企画記事
LANパーティまであと何マイル? 小型ゲーム用PCを自作してLANパーティに持って行こうというお話(前編)
簡単にLANパーティを説明すれば,これは,普段ネットを介して遊んでいるオンラインゲームを,同じ場所にPCを持ち寄ってみんなで楽しもうという集まりだ。発祥の地はやはりアメリカで,それまでにも似た遊びは行われていたものの,1996年の「Quake」を機に爆発的に広がったという。ちなみに,それぞれがPCを持って集まることをBYOCと呼ぶが,これは,Bring Your Own Computerの略だ。そのまんまだ。
最初は内輪のこぢんまりしたものが主だったが,面白さが知られるにつれて,だんだん大規模なパーティが催されるようになっていった。中でも,スウェーデンで行われる「Dreamhack」やアメリカの「Quakecon」などは世界的に有名(そして非常に大規模)で,多数の参加者を集めている。
まあぶっちゃけ,まだ日本のゲーマーにはなじみの薄いカルチャーではあるが,それでも過去に大小さまざまなLANパーティが日本でも行われており,認知度は高まりつつある雰囲気もある。
そんなLANパーティの一つが,2010年11月12日〜14日,千葉県の稲毛海岸で開催される予定だ。今回で21回目となる「Tokyo Game Night !!」(以下,TGN)は過去最大規模で,BYOC参加者数も本稿執筆時点ですでに60人以上に達している。BYOC参加受付は11月7日までなのでもう間に合わないが,ビジター観戦は飛び込み参加が可能だ。
「Tokyo Game Night」公式サイト
「家でもオンラインで遊べるのに,わざわざ重いPCを持って行かなくても……」というのが一般的な反応ではないだろうか。だが,一度参加すれば分かるが,みんなで大騒ぎしながら対戦したり協力プレイを楽しんだりするのは非常に面白いし,突発的なイベントが短いスパンで次々に行われて刺激的。とにかく,普段の生活を忘れてゲーム漬けの時間を過ごせるのがLANパーティの醍醐味といえるだろう。一度参加すれば,次もまた行ってみたくなる,それがLANパーティだと言い切ってしまおう。
大きく重いPCを運ばねばならないのが高いハードル
ならば小型のゲームPCを作ってしまおうではないか
筆者自身,過去にミドルタワーPCと液晶ディスプレイを電車で運んでLANパーティに参加したことがあるのだが,そのときの苦労たるや,会場についたあと疲労困ぱいで,ゲームをする気がなくなったほどだ。それ以降,大きなPCを持ち出すのをあきらめている。
自分のPCを会場に持ち込む別の方法としては,宅配便がある。これなら梱包以外で自分の手をわずらわせることはない。ただ,配送コストがかかってしまうし,目の届かないところで何かが起きる可能性もゼロではない。また,LANパーティ開催の前後に自宅で使用できない期間が生まれてしまうのもデメリットだ。
PCの運搬が困難だという人のために,LANパーティの運営サイドがレンタル用のPCやディスプレイを用意してくれる場合もある(TGNでも用意されている)。
また,小規模な集まりではネットカフェのスペースとPCを借りる場合がある。これなら,面倒な運搬の手間はいらないが,前者はそれなりのレンタル料金が必要になり,現地でゲームをインストールしなければならないという手間がかかる。また,後者ではマウスなどのデバイスを含めたPCの設定を自分好みにいじれないときがあったりして,これまたバッチグーとは言いづらい。
筆者は個人的に,配送やレンタルで生じるデメリットはメリットを上回ると考えており(あくまで個人の感想です),現在は「LANパーティを意識した,なるべく小さめのゲームPCを自作する」のが一番だという結論に至っている。車も免許も持っていないが,どうにかして自分のPCを持ち込みたい。しかしなるべく労力や金銭的なコストは抑えたいという筆者のようなタイプにとって,今のところこれ以上の解答はないだろう。ないはずだ。
さて,コンパクトさという観点からは,ゲーム用のノートPCを購入するという選択肢も魅力的だ。しかし,3D性能の高いノートPCはたいてい値が張るため,「将来的なカスタマイズ性を考えるとちょっと物足りないし……」と自分で自分に言い訳せざるを得ないのも事実である。ウルトラハイエンドのノートPCを,ポンと買えるような人になりたい。
さて,そろそろ本題に入りたい。筆者は数年前に参加したLANパーティに,microATXのキューブPCを持ち込んだこともあるのだが,いくらキューブでもmicroATXクラスだと大きさも重さもバカにならず,運搬の大変さは必ずしも軽減されてなかったという記憶がある。
ならばと,今度はIONプラットフォームを採用した超小型ベアボーンを持って参加したところ,運搬そのものはものすごくラクで,かつ当時メインでプレイしていた「QUAKE LIVE」などは十分に楽しめたのだが,会場で突発的に開催された「Left 4 Dead」マルチプレイなどにはスペック不足もいいところだった。LANパーティを楽しみ尽くしたいなら,いくら小型でも,低すぎるスペックは考えものだと痛感した。
このような理由で,今回のTGNに参加するにあたって「小ささと性能のバランスがとれたPC」を目標に自作することにしたのだ。ずいぶん前置きが長くなってしまったが,以上が,この記事の趣旨なのである。お分かりいただけましたでしょうか?
ありがたいことに,近頃はMini-ITXフォームファクタのマザーボードでクアッドコア以上のCPUが使えたり,PCI Express x16のグラフィックスカード用拡張スロットを備えたりしているものが増えている。また,Mini-ITX対応PCケースにも,ハイクラスのグラフィックスカードを搭載可能な製品がいくつか登場しており,小型かつ3D性能の高いPCを作りやすい環境が整ってきたといえそうだ。
目指すはMini-ITXでアッパーミドルなPC
頭を悩ませながらパーツを選ぶのも楽しみの1つ
さて,そんなLANパーティ用小型ゲームPCの制作に使用したパーツは,以下のとおりだ。なぜそのパーツを選んだかの理由もできるだけ書いたので,これから小型ゲーム用PCを組もうと思っている人にも参考になるのではないだろうか。
※記載した価格は,2010年11月10日現在のものです
●マザーボード:J&W Technology MINIX 890GX-USB3:実勢価格 1万8000円前後
拡張スロットはPCI Express x16 ×1のみということを考えると,USB 3.0とSerial ATA 6Gbpsの両方に対応しているのも大きい。予算が許せば,Serieal ATA 6Gbps対応のLexar Media製SSD「Crucial RealSD C300」も手に入れたかったのだが,やはり予算が許さなかったので断念し,手持ちの2.5インチHDDを使った。近いうちに換装するつもりだが,どうなることやら。
●CPU:Phenom II X6 1055T/2.8GHz::実勢価格 1万9000円〜2万円
●メモリモジュール:サンマックス・テクノロジーズ SMD-N4G88HP-13H-D(PC3-10600 DDR3 SO-DIMM,2GB×2):実勢価格 8500円〜1万円
●PCケース:SilverStone Technology SUGO SST-SG07B:実勢価格 2万1000円〜2万4000円
本体サイズは,(W)222×(H)190×(D)350mm。Mini-ITX対応の小型PCケースでありながら,カード長310mmまでのグラフィックスカードの搭載が可能で,かつ80 PLUS BRONZE認証済みの,定格600Wの電源ユニットを搭載するという,今回の目的にぴったりの製品だ。本体両側面の吸排気孔と,上面に用意された180mm角吸気ファンのおかげで,“窒息”と無縁なのも嬉しい。
●OS:Windows 7 Professional 32bit(DSP版)
今回作るPCは仕事でも使う予定。そのため,ドライバなどの互換性を重視して32bit版を選んだ。
これらのパーツを秋葉原のパソコンショップ「アーク」で購入した。HDDにところでも書いたように,上記のパーツ以外は,それまで使っていたデスクトップPCからの使い回しと,押し入れで眠っていた余剰パーツを充当している。以下がその内訳だ。
●グラフィックスカード:InnoVISION Multimedia Inno3D GeForce GTX 460 1GB(型番:N46V-1SDN-D5DW)
デスクトップPC延命のため購入したカードを,そのまま流用。必ずしもハイエンドGPUを搭載しているわけではないが,CPUとのバランスを考えると妥当なレベルだろう。
●HDD:日立グローバルストレージテクノロジーズ TravelStar 5K500.B(HTS545016B9A300,160GB)
以前,IONプラットフォームのベアボーンPCを組むときに購入した2.5インチHDD。上記のとおり,今後,Serial ATA 6Gbps対応のSSDに置き換える予定でいる。
●光学ドライブ:LG Electronics GSA-H58-N
PCケースとして採用したSUGO SST-SG07Bには,一般的な5インチベイサイズの光学ドライブが搭載できず,いわゆるスリムドライブのみ対応。そのため,IDE−USB変換ケーブルを用い,光学ドライブが必要なときだけ,本製品を接続することにした。
細かいトラブルはあれど組立ては順調
LANパーティに適した小型ゲームPCが完成せり
手持ちのパーツを使い回すことで倹約したため,OSを除いてかかった費用は約7万円といったところ。これを高いと見ると安いと見るかは人それぞれだが,今後,LANパーティの参加が容易になるのであれば,筆者にとって高くはない。ぜひ,そう思いたい。
さて,多少のトラブルに見まわれはしたものの,組み立て作業はパーツを購入した日の深夜にどうにか終了し,OSのインストールも問題なく終わった。
組み立て作業中に遭遇したトラブルは3つあり,まずマザーボード背面に用意されたMini PCI Express接続の無線LANカードにアンテナの結線をするのを忘れ,マザーボードを固定し終えてから気づいて,再度組み直すことになったこと。完全に筆者の不注意だが,普段使い慣れてない機能だったのですっかり忘れていた。
もう1つは,Serial ATAケーブルがL字タイプでないとケースに干渉すること。これは帰宅して組み立てている最中に気づき,ちょっと焦った。一番近い家電量販店の閉店ギリギリにどうにか駆け込んで調達したが,マニュアルを読むまで分からなかったので,SUGO SST-SG07Bを購入予定の人は気をつけてほしい。
3つめは,グラフィックスカードが搭載するGPUクーラーと,PCケース側のダクトパーツ間に貼り付けるEVAフォーム(≒スポンジ)がGPUクーラーのファンと干渉し,回転を妨げてしまったこと。要するに,用意したグラフィックスカードとの相性が悪かったわけだ。マニュアルどおりEVAフォームを貼りつけたらグラフィックスカードが妙に静かになり,しかもゲームを動かしている途中でPCが再起動を繰り返したため確認したところ,スポンジがファンの回転を止めていることに気がついたのだ。
ここで,製作したPCのベンチを取ったり,実際にゲームを動かしたりして性能を測定するのがこの手の記事のお約束なのだが,今回は,そういう記事ではない。つまり後編では,この小型ゲーム用PCを実際にLANパーティへ持ち込んで,使い勝手をレポートする予定なのだ。
もやしっ子として定評のある筆者は,果たして電車とタクシーで片道一時間半の距離をへこたれずに持ち運べるのだろうか。それに,最後にこんなことを言うのもなんだけど,運ぶべきはPC本体だけでなく,ディスプレイやキーボードなどもある。これらをうまくまとめて持ち込んだところで,LANパーティを十分に堪能できるのだろうかという疑問も残る。こうしたことがすべて白日の下にさらされる後編を,乞うご期待。
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