業界動向
2014年に移行が始まるDDR4メモリ,Intelは「Skylake」から採用か。システム&グラフィックスメモリの動向を整理する
Intelは,2013年までDDR3メモリに対応したプラットフォームを継続すると明らかにしているが,ただサポートを続けていくだけではない。2012年には1.35V駆動の低電圧版となる「DDR3L」メモリのサポートをクライアントプラットフォームへと追加する予定で,さらに同社は,高性能なデスクトップPC向けに,より高速なDDR3メモリの対応も視野に入れているのだ。
またIntelは,2014年以降に向けてDDR4への移行準備を進めてもいるが,実のところ,そこにはさまざまなハードルがある。今回は,「Intel Developer Forum 2011 Beijing」(以下,IDF 2011 Beijing)などで入手した情報を基に,システムメモリの動向を整理してみよう。
「Ivy Bridge」でDDR3LとPC3-12800をサポートへ
要するに,次期主力CPUたる「Ivy Bridge」(アイヴィブリッジ,開発コードネーム)では,DDR3Lをサポートすることになるというわけである。
2012年からノートPCでDDR3Lメモリが採用される計画だ |
DDR3Lメモリは,通常より約20%の省電力化が可能という |
DDR3Lは,将来的に1.25V駆動にまで動作電圧が下げられる |
Ivy BridgeでサポートされるDDR3Lの動作クロックは最大1333MHz動作(PC3-10600)になる予定だが,これについてOEMベンダー関係者が「Intelは,Ivy BridgeにおけるDDR3Lのサポートを『SO-DIMMのシングルチャネル構成』に限る方針だ」と証言している点を押さえておきたい。スリムノートPCやオールインワンPCといった,消費電力にシビアなシステムのみがDDR3Lのターゲットであり,それ以外のノートPCやデスクトップPCでは,通常電圧版DDR3が引き続き採用されることになるだろう。
通常電圧版DDR3チップやモジュールの高速化が順調に進んでおり,2011年内にもPC3-12800モジュールが比較的入手しやすい価格帯まで下りてくるというのが,同関係者の根拠だ。
Sandy Bridge世代でもPC3-12800はサポートされるが,これはシステムメモリが1スロット1チャネル構成の場合のみ。これに対してIvy Bridge世代では,2スロット2チャネル構成となる一般的なマザーボードでも,標準でPC3-12800への対応が行われることになるわけだ。
ちなみにIntelでCPUプラットフォームのメモリ検証などを担当するCharles Chang氏も,「DDR3メモリは2012年にPC3-15000モジュールが一般的となり,最終的にPC3-17066まで進化するだろう」と予測していたりするので,Ivy BridgeでデュアルチャネルPC3-12800というのは,落としどころとして妥当といった印象である。
次世代システムメモリDDR4は2014年末から採用へ
それによると,Hynixでは,DDR4メモリのサンプル出荷をすでに開始済み。「動作検証が順調に進めば,2年後にはメインストリームPCのプラットフォームに採用されるだろう」(Khang氏)。
ここでまず,DDR4メモリがどんなものかについて少々説明しておきたい。DDR4メモリは,2013年時に1.2V動作で2400Mbps(2400MHz、DIMMあたり19200Mbps)や3200Mbps(3200MHz、DIMMあたり25600Mbps)の転送レートからスタートし,最終的には4266Mbps(4266MHz、DIMMあたり34128Mbps)以上を目指すメモリである。DDR4では,セルフリフレッシュやメモリバンクのグループ化により,省電力性やレスポンスなどが大幅に向上すると見込まれている。
問題点のうち,最も大きいものとして挙げられるのは,まず,1チャネルあたり1スロットとなるポイント・トゥー・ポイント接続への移行が必要となるため,チャネル数あたりの容量が少なくなってしまうことだ。
また,DDR3メモリの低電圧化&高クロック化がいまなお途上ということもあり,メモリ業界のDDR4移行計画も日に日に後退しているという実情もある。そもそも,2010年の時点だと,2012年にはDDR4への移行が計画されていたのだが,2012年にどうなりそうかは,先ほどお伝えしたとおりだ。
CPU統合型グラフィックス機能の普及により,システムメモリに対して要求される性能がますます高まる |
2010年7月時点のDDR4標準化スケジュール。2011年に標準化作業が完了し,2012年に市場投入されるはずだった |
……とここで,IntelとAMDのCPUロードマップを下に掲載したので見てほしい。これを基に話を進めて行こうと思う。
Khang氏が言う,「2年後」というスケジュールどおりに進むならば,DDR4メモリは,2013年に市場投入が計画されているIvy Bridgeの後継CPU「Haswell」(ハスウェル,開発コードネーム)か,もしくは,LGA2011プラットフォームの第2世代モデルとして2013年半ばの登場が見込まれるハイエンドCPU「Ivy Bridge-E」(開発コードネーム)でDDR4メモリの採用が検討されることになるわけだ。
しかし,Intelに近いOEM関係者は,「DDR4メモリへの移行を2013年に実現しようとするなら,確かにIvy Bridge-Eが有力候補となるが,メモリコントローラをCPUに搭載するうえで,DDR3とDDR4両対応のコントローラを新規で搭載してくるとは考えにくい。また,Intelが現行プラットフォームを3年以上維持するというスタンスである以上,Ivy Bridge-EでDDR4メモリ採用する可能性は低いだろう」と述べている。
さらに同関係者は,「サーバー用途においては,メモリ帯域幅もさることながら,メモリ容量も重視されるため,TSV(Through Silicon Via:シリコン貫通ビア)によってメモリダイを複数重ねたうえで,品質が安定するのを待つ必要がある」として,早期のDDR4メモリ対応は現実的でないという考えを示してもいる。
ちなみに,DDR4メモリの標準化作業は,JEDECで進められており,2011年中に最終仕様が確定するという状況だ。そのため,「2013年初頭に投入が予定されているHaswellでDDR4メモリをサポートするには時間が足りない」と指摘する業界関係者も多い。
そして,Haswellが対応しないなら,そのシュリンク版となる「Broadwell」(ブロードウェル,開発コードネーム)がDDR4に対応する可能性も低いというのが大筋の見方だ。
こうしたDDR4の状況を反映してか,半導体関連のマーケティングリサーチ会社iSuppliもDDR4への移行時期を遅めに予測している。
2010年末に公表されたiSuppliのDRAM出荷予測だと,DDR4への移行は2013年で,2015年になると全体の50%以上がDDR4になるという予測だった。これが,原稿執筆時点の最新版となる2011年3月版では,DDR4への移行開始が2014年で,2015年にはメインストリーム市場の39%を占めるというものに変わっているのだ。
iSuppliの最新DRAM供給量予測(2011年3月)。DDR4の立ち上がりは2014年とされ,2015年から普及期に入ると見ている |
昨年末時点のiSuppliによるDRAM供給予測。DDR4への移行期が現在よりも1年早く考えられていたことが分かる |
ではIntelは,どの製品からDDR4へ移行するのか?
大手PCベンダー関係者は,開発コードネーム「Skylake」(スカイレーク)と呼ばれていた世代――新しいマイクロアーキテクチャを採用して2014年末〜2015年初頭に市場投入が計画されるCPUこそが,DDR4移行開始の尖兵になると予測している。
Skylakeはもともと,「Larrabee」(ララビー,同)をベースとしたグラフィックス機能を統合するとされていたCPUなので,Larrabee計画の中止を受けて開発コードネームが変わっている可能性もあるが,ひとまず本稿ではSkylakeとしておきたい。
ともあれこのSkylakeは,「AMDの『Bulldozer』ライクな,Intel初のヘテロジニアスマルチコアになる」(同関係者)とされ,より多くのメモリ帯域幅が必要となるアーキテクチャになると考えられている。そのため,同関係者以外にも,SkylakeがDDR4メモリの移行時期と見ている業界関係者は少なくない。
実際,マイクロアーキテクチャの変更により,プラットフォーム自体がLGA1155やLGA2011から変わるわけで,格好のタイミングと言えばタイミングだ。
もちろん,AMDもDDR4を採用する方向で動いており,「より高性能なグラフィックス機能を統合するAMDのほうが,IntelよりもDDR4への移行は早い」と見るOEM関係者もいる。同関係者によれば,AMDはことによると,2014年に予定されるBulldozerアーキテクチャの刷新に合わせてDDR4対応を果たすかもしれないという。
いずれにせよ,Hynixから――実際にはHynixだけでなくSamsung Semiconductorからも――DDR4メモリのサンプル出荷が開始されたことを受けて,IntelとAMDともにDDR4メモリの対応へと動き始めていることは確かなようだ。
TSV採用へと向かうグラフィックスメモリ
ここまではシステムメモリの話だが,IDF 2011 BeijingでKhang氏は,グラフィックスメモリのアップデートも行っている。氏は「ゲームタイトルの進化に伴って,より広いメモリ帯域幅が求められている」と述べ,最新の3D立体視対応タイトルではゆうに500GB/s以上が求められるとした。
ところが,「現時点で,次世代のグラフィックスチップが必要としている『1GB/sの帯域幅を実現できるグラフィックスメモリ』は存在しない。GDDR5で7Gbps(875MB/s)対応の量産にようやく目処が立っているレベルだ」とKhang氏。同氏は「短期間であれば,メモリインタフェース幅を増やすなどの方法で帯域幅を稼ぐことはできるが,早急に次世代グラフィックスメモリの方向性を見つける必要がある」と述べている。
そのためGPUベンダーは,グラフィックスカード上にGPUとメモリチップを搭載するのではなく,グラフィックスメモリをTSVでGPUパッケージへスタックすることでバスインタフェースを拡張し,メモリバス帯域幅を広げる計画を持っている。
これは突拍子もないアイデアというわけではなく,メモリベンダー関係者も,「現在のハイエンドGPUはチップ配線やボード実装エリアの制約でバス幅を広げられずにいるが,メモリをパッケージ内でGPUチップと接続するTSVならバス帯域幅の拡張も容易になる」と述べていたりする。
GDDR5に代わる高速技術が確立していない現状では,TSVがメモリ帯域幅を広げる最有力候補とされている |
TSVの基本構造を示した図。複数のダイに電極を貫通させて内部で接続している |
一方,次世代グラフィックス機能統合型CPU向けのシステムメモリについてもKhang氏は「3200Mbpsを実現する目処が立っているDDR4への移行が急がれる」としたうえで,「DDR4でも,近い将来のグラフィックス機能統合型CPUが必要とする帯域幅には足りない」と言う。
ただKhang氏は,Hynixが2013年に,タブレットPCなどへの組み込み用としてTSVでバス幅を拡大したメモリ「Wide IO SDR」の生産を開始する計画を持っているとも述べている。すぐにGPUやAPUなどで使われるかどうかはともかく,TSV技術そのものが,実用化に向けたカウントダウンに入っていることは確かだ。
このように,ゲームプラットフォームを支える高性能なPCシステムの進化は,システムメモリとグラフィックスメモリの高性能化に左右される可能性が高い。
3D立体視表示に限らず,4096×2160ドットや3840×2160ドットといった表示を実現する「4Kディスプレイ」(もしくは「4K2Kディスプレイ」)も今後普及が進むと見られており,グラフィックス処理に必要とされるメモリ帯域幅が爆発的に増大することは避けられないだろう。
ただ,DDR4やTSVの導入にはまだ時間がかかるのも間違いないところ。その意味でこれからの2,3年は,メモリ帯域幅の問題にいまある技術でどう取り組むかが,CPUやGPUの性能向上を左右することになるだろう。
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