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[GDC 2013]「AndroidやiOS向けのHTML5アプリ,それWii Uでほぼそのまま動きます」。任天堂が「Web Framework」を開発者にアピール
「これまでのゲーム機にはない,簡易な開発環境を提供する」という,任天堂が示した新たな試みの一端とともに,任天堂がWii Uに開発者を呼び込もうとする意気込みが伝わってきた,その内容をお届けしたい。
なお,本セッションをメインで担当したのは,ヒットタイトル「脳トレ」シリーズの制作に携わったことで知られる,任天堂の島田健嗣氏だ。
そのHTML5アプリ,Wii Uでほぼそのまま動きます
島田氏は冒頭,来場者に「Wii Uの開発を行ったことがありますか?」と尋ねていたが,挙手はパラパラといったところ。一方,「Wii Uを触ったことがありますか」という質問には大半が手を上げていたことを受けて,氏は冒頭,かなりの時間を,Wii Uの基本的な特徴解説に費やしていた。
その内容は,4Gamer読者にはあらためて説明するまでもないのだが,説明のなかで島田氏が強調していたのは,Wii Uには,テレビの大画面とWii U GamePad,2つの画面がある点だ。Wii Uに組み込まれているYouTubeアプリや,Googleマップを活用する「Wii Street U powered by Google」(以下,Wii Street U)の例を示しつつ,氏は「2つの画面でもっと楽しい使い方ができる」とアピールしていたが,それは,この仕様こそが本セッションのテーマと密接に絡んでくるからだ。
「ゲーム機は伝統的に,ハードの性能を最大に引き出すため,非常に“薄い”OSのAPIを叩いたり,場合によっては直接ハードを叩いていたりしていた。しかし昨今は,ハードウェア性能の向上もあり,アプリケーションによってはもっと簡易な開発環境が求められるようになってきた」(島田氏)。そういったニーズに応えるべく開発したものが,Nintendo Web Frameworkだという。
ちなみに,セッションの冒頭で島田氏が名前を挙げたWii Street UはまさにこのNintendo Web Frameworkを用いて開発されたアプリだそうで,任天堂の内部的にはすでに実績を挙げている開発フレームワークということになる。
さて,そのNintendo Web Frameworkだが,ベースは「WebKit」だと島田氏は述べていた。AndroidやiOSなど,多数のプラットフォームに採用されている,オープンソースのWebブラウザエンジン(≒Webレンダリングエンジン)を採用しているわけだ。
WebKitベースなので,「AndroidやiOS用のHTML5アプリが,ほとんどそのままWii Uで動かせる」(島田氏)。
つまり任天堂は,ゲーム機であるところのWii Uに,HTML5ベースのWebアプリを呼び込もうとしている。そして,その起爆剤としての役割を,Nintendo Web Frameworkに期待しているようだ。
開発はWebアプリ並みに簡単。2画面対応も容易
セッションでは,Nintendo Web Frameworkを使った開発の実例がその場でライブデモとして示された。Nintendo Web Frameworkでは,Windows上で開発を行って,Windows側から「Wii U DEV-KIT」と呼ばれる開発機に開発中のアプリを送り込み,テストやデバッグを行うという流れになる。
ライブデモを担当したのは,Nintendo Software TechnologyのRyan Lynd(ライアン・リンド)氏だ。Lynd氏は,PC上で動作するWebアプリが,Wii U上でも修正なしにそのまま動く様子を,下の写真とキャプションで示したとおり披露して見せた。
これがテストで使われたWebアプリ。Google Chrome上で動くアプリで,サムネイルを選ぶと,選んだビデオが再生されるという,簡単なもの |
上のWebアプリを,Windows上で動作する開発ツール「Nintendo Web Framework Dashboard」から読み出す |
Nintendo Web Framework Dashboardのプロパティで画面の出力先を設定。ここではWii U GamePadにのみ出力するよう,チェックボックスで設定している |
あとは実行するだけ。この画面は,Wii U GamePad上の表示を,会場のプロジェクタで映したものだ |
プロパティから設定するだけで,テレビとWii U GamePadとに同じ映像を表示可能。また,異なる画面を移す場合でも,ごくわずかなコードをJavaScriptに追加するだけで済むという。
また,言うまでもないことだが,ただ「既存のWebアプリを簡単に動作させられる」だけではなく,Wii U固有の拡張も施されている。ファイル入出力や入力デバイスの利用といった,Wii Uならではのアプリを作れるようにもなっていて,その例として示されたゲームのデモがなかなか面白かった。以下,写真とキャプションでお伝えしてみたい。
デモで使われたゲームは,もう一捻りすれば市販できそうなデキだった。このあたりはさすが任天堂というところだろうか。
「HTML5でゲームを動作させるとして,性能面はどうなのか?」と思うかもしれないが,Lynd氏は性能の高さも強調。モバイル向けのHTML5ベンチマークである「GUIMark 3」を,テレビの全画面に近いサイズまで広げて動作させてもみせた。オーバーオールスコアは示されなかったものの,画面上でコンスタントに60fpsをマークしていたことは述べておきたい。
Nintendo Web Frameworkのアプリが広がるよう
新たなビジネスモデルを導入
以上,開発が確かに簡単で,Wii U固有の機能も使えるNintendo Web Frameworkはなかなか面白い存在だ。島田氏は,このフレームワークを広めるために,新たなビジネスモデルを導入すると発表している。
さらにビジネスモデルも既存のWii Uとは異なるモデルが導入される。まず驚いたのは「欧米では(ゲームタイトルの)コンセプト承認は行わない」と島田氏が明言した点だ。任天堂のタイトルは,そのコンセプトについて,厳しい審査があることが知られているが,Nintendo Web Frameworkではそれを行わないというのだ。「欧米では」と限定している以上,あくまでも欧米市場向けの施策である点は注意が必要だが。
もう1つ,「価格や発売日は開発者が決定でき,フリーミアムもサポートできる。利益配分も業界標準にしたい」とも島田氏は述べていた。フリーミアム(Freemium)とは,誤解を恐れずに言い換えるならFree-to-Playのこと。ゲーム本体は無料にして,アイテム課金など,別の手段で利益を上げるビジネスモデルで,PCのオンラインゲームやモバイル用ソーシャルゲームではお馴染みのものだが,それをWii U上で可能にするというわけだ。
Wii U DEV-KITという開発機が必要になることから,Nintendo Web Frameworkからインディーズのゲームが出るというところまでは期待しにくいかもしれないが,従来のゲーム機の枠を破るタイトルが登場してくる可能性は十分にあるだろう。
島田氏は,興味を持ってくれたなら,任天堂のGDC 2013特設ページを開いてくれるよう,聴衆に呼びかけていた。読者も気になるところがあれば,下のリンクからチェックしてみてほしい。
任天堂のGDC 2013特設ページ(英語)
Game Developer Conference公式サイト
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