業界動向
The Simsシリーズは,PCゲームを代表するタイトルだが,そのオンライン版である「The Sims Online」は,2008年8月でのサービス終了が決定した。サービス開始当初の期待とは裏腹に,プレイヤーを獲得できずヒットしなかったのはご存じのとおり。その原因はいくつか考えられるが,ゲーム内でのある問題が,プレイヤー獲得の足を引っ張っていたようだ。
100万アカウント間違いなしの自信作が,
まさかの大失敗
2000年2月にアメリカでリリースされて以降,売り上げトップ10に名を連ね続ける“ピープル・シミュレーター”The Simsシリーズは,全世界累計販売本数がついに1億本を突破した。これは,マリオブラザーズシリーズの記録,約2億8500万本の売り上げにはおよばないものの,8年で1億本を達成したというThe Simsの記録は十分に立派な数字だろう。
The Simsが発売された当時は,FPSやアクションRPG,そして「StarCraft」に代表されるマルチプレイRTSなど,“ハード”なPCゲームの全盛期だった。そんな中で老若男女が楽しめる“ソフト”なThe Simsがヒットしたのは,現在盛り上がりを見せているカジュアルゲーム時代の予兆だったのかもしれない。2009年には,ファン待望の「The Sims 3」が発売される予定であり,映画も制作される。
そんなヒット街道驀進中の本編の陰で,MMO版である「The Sims Online」のサービスが,2008年8月1日で終了されることが決まった。The Sims Onlineは,The Simsのリリース直後から開発が始まり,2002年12月にローンチされたタイトルだ。「史上初の100万アカウントを達成するオンラインゲーム」と関係者の間で見られていたが,絶頂期でも12万5000アカウントほどしか登録されないという結果だった。2008年2月には,「EA Land」と改名され,完全無料のオンラインゲームとして再スタートを切ったのだが,開発者の努力も空しく,残念ながらサービス自体が打ち切られることになったのである。
The Sims Onlineの失敗は,一般的には本編ほどのオプションと自由度がなかったからといわれている。プレイヤーが一度に使用できるシム人は一体のみで,家族的なドラマを望んでいたファンの期待とはかけ離れたものだった。また,キャラクターを育てて良い仕事につき,より多くのお金を得るという仕組みになっていたのだが,成長させるにはモンスターを狩るわけではなく,本を読んだり黒板に字を書いたりなどを繰り替えさなければならない。しかも,プレイヤーが一度クリックすると自動で進行するため,チャットをするぐらいしか時間を潰せなかった。実際,筆者も雑誌を片手に遊んでいた記憶がある。
The Sims Onlineのサービスは,結果的に失敗の烙印を押されたわけだが,失敗の理由は単調なゲーム性の問題だけではなかったようだ。実は,とある問題がローンチ当初から起きていた。いわゆる“サイバーセックス”である。
オンラインゲームの陰にセックスあり
The Sims Onlineでは,すでに記したように,「クリック一つであとは何もしない自動進行のスキル上げ」というシステムになっていたのだが,そんな行為に興味がないEvangelineと名乗るキャラクターが,simolean(ゲーム内通貨)を手っ取り早く稼ぐために,風俗店の運営を思いついた。風俗店といっても実際には,相手の前で腰をくねらせるダンスをしたり,しゃがみ込んでそれっぽい雰囲気を出したりしつつ,エッチなトークをするというサービスだ。
simoleanはすぐに貯まり,家具などを揃えた大きな風俗店をかまえるようになるまでに,ゲームの正式サービス開始から1か月もかからなかったらしい。しかも,ここで働けばゲーム内で簡単にお金を稼げるというウワサが広まり,働き手の確保にもまったく困らなかったようだ。
そんなEvangelineとその仲間達であったが,ニュービー(新しくプレイを始めたばかりでゲームを詳しく知らないプレイヤー)を誘って,働かせたうえに,グループへの入会金50万simoleanを要求したり,稼ぎの分け前を与えないということを頻繁に行っていたという。2003年になると,Evangeline達の行為への対策を取らない運営チームに業を煮やしたプレイヤー達が,Sims Shadow Government(SSG)というギルドを組織し,このグループを追跡したり,罠に掛らないようにほかのプレイヤーに注意を促したりするといった活動を開始したのだ。
ローンチ当初から,ゲームができていないと批判されていたThe Sims Onlineだが,その裏ではサイバーセックスなど,運営者側の意図しなかった行為も蔓延していたようだ。以前お伝えしたように,Second Lifeでは児童ポルノを販売していたグループが警察の捜査対象になったこともある。自由度の高いゲームにとって“ポルノ化”は,避けて通れない問題かもしれない
Evangelineの下で働き,分け前をもらえなかったプレイヤーの中には未成年も少なくなかったという。つまり,未成年が卑猥な内容のチャットでゲーム内のお金を稼いでいたことになる。さらにEvangelineは,SSGのメンバーに「自分は実生活で妹に暴力を振るい病院送りにした」などと話したため,それを心配したSSGのメンバーが,The Sims OnlineのニュースサイトThe Alphaville Heraldにレポートした。そして,The Alphaville Heraldの管理人がElectronic ArtsにEvangelineがThe Sims Onlineで行っていることを報告し,ゲーム内を浄化してほしいという要望書を提出したのである。ちなみに,グループの中心人物Evangelineは未成年で,性別も男だったようだ。
この事件は,未成年による売春“的”行為であり,このような行動は仮想世界において法的規制するのは難しい。Evangeline達が荒稼ぎしたsimoleonをRMT業者などを通して現金にしていた疑いもあるが,そうだとしても法的に罰するのは難しいだろう。
もっとも,Electronic Artsはこの件を重く見たようで,結果として,Evangeline達はゲームから追放された。妹に暴力を振るったという話はウソだったようだが,この件についてはEvangelineというキャラクターを使用していた人物が未成年の男だったという以外,真相は明かされていない。The Alphaville Heraldの運営者も,現在はSecond Lifeに舞台を移し,Second Life Heraldというニュースブログを運営している。
現在,オンラインゲームにおけるサイバーセックスは,あまり多く語られないものの,今後の開発現場や仮想世界の内部では重要な事柄になっていくだろう。Second LifeもUCC(ユーザー・クリエイテッド・コンテンツ)の約3割がアダルト関連といわれており,「World of Warcraft」では,キャラクターが性行為をしているようなビデオを撮影してYouTubeにアップしていたERPというギルドが2007年9月に追放された。
アバターへの性的な投影という現象は避けては通れず,その意味でThe Sims Onlineは,UCCの在り方やプレイヤー行動学といった分野で,大きな意義のある作品だったといえるのではないだろうか。
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