業界動向
プロデューサーが語る「オンラインゲームの運営」。 バンタンゲームアカデミーの新カリキュラム「オンラインゲーム業界の仕事とスキル」聴講レポート
2012年1月21日には,JOGA会員企業から2人のオンラインゲーム運営プロデューサーを講師として招き,「オンラインゲーム業界の仕事とスキル」と題した講座を行ったので,その模様をレポートしよう。
「バンタンゲームアカデミー」公式サイト
「現状に満足する運営チームはない」──原動力は飽くなき“探究心”
ガマニアデジタルエンターテインメント オンライン事業本部セクションマネージャー 廣田一億氏 |
そのうえで廣田氏は,運営チームの仕事をプレイヤーから見える部分と見えない部分に分けて紹介。前者はユーザーサポートや,さまざまな情報の公開,アップデートの実施,キャンペーン/イベントの企画/実施,そして有料アイテムの販売である。こうした業務は,オンラインゲームを遊んだことがある人なら,イメージはつかめるだろう。
続けて廣田氏は,外部から見えない業務として,第一にスケジュールの作成を挙げる。運営チームでは3か月,6か月といった単位でスケジュールを定め,それに沿ってアップデートの実施を含めたすべての業務を行っていると廣田氏は説明した。またイベントなどの告知一つを取っても,誤りのないよう掲載日のかなり前から準備を進めているそうだ。
またプレイヤーの動向を分析するのも運営の重要な業務となる。オンラインゲームの場合は,例えばほかの人との交流を目的にログインしているプレイヤーもいれば,レベルを上げたりアイテムを収集したりといった目的を持って遊んでいるプレイヤーもいたりと,それぞれが抱くモチベーションが違う。したがって離脱原因も,「フレンドができなかったから」や,「特定のモンスターを倒せなかったから」とさまざま。そうしたプレイヤーの離脱を未然に防ぐためには,プレイヤーがとった行動の分析が必須というわけだ。
逆に,プレイヤー数が増加した場合であっても,その要因と,どのような層が流入してきたかといったことをきちんと分析しておく必要があるそうだ。
そして廣田氏は,運営チームの最も面白い業務として企画の立案を挙げた。どんなゲームであるかを知ってもらうためのプロモーション活動,あるいは既存プレイヤーの満足度を向上させる施策を考えることが,オンラインゲーム運営の醍醐味であるという。
しかしその一方で,業務の成果として売上といった数値の向上を忘れてはならないとも廣田氏は話す。これまで紹介してきた分析にしろ企画立案にしろ,ビジネスである以上,最終的には収益に結びつくものでなければならないというわけだ。
では,そうした業務を遂行する運営チームは,どのような構成になっているのか。廣田氏は,インゲームイベントなどに登場しプレイヤーに最も近い存在であるGM,アップデートパッチの内容を検証するQA,プロモーションを企画して実行するマーケティング担当を挙げ,それらを取りまとめる存在がディレクター(会社によってはプロデューサー)であると紹介した。廣田氏はディレクターの仕事を,“プロジェクトの責任を担う司令塔”と表現し,社内/社外を問わず,さまざまな調整を行う役割であると説明した。
さらに,オンラインゲームのサービスは24時間体制で行われているため,緊急事態が発生すれば責任者たるディレクターは昼夜を問わず呼び出される。したがって,いつ何が起きても対応できるよう準備しておかねばならず,その意味でも業務に終りがないと,氏は話す。
さらにオンラインゲームの特徴として,廣田氏は,結果が即座に数字として現れる点を挙げる。そのため,どこに問題があったのか,あるいは施策に対してどのようなレスポンスがあったのかといったポイントを確定しやすく,そのあとの対策も立てやすい。
また,一度打った施策の修正が可能という部分も大きな特徴だ。運営チームも人間なので,1回目で完璧な施策を打つことには失敗することもあるが,数字を分析し,2度3度と改善を施していくことで,よりよいものにしていくことができると,廣田氏は説明する。
最後に,廣田氏はディレクターという立場をあらためて説明。まとめてしまえばスケジュールの進行管理および各種数値の分析,そして対外交渉といったところが主だった業務だが,その遂行には「コミュニケーション能力」「分析能力」「リーダーシップ」「判断力」の各種スキルが必要とのことだ。とくにディレクターは,重大な不具合が発生した場合などの緊急事態において,誰に何を依頼し,どのように物事を進めれば被害を最小限に留められるかを的確かつ迅速に判断する必要があると,氏は説明する。
また「探究心」も重要なスキルである。廣田氏は「現状に満足している運営チームはない」と断言し,自身も日々,競合タイトルが何をやっているのかチェックしたり,あるいは他業界のプロモーションで心に留まるものがあれば,どうにか自分のタイトルに活かせないかを考えたりしていると話す。
とはいえ,廣田氏自身も最初からそうしたスキルを身に付けていたわけではなく,業務をこなす中でそれぞれを伸ばしてきたのだという。そのベースとなるのが,けなされるようなことがあっても折れない「心」,目の前に現れたチャンスを逃さないことと業務の成果を伸ばすことの2つの意味での「向上心」,自分の手がけるタイトルを最終的にこうしたいと考える「想像力」であると氏は説明し,これらは上記の探究心に紐づくものであると述べる。
そして,無数のタイトルが溢れる現在のオンラインゲーム市場では,仮に出来のよいゲームであったとしてもアピールが足りずに埋もれてしまう可能性があると指摘する。すなわち“面白いゲームだから売れる”という考え方を捨て,自分の扱うタイトルを一つの“商品”と見なし,どのように市場でアピールすればいいのか,どうすれば売り上げを伸ばせるのかを常に考えていかなければならないと,廣田氏はまとめた。
企画を実現/実行する能力の根底にあるのは“情熱”と“執念”
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 第2パブリッシング部部長 小島幸博氏 |
小島氏は,「仕事」にはどんな業界で働きたいかという「ジャンル」と,その業界でどんな業務を行いたいかという「仕事」の2軸があると説明する。両軸が交わるところで仕事をすることが,その人の“幸せ”に繋がるとのことで,氏は「自分が幸せでなければ,お客様を幸せにすることはできない」と述べた。例えばゲームであれば,自分が本当に面白いとは思っていないのにもかかわらず提供し続けていると,いつか心が折れてしまうというわけだ。
続いて氏は,ガンホーにおけるオンラインゲーム関連の職種を小島氏流の解釈として紹介した。
・ディレクター(進行管理/総合ゲーム企画)
・プランナー(個別ゲーム企画/イベント企画など)
・インスペクター(デバッグ/検証)
・マーケッター(マーケティング/営業)
・プロモーター(宣伝/PR)
・トランスレーター(翻訳家)
・ファウンダー(事業起案者)
・サポーター(カスタマーサポート/顧客対応)
プロデューサーとファウンダーを除いた各職種は,見習い/サブ/メインといったランク付けがなされ,経験や業績に応じてランクアップしていく。その過程で,例えばサポーターからプランナーやディレクターに路線変更するケースも生じる。そして最終的にはサブプロデューサー/プロデューサーとなるわけだが,この過程を小島氏は「RPGでレベルアップしたり,クラスチェンジしたりしながら成長していくような感じ」と表現する。また聴講者の学生に向けて,仕事をするうえでは,1年といった節目などに自分が今どのランクにあるのか自己評価し,次なる目標を意識することが重要であるとも話していた。
そうしたオンラインゲームの業務全般を,小島氏は「ラーメン屋を営業しているような感覚」と表現。すなわちログインした瞬間,不快な思いをしたり,違和感を覚えたりした人が二度とそのゲームに触れることはないと肝に銘じ,面白さや快適さを提供することを心がけなければならないというわけだ。
さらに小島氏は,かつてのコンシューマゲームはクリエイター主導の内容だったが,昨今のオンラインゲームはプレイヤーの動向に応じて内容が変化している点を指摘する。ソーシャルゲームに至っては,数値分析をベースにゲームを刻々と変化させていることが日常だろう。
しかし,ここで小島氏は,講義冒頭の言葉に立ち返り,顧客の動向や数値によってゲームの内容を変化させるのは,自分が面白いと思うゲームを提供することと矛盾しているのではないか,との疑問を口にする。これは氏自身も自問自答しているとのことで,1〜2年中に自分なりの解答を見つけたいと話していた。
最後に小島氏は,オンラインゲーム運営に携わる人材に必要とされる能力として,コンセプトを立てる「企画力」,それを的確にメッセージ化する「表現力=プレゼンテーション能力」,アイデアに優先順位をつけて提示する「編集力=構成力」,それらを実現する「実行力」の4つを挙げた。「頭の中に企画がある」とはいっても,それを他人に分かりやすく説明し,社内の人間を説得して協力を得たり,あるいは予算を確保するといったことができて,はじめて実現に至るのだ。
今回講師として招かれた2人は,会社や役割,立場は違えど,重要視する事柄に共通点は多い。とくに,オンラインゲームをビジネスとして成り立たせていくという大前提の元,自分自身が楽しめないと続けていけないという指摘は,印象的だった。どの仕事にも当てはまることかもしれないが,人に楽しさ,面白さを提供する仕事である以上,とくに大切なことなのだろう。
「バンタンゲームアカデミー」公式サイト
- この記事のURL:
キーワード