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Access Accepted第462回:ゲームの必須アイテム「モロトフ・カクテル」について
「火炎瓶」とも呼ばれる「モロトフ・カクテル」は,かなり高い頻度でアクションゲームに登場する,ゲーマーにとっておなじみのアイテムだ。危険な武器なのに“カクテル”という不思議なネーミングは,そもそも何に由来しているのだろうか? 今回は,そんなモロトフ・カクテルの歴史を振り返りつつ,ゲームにおけるモロトフ・カクテルについて思いをめぐらせてみた。
ようやく見つけたモロトフ・カクテル
「グランド・セフト・オート」シリーズでは割とおなじみの武器の1つに,「モロトフ・カクテル」がある。シリーズ最新作「グランド・セフト・オート V」では,発売前に公開されたトレイラーの第2弾で,トレヴァーがスティービー・ワンダーの名曲「I Wish」に合わせて,モロトフ・カクテルを思い切り投げているシーンがあった。しかし,普通にプレイしていても,さっぱり手に入らない。
おかしいなと思いながらも,半年ほどはプレイを続けていたが,ふとしたことで調べてみると,実は隠しアイテムの1つだったのだ。それは知らなかった。
モロトフ・カクテルがいわゆる「火炎瓶」のことだというのは,いまさら説明するまでもないだろう。英語では,「Petrol Bomb」(石油爆弾)や「Poor Man's Grenade」(貧乏人の手榴弾)などとも呼ばれる簡単かつ原始的な武器だ。名前の「モロトフ」は,第二次世界大戦中のソビエト連邦の外務大臣,ヴャチェスラフ・モロトフ氏に由来するという。
1939年11月,ソ連軍は隣国フィンランドへ侵攻を開始し,いわゆる「冬戦争」が始まった。大国が小国に行う典型的な侵略戦争で,装備に勝るソ連軍は,大型焼夷弾「RRAB-3」を開発してフィンランドの町々に無差別爆撃を開始した。だがモロトフ外相はその事実を否定し,「爆弾ではなくパンを投下しているのだ」と,国際社会に対して主張した。そのため,フィンランド軍では焼夷弾のことを「Molotov's Bread Basket」(モロトフのパン籠)と呼んでいた。モロトフ・カクテルには,パンへの返礼として特製カクテルを贈るという意味が込められているのだ。
モロトフ・カクテルが最初に使われたのは,1936年に発生したスペイン市民戦争だと言われている。戦車に手を焼いた国民戦線側が編み出した戦法で,ガソリンエンジンを搭載した当時の戦車は燃えやすかった。
ちなみに,モロトフ氏はソビエト連邦の崩壊が迫る1986年まで存命だった。世界各地の紛争で使われる火炎瓶が自分の名で呼ばれていることを,どう感じていたのだろうか。
モロトフ・カクテルの思い出と,現在の状況
モロトフ・カクテルが最初に登場したゲームについては,残念ながら調べがつかなかったが,筆者が個人的に強い印象を持っているのは,1997年にRunning with Scissorsという妙な名前のメーカーが発売した「Postal」というゲームだ。
1986年にオクラホマ州の郵便局で起きた銃乱射事件から,アメリカでは,キレて無差別殺傷事件に走ることを指す「Going Postal」というスラングが生まれていた。それをオマージュした本作の主人公も,何らかの理由で仕事や家を失ったことでポスタルしてしまった男であり,追ってくる警官ばかりか市民にも攻撃を仕掛けていくというゲームだった。
「残酷ゲーム」として発売禁止になった国もあるので,タイトル名ぐらいは聞いたことがある,という人も多いだろう。
何を隠そう,筆者がプロのライターとして初めて書いたのが,この「Postal」のレビューであった。そういう“間柄”なので,強く印象に残っているのは当然なのだが,中でも特に酷いと思ったのが,街を練り歩くマーチングバンドにモロトフ・カクテルを投げるというシーンだ。正確には,なぜか大通りにいくつも置かれた石油缶に爆弾を投げつけることがメインなのだが,モロトフ・カクテルも併用して,1人でも多くのマーチングバンドをキルすることになる。アクション中はBGMもなく,絶叫と効果音だけ。すべてが終わったあとには風がヒューヒューと唸る音が聞こえているという,バイオレントでシュールなゲームだった。
そんなモロトフ・カクテルは,「グランド・セフト・オート V」のほか,「The Last of Us」や「Alien: Isolation」「ウォッチドッグス」「This War of Mine」,さらには「バトルフィールド ハードライン」など,最近の話題作にしばしば顔を見せている。そして,その多くが,マップを探索してガソリンや瓶などの物資を集め,プレイヤーが製造するというクラフティング要素が含まれたものになっている。それほど強力なアイテムというわけでもないし,使いどころも限られているのに,なぜわざわざアイテム収集とクラフティングの手間をかけなければならないのだろうと思うのは筆者だけではあるまい。やはり,モロトフ・カクテルには何やら妖しい魅力があるようだ。
いっそのこと「冬戦争」を題材に,フィンランド兵が雪に覆われた山中の隠れ家で,こっそりモロトフ・カクテルを製造するような作品を作ってほしいと思う。戦わなくても,その雰囲気だけで筆者は満足できそうだ。
以上,「グランド・セフト・オート V」でようやく見つけたモロトフ・カクテルから,この奇妙なアイテムについていろいろ思いをめぐらせてみた。読者の皆さんにもきっと,「ゲームで見かけたアレが,気になって仕方ない」というものが1つや2つはあるはずだ。機会があれば,ぜひ聞かせてほしい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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