レビュー
これが「20年使えるゲーマー向けスピーカー」だ
パイオニア S-A4SPT-PM
その話を編集部にしたところ,じゃあぜひやりましょうかという話になったので,今回は筆者の私物であるパイオニアの「S-A4SPT-PM」というスピーカーを主役に据え,「よいスピーカーとは何なのか」について述べてみたい。
ゲーマーが「よいスピーカー」を
買う理由はどこにあるのか
それに対して,今回取り上げるS-A4SPT-PMの実勢価格は1本2万7000〜3万5000円程度(※2011年8月6日現在)。普通は2chステレオで配置することになるはずだから,2本で5万4000〜7万円程度の出費となるわけである。しかも,PC用として販売されているスピーカーセットと異なり,アンプ(やD/Aコンバータ機能)を内蔵していないため(※),別途アンプも必要になる。なぜ,そんな“高価で面倒なスピーカー”を4Gamerで紹介する必要があるのか。
※マルチメディアスピーカーは一般的に「アンプ内蔵」
PCやゲーム機と安価なスピーカーセットを組み合わせて使っている限り,ほとんど意識されることはないのだが,スピーカーから音を出すには,アンプ(Amplifier)が必要だ。誤解を恐れずに単純化して説明すると,アンプは,PCやゲーム機などからの音声出力を調整して,スピーカーユニットを駆動できるまで電力を増幅するデバイス。PCやゲーム機用として販売されているスピーカーセットはほぼ例外なく,このアンプを内蔵している。
こういったスピーカーセットは,マルチメディアスピーカーと呼ばれることが多いのだが,「アンプを内蔵し,自前で音を鳴らせる」といった意味で,「アンプ内蔵スピーカー」「アクティブスピーカー」「パワードスピーカー」と呼ばれることも多い。また,本稿の内容とは直接関係ないが,音楽制作用スピーカーも,高価なアンプを内蔵するものが少なくない。
一方,PCやゲーム機用として販売されていないスピーカーのうち,いわゆるオーディオ用スピーカーは,アンプを内蔵しないのが一般的だ。これらは「アンプによって駆動される」ことから「パッシブスピーカー」とよく呼ばれている。
その最大の理由は,ゲームのBGMなど,PCのデジタル音声信号がアナログ変換されて出力され,耳に届く最終段のデバイス(device,装置あるいは機器の意)がスピーカーだからである(※ヘッドフォンやヘッドセットでも,内蔵するスピーカーシステムが最終段のデバイスである点では,単体スピーカーとまったく同じだ)。耳との間にこれ以上何のデバイスも挟まっていないから,音質の変化を直接感じ取れるデバイスだとも言えるだろう。
高価なサウンドカードなどをいくら購入しても,スピーカーの品質が低ければ,その違いはほとんど感じ取れないが,逆にスピーカーさえある程度良質なモノにしておけば,サウンドカードなどを変更した効果もぐっと分かりやすくなる。また,理由は後段で述べるが,よいスピーカーは長時間使っていても耳が疲れないので,長時間のゲームプレイにも向いている。
どんなにハイエンドのPCでも,数年も経てば陳腐化してしまうし,ゲーム機だって,いつかは“次世代機”に取って代わられる。例えば10万円のゲームPCを手に入れたとして,快適にゲームをプレイできるのはせいぜい2年。ゲームを1日1時間プレイした場合,1日あたりのコストは10万÷(1時間×365日×2年)≒137円だ。
しかし,アナログ接続のスピーカーなら,コストが2本で6万円だとすると,使用期間を短めの10年に設定しても,1日あたりのコストは6万÷(1時間×365日×10年)≒16円である。
仮定に仮定を重ねた計算結果なので,両者の8.6倍という違いにまで意味があるとは言わないが,それでも,デジタルデバイスと1日あたりのコストを比べると,アナログ接続型スピーカーのほうが圧倒的に低いことは理解してもらえるのではないかと思う。
このデジタル全盛の時代に,「仮に壊れなかったとしても,アナログデバイスが10年も20年も使えるなんて起こりえるの?」と思うかもしれないが,結論からいうと,その心配はまったく無用だ。
「攻殻機動隊」のような世界が顕現するなら話は別だが,人間の耳がアナログである以上,人間の耳に最も近いデバイスたるスピーカーがフルデジタル化する可能性は極めて低い。デジタル音声信号がアナログである人間の耳に届くには,アンプとスピーカーの間でアナログ信号に変換され,空気を振動させなければならないからだ。伝送経路でデジタルが有効なのは間違いないが,アナログ組織である人間の目や耳で受け取るには,どうしてもアナログ変換が必要。だから,スピーカーはアナログデバイスであり続ける。
「デジタル化が行き着くところまで行って,アナログスピーカーが不要になる」なんて世界が,少なくとも向こう数十年の間にやってくる可能性は,限りなくゼロに近いのである。
もう1つ,心配性の人はこうも考えるかもしれない。「でも,いいスピーカーを買うんだったら,いいアンプも必要でしょ? それってウン十万とかするよね?」。
……もったいぶって恐縮だが,これについては後ほど,テストを交えて語ることにしたい。
世界の定番メーカーを見渡してみると,「ジャズに向いているJBL」とか「クラシックに向いているB&W」とかいった――まあ,それ自体もステレオタイプな理解なのでどうかと思うが――特定方向に特化したスピーカーというのはあるのだが,パイオニアのスピーカーはそうではない。さらにパイオニアは,スピーカーの音を実際に再生する部品であるスピーカードライバーを日本で一番最初に自社開発したメーカーであり,現在もウルトラハイエンド製品ブランド「TAD」を保持し続けていたり,同社から独立した開発者が録音スタジオ用の「モニタースピーカー」と呼ばれる製品を設計して世界中で採用されていたりと,スピーカーに関しては,国内どころか,世界でもトップクラスのノウハウを持っているのである。
ちなみに,オーディオ雑誌などにはまず書かれない豆知識を書いておくと,「総合オーディオメーカー」を自称する大手メーカーのなかには,スピーカードライバーは他社から買い入れているとか,下手をすると設計の第1段階から外部委託,といったところも最近では多い(※余談だが,マルチメディアスピーカーなども,ほとんどは外部委託の産物)。
もちろん,そういったメーカーは,スピーカー以外のところに得意分野があって,不得意なところを外に頼っているわけだが,つまりは,オーディオ機器メーカーのなかにも,得手不得手があるというわけだ。「せっかくオーディオ機器を購入するのであれば,そのメーカーが得意なモノを買いましょう」ということである。
ウイスキー樽の再利用エンクロージャを採用した
S-A4STP-PM
本製品は,サントリーのウイスキー樽「ピュアモルト」をエンクロージャー(外箱)素材に使用したスピーカーだ。樽に使われていた木材のリサイクルなので,1台ずつ木目が異なっている。
スピーカードライバーは,低〜中域を担当する100mm径のウーファと,高域を担当する20mm径のトゥイータからなる,いわゆる2-way構成だ。
一方,重量は1台3.7kgあり,相応に重い。一般に実勢価格2万円前後かそれ以下のマルチメディアスピーカーだと,エンクロージャはプラスチック製のものが多く,特定の周波数帯域(≒音の高さ)で共振が発生して音を歪ませる原因となったり,プラスチック自体が軽いため,スピーカーの振動板が揺れるときに本体も振動してやはり歪みの原因となってしまうが,そういう心配はほとんどないといっていいだろう。
本機より大型で重いスピーカーはたくさんあるが,少なくとも大半のマルチメディアスピーカーとは比べものにならない重量感である。
マルチメディアスピーカーとは
次元の異なる出力波形
VSA-AX4AVi(上)。写真は筆者の自宅スタジオで撮影したものだ。いまでも,制作した音や音楽を提出する前の確認用などとして現役で使っている |
発売直後に買ったはいいものの,一度も使わずにここまで来たDrAMPを,ついに箱から出してみた。アンプ側の出力インタフェースが標準ピンとなっているため,専用のスピーカーケーブルが付属する |
S-A4STP-PMと組み合わせるアンプは2種類。1つは,2005年に10万円台半ばの店頭価格で販売されていたパイオニア製AVアンプ「VSA-AX4AVi」で,もう1つは,2004年にエゴシステムズという会社から1万円台半ばの店頭価格で発売になった小型アンプ(デジタルプリメインアンプ)「DrAMP」だ。AVアンプである前者には,DSP(Digital Signal Processor)による音響補正機能がいろいろ用意されているが,今回はそれらをカットした「Pure Direct」モードを用いる。
いずれも販売終了品を使っているのには理由があるのだが,それは後ほど述べたい。
今回のテストには,音響補正システム「ARC」の計測ツールと,試聴を用いることにした。ARCを用いたテスト方法の詳細は本稿の最後にまとめたので,興味のある人は参考にしてほしいと思うが,簡単にいうと「ARCの設定ウィザードに従って,スピーカーセットの前方12か所,室内のそれぞれ異なる場所にマイクを1本立てては計測,立てては計測を繰り返して計12回集音。それをARCで分析することにより,『音が室内でどう響いているか』を踏まえつつ,スピーカーの出力特性を測定する」といった形になる。
なお,試聴に用いたPCは表のとおり。音楽の試聴には「iTunes」を,ゲームにおける効果音の試聴には「Call of Duty 4: Mordern Warfare」のマルチプレイを“録画”したリプレイファイルを用いている。このあたりは筆者のヘッドセットレビューと基本的に同じだ。
さて,テスト結果を見てみたい。下に示したグラフは,VSA-AX4AVi経由で計測したS-A4STP-PMのそれぞれ出力波形である。
筆者のスタジオで,右チャネルのほうが壁に近いため,左右チャネルで周波数特性が微妙に異なり,右チャネルのほうが100kHz以下の特性はよかったりするが,下限はどちらもほぼ50Hz前後。60HzだとARCの表横軸で見て−6dB内に収まっているので,低い帯域の周波数特性は,「60Hz〜40kHz」とされるカタログスペックどおりと述べていいだろう。
一方,高域は20kHz付近までフラット気味。公称値の40kHzまできちんと出ているかどうかはさておき,少なくとも高域で落ち込んだりはしていない。一般的なマルチメディアスピーカーだと,10〜12kHz付近が落ち込んだりするうえ(下のグラフ参照),ノートPC用の一般的な内蔵スピーカーにいたっては,12kHz以上がほとんど再生されなかったりするのだが,そういう波形とは一線を画しているのが分かる。
さらに下に示したのは,筆者が音楽制作やリファレンス用として用いている独ADAM製モニタースピーカー「S3A」を用いた結果。S-A4STP-PMと比べると,むしろ高域が落ち込んでいるのはS3Aのほうだったりする。
S3Aはアンプ内蔵スピーカーなので,筆者の自宅スタジオでは“PC→アンプ→S3A”という流れにできず,サウンドカードからの出力は,米Mackie Design製のアナログミキサー「Onyx 1220」経由でS3Aへ入力している。そのため,100%横並びの比較はできないので,そこは注意しておいてほしいが,それでも,1万円クラスのスピーカーセットと,数十万円クラスの業務用モニタースピーカーセットとの間にあって,S-A4STP-PMの出力波形が後者により近いのは見て取れると思う。
細かいことをいうと,S-A4STP-PMでは,4〜20kHzがS3Aより最大で1.5dBくらい高い。これが,オーディオ用と,音楽制作用スピーカーの違いというか,パイオニアが行った“味付け”の部分といえるかもしれない。
なお,波形をある程度見慣れた人のために念のため注意しておくと,スピーカーの場合はアンプによる増幅後なので,数dBは「味付けレベル」だが,出力デバイス側で数dBだと,それはもう歪みの世界だ。アンプでの増幅後と前では,同じdB数でも捉え方がまったく異なるので,くれぐれも一緒には考えないようご注意を。
さて,波形チェックの最後は,VSA-AX4AViとDrAMPの比較である。
下に2つ示したグラフのうち,左は先ほども示したS-A4STP-PM+VSA-AX4AViの組み合わせ,右はS-A4STP-PM+DrAMPの組み合わせでテストした結果だ。ここまで比較してきたものと比べると,両者に違いがあまりないのが分かるだろう。
VSA-AX4AViは2005年のミドルクラス品,DrAMPは2004年のローエンド品だが,いずれも,最新世代の高級モニタースピーカーたるS3Aと,それほど変わらない波形を示している。最新の,高級なアンプにこだわらなくても,十分な音が出ているわけだ。序盤で提起した「いいアンプが必要でしょ?」という質問に対する筆者の回答は「アンプよりもまずスピーカーだ」であり,アンプはひとまず手元にあるものか,1万円台のモノでまったく問題ない。スピーカーを手に入れてから,必要に応じてステップアップしていけばいいのである。
両者を批評的に聞き分けてみると,聴感上はDrAMPのほうが低音を強く感じるが,これはおそらく,500〜800Hzの中低域でDrAMPのほうが広く強めに出ており,それがパワー感につながっているのではないかと思われる。
ちなみに,当時のAVアンプは,DSP補正を無効化すると低域の量感が十分でなく,相対的に高域が高く感じられた。DSP補正を無効化したVSA-AX4AViの聴感も同様だったのだが,DSP補正をかけるとパワー感が出てきて聴感もDrAMPに似てくるので,DrAMPのほうでは,何らかの手段で低域を軽く強調しているのかもしれない。
長く聞いていける音を出すS-A4STP-PM
小音量で鳴らせるのも○
と,聴感の話を始めてしまったが,波形からもある程度想像できるように,S-A4STP-PMの音は,周波数の高いところから低いところまで,歪みが発生して嫌な音になっているところが見当たらない。序盤で,よいスピーカーは長時間使っていても疲れないと述べたが,音が歪まないので,いつまでも安心して聞いていられるのである。
「60Hz」と数字だけ言われてもピン来ない人は多いだろうが,イマドキの音楽だと,周波数の下限がだいたい50Hzくらいまで。そして,50〜200Hzくらいが,バスドラムの「ボン」という音やベース音の迫力を感じる帯域だ。この帯域が抜けると致命傷になってしまうところを,S-A4STP-PMは踏ん張れている。
付け加えるなら,ゲームや映画などの効果音は,もっと低い帯域まで再生される。筆者が実際に耳にした限りでは,30Hzくらいまでは普通にサポートされている印象である。さすがに,30Hzくらいの音は,カタログスペックを下回るため小さくなるが,それでも足音は十分聞こえる。サブウーファを組み合わせない限り,せいぜい200Hzくらいが下限となっているマルチメディアスピーカーとの違いは歴然だ。
低域はふくよかで,高域も比較的キレがある。マルチメディアスピーカーや,ポータブルプレイヤー付属のイヤフォンでしか音楽を聴いたことがない人なら,お気に入りの曲がこんな風に鳴っていたのかと驚き,よくプレイするゲームの効果音がこんなにも分かりやすく,かつ迫力があるのかと驚くことになるだろう。
あと,筆者がS-A4SPT-PMを選んだ理由の1つでもあるのだが,本機は夜などに小音量で鳴らすのにも向いている。大音量でスピーカーを鳴らすのが許容されるような恵まれた環境にいる人はそう多くないと思われるので,その点でもS-A4SPT-PMはオススメだ。
なぜ小音量で鳴らすのに向いているかというと,S-A4SPT-PMが,低域と高域の再現性に優れるためである。人間の耳というのは面白いもので、音量が下がると,中域よりも低域と高域が相対的に聞こえにくくなり,逆に音量が上がると聞こえやすくなるという性質を持っている(※これを「ラウドネス補正」という)。その点,低域と高域の再生能力に優れるS-A4SPT-PMの場合,音量を下げても,低域と高域が“残る”のだ。
マルチメディアスピーカーの場合,音量を下げると,テレビのスピーカーと大差ない中域しか聞こえない,いわゆるショボい音になってしまうことがよくあるが,S-A4SPT-PMで,そういうがっかりした結果にはなりづらい。
インシュレータは使ったほうがよいかも
ケーブルは付属のもので十分
せっかくなので,設置や配線周りの注意点も列挙しておきたい。
硬貨の種類によって音は変わるが,試してみて一番気に入ったものか,振動が少ないものを選べばいい。数はスピーカーシステム1台あたり3〜4個が常道だ。下の階の住人に気を遣うような環境では必須の対策なので覚えておいてほしい。
次にスピーカーを設置する高さだが,理想は「トゥイータが耳の高さに来る位置」。保護ネットを外すとトゥイータの位置を確認できるので,できるなら調整してみるといいだろう。
2chスピーカーセットは本来,リスナーからそれぞれ等距離に設置するのが理想だ。片方がリスナーからやたら遠いとか近いというのはNGである。それは高さにも言えるので,トゥイータを耳の高さまで持って来られないという場合は,そちらにこだわり過ぎず,左右で高さを揃えることのほうを重視してもらえればと思う。
スピーカーの向きは,結論から言うと,好きにしてもらってかまわない。スピーカー同士が平行になるようこだわったり,○度と決めて内向きにしたりする人がいたりするが,そこまで神経質になる必要はないのだ。
スピーカーを購入し,リスナーに対して左右を等距離に置いた時点で,音質の9割は確定している。残り1割にこだわるのは,オーディオマニアに任せておけば大丈夫である。
先ほど比較して見せたように,アンプでも音は若干変わるし,オンボードとサウンドカードで音が変わるのも体験的に知っている人が多いと思われるが,それらは言ってしまえば「しょせん残り1割」。優先順位はスピーカー→アンプ→サウンドデバイスの順なので,「アンプやサウンドデバイスを手に入れ,それでも予算が余っていたらケーブルも検討する」くらいでちょうどいい。
どうしてもケーブルを買いたいという人には,米Belden,英Vital Audio,日本のモガミといった,スタジオでの採用実績が豊富なブランドを勧めておくが,極端な音質変化は期待しないでほしい。
もし,手元にあるアンプや,S-A4SPT-PMに合わせて購入したアンプで低音が足りないと感じられた場合,もしそれがAVアンプなら,AVアンプ側の補正機能を使えばいいのだが,そうでなく,また運良くサウンドデバイス側にDSP補正機能が用意されている(≒イコライザが用意されている)場合は,200Hzとそれ以下ををほんの少し,最大でも+3dB程度を限度に上げておくといい。最も低い周波数帯域だけは,最大値の半分程度まで和らげておくのをオススメするが,こうすると,びっくりするくらい低域が聞こえるようになるはずだ。
あるいは出力デバイス側に「Bass」(バス)「Treble」(トレブル)といった設定項目がある場合は,Bassを少し上げても,同じような効果が得られるだろう。
ここで注意してほしいのは,「低域の引き上げは,やり過ぎるとウーファが壊れてしまうので,絶対に上げすぎないこと」と,「200Hzより上の帯域を,イコライザの動作に精通していない人が弄っても幸せにはなれないこと」の2つ。とくに前者は,買ったばかりのスピーカーを壊してしまうことにもなりかねないので,やり過ぎは絶対に禁物だ。
安くはないが,決して高すぎはしないS-A4SPT-PM
10年20年使えるスピーカーを求めるすべての人に
ちなみに筆者は,サウンドデザイナーなどという職業に就いていることもあって,「安くていいスピーカーはない?」と聞かれることが多いのだが,そのときはまずS-A4SPT-PMを勧めることにしている。そして,今のところ不満を漏らされたことはない。
……世の中のスピーカー談義は,どうも登山でいうところの七合目とか八合目くらいから始まってしまっていて,「さあこれから登り始めよう」という人に向けた話がほとんどないように思う。そのため今回は,一合目に立った人達に向けて,できる限り分かりやすく説明するよう努めたつもりだが,「何を言っているか分からない」という場合は,ぜひ具体的にそのポイントを知らせてもらえればと思う。編集と相談しつつ,ぜひ改善していきたい。
ともあれ,実際にS-A4SPT-PMを買う買わないはともかくとして,今回のレビュー――というかほとんど四方山話だが――が,読者のスピーカー選びにおける参考となれば幸いである。
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パイオニアのS-A4SPT-PM製品情報ページ
■ARCを用いた測定方法
スピーカーシステムの品質評価にあたっては,伊IK Multimedia製の「ARC」(Advanced Room Correction)というシステムを用いる。
ARCは,米AudesseyのRoom EQ(ルームイコライザ)技術を採用した音響補正用プラグインで,計測用マイク――表記はないが,おそらく独Behringer製――と計測用ユーティリティソフトも同梱された,いわばルームアコースティック計測・補正用のトータルソリューションだ。
Audesseyは,部屋の音響や,マルチチャネルスピーカーの位相&遅延補正を含めた音響補正を行うRoom EQ技術のなかでも,トップクラスの技術を持つ会社。国内ではデノン製のAVアンプなどで採用されているが,IK Multimediaがこの技術のライセンスを受け,米Avid製の音楽制作システム「Pro Tools|HD」から利用できるようにしたのが,今回取り上げるARCということになる。
言うまでもないことだが,目的は「テスト対象となるスピーカーの音響補正」ではない。部屋の音響を含めた計測結果を得ることが目的なので,ARCの用途としては相当に特殊だといえるだろう。
ARCでは,室内の最低12か所,スピーカーの前方前面約1.2×0.8mくらいの範囲で,椅子に座った状態における成人男性の耳と同程度の高さに設置したマイクの置き場所を任意に変えながら,専用ユーティリティで計測用のノイズを出力して,集音を繰り返す。それにより,スピーカーから出力された音が部屋の各所で反射することも踏まえた,精密な周波数特性を計測できるのが特徴だ。今回は筆者のスタジオ内12か所で計測することにしている。
なお,テストにあたっては,まずPro Tools|HDがインストールされたMac Pro上で,ARC付属に付属する計測ソフト「ARC Measurement」を起動。ウィザードに従って設定していくと計測用信号が再生されるので,これをアンプへと入力し,アンプ経由でスピーカーから出力することになる。ARCで測定するのは,このスイープ信号だ。
ARCによる測定結果は下に示したとおりだが,オレンジ色の波線が計測結果で,白色のそれは,Audesseyの考える「フラットな」補正結果となる。「もともとオレンジ波線のような状態でしたが,Room EQ処理により,この部屋でこのスピーカーシステムをこの配置で再生したとき,適切な音≒白波線になるよう,デジタルで補正しましたよ」ということを示しているのだ。
波形が2つあるのは,ARCが,左右のスピーカーを独立して補正するため。左右で波形に違いがあるのは,筆者のホームスタジオだと,右スピーカーが壁に近く,左スピーカーは逆に遠く,加えて左スピーカー横の壁が窓になっていて,音響特性に違いがあるためである。つまり,部屋の音響の違いをARCでは計測できるというわけだ。
なお,本テストにおいては,Mac ProにAvid製の「FireWire 1814」を接続し,入出力デバイスとして用いていることも断っておきたい。これは,ARCの専用ユーティリティが,入出力を同じデバイス上に置くことを要求していることと,Pro Tools|HDのI/Oインタフェースである「192 I/O」にはRCAやミニといった一般的なPC向けの入力端子が用意されていないためだ。
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