レビュー
HKS公認の“ステアリングゲームパッド”をGT5で使ってみる
Eagl3 HKS Racing Controller
軽く1万円を超え,モノによっては5万円以上という価格はもちろん,よほど室内空間に余裕がない限り,常時設置しておくことが難しく,いちいち出したり片付けたりしなければならないことも,高いハードルとなる。そのため,純正パッド「DUALSHOCK 3」を泣く泣く使っているという読者も,かなりの数に上るのではないだろうか。
ただ,DUALSHOCK 3の左アナログスティックを使ったステアリング操作や,[L2][R2]トリガーを使ったアクセル&ブレーキ操作では,微妙なコントロイ−ルが難しく,コンマ数秒を刻むような走りには向いていない。
つまり,DUALSHOCK 3よりも細かな操作が可能なゲームパッドがあれば,さまざまな理由でステアリングコントローラを導入できない人にとって救いとなるわけだが,ここに来て,その可能性を秘めた製品が,海外市場で発売になったのだ。
残念ながら国内代理店が存在しないため,その手のショップで並行輸入版を手に入れたり,個人輸入したりするしかないうえ,ソニー・コンピュータエンタテインメントの正式ライセンス品ではないという,二重のハードルはある。だが,親指で細かなステアリングとアクセル&ブレーキ操作ができる可能性に賭けて――というか,そのデザインコンセプトに一目惚れして――並行輸入版をゲットしたので,今回は,その使い勝手を検証してみたいと思う。
※注意
HKS Racing Controllerは,PS3およびソニー・コンピュータエンタテインメントのライセンス製品ではありません。製品を使用して,PS3本体などに不具合が発生しても,メーカー,4Gamer編集部および筆者は一切の責任を負いません。あらかじめご了承ください。
HKS公認の「レース用コントローラ」
ドライブ系にのみ注力した潔い仕様が目を引く
しかも,HKSブランドのデモカーである三菱ランサーエボリューション「HKS RACING PERFORMER CT230R」と同じ「スティンガーレッド」のカラーリングになっているという,気合いの入りようだ。
本体のデザインは基本的にDUALSHOCK 3を踏襲しており,サイズは,ぱっと見た限りほぼ同じ。もちろん,厳密に比較すれば違いはあるのかもしれないが,少なくともDUALSHOCK 3から握り替えたとき,大きさに違和感を抱くことはない。
そんなHKS Racing Controllerを,DUALSHOCK 3とは大きく異なる印象にしているのが,前述した,DUALSHOCK 3で十字ボタンと[△/○/×/□]ボタンがある位置の入力系である。
まず,DUALSHOCK 3で十字ボタンがある位置には,ステアリングの上端部がパッド本体から飛び出たような形のアナログホイール(の一部)が用意されている。要するに,左手でグリップを握り,親指を乗せて,スライドさせるように操作するようになっているのだ。本体正面に向かって斜めに取り付けられているのは,グリップを握ったとき,親指を左右方向へ無理なく振れるようにするためで,このあたりは実によくできている。
ホイールの可動角度はDUALSHOCK 3の左アナログスティックと同様に一方向約40°だが,ホイールの半径が大きいため,より細かな操作が可能。スライドさせた状態で指を離すとホイールが中央に戻るセンタリング機能が用意されていたり,センター部には突起があって分かりやすくなっていたり,ホイール全体がラバーコートされ滑り止めになっていたりするあたりも芸が細かい。
写真奥から,[×]ボタンの代わりとなるアクセルペダルと,[□]ボタンの代わりとなるブレーキペダル。後者のほうが若干小振りだ |
アナログペダルは親指で押し込むように操作する |
アクセル&ブレーキペダルの脇には,申し訳程度に[△/○]ボタンが用意されている。このことからも分かるように,2連ペダルは[×/□]ボタンの代わりに用意されているわけだが,だからといってデジタル入力になってしまうという心配はない。本体の背面には「RACE MODE」スイッチが用意されており,これによって,2連ペダルの機能を切り替えられるようになっているからだ。
アクセルペダルの脇に,[△/○]ボタンが用意されている。アクセルペダルと合わせて,[△/○/×/□]ボタンの体裁が一応は整っている,ということになる |
本体背面には,「Need for Speed」および「Gran Tourismo」を彷彿とさせるモード名の刻まれたスライドスイッチがある。スイッチはもう1つ見えるが,こちらについては後述 |
- NFSモード:アクセル&ブレーキペダルが[L2/R2]アナログトリガーとして機能。リアルの[L2/R2]アナログトリガーには[×/□]ボタンが割り当てられる
- GTモード:アクセル&ブレーキペダルが[×/□]ボタンとして機能。リアルの[L2/R2]アナログトリガーはそのまま機能する
RACE MODEスイッチともども本体背面に用意されるJOYSTICKスイッチ |
JOYSTICKスイッチにより,本体に搭載される唯一のアナログスティックは,左右スティックのどちらかを選択して利用することになる。この仕様もあって,クルマ系以外のタイトルをプレイするのは難しいだろう |
本体中央のHKSロゴを囲むように,[SELECT][START][PS]ボタンと[MACRO]ボタンが用意されている |
もう一度全体を見てほしい。DUALSHOCK 3で十字ボタンが用意されるところにステアリングホイール(の上部)が用意された関係で,DUALSHOCK 3において右アナログスティックが置かれていた位置へ,HKS Racing Controllerの十字ボタンは追いやられた。結果として,右アナログスティックが省略されたため,ハードウェア的な切り替えスイッチが用意されたというわけだ。
このほか,本体中央部に,[SELECT][START][PS]ボタン,上部側面に[L1][L2]ボタンがそれぞれ置かれている点はDUALSHOCK 3と同じ。ただ,HKSロゴの近くに[MACRO]ボタンが用意され,ボタンのカスタマイズが可能な点は,押さえておく必要があるだろう。
この[MACRO]ボタン,名前に反してマクロの登録はできず,[MACRO]ボタンを押して,ボタン内蔵の赤色LEDが点灯したら,「『割り当てたいボタン』→『割り当てたい機能』」の順に操作することで,単機能を割り当てることになる。この単機能割り当ては複数のボタンに対して適用可能だが,USBケーブルを差し直すと設定はすべてリセットされるという,なかなか豪快な仕様だ(※全設定のリセットは,[MACRO]ボタンの長押しでも行える)。
ホイールとペダルの完成度はかなり高い
DUALSHOCK 3よりも明らかに数段上の操作性を実現
要するに,DUALSHOCK 3を認識させる方法と同じなのだが,PlayStation 3がスタンバイになっている状態でHKS Racing Controller側の[PS]ボタンを押しても,PS3本体が起動しない点は憶えておきたい。この仕様のため,HKS Racing Controllerを使うには「いったんDUALSHOCK 3の[PS]ボタンでPS3を起動させ,その後,HKS Racing Controller側の[PS]ボタンを押す」という手間がかかってしまうのだ。
PS3はスタンバイ状態だとUSB入力に対して反応しない仕様になっているので,仕方ないところかもしれないが,やはり面倒は面倒である。
……気を取り直して,実際のゲームタイトルを用いたテストに入りたい。
今回検証に使ったのは,GT5と「SPLIT SECOND -スプリットセカンド-」,「ニード・フォー・スピード ホット・パースート」(以下順にSPLIT SECOND,Hot Pursuit)の計3本だ。
まず「そもそもちゃんと動くのか」について言及しておくと,いずれも問題なかった。左アナログスティックの代わりとなるアナログホイールはもちろん,RACE MODEスイッチの切り替えによって対応することになるアクセル&ブレーキペダルも,GT5はGTモード,SPLIT SECONDとHot PursuitはNFSモードにそれぞれ切り替えるだけで利用できている。
●アナログホイール
筆者の場合,アナログスティックを使ってクルマの操作を行うとき,無意識に「スティックを倒して戻す」操作を繰り返してステアリングを微調整することがよくあるのだが,アナログホイールだと,実際のステアリングを操作するのと同じように,きちんと切り角を維持できるので,操作性の違いは歴然。とくに,同じ切り角でステアリングを長時間ホールドする必要があるケース,具体的にはGT5におけるNASCARのオーバルや,ハイスピードで抜けるロングコーナーなどだと,HKS Racing Controllerのアナログホイールが持つ安定感をしみじみと感じられる。
●アクセル&ブレーキペダル
2連のアクセル&ブレーキペダルは,まさにペダルを踏み込むイメージで直感的な操作が可能になるため,違和感よりも使いやすさのほうが勝った。あまりしたことのない親指の動きになるため,親指が痛くなったり,やたら疲れたりするのではないかと危惧していたのだが,まったくそんなことがなかったのはうれしい誤算といえそうだ。
ただ,「ブレーキングから素早くアクセルオンへ移行」という場合には,アクセルペダルが高いせいで親指をスライドさせられず,いったん親指をブレーキペダルから離し,あらためてアクセルペダルを踏まなければならないため,少々コツがいる。
ブレーキを踏みながらアクセルをかかとで煽(あお)る,ヒール・アンド・トゥのような操作は難しいだろう。
また,「ゲーム側の作り次第でアクセル&ブレーキペダルの操作性に違いが出る」点も触れておきたい。
というのも,GT5ではアクセルやブレーキの踏み込み量をゲーム上でチェックできるようになっているのだが,HKS Racing Controllerのアクセルペダルを押し込むと,デジタルインジケータが25%程度を示したところで,GT5からは「100%踏み込んだ」と認識され,ほとんど踏み込んでいないにも関わらずアクセル全開になっているのだ。
一方のSPLIT SECONDとHot Pursuitでは,デジタルインジケータが示す0〜100%の範囲をそのまま認識しているようで,微妙なペダル操作にも反応した。[L2/R2]アナログトリガーを代替しているだけの2連アナログペダルでなぜこういった違いが生じるのかは分からないが,事実としては押さえておいたほうがよさそうである(※)。
※ここでちょっとした裏技(?)を紹介しておきたい。GT5をプレイするとき,RACE MODEスイッチをGTモードではなくNFSにするというものだ。
すると,HKS Racing ControllerのデジタルインジケータとGT5側の踏み込み量認識は,完璧に追従する……とまではいかないものの,認識幅は大幅に広がるため,明らかにプレイしやすくなる。GT5なのにNFSモードというのもおかしな話だが,試す価値はあると思う。
もっとも,“アクセル全開問題”を抱えるGT5ですら,DUALSHOCK 3の[L2/R2]アナログトリガーを使ったアクセル&ブレーキ操作と比べれば操作性は格段に上がっており,何より操作していて楽しい。「アクセルハーフを維持してコーナーを抜ける」とか,「じわじわアクセルを踏み込んでいきながらコーナーを立ち上がる」といった操作が,ゲームパッドで可能になるというのは,やはり大きいのだ。
●そのほかボタン類など
そのほかのボタンについても触れておこう。
アクセル&ブレーキペダル脇に用意された[△/○]ボタンは,DUALSHOCK 3と比べると小さく,また固い。ただ,アクセルペダルを押し込んだときに親指が当たることもあるので,誤操作防止という観点からは,この程度の小ささ&固さでよいと思われる。
そこで出番となるのが[MACRO]ボタンで,[L1/R1]トリガーボタンと[L2/R2]アナログトリガーに[△/○/×/□]ボタンを割り当てることで,とてもプレイしやすくなった。アクション性の高いレースタイトルの場合,ブーストやら何やらといった走行中のボタン操作が必要になることが多いので,[MACRO]ボタンを使った機能の割り当ては,意外と有用そうだ。
……それと忘れるところだったが,HKS Racing Controllerはフォースフィードバックの振動に対応しており,路肩に乗り上げたり,未舗装路を走ったりするときには,DUALSHOCK 3と同様に,大小さまざまな振動が再現される。振動があるのとないのではプレイフィールも大きく変わるので,この点はありがたいところといえる。
PCには(もちろん)非対応
ただ,一応は認識する
さて,この手のゲームデバイスでは,PCで動作するのかが気になる人も多いはず。Eagl3はコンシューマ向けデバイスを手掛けているメーカーということもあって,HKS Racing ControllerもPC対応とは一言も謳われてはおらず,もちろんドライバソフトウェアも用意されてはいないのだが,そこはせっかくのUSBインタフェース。PCに差してみよう。
それによれば,アナログ軸X軸/Y軸,Z軸/Z回転のほか,合計19個のボタン(≒入力)を利用できることとが分かる。アナログホイールはX軸の1軸が割り当てられており,アナログスティックは,JOYSTICKスイッチから左スティックに割り当てるとX軸/Y軸,右スティックに割り当てるとZ軸/Z回転が割り当てられる。
ただ問題はここからで,RACE MODEスイッチをGTモードにするとアクセルペダルが15番,ブレーキペダルが16番,[L2]が9番,[R2]が10番のボタンになり,一方のNFSモードだと順に10番,9番,16番,15番となった。
……勘のいい読者はもう気づいただろう。PCに接続した場合,アクセル&ブレーキペダル,[L2/R2]アナログトリガーはいずれもデジタルボタンとして認識されてしまうのだ。「押せばアクセル全開かフルブレーキ」であり,微妙なペダルコントロールは事実上不可能である。
「USB接続のワイヤードコントローラなら,PCでも使えるかも」と思う人がいるかもしれないので,この点は十分に注意しておいてほしい。
かなりの割合で「専用コントローラいらず」を実現
サポート周りと入手のハードルが気にならないなら買い
例によって少々長くなってしまったが,HKS Racing Controllerの魅力は,“ゲームパッドのくせに”ドライブシムやレースゲームで最も重要なステアリング操作とアクセル&ブレーキ操作を直感的に行える点にある。
ただ,「クルマをコントロールする楽しさ」は,DUALSHOCK 3よりもはるかに高いレベルで味わえる。クルマゲーは好きだが,ステアリングコントローラまでは必要ないとか,買う予算がない,置く場所がないという人のすべてに広く,また力強く勧められる完成度だ。
欠点は明白で,ソニー・コンピュータエンタテインメントの正式ライセンス品ではないことと,そして国内代理店がなく,並行輸入やら個人輸入やらで入手しなければならないこと。ただ,それらに抵抗を感じない人にとっては,並行輸入品で6000円程度,個人輸入で30〜40ドル程度+送料(※いずれも2011年2月19日現在)のコストを投下する価値のある製品である。
Eagl3のHKS Racing Controller製品情報ページ(英語)
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