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たかがゲーム,されどゲーム ――ガンホー,ROでの不正通貨作成について
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印刷2006/07/21 16:42

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たかがゲーム,されどゲーム ――ガンホー,ROでの不正通貨作成について

 昨日20日に,業界はおろか一般メディアをも巻き込んで話題となった,ガンホー・オンライン・エンターテイメントのMMORPG「ラグナロクオンライン」。本来不正を裁く立場であるはずのGM(Game Master)がゲーム内通貨を大量に作り出していたという事件は,予想を上回り,業界を超えて伝播している。

 とはいえ昨日の我々自身をも含め,錯綜する情報に埋もれて,細かなところまでその姿を伝えられた記事は思ったより少ないように思う。先ほど新たに入手した情報を踏まえ,一日経ったこのタイミングで,一度整理してみよう。昨日の記事でも触れていることも多々あるが,正しい情報を把握するという意味で,いま一度お読みいただきたい。
 なお,昨日の情報も本日のこの記事も,すべてガンホーのプレスリリースもしくは同社への聞き込みの結果に筆者の主観を交えつつ,文字として起こしたものだ。警察筋の情報(売却益は3000万円,など)は我々の情報ソースとなっていないので,その部分はご了承いただきたい。

 昨日の記事でも記述したが,ガンホーの社内調査によれば,該当社員が不正行為でZenyを作り出していた期間は,2005年10月22日〜2006年3月24日までの約5か月。前回はその総額を6910億Zenyと記述したが,これはすべて,該当社員自身がプライベートで持っていた複数のゲーム内キャラクターに“送金”されていたとのこと。
 事件が発覚した時点(3月24日)で手つかずで残っていたのは910億Zenyだったとのことで,すなわち差し引いた6000億Zenyが,“さまざまな用途で”使われていたことになる。
 ……この“さまざまな用途”は新しい言葉だが,これが,現時点では最も正しい表現だと思われる。お恥ずかしい話ではあるが,4Gamerを含め多くのメディアが「6910億ZenyをRMT業者に売って利益を得ていた」というニュアンスになっていたが,少なくとも現時点では「そうとも言い切れない」というのが正しい。

 細かく正しく表現するならば,
「19日の時点で,(残高である910億Zenyを引いた)6000億Zenyが,ゲーム内に流通していることを確認しています」(ガンホー談)
となる。具体的にどこにどんな形で流通したのかまでは聞き出せなかったが(現在詳細調査中とのこと),その言葉を信じるならば,RMT業者への販売,自分のゲーム内での買い物,知人/友人への譲渡など,さまざまな可能性が挙げられるだろう。RMT業者への販売というのはまず動かない線ではあると思うが,その他違う用途でもZenyが大量に使われていた可能性もあるというわけだ。
 もしそうであれば,明らかに裏相場と合わない「6000億Zeny=1400万円(ないし3000万円)」という問題はクリアになる可能性はある(ちなみに「売却益1400万円」という表記は,ガンホーの社内調査時に該当社員が自己申告した数字だ)。

 ところでラグナロクオンラインには,現時点(2006年7月21日現在)では24のゲームサーバーが存在する。該当社員はすべてのサーバーにキャラクターを持っていて(それぞれのサーバーに3キャラクターずついた模様),それらに振り分けて“送金”していたとのことだ。均等振り分けかどうかは不明だが,不正に作り出されて送り込まれたそれぞれのサーバーのZeny総額は,それぞれのサーバー全体で流通しているZeny量の6〜17%(サーバーにより異なる)を占める額だった。
 ちょっと計算してみよう。例えば6000億Zenyをマメに均等に割ったと仮定すると,1サーバーで250億Zeny。その250億Zenyがサーバー全体量の11.5%(平均値)だったとすると,ROにおいて1サーバーが保有するZeny量は,約2174億Zeny。容疑者は,軽く3サーバー分のZenyを5か月間かけて作り出していたという計算になる。

 それだけのZenyを作り出したことに関しては,
「3月24日の朝,定期チェックで急に30億Zenyが増えたことで判明しました」(ガンホー談)
とのこと。プレスリリースに見られる「ゲームデータの監視業務を実施している過程において、ゲーム内仮想通貨の異常値を検出し」という部分にあたる。
 容疑者は,1回の不正アクセスで何度かに分けてデータを作り,それでできたZenyを,2,3サーバー分の自分のキャラクターに転送していたとのこと(つまり6〜9キャラクタずつに分けて送金していた)。ちなみに不正アクセスの総回数は59回で,不正データの作成回数は852回。

 「おぉ,Zenyが大量に増えたら分かる仕組みがちゃんとあるのか」と納得しかけるが,ここで一つの疑問が出てくる。「30億Zenyが増えたことで判明しました」とあるが,容疑者が作り出したZenyは6910億で,期間は5か月だ。単純に一日割りしても,一日に46億を作り出さなければ,その期間で6910億Zenyは作れない。そして心理的なものを考えると,コンスタントに毎日46億を作っていたとは考えにくい。最初はチマチマとバレないように作業し,時間が経つにつれて大胆に大きなお金を作り出していったと考えるのが妥当なラインだ。
 つまり,事実上「急激に増えたZeny」をチェックする(ヒューマン/プログラムの両方の意味において)システマティックな機能は存在していなかったと見るのが妥当である。ましてや59回もの不正アクセス,852回もの不正データ作成は,「たまたま見逃してしまった」というレベルを逸脱している。むしろ逆に,「たまたま見つけた」という表現のほうが正しいかもしれない。

 なるほど,確かにROは設計がとても古いゲームだ。急激に広がるRMTやBOT/チートなどの対策は,プログラム本体になされていないと考えて間違いではないと思う。
 とはいえ,ヒューマンリソースでどうにかできる部分もあるはずだ。ただでさえBOTやチート,RMTで騒がれている会社が,なぜなにも努力をせずに放置してあったのか。BOTが日々大量生産するZenyで,すっかり感覚が麻痺していたのではないだろうか。

 そこに関しては,怒りというよりは,心の底から残念でならない。昨日の記事でも触れたように,元々「ROってGMがZeny作ってるんだぜ」みたいな噂が面白半分に流れていたが,今回の件はそれを証明してしまったのだ。
 一般メディアが好む問題であるRMT部分へのフォーカス,GM逮捕という警察沙汰,ガンホーの運営管理の甘さなど色々な観点で語られているこの問題だが,個人的に最も大きい問題は「ユーザーの信頼を木っ端みじんに粉砕して裏切った」ことであると思う。
 まさか運営会社はそんなことしない,まさかGMがそんなことするはずはない,と信じていた多くのユーザーを,およそ考えられる最悪の形で裏切ったそのツケは,これからどのように払われていくのだろうか。

 そして最後になるが,もう一つの大きな問題が「法整備」だ。昨日も述べたように,仮に順当に不正アクセス禁止法違反が成立すると,1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金刑で済んでしまう。不穏な表現であることを承知で言わせてもらうが,事実上3000万円を不正に手に入れた人の実刑は,わずか50万円なのだ。「ならば俺もやろう」と考える人が出てきても,何ら不思議ではない。確かに運営体制が度を超えて甘かったガンホーにその責任がある。しかしガンホーとて,その容疑者をそれ以上の罪に問えないのが現状なのだ。

 ゲーマーから見れば,「6910億ものゲーム内通貨を不正に作り出して」「それをこともあろうにRMT業者などに売却して利益すら得ていた」という,およそ“ふざけるな”と言いたくなる事件ではあるが,法はそこを問題にしていない。というより,問題にできない。あくまでも2000年に施行された「不正アクセス禁止法」に触れた部分“だけ”が争点なのだ。不正に作り出した6910億Zenyも,それをRMT業者に売却したことも,現在の日本の法体制ではまったく手が付けられない。逮捕の主たる原因としては(そしてたぶん余罪としても),まったくカウントされないのだ。解釈上難しいとは思うが,せめて横領罪や背任罪は適用できないのだろうか(ゲーム内通貨――しかも不正に生み出された――が誰のものかという問題はともかく)。また,ガンホーおよび業界全体の信頼失墜を損害賠償請求という形で請求できないものなのだろうか。

 これはもはやガンホー1社に留まる問題ではない。日本のオンラインゲーム業界全体に――場合によってはそれ以外の業界にも――影響する問題だ。事を大きく荒立てるつもりは毛頭ないが,業界の方々や有識者の方々,そしてプレイヤーも,これを期にこの問題をもっと深く考えてほしい。「たかがゲームの不正行為」というレベルから,段々と離れてきている。確かに“たかがゲーム”ではあるが,プレステのゲームでLv最大のセーブデータを使って遊ぶのとは,やはりその意味合いが違うと感じる。
 法整備上の問題や運営上の問題は当たり前だが,そもそも規約で禁止されているにも関わらずRMTを利用するプレイヤーがいるのもおかしい。それぞれがそれぞれに,おそらくやっていかねばならないことが山のようにある。
 今回の件が,あとで思い返したときに“ターニングポイント”であることを願ってやまない。今後の法整備に,大いに期待したい。(Kazuhisa)


  • 関連タイトル:

    ラグナロクオンライン

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