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Access Accepted第486回:SCEからソニー・インタラクティブエンタテインメントへ。新会社発足に見るゲーム産業の欧米シフト
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印刷2016/02/01 12:00

業界動向

Access Accepted第486回:SCEからソニー・インタラクティブエンタテインメントへ。新会社発足に見るゲーム産業の欧米シフト

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 20年以上にわたって「PlayStation」ブランドを支えてきたSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の名称が事業統合によって消え,新たにソニー・インタラクティブエンタテインメントという新会社が発足する。背景にあるのは,縮小傾向にある日本のコンシューマ機市場に比較して,安定して規模を拡大させている北米市場に注力するためであることは間違いなく,ビジネスとして見れば至極真っ当な判断ということになるだろう。今週は,北米ゲーム市場のさまざまな事情を絡めつつ,改めて今回のニュースを取り上げてみよう。


ソニー・インタラクティブエンタテインメントの誕生


 2016年1月26日,東京に本社を置くソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)と,カリフォルニア州サンフランシスコを本拠とするソニー・ネットワークエンタテインメントインターナショナル(以下,SNEI)は,両社の持つハードウェア,ソフトウェア,コンテンツ,ネットワークサービスの各事業組織の業務を統合した新会社,「ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC」(以下,SIE)を設立すると発表した。本年4月1日付けで,正式な運営が開始されるという。

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「ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC」 設立のお知らせ


 SIEの設立により,1993年11月の創業以来,日本を拠点にPlayStationビジネスを手がけてきたSCEの名称は消え,現在,ソニー・コンピュータエンタテインメント アメリカ(以下,SCEA)のあるカリフォルニア州サンマテオ市に本社が移動する。今後は,フラグシップハードウェアである「PlayStation 4」および携帯型ゲーム機「PlayStation Vita」に加えて,2016年中に発売される予定のVR対応ヘッドマウントディスプレイ「PlayStation VR」,各種サービスの中核を担う「PlayStation Network」とメンバーシップサービスの「PlayStation Plus」,オンラインショップの「PlayStation Store」,ゲームストリーミングサービスの「PlayStation Now」,そして,映像コンテンツの配信サービス「PlayStation Vue」はサンマテオ,東京,ロンドンの3拠点で扱われることになる(関連記事)。

 また日本では,東京のSCEがソニー・インタラクティブエンタテインメントに名称を変更して存続し,SCEで日本および近隣地域におけるビジネス展開やソフト開発を行ってきたソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(以下,SCEJA)もソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアと名前を変えて,プレジデントである盛田 厚氏の下,これまでどおりの業務を継続していく。同様に,現在ロンドンに本社を置くソニー・コンピュータエンタテインメント ヨーロッパ(以下,SCEE)も,ソニー・コンピュータエンタテインメント ヨーロッパ(以下,SIEE)へ名称を変更し,セールスや開発などの業務を継続していくはずだ。

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 SIEのプレジデント兼グローバルCEOには,SCEで同職を務めていたアンドリュー・ハウス(Andrew House)氏がそのまま就任し,SCEAのCEOだったショーン・レーデン(Shawn Leyden)氏は,「ワールドワイド・スタジオ」担当のチェアマンになる。これまで,SCEワールドワイド・スタジオのプレジデントだった吉田修平氏の新たなポスト名は未発表だが,吉田氏自身は,これまでの肩書に変更はないとTwitterで述べている。また,SCEEのプレジデントだったジム・ライアン(Jim Ryan)氏は,引き続きSIEEのプレジデントを務め,合わせてSIEの「グローバル セールス&マーケティング」部門を統括することになる。

Kojima Productions設立の際,流暢な日本語を披露して日本のゲーマーにアピールした,アンドリュー・ハウス氏
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 以上のように,今回の体制変更ではトップレベルの顔ぶれ自体はほとんど変わっておらず,SCEとSNEIのオペレーションを統合することで,組織の合理化・一元化を狙ったものだと見ていいはずだ。
 SIEは,ソニーグループにおけるゲーム&ネットワークサービスを担い,2017年には売上高1兆4000億円から1兆6000億円,営業利益率 5〜6%を目指すという経営数値目標を発表している。ハウス氏は「さらなる成長という明確な目標の下,引き続き世界中の皆様の想像力を刺激する,感動的かつ市場をリードするパイオニア的なサービス・プロダクトを,ビジネスパートナーと共に実現していく」とコメントしており,SCEの平井一夫氏がよく口にする「感動」という言葉を使って,4月1日から運営を開始するSIEの方針が,SCEを受け継いだものであることを強調している。


急速に変わりつつある日米ゲーム産業の姿


 新たに誕生したSIEが日本の企業ソニーの傘下であることに変わりはないが,本社を東京からカリフォルニアへと移したことは「ゲーム市場の変化」を如実に示す出来事だ。それは,史上最速といわれるペースで販売台数を伸ばしているPlayStation 4の,2015年末までの販売総数3590万台のうち,北米では1380万台が売れたのに対し,日本は230万台と,実に6倍ものセールス差を記録していることにも表れている。

 もちろん,ハードウェアの販売台数と市場規模は,人口差などもあるため簡単に比較できるものではない。「PlayStation 2」時代のセールスを見ると,アメリカは日本の2倍,アメリカで苦戦したとされる「PlayStation 3」も,フタを開けてみると3倍ほどのセールス差に収まっており,人口補正を含めて日本を「ゲームの大規模市場」と見ても間違いはなかった。しかし,PlayStation 4ではその差が大きく広がっており,こうした現世代コンシューマ機の歴然としたセールスの推移は,PlayStationブランドの開発・運営主体をアメリカに移す動機としては十分なものになっただろう。

PlayStationプラットフォームの販売総数 (単位: 万台/参考:VGChartz
  北米 欧州 日本 その他 総計
PlayStation 4 1377 1410 230 589 3606
PlayStation 3 2927 3429 1040 1233 8629
PlayStation 2 5365 5528 2318 2558 15768
PlayStation 3894 3691 1936 904 10425

 こうした市場規模の違いは,SIEの事業計画にも影響を与えている。「PlayStation Vue」は今のところ,日本での展開は発表されておらず,また「PlayStation VR」についても,最大のライバルと目されるOculus VRの「Rift」と勝負するためには,アメリカに軸足を置く必要があるだろう。

カリフォルニア州サンマテオにある,現ソニー・コンピュータエンターテイメント アメリカの社屋。4月1日からソニー・インタラクティブエンターテイメントLLCがここで新たなスタートを切る
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 さらに,日本のゲーム市場がコンシューマ機からスマートフォンにシフトしているのは間違いなく,多くの開発者がモバイルゲームに流入している現在,人材確保という点からもアメリカへの本社移転は有利に働く。
 プレスリリースでは事業統合の理由について「先進性のあるエンタテインメント体験を提供するため」と述べられており,アメリカの市場と人材を背景にした高い開発力は,PlayStationプラットフォームの今後にとって必要不可欠なものなのだ。

 発表によると,SIEは「ARPPU(Average Revenue Per Paying User:購買者1人あたりの売上)の向上および関連売上の増大」を事業戦略としてSCEから引き継ぎ,「最高のゲームとネットワークサービスによって実現する統合体験を,世界中に提供する」ことで,PlayStationの発展に尽力していくという。
 欧米のゲーム市場では急速なネットワーク化が進められており,ゲーム産業のビジネスモデルも変化している。それに対応する意味でも,ハードウェアとネットワークを統合したSIEの発足は重要な意味を持っており,2017年の経営数値目標として述べられた「売上高1兆4000億円〜1兆6000億円。営業利益率5〜6%」も,現在のペースを見る限り,達成はそれほど難しくないように思える。日本のコンシューマ市場は気になるものの,アメリカを新たな本拠に,未来を見すえたSIEの今後の展開を楽しみにしたい。

ソフトウェア販売は,すべてデジタル化されると思われる「PlayStation VR」。購買ユーザー1人あたりのコンテンツ売上をどこまで伸ばせるかが重要になる
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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