含まれるものを,きちんとつなぎあわせていくことが持つ意味はとても大きい。
第5回の開催も決定したとのことで,今後もこの動きには注目していきたい。
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