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印刷2007/12/07 14:16

連載

奥谷海人のAccess Accepted

 教育や福祉,医療の啓蒙などにゲームを利用する“シリアスゲーム”は,日本でも徐々に浸透し始めている。最近アメリカでは,教育機関の研究者達が既存のゲームソフトを利用するだけでなく,実際に彼ら自身でゲームを開発する,“次の段階”に入り始めたようだ。今回は,そういった新しい流れを紹介してみよう。

Access Accepted第152回:教育者達のゲーム開発
ゲームでシェイクスピアの世界を学ぶ

 「ゲーム」というカルチャーの多様化が進んでいるが,欧米でその役割の一端をになっているのが教育機関だ。最近, GDC(Game Developers Conference)のようなゲーム開発者会議などに出席すると,大学を始めとした教育機関のゲーム産業参入が顕著になっているのがよく分かる,最近ではその結び付きがさらに強まってきたようだ。

 アメリカでは,“暴力ゲームの規制”が政治家によって有権者へのアピール材料に利用されることも多い。そういう事情があるためか,「ゲームは単なるエンターテイメントではなく,社会的に有効利用できる価値がある」というスタンスの教育機関は,ゲーム業界にとっては,願ってもない味方でもあるわけだ。

 これまで教育/研究者とゲームのつながりというと,既存のゲームを利用してデータを取ったり,ゲームの中で講義を行ったりというような活動が主流であった。しかし最近は,教育者が自ら,ゲームを開発することが行われ始めるなど,面白そうな動きが見られる。

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カストロノヴァ氏は,2001年にEverQuestにおけるリアルマネートレードでの消費量を計算し,「一人当たりのGNPはブルガリアよりも上の世界77位」とする研究を発表して話題になった。その彼が資金を得て開発したのがシェイクスピアの世界を体験する「Arden: World of William Shakespeare」だ

 その一つが,11月27日にローンチされた「Arden: World of William Shakespeare」だ。これは,2001年にMMORPG「EverQuest」内の経済活動を,国民平均所得に換算したことで有名な,Edward Castronova(エドワード・カストロノヴァ,現インディアナ大学ブルーミントン校助教授)氏のチームが開発したもので,シェイクスピアによって書かれた薔薇戦争をMMORPGで再現している。

 「NeverWinter Nights」のゲームエンジンを改良して制作されており,無料でダウンロードできるが,遊ぶためにはNeverWinter Nights(および二つの拡張パック)のインストールが必要だ。なお,開発費の24万ドル(約2600万円)は,とあるスカラシップ基金から拠出されたという。

 Ardenは,15世紀末のチューダー朝期のイギリスを舞台に,薔薇戦争で疲弊した貴族や騎士,平民達に混ざってプレイヤーが生活をする。ゲームの 目的は「シェイクスピアの世界を身近に感じてもらう」というものであり,クエストで得たシェイクスピア文学の断片を村の吟遊詩人に持ち帰ることで,自分の剣により強力な魔力をかけてもらうといった,ゲームらしい部分もある。

 Ardenは,アメリカ人達にとっても難しいシェイクスピアの作品を,青年層にもより分かりやすい形で学んでもらおうという試みなのである。実はこのゲーム,ストーリーやセリフまわしを少し変更すると,プレイヤーが「どのような行動を取るか」の分析にも利用できるそうで,そうした社会行動学的な実験も今後行う予定であるという。このあたりは,商業用のMMORPGにない要素だろう。

 

ゲーム開発のノウハウを取り入れた教材

 続いて紹介するのは,名門私立高校の教師というTripp Robbins(トリップ・ロビンス)氏らが推進している異色作で「New Nexus Dream Kit」と呼ばれるプロジェクトだ。基本的には「Second Life」のような仮想世界なのだが,「教師が簡単に授業に役立てられる」ことを念頭に開発されており,かなり小型のバーチャル世界になっている。

 具体的には,古代ローマの歴史を生徒に理解させるために,当時の世界を再現するとか,微生物の世界を拡大して見せる,といった用途が考えられている。

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写真は,「Bronze Blade: Chemistry」の授業風景。最近では,日本でも携帯ゲーム機器を利用した教育実験も行われているが,プラットフォームの特性からか,計算問題の反復練習や暗記などがメインになっているようだ。ロビンス氏の構想のように,教育者が好みのバーチャル世界を作り上げて教材にできる時代は来るのだろうか

 このNew Nexus Dream Kitは,プログラムの使用や変更が自由なオープンソースになる見込みだ。誰でも使えるというからには,ユーザーフレンドリーなインタフェースやツールを備えていることが予想される。教師なら誰でもSecond Lifeのようなバーチャル世界を作れる,という理想は高すぎるようにも思えるが,ロビンス氏のグループもすべての教師をターゲットにしているわけではなく,「志ある教育者が活用できるソフトウェア」を目指しているようだ。

 ロビンス氏はすでに,「Bronze Blade: Chemistry」というソフトを開発している。これは,「NeverWinter Nights」のMODであり,生徒達はこのゲームで,さまざまな化学薬品を配合したり,鉄などの鉱物を精錬したりして,新しいものを作り出す実験ができるという。黒板のメモを取るだけといった退屈な授業ではなく,集中力も高まり楽しく勉強できると生徒達の評判もいいようである。

 ただし,このプロジェクトに関しては,今後どのような技術を利用して開発していくのかという問題はおろか,資金的な見通しも立ってはいない。ロビンス氏の構想はゲーム業界やほかの教育研究機関の協力なしでは,実現できない状況に立たされている。

 ArdenにしろNew Nexus Dream Kitにしろ,生まれたときからデジタル機器に囲まれて育ってきた若者達には,受け入れられやすいものだろう。ゲームの持つ利点をうまく利用し,既存の手法に捕らわれない,新たな試みを行うという姿勢には賛同できる。

 今回は二つのプロジェクトを紹介したが,ほかにも,完全にオープンソースな仮想世界/MMO用の開発ツールとしてβテストが行われているVastParkの「OpenSocial」があり,「誰でも自由に制作できる」という点に注目するなら,Raph Koster(ラフ・コスター)氏の新プロジェクト「Meta Place」にも通じる思想があるといえるだろう。

 今後もアメリカでは,ゲーム業界だけでなく大学などを巻き込み,さまざまな研究が行われていくに違いない。もちろんそれらは,教育をメインとしたものになる可能性が高く,“ゲーム的な面白さ”という側面から見ると,イマイチかもしれない。だが,こういった動きが活発になり,世間に認められていけば,ゲームの文化的な地位向上につながるだろう。そうなれば,自然とゲーム開発者達の社会的な地位も向上し,優秀な人材がゲーム業界に入ってくる可能性も高まる。なにかと悪者にされることが多いゲームだけに,今後の開発者確保のためにも,いい流れを作っていってもらいたいものだ。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。ルーターが壊れたために,CraigsListという地域情報コミュニティサイトを使い,安く売ってくれる人を見つけた奥谷氏。受け取り場所は,サンフランシスコ中心部のビジネス街に決まったのだが,週末の夜だったので人通りは少なく,待ち合わせ予定のコーヒーショップは閉店していたそうだ。というわけで,寒いのを我慢しながら外で相手の到着を待ち,現れた男からルーターを購入したという。ようやく暖かい場所へ移動できると思いきや,暗がりで二人の男が紙袋の受け取りをしている姿が怪しく見えたらしく,通りかかった警察官に職務尋問されてしまったとか。奥谷氏は,「ケチった分だけ苦労してしまった」とこぼしており,次に壊れたときは,素直に新品を購入しようと考えているようだ。

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