業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第220回:E3 2009プレビュー
2009年6月2日〜4日,カリフォルニア州ロサンゼルスのコンベンションセンターにおいて,恒例のE3(Electronic Entertainment Expo)が開催される。ここ3年間は,現世代機に向けたタイトルが次々に投入された非常に重要な時期であったにも関わらず,規模縮小によってかつてのプレゼンスを失っていた。そうした状況を打破すべく,2009年は以前の以前の形態に戻って“再々生”をはかることになる。果たして各社が取り揃えた新作は,不況の風を吹き飛ばすほどの勢いを持っているだろうか。今週は,開催を目前に控えたE3における注目メーカー/タイトルをピックアップしてみよう。
垂れ幕もなく,なんとも寂しい雰囲気だった昨年のロサンゼルス・コンベンションセンター。これでも会期中だ。現時点での参加予定者は前年に比べて4〜5倍になっているらしく,今年はもう少し活気があるはず。ただ,不況のあおりを受けたゲーム業界が,お祭りごとなどしていられないというのも本音かもしれない
ここ数年,迷走を続けてきた北米最大のゲームイベント,E3(Electronic Entertainment Expo)。過去数年はE3 Media & Business Summitという名称のもと,時期を5月から7月に移して開催されていたが,今年は「Electronic Entertainment Expo」というかつての名前を復活させ,開催時期を6月上旬に繰り上げての再スタートになる。
規模が大きくなり,参加メーカーの金銭的負担が多きくなりすぎたという反省から,E3 Media & Business Summitでは「参加企業がメディアや関係者を招待する」という形式に変更され,そのため非常にエクスクルーシブなイベントになっていた。
とはいえ,華やかな会場で行われる派手な新作発表がファンに対するアピールになっていたのも事実で,E3 Media & Business Summitのように,「ホテルの部屋で秘密裏に会合する」というスタイルはゲーム産業のイメージにマッチしないとの批判が高まった。
2008年は会場をロサンゼルス・コンベンションセンターに戻したが,それでも賑やかなブースや広告用の横断幕もない,参加者1万人規模の地味なイベントでしかなかった。
2009年の再々生E3は,必ずしも以前と同じとまではいえないが,業界関係者なら登録するだけで参加できるシステムに戻されており,最盛期の半分ほどにあたる約4万人が参加するだろうと予想されている。各社のブースがどのような雰囲気になるのかはハッキリしないが,取材する側としてはちょうどいい感じだ。人が集まりすぎてゲームに触れないとか,ムービーを見るだけで2時間待ちといったことは,たぶんないだろう。
E3は北米市場でゲームを販売する企業を対象にした業界団体ESA(Entertainment Software Association)が主催するものだが,今年からESA会員企業以外の参加も認められたため,日本ではあまりなじみのないパブリッシャや周辺機器メーカー,開発ツールのデベロッパ,そして海外のディストリビューターなど数多くが参加しており,いろいろなサプライズがあるかも知れない。
その一方で,業界からは「昔のE3に戻すのには遅すぎた」という声も聞こえてくる。経済危機の波はゲーム業界にもおよんでおり,昨年の決算で赤字を計上した企業は多いし,融資が減ったため中止になったプロジェクトも少なくない。2008年には,北米ゲーム業界で働く人の約10%が失業したという統計もあり,多くのゲーム企業は現在「倹約モード」に入っているはずだ。
また,新ハードウェアや周辺機器の発表が予想されているとはいえ,各プラットフォームは市場に十分浸透しており,現在やや“停滞ステージ”に入っているのは確実。業界やファンをわかせるビッグプロジェクトや,最新テクノロジーの公開などに乏しいイベントとなりそうで,タイミングの悪さは否定できない。
このように,吉凶半々といった感じのE3だが,以下に,E3 2009に参加を予定している欧米メーカーの出展予定リストから,期待できそうな作品をいくつかピックアップした。
もちろん,詳しいことは来週のお楽しみだが,予習を兼ねてチェックしてほしい。
ヒットシリーズをバネに躍進を続けるActivision Blizzard。昨年はプライベートカンファレンスを行っただけで,E3への直接参加は見合わせていたが,今年はコンベンションセンター内にブースを設置し,年末から来年にかけてリリースされる予定の新作群を発表することになっている。
とはいえ,PCゲーマー必見の「Diablo 3」と「Starcraft 2」を抱えるBlizzard Entertainmentは,8月に開催されるファンイベント,BlizzConがあるために,なんの発表も行わない可能性が高い。
そんな同社のラインナップは,ターンテーブル型コントローラーを駆使する「DJ Hero」,スケボーゲームブランドTony Hawk'sシリーズの新作(正式名称は未定),そして人気FPSシリーズの第6作にあたる「Modern Warfare 2」など,やはり引き出しの多さを感じさせる。
またActivisionは,Project Gotham Racingシリーズで有名なイギリスのBizarre Creationsを2007年に買収しているが,それがついに新作レーシングゲーム「Blur」として結実したようだ。
ヒットの可能性が高い「The Sims 3」のリリースを来週(つまり,E3の会期中)に控えたElectronic Arts。PC版の「Dead Space」や「Mirror's Edge」など,昨年末に投入したコアゲーマー向けタイトルが苦戦したことに加え,カジュアルゲーム部門も振るわず,ここ数年は「想定外の展開」といったところだ。しかし,さすがEAだけのことはあり,今年も20タイトルを超える新作をE3で発表することになりそうだ。
まず注目したいのは,「Dragon Age: Origins」および「Mass Effect 2」という,BioWareの誇る高画質の新作RPG2本だろう。さらに,コンシューマー機専用ゲームながら,「Brutal Legends」や「Dante's Inferno」,そして「Army of Two: The 40th Day」などの作品も期待できそうだ。「FIFA 10」や「Fight Night Round 4」など,EA Sportsのシリーズものも多いが,今年は「Grand Slam Tennis」というWii向けのテニスゲームにも進出している。
さらに,同社の抱える人気FPSの中から「Battlefield: Bad Company 2」が出展予定になっている。そろそろ基本料金無料のオンラインFPS,「Battlefield Heroes」や,詳細が分かってきた「Battlefield 1943」など,今年はBFシリーズが大きく飛躍するかもしれない。
一部のPCゲーマーの熱い視線を受けるスウェーデンのParadox Interactiveは,同社のリードプログラマー,ヨハン・アンデルソン(Johan Andersson)氏が開発したデジタル流通システム「GamersGate」も好調のようで,ラインナップが日々拡充している。そんなParadox Interactiveは,2009年発売予定の新作を複数抱えていることもあってか,久々にE3の参加を予定している。
Paradox InteractiveがE3に持ってくる予定の新作は4本。まず,大航海時代以降の世界を描いた「East India Company」は,ヨーロッパ列強8か国の中から一つを選択して植民地経営や輸出入を行うというストラテジー。また,第二次世界大戦をリアルに再現した,ファン待望の「Hearts of Iron III」,そしてコミカルなファンタジー世界で王国を建設する「Majesty 2: The Fantasy Kingdom Sim」も,プレイアブルな状態のものが初公開される予定だ。さらに,MODコミュニティを沸かせてカルトヒットを飛ばした「Mount & Blade」の拡張パック,「Mount & Blade: Warband」の情報も出そうである。
なんといっても,4本とも年内の発売が予定されているのが頼もしいところだ。
Verant Interactive時代の「EverQuest」からはや10年。今や,名実ともにMMOゲーム市場を支えるSony Online Entertainmentだが,ここしばらく,大きな動きはなかった。だが2009年はこれまで進めてきた複数のプロジェクトで飛躍しそうな気配である。
その一つが,4月にローンチされた「Free Realms」だ。カジュアルなソーシャルネットワーク型ゲームで,プレイヤーはウォーリアー,ニンジャ,ドライバーなどさまざまな職種が選べ,いろんな衣装に自由に着替えて各種ミニゲームを楽しんだりできる。夏には,PLAYSTATION 3版も登場する予定だ。
このFree Realmsのように,PC版だけでなくPLAYSTATION 3向けに並行して開発されているものが少なくないのが同社の特徴だ。例えば,スパイになりきってアクションが楽しめる「The Agency」では,PCとPLAYSTATION 3のプレイヤーが同じ世界(サーバー)を共有できることがウリとなっており,同社らしいプロジェクトといえるだろう。
Take-Two Interactiveのブランドである2K Gamesは,もう一つのブランドRockstar Gamesに比べて知名度は落ちるが,それでもよく知られている。守備範囲の違いがイマイチ分かりづらいのだが,PC版がまず作られるようなゲームは2K Gamesからリリースされる傾向にある。また,「Grand Theft Auto IV」のPCへの移植は2K Gamesが担当していた。
いずれにせよ,そんな2K GamesがE3で紹介するのは,ワールドワイドで300万本近いヒットとなったホラーFPSの新作「Bioshock 2」だろう。
本作では,プレイヤーはレトロな潜水服に身を包んだビッグダディに扮し,新たに登場する“ビッグシスター”と対峙することになるという。さらに,前作になかった要素としてマルチプレイモードも作成されている。
さて,なかなか情報の出てこない「Mafia II」は,発売時期こそ遅れてしまったもののE3での情報公開が期待できる。また,情報がたくさん出てくる割にちっともリリースされない「Borderlands」は,フレンチコミックスのような劇画調グラフィックスに変更されることが発表されており,新たな姿で我々の前に登場するだろう。
AtariやCodemastersなど,E3への出展を見合わせるヨーロッパ勢が多いなか,一人気を吐いているのがUbisoft Entertainmentだ。今年は,得意のカジュアル系ゲームから,コアゲーマーを唸らせる新作まで,かなり充実したラインナップを揃えての参加となりそうだ。
そんなUbisoftで最大の注目タイトルといえば,イタリアのルネッサンス期に時代設定を移した「Assassin's Creed II」だろう。前作同様の軽快なアクションに加え,新たに“泳ぎ”の技能が加わる(前作の主人公はカナズチだった)ことで,新たなアサシンEzioはベネチアの運河を利用した潜入や暗殺を行えるようになった。
PC版も発売される予定のゲームといえば,大災害が襲った都市を舞台にしたサバイバルアドベンチャー「I Am Alive」や,現代戦争もののRTS「R.U.S.E.」,そして中世の都市建設を楽しむ「Anno 1404」なども楽しみだ。コンシューマー機向けには,「Red Steel 2」や「Rabbids Go Home」「Beyond Good & Evil 2」などが登場。最近音沙汰がない「Tom Clancy's Splinter Cell: Conviction」や,2010年のリリースが見込まれる「Ghost Recon 4」などは,今回のE3に顔を見せてくれるのだろうか。
※6月5日のAccess Acceptedは,Electronic Entertainment Expo 2009取材のため休載いたします。ご了承ください。次回の更新は6月12日を予定しています。
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