業界動向
Access Accepted第526回:「Nintendo Switch」,海外での反応と動き
2017年1月13日に開催された「Nintendo Switch プレゼンテーション 2017」で,価格や発売日,対応タイトルなどが明らかになった「Nintendo Switch」。筆者も1ユ―ザーとして発表会のオンライン配信を視聴したのだが,欧米ゲーム業界のウォッチャーとして気になるのは,やはり海外での反応や動き。そこで今週は,発表されている国内外の対応タイトルを紹介しつつ,Nintendo Switchの立ち位置などを考えてみよう。
Nintendo Switchへの期待と不安が交錯する
欧米ゲーム業界
任天堂の新型のコンシューマ機「Nintendo Switch」の発売日や価格,対応ソフトなどが明らかになってから,2週間ほどが経過した。発表後しばらくは,間違いなくゲームファンやメディアの話題の中心であり,最近になってようやく落ち着いてきたという雰囲気ではないだろうか。
Nintendo Switchのアナウンスが行われたイベント「Nintendo Switch プレゼンテーション 2017」の翌日,東証1部では任天堂の株価が,前日と比べて5.75%下落したと報道された。株価の上下にはさまざまな理由があるため,なんとも言えないが,Nintendo Switchがメディアやプレイヤーの期待に応えられていなかったという印象は受けた。
念のために書いておくと,下落したと言っても,2016年7月に北米を中心に「Pokémon GO」が配信された際の株価急上昇の前に比べて60%以上,1万円近くも高い水準にある。とはいえ,「Wii」がリリースされた2007年には現在の2.5倍ほどになる7万円近い株価を付けていたのだから,この10年で任天堂とゲーム業界を取り巻く様相は大きく変わってしまったとも言える。
この,期待に応えられていないという感じは,やはり「Nintendo Switchは,どの市場を狙っているのか?」が分かりづらいことに由来するだろう。この点については,2016年10月にNintendo Switchが正式発表された際,GamesIndustry.bizに掲載された「任天堂のハードコアファン以外にSwitchを購入するゲーマーはいるのだろうか?」という記事が参考になる。
記事中,日本在住でアジアのモバイルゲーム市場に詳しいKantan Gamesのセルカン・トト(Serkan Toto)博士は,Nintendo Switchが携帯ゲーム機とコンシューマ機のハイブリッドであることにそれほど革新性はなく,固定化されつつある双方の市場から,新たなゲーマー層を取り込むのは,たとえ任天堂といえども難しいとしている。
携帯ゲーム機としては,バッテリー駆動時間が2.5〜6.5時間と短めで,コンシューマ機としてはライバル機に比べてパワーが足りないという,性格としては中途半端なNintendo Switch。その面白さを証明する必要が任天堂にあったのだが,少なくとも2016年10月の正式発表,そして2017年1月のイベントでは,トータルメリットを消費者にしっかり認識してもらうには至らなかった。
この発表会を受けて,アメリカのリサーチ会社DFC Intelligenceが市場予測を発表しており,Nintendo Switchは2020年までに4000万台売れるだろうと見積もっている。2012年にリリースされた「Wii U」が4年間で1340万台ほどとされているので,実にその3倍もの販売台数を見込んだことになるわけだ。かなり強気の観測にも思えるが,DFC Intelligenceは,これでも抑えた見通しだとしている。
Switch対応タイトルから見える欧米ゲーム市場
ハードが売れる原動力になるのは性能ではなくソフトウェアだ,とはよく言われること。任天堂の保有するIPの強さは,世界中のモバイルゲーム市場を沸騰させた「Pokémon GO」や「スーパーマリオラン」で実証されている。
そこで,現在までにアナウンスされているSwitch向けタイトルから,海外のみでリリースされているものを含めて主なものを書き出してみた。色付きがエクスクルーシブタイトルとなる。
●ローンチタイトル(発売初日)
1-2-Switch
The Binding of Isaac: Afterbirth+
Just Dance 2017
Human Resource Machine
Little Inferno
Skylanders: Imaginators
World of Goo
いけにえと雪のセツナ
ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
ドラゴンクエストヒーローズI・II for Nintendo Switch
スーパーボンバーマン R
信長の野望・創造 with パワーアップキット
魔界戦記ディスガイア5
●春発売タイトル
ARMS
Has-Been Heroes
いっしょにチョキッと スニッパーズ
三國志13 with パワーアップキット
ぷよぷよテトリスS
マリオカート8 デラックス
みんなでワイワイ!スペランカー
●夏・秋発売タイトル
Rime
The Elder Scrolls V: Skyrim
Splatoon 2
ファイアーエムブレム無双
●発売日未定タイトル
Farming Simulator 18
FIFA
Minecraft
Minecraft: Story Mode
Project OCTOPATH TRAVELER(プロジェクト オクトパストラベラー)
Rayman Legends
NBA 2K18
Sonic Mania
STEEP
Syberia 3
ウルトラストリートファイターII ザ・ファイナルチャレンジャーズ
真・女神転生 シリーズ最新作(仮題)
新大開拓時代〜街をつくろう〜
スーパーマリオ オデッセイ
ゼノブレイド2
ダービースタリオン(仮題)
太鼓の達人(仮題)
「テイルズ オブ」シリーズ新作(仮題)
ドラゴンクエストX オンライン
ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
ドラゴンボール ゼノバース2(仮題)
ブレイブルー(仮題)
Nintendo Switchへの対応を表明しているタイトルは70作以上あるので,リストアップしたのはだいたいその半分ほどになるが,全体として欧米メーカーのタイトルはそれほど多くはなく,現在のところ日本国内のゲームに力を入れているという印象だ。Activision Blizzard,Bethesda Softworks,Electronic Arts,そしてUbisoft Entertainmentなど,海外の大手パブリッシャのタイトルも見られるが,いずれのメーカーも独占タイトルは発表していない。
興味深いのは,ローンチタイトルの少なさで,現時点で本体と同時発売が発表されているのは13タイトルだけ。最近の欧米メーカーやメディアは,発売から3か月にリリースされるタイトルまでも「ローンチタイトル」に含めるようになってきたが,春発売の作品を入れても20作ほどだ。
ちなみに,ローンチタイトルの数を比較すると,PlayStation 4が47タイトル,Xbox Oneは36タイトル,そしてWii Uの場合は50タイトルだったので,ほかのプラットフォームと比べてもかなり少ない。
もっとも,メーカーとしては「ローンチタイトル」にこだわるのはあまり得策ではないという考え方もある。例えば,Steam VRでは,対応する「Vive」のローンチから120日で242作品がリリースされ,「PlayStation VR」でも現在までに77タイトルが販売されているが,プレイヤー人口が少ないのに多くのソフトウェアが出ると,まだ小さい市場を食い合う結果に終わってしまいがちだ。
任天堂は,こうしたVRゲーム市場の現状を見て,Nintendo Switchのラインナップをコントロールしようとしているのかもしれないし,2017年末に向けた新作はE3 2017で発表するよう,海外ゲームメーカーに任天堂が要請していることも考えられそうだ。
現段階でもう1つ興味深いのは,欧米のインディーズ系開発チームの参加表明が盛んだということ。もっとも,新作ではなく,「Minecraft」や「Little Inferno」「World of Goo」など,PCやほかのプラットフォームで発売されて何年も経ったようなタイトルが多く,ピークを過ぎたゲームをNintedo Switch版で再認識させ,ロングテールの販売を狙うという戦略なのかもしれない。
それにしても,海外から参加するタイトルが「大手かインディーズのマルチプラットフォームタイトルばかり」という状況は少し心配になる。ヒット作「The Elder Scrolls V: Skyrim」はいいとして,新しいハードウェアのローンチには必ず参加するUbisoft Entertainmentのゲームタイトル以外,あと2〜3作くらいは欧米生まれのエクスクルーシブタイトルがあれば良かったように思える。
また,アメリカのリサーチ会社ICO Partnersが発表したデータによれば,1月13日の発表会に登場したタイトルの中で,アメリカとヨーロッパのメディアが最も多く記事にしたのは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の2044件で,さらに,6位までを任天堂のファーストパーティのタイトルが占めたという。
以前から,「任天堂のプラットフォームは,任天堂のゲームを遊ぶためのもの」といった固定観念のようなものがメディアや消費者の間に広がっており,そのことがサードパーティ離れを引き起こしたとも言われている。話題性の高い作品が上位に来るのは当然だが,「任天堂のゲームだけが話題を集めた」という,同社の新ハードの発表会ではおなじみとなった光景は,任天堂にとっても望ましいものではないはずだ。
Nintendo Switchが熱烈なファンの忠誠心を試すものではなく,新たな購買層を獲得し,ゲーム市場で長く続いていくハードウェアになるためにも,欧米ゲーム市場での力強い船出に期待したい。残り1か月ほどに迫ったNintendo Switchの発売と,その後の展開に注目したい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※次週2017年2月6日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載します。次回掲載は2月13日を予定しています。
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Nintendo Switch本体
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