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インタビュー:カプコンは「モンスターハンター フロンティア オンライン」で何を目指すのか
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印刷2007/06/11 20:05

インタビュー

インタビュー:カプコンは「モンスターハンター フロンティア オンライン」で何を目指すのか

 6月4日,カプコンは新作オンラインアクションゲーム「モンスターハンター フロンティア オンライン」(以下,MHF)のプレスカンファレンス,およびユーザーとの交流会「ハンター懇親会」を開催した。
 当日,カプコンの開発統括本部 オンライン開発部長 小野義徳氏に同社のPCオンラインゲーム本格参入について,およびその第一弾となるMHFについてのインタビューを行ったので,本記事ではその模様をお伝えしよう。



■PCオンラインゲームへの参入およびその第一弾がMHFとなった経緯

カプコン 開発統括本部 オンライン開発部長
小野義徳氏
4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。まずは今回,MHFを皮切りにカプコンが本格的にPCオンラインゲームに参入するということですが,その経緯から教えていただけますか?

小野義徳氏(以下,小野氏):
 まず我々の討論は,オンラインゲームに参入するかどうか,PCゲームに参入するかどうかというところから始まったんです。ご存じの通り,カプコンでは昔から海外タイトルのディストリビューションや,パブリッシングをやってきていますので,オンラインゲームやPCゲームに参入するための基盤は持っています。これを踏まえ,本気でオリジナルタイトルのPCオンラインゲームに「もう1回取り組んでみよう」という結論に至りました。

4Gamer:
 「もう1回」といいますと……,カプコンオリジナルということでは,「レインガルド」がネットワーク対応でしたよね?

小野氏:
 ええ,知る人ぞ知るPCオンラインゲームだったんですが,業績はあまりうまくいっていなかったんです。もちろん,そのときも本気でやっていたんですが,あくまでも他社さんとの提携という形式で,カプコンのR&Dチームがべったり張り付いて面倒を見る形ではなかったんですね。そんな経緯もあって,カプコンとして本格的に参入するタイミングがなかなかなかったなぁ,と。
 また,もう一つにはPCゲームというと,MMORPGやFPS,RTSを日常的にプレイする僕や4Gamer読者さんのようなユーザーからのニーズは確かにあるんですが,「マス的にはどうなんだ」という話になったときに,なかなか踏ん切りがつかなかったというのもあります。

4Gamer:
 確かにコアユーザー向けにしろマス向けにしろ,PCゲーム市場はいろいろと難しいところがありますよね。それがなぜ,このタイミングで?

小野氏:
 ここ数年で,インターネットが何かと盛り上がり,ISP各社さんの企業努力の甲斐もあって,「ネットに繋ぐ」イコール「PCが必要」という認識が市場に定着しました。まあ,インターネットでエンターテイメントを楽しむプラットフォームというものを考えた場合,世界第一位を携帯電話とするならば,PCはそれに次ぐ地位まで育ってきたと思っています。このプラットフォームにゲームを乗っけていくとしたら,今こそがそのタイミングなのではないかと。

4Gamer:
 では,PCオンラインゲーム参入の第一弾として,MHFを選んだ理由を教えてください。

小野氏:
 スクウェア・エニックスさんは5年以上も前から「ファイナルファンタジーXI」でPCオンラインゲーム市場を開拓していますし,コーエーさんはそれよりさらに前からPCゲームやオンラインゲームに取り組んで,市場を広げています。そういった土壌もあって,従来のコアなPCゲーマーだけでなく,一般的なゲーマーやPCユーザーもPCオンラインゲームに目を向けるようになって来ていると思うんです。となると,我々がPCオンラインゲームに参入するにあたって,コアユーザーだけをターゲットにしたものは作れません。

4Gamer:
 市場の可能性が広がっているからこそ,大きなビジネスにしたいということですね。

小野氏:
 ええ。ではそこで,我々が現在の市場で「カプコンは面白いゲームタイトルを持っている」とか,「ゲームって面白いんですよ」ということをPCユーザーに伝えることはできないか,また伝えることによって我々もビジネスを成立させる土壌を作れないものかと考えたときに,どんなタイトルを投入するべきかという話になるわけです。

4Gamer:
 タイトルありきではなかったんですね。

小野氏:
 そうなんです。ですからまず最初に案として出たのは,「ストリートファイターII」でした。僕自身はこのタイトルに,オンラインゲームの楽しさの根源があると思っているんですよ。人と人がコミュニケーションして,1対1でぶつかって,勝敗がきちんと決まって……という形ですから。ただ,それだけではコミュニティが生まれにくい。

4Gamer:
 確かに,1対1でしか遊べないのではコミュニティの形成は難しいですよね。

小野氏:
 昨今の一般的なPCユーザーが,ネット上のサービスで何を重要視しているかというと,mixiに代表されるようにコミュニティを楽しむことではないか,と。そこで,コミュニティを楽しめるカプコンのタイトルを考えたところ,モンスターハンターシリーズをPCオンラインゲーム市場に投入してみてはどうだろうか,という声が挙がったんです。
 それがちょうど,プレイステーション2の「モンスターハンターG」をリリースした頃の話でしたね。さらに「モンスターハンター2(dos)」(以下,MH2)を出すにあたって,周囲の状況も整ってきたことだし,MHFも本腰を入れて動き出そうということになったんですよ。

4Gamer:
 なるほど。さまざまな要因を慎重に加味し,可能性を模索した上での選択がMHFだったわけですね。

小野氏:
 そうですね。カプコンが持っているタイトルの中で,ここ最近の市場の流れに最も乗っているのがMHシリーズですし。
 シリーズの初心者が,どこまで操作性を把握できるかという懸念材料もあったのですが,適宜チューニングすることでフォローできると考えました。例えばストIIを,ボタン一つで波動拳や昇龍拳がバンバン出るようにチューニングしてしまったら,ゲームとして成り立たなくなってしまいます。でも,MHシリーズならば各所の数値を調整することによって,ゲーム性を損なわずに改善していくことが可能なんです。

4Gamer:
 MHFであれば,ゲーム性を維持しながら,初心者でも楽しめるようなチューニングもできると。

小野氏:
 ええ。以上の理由から,カプコンがPCオンラインゲームに本格参入するにあたって,最初に提供するものとして,MHFが最も適していると判断したわけです。まさに(カプコン常務執行役員の)稲船がプレスカンファレンスで話したように,「MHFでうまくいかなければ,カプコンのほかのタイトルでやってもうまくいかない」とすら思っています。例えば変化球として「鬼武者オンライン」を普通に作ってしまうと,結局「FFXI」や「リネージュ」シリーズとあまり変わらないものになってしまう可能性があります。カプコンとして独創的なタイトルを出せないのであれば,あまり意味がないですからね。



■コアゲーマーにも,カジュアルゲーマーにも楽しんでもらいたい

4Gamer:
 PCオンラインゲームに参入するにあたって,どのあたりのプレイヤー層をターゲットとお考えですか?

小野氏:
 実は,多くの方から同じような質問を受けていて返答に困っているんですが,基本的に二つのターゲット層を想定しています。
 まず一つはコア寄りのPCゲーマーです。ずっとRTSをやっていたり,あるいは「ウルティマ オンライン」でのデビューがPKされることだったり,もっといえば「ディアブロ」で初めてMOを体験したりといったような。ただその層は,ビジネス的な見地からの数字としては極々少ないと思っています。この層だけをターゲットにして,ビジネスを成立させられるならば,カプコンはもっと前から勝負をしていたと思うんですよ。

4Gamer:
 ええ,4Gamerとしても思いあたるところは実に多いです。

小野氏:
 一方で,多くの人にゲームの面白さを知らしめようと考えたときには,今ならニンテンドーDS,少し前ならプレイステーション,さかのぼればスーパーファミコン,ファミコンといった広いプレイヤー層を持つプラットフォームが適しています。ところがこうした層も,分母だけでいうならば携帯電話やPCのユーザー数にかなわないんですよね。かなわないけれども,PCユーザーが必ずしもゲームをプレイするとは限らない。そこで,ゲームをするためにPCを買ったわけではないという層を,もう一つのターゲットとして捉えていく必要があると考えているんです。

4Gamer:
 ゲームをする環境はあるけれど,プレイヤーとして掘り起こされていない層は,潜在的にはかなりありますよね。ゲームをするといっても,「ソリティア」と「マインスイーパー」だけなんて知り合いもいますし。

小野氏:
 この層をきちんと開拓することによって,今後のPCゲーム市場の発展にいい効果を与えられるのではないか,とも考えているんです。ずっとコアな部分だけを追求していくと,一定のところに停滞してしまって,ビジネスの規模を拡大していくことができなくなりますからね。

4Gamer:
 一部のジャンルのゲームは,まさにそういう状況ですよね。そのために表現が先鋭化していくなどのメリットもあるとは思うのですが,逆に市場はどんどん小さくなってしまうという。

小野氏:
 そう考えたときに,MHシリーズはカプコンの中では比較的カジュアルなノリで遊んでもらえるタイトルなので,PCゲームの経験がない層にも「あ,PCでゲームができる」「MHFはゲームとして面白い」と気付いてもらいやすいと思うんですよ。きっとそこから,市場そのものを広げることも可能だと考えているんです。まあ実際のところ,我々はMHシリーズがカジュアルゲームだとは思いませんが(笑)。

4Gamer:
 そうですよね(笑)。

小野氏:
 何にしても重要なのは,市場を広げることなんです。そうすることによって,PCゲームに対する世間の見方が変わったり,また違うタイプの人達が入って来たりして,さらに市場が活性化するのではないかと思います。

4Gamer:
 二つのターゲット層があるというのは分かりました。では,そのうちのどちらに,とくに力を入れていくのでしょうか?

小野氏:
 どちらにプライオリティを置くかは,ゲームの内容であったり,あるいは時期であったりといった,その時々の状況に左右されます。将来的にはコアなタイトルはきちんとコアユーザーに向けて,ちょっとカジュアルなものはより広い層に向けてといったように二極化していく方向をとれるようになるのが理想的な展開です。

4Gamer:
 もう少し具体的に教えていただけますか?

小野氏:
 カプコンの格闘ゲームを遊んでくださるお客さんは,今でも大勢いらっしゃいます。一方で,私の妻は格闘ゲームなどには見向きもせず,家でずっとネクソンジャパンさんの「マビノギ」をプレイしているんですよ。こういう風に,人それぞれに楽しいものが違うのは当然なんですが,コアユーザーとカジュアルユーザーの橋渡しになるような存在になりたいんです。理想論だと片付けられてしまうかもしれませんが,やはり理想がないと新しい分野を開拓する意義はないですから。

4Gamer:
 確かに,MHシリーズは市場を開拓/拡大していく可能性を秘めていると思います。ただMHFは,シリーズの中でも高難度のMH2をベースにしていることから,実際にプレイするとシリーズの初心者やカジュアル寄りのプレイヤーはかなり手こずると思うのですが……。

小野氏:
 MHFがMH2をベースとしているのは,開発当初の段階で土台になるものがMH2しかなかったからなんです。プレスカンファレンスでもオープンβテスト以降,難易度のバランス調整をしていくと発表しましたが,実は第一次クローズドβテストからクローズドβファイナルにかけて,ずっと手を入れてきていて,モンスターの強さなどはかなり変えています。第一次の時点では,ドスランポスを倒すどころか,ランポスの群れに遭遇しただけで力尽きてしまってゲームにならないという人がいたので,最初の部分から調整しなければならなかったんですよ。

4Gamer:
 えっ,そうだったんですか……。実は私は第二次クローズドβテストとクローズドβファイナルでかなりハンターランクを上げたんですが,てっきり自分のプレイヤースキルが上がったものだと思って喜んでいました。

小野氏:
 もちろんプレイヤースキルも上がったと思いますよ(笑)。ただ,こうやって手を入れ続けてきたことで,現在のMHFは,MH2のにおいが相当減っているのではないでしょうか。「モンスターを狩る」「アイテムを剥ぎ取る」「別のアイテムと組み合わせたらアレができる」という楽しさを感じてもらえるように,ハンターランク10台前半までは,カジュアルっぽく遊べるようなチューニングを施していますので,初心者でも安心してプレイしてもらえると思います。

4Gamer:
 でもそうなると,MH2の難度に慣れている人にとっては,物足りなくなりませんか?

小野氏:
 新モンスター「ヒプノック」は,まさにMH2並みの難度を期待している人に向けたものです。4Gamerの読者には,何度も何度も倒されながらも,それをクリアしていくのがいいんだ! という人が多いかもしれません。そういう人のためのヒプノックですから,ぜひ挑戦してみてほしいですね。
 こうした試みが,先ほどの二つのターゲット層の話を具体化した結果というわけです。こういう部分がオンラインビジネスの面白さであり,難しさでもあるんですよね。



■中高〜大学生と30歳代半ばという二つの山を狙っていく

4Gamer:
 実は,市場の拡大に関してもう一つ気になっていることがあります。それは,カジュアル寄りのプレイヤーにとって,MHFが要求するPCスペックは少々高めなのではないか? という点です。カジュアル寄りのゲーマー,あるいは一般のPCユーザーは,ノートPCしか持っていない場合も多いと思うのですが……。

小野氏:
 ライトモードでは,2年ほど前のノートPC,具体的にはグラフィックスチップがオンボードのIntel 915であっても動作する仕様になっています。2年前というのは,Yahoo! BBさんがモデムを無料で配って,PCでのインターネット環境の普及に努めていた時期です。したがって,当時インターネットを始めるためにノートPCを買った人なら,かなりの割合でMHFをプレイできる……と計算しました。

4Gamer:
 2年前のノートPCといっても,Intel 915以下のグラフィックスチップを搭載した機種がありますが……。

小野氏:
 Intel 915以下の環境で動作するものを提供することも,技術的には不可能ではありません。しかし,MHFでハンターライフを楽しむには,グラフィックスも重要な要素だと思うんですね。

4Gamer:
 カプコンとして,Intel 915以下の描画性能のグラフィックスチップでは,MHFを存分に楽しんでもらえないと判断したわけですね。

小野氏:
 そうなりますね。また,将来的な話をするなら,Windows Vistaの登場も大きいんです。Windows VistaはCPUへの負荷も高く,描画性能に優れたグラフィックスチップも必要というOSではあるのですが,逆にこれが基準になるのは,ゲームを開発する側にとってありがたいことでもあるんですよ。今後2年,3年と先を見越していった場合に,現時点であまり低スペックのPCを重視していると,そこが足を引っ張って数年後にゲームの進化が阻まれる恐れもあります。昔の例ですが,x86系CPUの制約で新しいことができない,次のステージに上がれないということもありましたよね。

4Gamer:
 確かに,OSやハードウェアの移行期にはそういったことがありますね。

小野氏:
 こういったことを考慮しながら,ここはできる,ここはできないというように一つ一つ検証していった結果,Intel 915を最低ラインに据えたわけです。それでも,何とかしてロースペックPCでMHFがやりたいという人が多いならば,そのための策を考える可能性はあります。ただ,大げさなたとえですが,画面上で四角が動いているようなものになってしまうかもしれません……。四角が動いているだけで「MHです」というのはどうなんだろう? というのも正直なところです。

4Gamer:
 ゲーム性は同じでも,四角が動いているだけでは,MHで遊んでいる感触は得られないでしょうね……。
 ところでMHシリーズといえば,PSPの「モンスターハンター ポータブル 2nd」(以下,MHP2nd)のセールスが120万本にも達したそうで,人気の中心がPSPベースに移っていると言ってもいいですよね。中高生以下の低年齢層も多く遊んでいると思うのですが,彼らをMHFやPCオンラインゲームに取り込む方法はお考えですか?

小野氏:
 MHプレイヤーの中高生化が顕著になり始めたのは,最初のMHPやMH2が出たあたりからですね。実は「鬼武者」「デビルメイクライ」「バイオハザード」といったカプコンのゲームの三本柱の傾向を見ると,シリーズを重ねるごとにプレイヤーの年齢層も上がっているんです。アンケートによると,20歳台で鬼武者と出会った方が,30歳前後になって最新作をプレイしていたり……といった具合です。なんとか下の年齢層を取り込もうと,いろいろな策を講じてはいるのですが,どうしても平均年齢が上がってしまう。
 しかしMHシリーズは,カプコンの中で珍しいグラフの描き方をしていて,まず中高生のところで一つのピークがあるんですよ。そして,ゲーム世代といわれる30歳代半ばあたりにもう一つのピークがあるんです。

4Gamer:
 そういえば,電車の中や街中でPSPを持ってMHP2ndをプレイしているのは,私と同年代か中高生といった印象です。

小野氏:
 中高生に関して少し大きなことを言ってしまうと,「ポケットモンスター」「ロックマン」と来て,次に何かゲームをプレイしようと考えたときに,MHシリーズがちょうどいいステップアップになっているのかなと考えています。そう考えた場合,中学生ではまだまだ家庭で自由にPCに触れる機会は少ないかもしれませんが,もう少し自由が利くようになった高校生ならば,ある程度MHFに取り込めるのではないかと思っています。

4Gamer:
 と,言いますと?

小野氏:
 MHP2ndのプレイヤーからの要望では,もっといろいろな人達と一緒にマルチプレイをしたいというものが多いんです。現状のPSPでのマルチプレイは,公園やファミレスで友達とプレイしたり,あるいは先日行われたフェスタなどの会場で知り合った人とプレイしたり……といった,アナログな付き合いになってしまう。高校生だって,受験や部活などで忙しいわけですから,いちいち顔を合わせるよりも,プレイしたいときにすぐに始められて,同じ目的を持っている多くの人と,すぐに出会って遊べるMHFのようなPCオンラインの環境を求めていると,私達は受け取っています。

4Gamer:
 ああ,確かに。でも,そういう需要は中高生に限ったものではないですよね。

小野氏:
 もちろん,30代のプレイヤーを無視しようというわけではありませんよ。ただ,中高生〜大学生のプレイヤーを育てていかないと,この市場の将来がなくなってしまうんじゃないかなと思うんですよ。

4Gamer:
 まあ,30代になってもPCゲームが好きな人は,放っておいてもちゃんとプレイするでしょうし。

小野氏:
 その世代はPC-8801,もしかするとPC-6001からPCゲームをプレイしていると思うんですよね。それで88を買うのか,X1を買うのか,FM-7を買うのかっていう三派閥(笑)を体験していて,PCその他のゲームにも思い入れのある世代。おっしゃる通り,その世代で今でもPCゲームが好きなら,FFXIなりリネージュなり,あるいはFPSなりRTSなり,何かしらプレイしているんですよね。MHFもやってもらえると嬉しいんですが。

4Gamer:
 中高生〜大学生世代は,そこまでいっていないと?

小野氏:
 今の中高生〜大学生世代は,まだPCでのゲームに対してそこまでの思い入れはないと思っています。この層のゲームを好きな方達には,単発的にカジュアル系の無料オンラインゲームにワッと集まる一方で,すぐに離れてしまったりする傾向が見受けられますよね。

4Gamer:
 MHFでは,そうした傾向への対策をどのようにお考えですか?

小野氏:
 ワッと集まってもらい,かつ長くプレイし続けていただくためには,「中身」を充実させていくしかないと考えています。僕らは,中身を継続して提供していく部分には自信を持っていますので,その中でもより中高生〜大学生を見据えた内容に力を入れていこうと考えています。具体的には定期的なアップデートや,ゲーム内でのイベントですね。これはMHFはもちろん,今後のカプコンのPCオンラインゲーム全てにおいて考えていることです。そうしたことをきちんとやっていかないと,必ず将来的には厳しくなりますから。



■無料部分の導入と月額1400円の理由

4Gamer:
 それでは,MHFの課金形態について教えてください。30日1400円(税込)〜とのことですが,この価格はどこから導き出されたものですか?

小野氏:
 他社に合わせてみました(笑)。

4Gamer:
 確かに国産のオンラインゲームは,月額1500円前後というケースは多いですが,本当にそれだけですか?(笑)

小野氏:
 まあそれは,半分冗談で半分本気なのですが,まずMH2でKDDIさんの「マルチマッチングBB」を利用したサービスをマルチマッチングBBの利用料金のみの月額900円(税別)で行ってきました。

4Gamer:
 実は,MHFもそれに準じた価格になるのでは? と思っていたのですが……。

小野氏:
 最初は安くすればいいだろうと思っていたんです。僕も一オンラインゲーマーなんですが,月額数千円となるといくら面白くても払いにくい部分があるんですよね。まあそれでもゲームが面白いから,ギルドに入っていると楽しいからという理由で,結局払ってしまうんですが。

4Gamer:
 でもそれは,ある程度の財力があるからこそ,ですよね。

小野氏:
 それほど余裕があるわけでもないんですが(笑)。ただ,育てなければいけない中高生〜大学生の層を考えると,なるべく安くしなければいけない。そこで基本のクライアント料金である6800円なり7800円なりを無料にして,最初のハードルを低くしたわけです。そこで,例えば彼らが6800〜7800円のゲームを購入した場合,何か月遊んでもらえるだろうか? ということを考慮した上で,1か月あたりの金額を割り出しました。そしてさらに,追加クエストなどのアペンドディスクが出たら,みんな買うよね? ということで,これの価格も検討材料に含めました。そうしたら,ビジネスとして収益を確保するには,月額4〜5000円という試算結果が出てしまったんです。でも,これでは誰にもプレイしてもらえない。

4Gamer:
 まあ,どんなに面白いゲームだったとしても難しいでしょうね。

小野氏:
 企業にとって成功することとは儲かることで,これが達成されれば包み隠さず成功したと胸を張れます。しかし,僕ら自身とお客さんがB to C(Business to Consumer)でやっていくには,長く続けることもまた成功だと考えます。じゃあ長く続けるためにはどうすればいいかというと,「何が不測の事態が起こっても耐えることのできるギリギリのライン」を引こうと考えるわけです。そのとき,月額900円ではどうしても耐えられない事象の発生を否定できなくなってしまう。そこで周囲の状況を見たりとか,長く続けるということを念頭において考えたりした場合に,「じゃあ,もう500円お願いしましょう」ということになったんです。

4Gamer:
 そういう計算が前提としてあったわけですね。

小野氏:
 ただし,6800円とか7800円というクライアント料金はいただきませんよ,と。そこでハードルを下げて,「ちょっとカジュアル」「なんちゃってカジュアル」くらいの人にお試しプレイしてもらいましょう,さらにハンターランク2まで無料でプレイできるようにして,イャンクック戦くらいまでは試してもらいましょう,そこまですればイヤだと思われることはないでしょう……ということになったんです。
 当初,無料プレイはハンターランク1までで止めようとも思っていたんですが,ドスランポスを倒したくらいではまだまだMHFは分かりません。十分に納得してから正式にサービスを受けていただこうということで,現在の形になったわけです。我々がサービスを提供していくにあたって企業として成功し,競争に勝ち残るためにも,十分成立する形に落ち着いたと考えています。

4Gamer:
 確かにクライアントが無料であること,トライアルコースでのハンターランク2まで無料であることは,パッケージ販売でビジネスを行ってきた貴社にしてみたら,英断だと思います。ただ企業としては,かなりリスクが高いのではないでしょうか? 先ほども少し話に出ましたが,最近は無料期間だけで満足してしまう,あるいは見切りをつけてしまって,実際の有料サービスにまで至らないユーザーも増えていますよね。

小野氏:
 そこのリスクを「やじろべえ」でたとえるなら,完全に我々のほうに傾いています。ちょっと横柄な表現だと思われてしまうかもしれませんが,現在のカプコンの体力なら倒れるギリギリのところで踏ん張っていても,実際にサービスが始まればプレイヤーがバランスを取ってくれると考えています。最初からプレイヤーにリスクを負わせてしまうと,ここで僕がしゃべっていることを全部否定してしまうことになるんですよね。
 実際のところ,ハンターランク2で満腹になってしまう人も,もちろんいるとは思います。ですが,我々としてはその先にそれ以上のものを提供する自信があるんです。「来てくれたら必ずリターンします!」というのは,お約束します。

4Gamer:
 無料だからと始めた人が,有料のサービスを受けたくなるぐらいの内容を提供する自信があるんですね。

小野氏:
 ええ。先ほど述べたようにPCオンラインゲームは今後広げていかなければならない分野ですし,そこで多少のリスクを抱えたとしても,カプコンにはそれを支える「鬼武者」もあれば「デビルメイクライ」も「バイオハザード」もあります。「そこまでお前がいうならプレイしてやるか」という感じで来ていただければ,「コンテンツの中身でそれにお応えします」というのが我々の意気込みであり,挑戦しているところなんです。



■1400円分の価値を,継続的に提供していきたい

4Gamer:
 とはいえ中高生にとっては,月額1400円は高いという意見が確実に上がると思うのですが。

小野氏:
 確かに「500円分高いよ!」といわれてしまうとは思っています。ですが,それだけの価値があると感じてもらえるように,プレイヤーの声を聞いたリファインアップデートやメジャーアップデートによって,中身を継続的に充実させていくしかないと考えています。オンラインゲームは,ある時点でこちらが儲かるようにお金を払ってもらうという単純な関係ではないですから。

4Gamer:
 ということは,有料の拡張パックをリリースしたり,別途料金が発生するアイテムや課金クエストを発売したりといった予定はないと?

小野氏:
 正式サービスに先駆けて発売させてもらったパッケージは,特典の剣や防具にバリューを見い出した方に買ってもらっているかもしれませんが,純粋なアイテム課金の予定はありません。MHFでは,アイテムは“素材”なので,この素材を販売してしまうと,プレイヤーがクエストに挑戦する必要がなくなり,ゲームが成立しなくなってしまいます。

4Gamer:
 各種プロモーション展開で特典アイテムが提供されることはあっても,それはあくまで“特典”であり,“アイテムを売る”目的ではないということなんですね。

小野氏:
 そういうことです。
 また,課金クエストについては,果たしてそこにどんなバリューがあるのかという疑問があります。現状,課金クエスト形式にはそこまでのバリューを付加できないと思うんですよ。もっとも,通常の料金を支払っているプレイヤーに,もっと支払ってもいいと思ってもらえるだけのクエストが登場したら,何らかの形で検討する可能性はゼロではありません。ただ,その時点におけるB to Cのバランスを確認してからですね。プレイヤーに必要以上の負担をかけることはしたくないですし。

4Gamer:
 基本的には,課金クエストに対しては非常に慎重な姿勢を持っているんですね。

小野氏:
 経営的には,課金クエストなどをやったほうがいいとは思うんですよ。プレイヤーの中にも,そういうものを求める人は少なくないとも思います。ただ儲かるからやる,需要があるから供給する,というだけでは,結果的に立ち行かなくなって,プレイヤーがまだ残っているにも関わらずサービスを中止しなければならない羽目になってしまうことも考えられます。プレイヤーには,貴重な時間の何分の一かを費やしてプレイしていただいているのですから,そうした対価ではない部分の裏切りを許してはいけないと思うんです。まあ2年,3年と続けていく中で,B to Cのバランスを見ながら課金形態については随時考えていきますけどね。

4Gamer:
 バリューの話でいえば,例えばモンスターを倒すと強力な武器/防具のキーアイテムが手に入るような課金クエストならば,喜ぶ人は多いと思うんですよ。ただ半面,モンスターを倒せなかったり,あるいは倒しても肝心のアイテムが手に入らなかったりすると「詐欺だ」と声を荒げる人も出てきそうで,それをどうするか考えなければなりませんよね。

小野氏:
 そういった案は,表に出していないだけで水面下ではいろいろ検討しています。ただ,ゲームバランスの問題はもちろんのこと,プレイヤーに課金できるものなのか,それとも江崎グリコさんやピザハットさんのようなところとタイアップして,期間限定のイベントにしたほうが楽しいのか,ということを複合的に検討する必要があるわけです。

4Gamer:
 プレイヤーに楽しんでもらうことが,最重要であると。

小野氏:
 そうです。プレイヤーが何を求めているのかを理解したうえで,ビジネス的な側面も含め,こちらが何を提供できるかというのが課題ですから。これがマッチしないまま出してしまうと,「うわ,カプコンが現金なこと始めたよ」と思われてしまうのは間違いないですし,うまくマッチすれば「待ってました! これならお金を払ってでもプレイしますよ」となるでしょう。

4Gamer:
 それでは当面,月額1400円で全てのゲーム内容が楽しめると信じていいんですね?

小野氏:
 そうですね。現状で見えている限りのスパンでは,1400円でMHFがゲームとして楽しめるようにします。



■MHF以外のPCオンラインゲームの予定と,MHFに抱える不安

4Gamer:
 それでは,MHFのみならず,今後のカプコンのPCオンラインゲームの予定や戦略を教えていただけますか?

小野氏:
 MHFに関しては,今年中に2回,大規模なアップデートを行うのですが,とくに2回目のときには大きなものを仕掛けたいですね。とにかく我々は,PCオンラインゲームに関しては新参者なので,どういう流れになるのか,プレイヤーがどれだけ意見を出してくれるのかが読めない部分はあります。ですが,いろいろな声を聴きながら,可能な限り大きなものをドカンと提供したいと思っています。
 また,カプコンがMHFをやっていく以上,短いスパンで終わらないような,1400円分の価値を長い期間提供できるような形にしていきたいと考えています。奥歯に物が挟まったような物言いしかできなくて申し訳ないのですが。

4Gamer:
 プレスカンファレンスで稲船氏が「今後もさまざまなタイトルを投入する」とおっしゃっていましたが,2007年中のご予定はいかがでしょうか。

小野氏:
 2007年中は,おそらく間に合わないのでMHFのみになります。2008年になると,何か間に合ってしまうものも出るかもしれません。

4Gamer:
 それはつまり,複数のタイトルが動いているということですね? 完全新作なのか,シリーズ物なのか,あるいはジャンルについてのヒントだけでも教えていただけないでしょうか。

小野氏:
 新作もシリーズも両方あります。ジャンルは……カプコンが作るというところから推測してください。本当にカジュアルなものは,我々には作れません(笑)。まあこれ以上は,今後の発表を待ってください。

4Gamer:
 分かりました。無料で遊べるカジュアルMMORPG以外のものを期待しています(笑)。
 それではMHFに話を戻しましょう。オープンβテストと正式サービスの初日には,サーバーダウンなどの混乱が起きるのではないかと懸念しているプレイヤーが多いと思うのですが,このあたりの対策はとられていますか?

小野氏:
 ああ,もうそれはぜひ書いてもらわないといけない部分ですね。初日はサーバーが落ちる可能性があります。なので,皆さんでサーバーが落ちないよう協力していただきたいです。

4Gamer:
 え……!

小野氏:
 第2回クローズドβテストのときに行った,「今日だけ誰でもMHF!」のときには,一度ダウンロードサーバーが重くなって,なかなかゲームを開始できない状況が発生したのですが,その経験があったからこそ,クローズドβファイナルでは快適にプレイしていただけたと思うんです。しかしながら,現状の「MHFプレミアムパッケージ」の予約状況と,「ダレット」登録会員数の増加傾向を見ると,初日の混乱は回避できないかもしれません。楽しみにしていただいている皆さん全員が,開始時刻にログインボタンを連打したり,もしくはダレットでF5キーを連打したりすると,予測不能の事態が発生する可能性が高いです。
 もちろん,そうならないように努力はします。ですが,ダレット会員登録はすでに可能ですし,クライアントのダウンロードは6月14日(木)から開始するので,これからMHFで遊ぼうと思っていただいている皆さんには,これらを事前に済ませておくようお願いします。

4Gamer:
 それぐらい,パッケージの予約数や,登録会員が凄いことになっているんですね?

小野氏:
 ええ。具体的な数字は未確定なのでお教えできないのですが,PCゲームでは異例のビックリするようなことになっています。僕自身,初めて見るような数字です。

4Gamer:
 プレスカンファレンスでは,サーバーのキャパシティはMHP2ndのプレイヤーの半数という表現でしたが,これは単純に50万人以上と捉えていいのでしょうか?

小野氏:
 そうですね。だいたい50万人までは受け入れられるように設計,開発を続けています。ただ,同時接続がどれだけ来るのか分からないということで,6月21日(木)4:00PMと28日(木)4:00PMのあたりは,ちょっと怖いですね。事故が起こらないよう万全の体制を整えていますが,どうなるか読めない以上,現時点では「最大限努力しています」としかいえないのが正直なところです。

4Gamer:
 「絶対に大丈夫!」と断言して失敗するわけにはいきませんからね。

小野氏:
 ゲームサーバー自体には,それほど負荷はかからないので心配していないのですが,クライアントのダウンロードサーバーとアップデートサーバー,それから認証サーバーが心配なんですよ。東京ドームの入場ゲート同じで,万全のゲート数は用意してあるのですが,一斉にログインされると処理能力をオーバーしてしまうかもしれません。

4Gamer:
 文字にすると,かなり弱気な発言と取られかねないですけれども。

小野氏:
 そうですね……。でも,これは本当に正直な本音なんですよ。最大限の努力は続けています。本当に万全を期してはいるんです。でも,我々の予想を超えるところで何が起こるか,またそれにどこまで対処できるかが,経験がないだけに全く読めないんですよ。さまざまなオンラインゲームのスーパーバイザーさん達にアドバイスをお願いしたのですが,MHFは読めないと言われてしまいまして。
 いい意味でも悪い意味でも弱気というか,ドキドキしているというのが現状ですね。

4Gamer:
 素直にMHFを楽しみにしている人にとっても,意地悪な見方をしている人にとっても,当日はドキドキものですね(笑)。
 それでは最後に,4Gamerの読者に向けて,一言お願いします。

小野氏:
 とにかく本っ当に,クライアントのダウンロードとアップデートは早めにお願いします。
 MHFはカプコンが20年,30年かけて作ってきたアクションゲームの一つです。アクションゲームというジャンルに初めて触れる人にも,「そうそう,これがアクションゲームなんだよね」と感じていただける人にも,喜んでもらえる自信があります。ちょっとカジュアルな感じでも楽しめますし,コアな遊び方もできますので,ぜひ遊んでみてください。

4Gamer:
 本日はどうもありがとうございました。



 インタビュー中は非常にノリノリでMHFについての戦略や考えを語る一方,オープンβテストおよび正式サービス初日について万全の準備を整えながらも,まだ不安が残っていることを冗談混じりながらも包み隠さず正直に語る小野氏の姿が印象的だった。
 そんな小野氏は,インタビュー中でも何度か言及されている通り,PCゲームとPCオンラインゲームの古くからのプレイヤーである。それだけに,PCオンラインゲームへの参入,その第一弾としてのMHFに,かなりの情熱を注いでいるようだ。
 また,プレスカンファレンスにおける稲船氏の「MHFでうまくいかなければ,カプコンのほかのタイトルでやってもうまくいかない」の言葉からも,PCオンラインゲーム展開の難しさをしっかりと理解していると同時に,MHFに相当の自信を抱いている様子がうかがえた。

 カプコンという老舗のゲームパブリッシャが,これまでに培ってきた力をフル活用し,PCオンラインゲーム市場に打って出ようという姿勢は,昨今のベンチャー系パブリッシャにはなかなか難しい戦略でもある。カプコンの挑戦がどういった形で結実するのか,期待しながら見守っていきたい。(ライター:大陸新秩序 / photo by TeT)

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