業界動向
Access Accepted第500回:500回記念〜勝手に予想するゲーム産業の未来
2004年9月にスタートして以来,「奥谷海人のAccess Accepted」は今週,連載第500回を迎えた。長く欧米ゲーム事情を紹介するうちには,「これからは,こうなる」といった予想を立てた回も少なからずあり,細かく検証したわけではないものの,個人的には結構,当たっているのではないかと自負している。というわけで今週は,ゲーム産業の未来を筆者が勝手に予想してみたい。
500回の節目に,筆者が未来のゲーム産業を予測する
それだけに,書きたいことがうまく書けたときや,記事がよく読まれたときなど,満足感は高かった。祝日や取材と重なることも多いため,年間40本ほどしか書いていないが,そんな悩んだり満足したりをほぼ毎週,ずっと続けてきた12年間だった。
連載が始まった2004年は,欧米ゲーム業界が変革期に差しかかった時期でもあった。この年にリリースされたビッグタイトルとしては,「Grand Theft Auto: San Andreas」「Halo 2」「World of Warcraft」があるが,「Fable」「Far Cry」「Killzone」,そして「Red Dead Redemption」の前身となった「Red Dead Revolver」など,その後,シリーズを重ねることで大成したタイトルも始まっている。
当時の筆者は,「Rome: Total War」や「Star Wars: Battlefront」「DOOM 3」,そして「Sid Meier’s Pirates!」といったタイトルに熱中していたように記憶している。
PlayStation 2,Xbox,そしてニンテンドーゲームキューブやゲームボーイアドバンスといったハードウェアは成熟期にあり,コンシューマ機に強い日本のゲームタイトルも非常に元気が良かった。「ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン」「マリオvs.ドンキーコング」「NINJA GAIDEN」「モンスターハンター」,そして「ピクミン 2」なども2004年前後にリリースされており,さらに,“ゆるキャラゲーム”,あるいは“ヘンテコ物理ゲーム”として欧米ゲーム業界に大きな影響を与えた「塊魂」が登場したのもこの年だ。
個人的に思い出深いのは,11月に発売された「Half-Life 2」だ。Valveの「Steam」はまだβ版だったが,日本ではパッケージ版の販売に合わせ,北米から数日遅れての配信開始が予定されていた。そのため,北米時間の11月16日深夜にゲームをダウンロードして数時間で終わらせ,日本でのリリースに合わせて「Half-Life 2」のレビュー記事を書き終えた記憶がある。
この「Half-Life 2」をもってSteamは正式にスタートし,2005年以降はインディーズ系タイトルを中心にサードパーティが次々に参入したことで,デジタル配信というスタイルが大きなうねりになっていく。今となってはウソのような話だが,当時は真面目に「PCゲームは死んだ」と言われており,それを覆したのが(ブロードバンドの普及と)Steamだった。デジタル配信は,インディーズタイトルやDLC,さらにアーリーアクセスなど,新たなビジネスモデルを次々と生みだしたため,Steam関連の話題は,おそらく本連載で最も多くネタにしているだろう。
コンシューマ機の世代交代は過去のものに
さて,欧米ゲーム産業はこれから,どのように変化していくのだろうか? 500回めということで,ここでかなり勝手な予想をしてみたい。ぜひ,肩の力を抜いてお付き合い願いたい。
まずはコンシューマ機市場だが,予想と言っておきながらなんだが,これについては各プラットフォームホルダーが発表を行う「E3 2016」を待ちたい。ここで何を書いても,数週間後にはまったく異なるハードウェアや新たな戦略が明らかになる可能性が十分にあるからだ。
とはいえ最近,性能強化版Xbox Oneの話が聞こえてきたので,そちらには簡単に触れておこう。それは,5月26日に掲載した記事でもお伝えしたように,「Xbox Oneのスリム版が『E3 2016』で発表され,40%も小型化する」という噂だ。さらに,「Scorpio」という名称の上位モデルが開発中だという情報もあるが,こちらも噂の域を出ていない。
上記の記事でも書いたが,筆者はこの動きがMicrosoftが新たに掲げた戦略,「Universal Windows Platform」に沿った展開であり,スマートフォンやタブレットPCのように,コンシューマ機が「互換性を維持しつつハードウェアをアップグレードしていく」のではないかと考えている。「6年サイクル」などと言われてきたコンシューマ機の世代交代が,過去の事柄になるかもしれないのだ。
これに関連して思い出されるのが,2016年3月に開催された「Xbox Spring Showcase 2016」で,MicrosoftのHead of Xbox,フィル・スペンサー(Phil Spenser)氏が述べた「新しいゲーム機が登場するたびに過去のゲーム体験は記憶の片隅に追いやられ,古い機械を手放さずに持っている人にしか追体験できないものになる」という発言だ。これはXbox Oneの後方互換についての発言だが,今後のXboxが向かうべき方針について語っていることも間違いない。
ハードウェアが固定であることにメリットがあったコンシューマ機の定期的なパワーアップなど,まったく想像できないが,Microsoftがゲーム業界の未来像をどのように描いているのか興味深い。
続いては,Steamのちょっとした,だが見過ごせない話だ。飛ぶ鳥落とす勢いのSteamが現在,ある種の岐路に立っていることは,「GamesIndustry.biz Japan Edition」で筆者が翻訳を担当したロブ・ファーレイ(Rob Farley)氏の記事,「Steamは毒気を持ち始めているが,Valveは気にしていないようだ」に書かれているとおり。
詳しくは記事を読んでいただきたいが,簡単に言うと,Steamのユーザーコミュニティが野放し状態にあり,ユーザーコミュニティの健全な発展のためには,暴言やネットいじめ,悪意ある発言などに対して厳しい対処が必要なのに,Valveはそれを怠っている。そのため,やがて毒気に満ちたSteamをデベロッパ達が避けるようになり,ユーザーも離れていく,という内容だ。
Xbox LiveやPlayStation Networkはもちろんとして,Blizzard Entertainmentの「Battle.net」,Electronic Artsの「Origin」,Ubisoft Entertainmentの「UPlay」,さらにBethesda Softworksの「Bethesda.net」といったオンラインサービスが次々に登場し,順調に成長を続けている。各プラットフォームホルダーもメーカーも,ゲームが「売り切り」のビジネスから「継続的なサービス」に移行していることを実感しているのは間違いなく,オンラインサービスにはさらに力が入っていくはずだ。Valveには今後,サービスの改善が強く求められることになるかもしれない。
VR,AR,そしてMR
次は,ゲーム業界が大きく期待しているVR(仮想現実/Virtual Reality)について。従来の映画やテレビと異なり,ユーザーがその世界に身を置くことができることから,VRを“新しいメディア”と称する人達もおり,そうした新しいメディアが導入されたときには必ず,夢を持つ人々が先駆者となって市場に飛び込み,トライアル&エラーが繰り返される。
モバイルゲーム市場で大成功した「Angry Bird」のRovioや「Clash of Clans」のSupercell,さらにFacebookゲーム市場にいち早く参入したZyngaや,アーリーアクセスというビジネスモデルを開拓した「Minecraft」のMojangなど,新たな分野で成功した先人達にならい,大きな波に乗ろうとしている人も多い。今のところ「VRエンターテイメント」は,ほぼイコール「ゲーム」だが,メディアが成熟すれば,我々が思いもよらないような使用法が出てくるかもしれず,このへんは楽しみなところ。
とはいえ,普及は当初の予想よりも遅くなりそうだ。Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」,さらにはSony Interactive Entertainmentの「PlayStation VR」が市場に投入されることから,2016年は「VR元年」と呼ばれたりするが,高価な価格帯や生産能力の不足などから,「(VRメーカーは)ここしばらくは,どう市場で生き残るかに主眼を置き,利益にフォーカスすべきではない」(関連記事)という見方が強くなっている。必ずしも市場への浸透性が高いとはいえないのが実情だ。
そんな中で筆者は,間違いなく数年後にVR市場が開花すると見ている。ハードウェアは日進月歩で進化しており,2〜3年もすれば,高画質なVR体験が楽めるPCやハードウェアが手頃な価格帯になるはずだ。もっとも,GoogleがVR向けのプラットフォームとして「Daydream」を発表したように,モバイル端末のパワーアップも激しく,こうなってくると,VRを楽しむのにPCやコンシューマ機が本当に必要なのかも怪しくなってくる。
しかも,数年後にはVRに続いてAR(拡張現実/Augmented Reality)も現実になってくるだろう。その先にあるのは,おそらくARとVRを1つで可能にする,いわゆるMR(複合現実/Mixed Reality)と呼ばれる進化形デバイスだ。
ARやMRなど,いずれも厳密な定義があるわけではないので,なんとなくの話になるが,ARは3Dイメージを現実世界に上乗せして表示し,MRではそれらとインタラクトできるものであると多くの専門家がイメージしているようだ。Microsoftが開発中の「HoloLens」は,こうした定義ブレを避けるためなのか,ARと呼ばず「ホログラフィックコンピューティング」という言葉を使っている。
いずれにせよ,VRとAR,そしてMRと,さまざまなメディアが並び立つ将来像が見えるわけで,そんな時代のゲームは,果たしてどのようなものになるのだろうか? しばらくは市場の動きから目を離すことができない。
最後に,個人的に大きな問題だと思っているのが,VR対応ヘッドマウントディスプレイを装着してゲームを遊んでいる姿が,人に見られてカッコイイものではない点だ。もし,街でそんな姿の人を見かけたら,「最先端でカッコイイ!」より,「あいつはギーク(テクノロジーオタク)だ」と思われることのほうが多いだろう。というわけで,もうちょっとオシャレになってもらえないだろうか。
これをあえて「Overwatch」でたとえるなら,ウィドウメーカーやシンメトラのような機器を頭に装備して道は歩くのは無理だが,トレーサーやルシオのサングラス風小型デバイスなら許せる,といったところだろうか。こちらの方向の進化も期待したい。
連載1000回は気が遠くなるほど先の話だが,もしそこまで続いていたら,そのときは筆者が長年愛用しているPCは消え去り,サングラスに映るスクリーンでゲームをプレイしたり,記事を書いたりしているのかもしれない……などと夢想しつつ,このへんで筆をおこう。もちろん,技術の進歩によってもはや筆なんか使っていないので,実際は文書作成ソフトを閉じるわけだが。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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