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印刷2008/04/11 12:31

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted

 「3DMark」や「PCMark」といったベンチマークソフトで有名なFuturemarkが,ゲーム開発に乗り出すことになった。そのタイトルは,登録商標の取得段階からウワサになっていた「Codename: Pwnage」。今回は,Futuremark幹部に行ったインタビューから分かった本作の概要をお伝えしよう。

Futuremarkが開発するマルチプレイFPS
あのベンチマークメーカーがゲーム作りに進出
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プログラマブルシェーダ3.0やデュアルコアCPU,PhysXテクノロジーなどに対応した3Dベンチマークテスト「3DMark06」。次世代版「3DMark Vantage」のリリースも待ち遠しい

 Futuremarkといえば,ベンチマークソフトである3DMarkシリーズで有名だ。同社が3DMarkの前身にあたる「Final Reality」を発表したのは1997年のことで,ちょうどグラフィックスカードがゲーマーの必需品となり始めた頃だ。自分のPCの3Dグラフィックス処理能力を知りたいという欲求は,多くのゲーマーが抱いており,それにうまく答えたのがFuturemarkだったといえる。

 そのFuturemarkが,ゲーム開発用スタジオFuturemark Games Studioの設立を発表したのは2008年1月末のことだ。3月に入って,“Pwnage”という欧米のゲーマーに一般的に使われているインターネット用語の商標登録に乗り出し,ゲーマー達に不評を買ったのだが,「Codename: Pwnage」(以下,Pwnage)が,Futuremarkが開発するゲームの名前だったのである。

 Futuremarkは,Remedy Entertainmentから分社する形で誕生。Remedy Entertainmentは,2001年に「Max Payne」をリリースしたが,Max PayneとFinal Realityのコアエンジン部分は同じだった。

 ちなみに,Remedy Entertainmentを創設したのは,デモシーン(音楽を伴ったCGデモを作成するサブカルチャー)を制作するグループ「Future Crew」のメンバー達である。Future Crewは社名の由来にもなっており,発足時からその技術力には定評があった。

 実は,2月にサンフランシスコで開催されたGame Developer Conference 2008(GDC08)で,FuturemarkのCEO Oliver Baltuch(オリバー・バルトゥッチ)氏と,Futuremark Games Studioを統率するJukka Makinen(ユッカ・マッキネン)氏に,Pwnageについて,プロトタイプを見せてもらいながらインタビューをする機会を得ていたのだが,NDA(秘密保持契約)により,お伝えまでに少し間をおくこととなった。

 残念ながら,GDC08でのミーティング以降,画面写真を含めた新情報はFuturemarkから送られてきていない。撮影も禁止されていたために文字ばかりのインタビュー記事となってしまうので,あらかじめご容赦願いたい。

 

「Pwnage」はオンライン対戦専用のFPS

 バルトゥッチ氏は,National SemiconductorやNVIDIAなどを渡り歩いてきた,チップ業界出身のビジネスマンだ。こちらが日本人と分かると「さん」を付けて名前を呼んでくれる,気さくな人だった。一方,マッキネン氏はいかにも技術屋といったタイプで,あまり口数は多くなく,今回のインタビューでは,ほとんどバルトゥッチ氏が答えてくれた。

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FuturemarkのCEOオリバー・バルトゥッチ氏(左)と,新設されたFuturemark Games Studioでエグゼクティブ・プロデューサーを務めるユッカ・マッキネン氏

4Gamer:

 2007年以降のFuturemarkは,ずいぶんと多角化を進められていますね。

バルトゥッチ氏:

 はい。PCゲーム情報サイトYouGamersの開設を皮切りに,「PCMark: Vantage」のリリース,さらにはモバイル方面への進出も行っています。この三つに加えて,我々の主力である,Vista/DirectX 10専用のベンチマーク「3DMark: Vantage」も発表しましたし,2008年1月にはFuturemark Games Studioを設立しました。

4Gamer:

 そのFuturemark Games Studioの手掛ける作品がPwnageというわけですね。タイトル名からゲームの雰囲気をだいたい想像できそうですが。

バルトゥッチ氏:

 はい。「ポウネッジ」(Pwnage)という言葉は,ご存じかも知れませんがFPSのマルチプレイで,勝利宣言のときにいう「I owned you」(「もらったぜ」のような意味)の“owned”を「pwned」とミスタイプしたことに由来します。インターネット用語ですから,「ポウンド」と発音するのか「オウンド」のままなのかは,以前から議論が重ねられていますね。

マッキネン氏:

 もともとミスタイプなんだから,Pwnageは「オウネッジ」と読むべきかもしれません。

4Gamer:

 私も「オウネッジ」派です。3leet(Elite/エリート,「よく出来るヤツ」のような意味)も「スリーリート」とは発音しないですし。

バルトゥッチ氏:

 まあ,ゲームのPwnageの読み方は,プレイヤーにおまかせしましょう(笑)。

4Gamer:

 そうですね(笑)。では,「オウネッジ」の説明をお願いします。

バルトゥッチ氏:

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これは,リリース予定のVista専用3Dグラフィックスベンチマークソフト「3DMark: Vantage」の画像だ。「Pwnage」の雰囲気は,インタビュー中に見せてもらったプロトタイプに似ている

 この作品はマルチプレイ専用のFPSで,64人までの対戦ができます。2007年10月に地球に接近して話題になった隕石がありましたが,それが月に衝突してしまったという設定になっています。月が粉々になり,地球の周囲にアステロイドベルトのようなものができ,そこに隕石との衝突によってMannaと呼ばれる永久燃料が誕生しました。それを採取するために企業が警備隊を連れて開拓に乗り出したのです。ところが,2027年5月に,ある事故が起きて,地球との連絡が途絶えてしまいます。New Calicoと名付けられた小惑星の周囲に取り残された企業側の人間と警備隊員が抗争を始めてしまった,というのがストーリーです。

4Gamer:

 なるほど。宇宙空間が舞台になるのですね。そうなると,無重力状態になるのでしょうか。

バルトゥッチ氏:

 完全な無重力状態ではありません。アステロイドの重力があり,そこでプレイヤーキャラクター達がジェットパックを使って移動しながら対戦します。

4Gamer:

 ジェットパックといえば,往年の「Tribes」みたいな感じですか。

バルトゥッチ氏:

 似ているかもしれませんね。でも,Pwnageの場合はマップのデザインがアステロイドを中心にしているので,360度どこからでも攻撃できる,もしくは攻撃されます。これまでのFPSにはあまりない,ゲームになると期待しています。

4Gamer:

 グラフィックスエンジンは3DMark: Vantageのものを利用するのですか。

マッキネン氏:

 そうです。

4Gamer:

 ということは,Windows Vista/DirectX 10専用になるのですね。

マッキネン氏:

 はい。DirectX 10をサポートしたGeForce 8600シリーズ以上,そしてCore Duo以上のCPUをターゲットに絞っています。Pwnageが完成するまでにはしばらく時間がありますし,これがミニマムスペックでも問題ないでしょう。

4Gamer:

 Pwnageはベンチマークソフトと同じように,ネットで配布されるのでしょうか。

バルトゥッチ氏:

 そのとおりです。現在,3DMarkは,4Gamerをふくめて,世界250の媒体を通してのオフライン/オンライン流通が行われており,この流通方式を開拓してきたと思っています。

 Pwnageも,クライアントを皆さんにダウンロードしてもらい,起動時に情報入力や支払いを行ってもらうという手法になるでしょう。当然ながら,クランマッチやランキングなどのサポートも考えています。

4Gamer:

 3DMarkはゲーム的な感じでしたが,ゲーム化されることはありませんでしたね。どうして,このタイミングでゲーム開発に乗り出しのでしょうか。

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こちらも3DMark: Vantageの画像だ。Pwnageは,64人までのオンライン対戦を基本としたFPSで,重力の少ない宇宙空間でジェットパックを利用した戦いが描かれる。グラフィックスが,このクオリティになるのは間違いなさそうだ

バルトゥッチ氏:

 どうしてでしょうね(笑)。我々フィンランド人は温厚な国民性で知られていますが,のんびりしているうちに,参入のタイミングが今になったのかもしれませんね。10年前にゲームを作っていれば,会社も大きく変わっていたでしょう。10年後に,我々がゲーム会社としてどれほど成長しているかを,楽しみにしていてください。

4Gamer:

 話をゲームの内容に戻しますが,企業側と警察部隊側で使用する武器に違いはありますか。

バルトゥッチ氏:

 そこまで考えていませんが,登場する兵器は,あまり突拍子のないものではなく,現在使用されているものの延長線上になるでしょう。20年後の兵器を想像してみてください。

4Gamer:

 銃器以外の武器もありますか。たとえば,「ディグダグ」のようなドリルがあって,アステロイドに穴を掘って裏側に回り込めるとか。

マッキネン氏:

 (2人で顔を見合わせたあと) まだゲームについては企画を練っているところなんですが,技術的にはできそうですね。その面白そうなアイデアを採用しようかな。

4Gamer:

 では,「Half-Life」のバールにあたるデフォルトの兵器はシャベルとかツルハシですか。

バルトゥッチ氏:

 それもまだ決まっていないんですが,チームと話していたのがナイフです。敵の宇宙服を切り裂いて,相手が破裂したり凍りついたりしてしまうようなシーンを表現しようかと話していたんです。後ろから近付いて酸素チューブを切れるようにして,さらにヘルメットの中を覗けるようにしておいて,苦悶の表情を浮かべた死に顔をみられて……。

 このあとは,双方で残虐な描写のアイデアを出し合ったところで時間切れとなった。ほとんどゲームの内容は決まっておらず,来年の予定というFuturemark側の発表とは裏腹に,完成までの時間はもう少しかかりそうな印象を受けた。ベンチマーク開発者の作るゲームが,FPSというジャンルに新風を巻き起こせるのか期待したい。

※本稿掲載後に,「Codename: Pwnage」のコンセプトアート3点が公開された。別記事として掲載したので,ゲームの雰囲気をつかみたいは,そちらも合わせて見てほしい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。足首の腱を痛めてしまったという奥谷氏。かなり重傷で,右足を補強ブーツで固定しているという。だが,こちらの心配をよそに,「インターネットを無線化したのでベッドにいながら仕事ができる。必要なものも頼めば持ってきてもらえるので,前よりも便利」と,まんざらでもない様子だ。とりあえずお見舞いとして,歩きづらいことを意識しないですむように,外に出る時間がなくなるぐらいの仕事をお願いしておきますね。

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