業界動向
Access Accepted第509回:ドイツで見たロシアが注目する南米のゲームを紹介
2009年に開催されてから,今年で8回めを迎えたドイツのゲームイベントgamescom。新情報発信の場としての機能は減りつつあるが,E3や東京ゲームショウではお目にかかれないタイトルを発見する面白さは健在だ。今週は,ロシアの大手メーカーである1C Companyが発表した,南米生まれのタイトルを紹介したい。
もはや新発表の場ではなくなったgamescom 2016
2016年8月17日〜21日,ヨーロッパ最大規模のゲームイベントgamescom 2016が,ドイツ・ケルンのケルンメッセで開催された。
2014年を最後にSony Computer Entertainment(現,SIE)がプレスカンファレンスを取りやめ,今年はMicrosoftがそれに続いた。gamescomが新作発表の場としての立場を失いつつあることは,これまでにも何度か本連載で書いてきたが,今年はそれがさらに顕著になった形だ。
Electronic Artsがパーティー形式のイベントを開催前日に開いたものの,展示されていたのは,すでに発表済みのタイトルばかり。KONAMIが「METAL GEAR SURVIVE」の制作発表を行う(関連記事)というサプライズもあったが,全体的には,E3 2016で発表されたタイトルのプレイアブル展示がメインのイベントになっている。
4Gamer「gamescom 2016」記事一覧
来場者数は昨年とほぼ同じ約34万5000人で,世界97の国と地域からドイツにやってきたとのこと。うち3万500人が4Gamerを含むメディアや業界関係者で,フロアでは54の国と地域から参加した877社がさまざまな展示を行った。
ケルンメッセの総床面積は19万3000平方mで,これは東京ドーム4個ぶん,イベントスペースとしては世界第4位だ。その広大なフロアをフルに使った巨大イベントであることは間違いないが,来場者数の伸びは鈍化しており,そろそろ参加可能な地域に住むゲーマーの数も頭打ちになってしまったのかもしれない。
しかし,やせても枯れてもそこはgamescom。ショーフロアに出展できないパブリッシャやデベロッパでも,一般参加者が入れないビジネスエリアに小さなブースを持ち,商談やゲーム紹介を活発に行っていた。さらに,イギリス,フランス,ポーランド,イタリアなどのヨーロッパ諸国,そしてイランやトルコ,中国,韓国,フィリピンなどの公的機関が自国のゲームを紹介するためのブースを設置しており,ほかでは見られないような作品が展示されていた。
このように,国ぐるみでイベントに乗り込み,ゲーム産業を育成しようというブースが建ち並ぶ中,いつも「どうして参加していないのだろうか」と思わせる国もある。その代表がロシアだ。国の規模や人材面で不足はなく,「テトリス」という世界的な作品を生み出した過去を持っているのに,ビジネスエリアに「War Thunder」のGaijin Entertainmentと,ロシア大手の1C Companyが出展しているだけで,国を挙げてゲーム産業を育成しようという意思は,あまり感じられない。
南米のゲームに注目するロシアのパブリッシャ
そんなロシアの1C Companyが設立されたのは,今からちょうど25年前の1991年,ソビエト連邦が解体する直前のことだ。現在は,ゲームの開発やパブリッシングのほか,Electronic ArtsやMicrosoft Gamesなどのメジャータイトルのローカライズを行い,さらに,280店舗を超えるゲーム販売店を抱える企業に成長してはいるが,そもそも,ストラテジーの「Men of War」や「King's Bounty」シリーズ,そしてコンバットフライトシムの「IL-2 Sturmovik」シリーズなど,彼らの作品は,どちらかといえばマイナーなPCタイトルばかりで,西欧や北米にその名を轟かせることはなかった。
ロシアのような市場では,政府の支援がなければ,海外に通用するタイトルを生み出すのは難しい。それがない以上,資金をかけて大作を作るリスクは取りづらい,というのが実情なのだ。
そんな1C Companyだが,2016年に入ってから,国内外のインディーズデベロッパと契約するという興味深いビジネスを始めた。
もともと,「パブリッシャを頼らず,独自販売する」という傾向の強かったインディーズゲームの現場だが,タイトル数が増え,競争が過熱する中で,「パブリッシャの流通や広報のノウハウを借りたい」という開発者も増えてきた。
インディーズゲームにフォーカスしたパブリッシャとしては,Devolver DigitalやVersus Evil,Raw Fury Gamesなどがあり,次第にその数を増やしているが,1C Companyもそこに目を付けたというわけだ。同社は今回のgamescom 2016に合わせて,実に12作もの新作タイトルを発表していた。
4Gamerのgamescom 2016レポートでも,ノルウェーのAntagonistが開発を進めるサイコホラー「Through the Woods」の紹介や,イタリアのStorm in a TeacupのVRタイトル「Lantern」を紹介しているので,参照してほしい。
面白いのは,彼らの新作ラインナップの中には南米のデベロッパの作品が多いことだ。チリには,「Zeno Clash」シリーズで知られるACE Teamがあり,ブラジルには「Chroma Squad」のBehold Studiosがあるが,南米を網羅するほどの大きなパブリッシャは存在せず,ゲームの供給源として南米はほどんど認知されていない。
ロシアと南米,想像もしていなかったカップリングだが,南米ゲームの将来性は,1C Companyのブースに展示されていた4作品を取材した筆者にも感じられるところだった。というわけで,以下,それらのタイトルを簡単に紹介したい。
Haimrik
開発元:Below the Game
開発国:コロンビア
発売予定:2017年
URL:http://haimrikgame.com/
コミカルなアートワークやストーリーが楽しそうな「Haimrik」は,うっかり悪魔と契約してしまい,古い書物の世界に迷い込んだ主人公の珍道中を描く,横スクロール型アクションゲームだ。
プレイヤーは,画面に並んだ文章の中からゲームを進めるために必要な単語を選び出してゲームを進めていく。例えば,開かずの扉があれば「鍵」という単語を見つけてクリックしたり,火災が起きていれば,「バケツ」と「水」いう単語をクリックするといった具合。「スクリブルノーツ」シリーズにインスパイアされた文字パズルの要素を利用しながらも,独創的なゲームになっているようだ。
Quantum Replica
開発元:ON3D Studios
開発国:コロンビア
発売予定:2017年
URL:http://www.on3d.co/
「Haimrik」と共に展示されていたもう1つのコロンビア産ゲーム「Quantum Replica」は,都市機能はおろか住人までもが高性能AIによってコントロールされているという未来の巨大都市を舞台にした斜め見下ろし型のステルスアクションだ。
都市に潜入した主人公は時間を操る能力を持っており,それを使ってガードマンや兵器を回避したり,破壊したりしながら進んでいく。主人公というか,プレイヤーが何のためにゲームを進めていくのかが最後になって分かるという,変化球のストーリーだが,ゲームはかなりハイペースで進み,時間停止やワープなどをきちんとこなす,プレイヤースキルの求められるゲームになっている。
The Watchmaker
開発元:Micropsia Games
開発国:チリ
発売予定:2017年第2四半期
URL:http://micropsiagames.com/new/?page_id=873
チリのMicropsia Gamesが開発中の「The Watchmaker」は,時計の中に閉じ込められてしまった時計職人のアレクサンダーが,さまざまなパズルを解いて脱出を図るというアクションアドベンチャーだ。
時間の歪みによってアレクサンダーは急速に年をとり,もたもたしていると老衰で死んでしまうという設定が面白い。プレイヤーは時間の経過速度を緩める「タイムボム」を投げて巨大なゼンマイの回転速度を落とし,その間をすり抜けたりといったパズルをこなしてゲームを進めていく。マップの要所に用意されている,若返りするためのカギを拾っていくことも重要になる。
Shiny
開発元:Garage 227 Studios
開発国:ブラジル
発売予定日:2016年8月31日
URL:http://www.garage227studios.com/#!shiny/
ブラジルではすでにPC版がリリースされている「Shiny」は,デベロッパのGarage 227 Studiosが,「子供達が安心してプレイできる,マリオのようなゲーム」を目指して作ったプラットフォームアクションだ。惑星が終わりを迎え,人類がすべて脱出した世界が舞台で,取り残されたロボットはエネルギーを失って停止しつつある。主人公のクレイマーは,そんなロボットの1台で,少しでも長く生きることを決意して,ときには仲間を助けつつ,さまざまな難関を突破していくというストーリーになっている。
4Gamer「gamescom 2016」記事一覧
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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