インタビュー
オンラインFPS「POINT BLANK」で日本のe-Sports文化を育みたい。開発元Zepettoと日本運営アラリオにインタビュー
2007年に韓国でリリースされ,満を持して日本に上陸した本作。今回4Gamerでは,正式サービスに向けた準備のため日本に来日した,本作の開発元であるZepettoで,POINT BLANK開発本部の総括を担当するPark Joon min氏(以下,Joon min氏)と,日本事業統括を担当するHong suk woo氏(以下,Hong氏),そしてアラリオでの運営担当のPark Goanglok氏(以下,Goanglok氏)の3名に,ZepettoやPOINT BLANKの概要,今後の展開,そしてe-Sportsに対する思いを聞いてきたので,その内容をお届けしよう。
Zepetto POINT BLANK本部 本部長 Park Joon min氏 |
Zepetto POINT BLANK海外事業部 日本担当PM Hong suk woo氏 |
アラリオ POINT BLANK運営担当 Park Goanglok氏 |
世界100か国以上で遊ばれている「POINT BLANK」
成功のポイントは,地域に即した緻密なカルチャライズ
POINT BLANKについて話を進める前に,本作の開発元であるZepettoがどういったデベロッパなのかを紹介しておこう。
2003年に設立されたZepettoは,外注を受けてゲーム開発を行うデベロッパだったが,2005年に韓国初のPlayStation Portable作品「Vulcanus(ヴルカヌス)」(※)を自社タイトルとして発売。これをきっかけに,自社で独自のタイトルを開発するようになり,2007年にPOINT BLANKをリリースしている。1作めがTPS,2作めがFPSと,シューティングゲームの開発を目的に会社を興したようにも見えるが,必ずしもそうではなかったそうだ。
※ロボットもののTPSで2006年11月16日に日本でも発売
「そのころ韓国では,少ないリソースで大きな成功を収められたジャンルがFPSでした。当時の弊社で開発が行えるタイトルがFPSくらいで,それがPOINT BLANKだったということなんです」(Hong氏)
当時の開発規模の事情や時流があったとは言え,当然ライバルが多い中でヒット作にまで育てあげた開発力と手腕には注目すべきだろう。実際のところ,世界でヒットした要因は何なのだろうか?
「現地のプレイヤーさんが欲しがっているものなどの意見を受け取り,しっかりと準備期間を置いたうえでカルチャライズを進めたことが成功につながっているのではないでしょうか」(Hong氏)
日本公式サイトでは「全世界70カ国を熱狂させた 名作FPSがついに日本上陸!」というキャッチコピーが踊っているが,実はこのインタビューの時点でサービス地域が30か国ほど増え,世界100か国以上でサービス中なのだという。
一方で,正直に言えば2007年のタイトルを,なぜ今サービスするのかは,どうしても気になってしまう。
「弊社(アラリオ)は現在,PCオンラインゲームに力を入れようという方針になっているのもありますが,POINT BLANKの世界大会PBIC(Point Blank International Championship )のようなオフラインイベントを通じて,日本でe-Sportsを盛り上げていきたいという思いもありました。そんななかで,Zepettoさんとの縁ができ,本作のサービスを行うことにしたんです」(Goanglok氏)
「本当は日本でももっと早くサービスインしたかったのですが,良いご縁が見つかりませんでした。今回,アラリオさんというパートナーとお話ができたことで,サービスが実現することを本当に嬉しく思います」(Joon min氏)
とは言え,POINT BLANKは8年前にリリースされた作品であり,ライバルとなるFPSタイトルも少なくない。しかも,グラフィックスや機能に優れたタイトルはいくらでもあるのだ。それらのタイトルとの差別化をどう図っていくのだろうか。Joon min氏は,「POINT BLANK」には4つの強みがあると説明してくれた。
・現地の要望をくみ取るカルチャライズ
「一番大事で,かつ本作の強みとなるのは,現地の要望をくみ取って行うカルチャライズに力を入れていることです。これまでにPOINT BLANKをサービスしたほぼすべての国で,本作が最初もしくは,最新のFPSではありませんでした。ですから,しっかりとカルチャライズを行うのは,それらのタイトルと並んだときに本作が選ばれるために必要なことでした」
・安定して,低スペックPCで遊べるゲームクライアント
「POINT BLANKはクライアントがすごく安定していて,ほかのタイトルに比べてもバグが少ないです。また,低スペックのPCでも安定してプレイできるので,展開できる地域も広くなります」
・大量のコンテンツ
「3つめは,コンテンツ量です。オープンβテストの時点で8つのゲームモードがあり,ほかにもスキン,キャラクター,武器のパーツなどが数多くそろっています。また,高い人気を維持するために,持続的に多くのコンテンツを提供していることが,大きな強みになっています」
・オフライン大会の支援
「最後にe-Sportsとして,PBICを始めとした,ローカルのオフライン大会の支援を継続して行っていることです。オフライン大会を活性化させるために積極的に活動しているので,それがきっかけになって,その国内で有名になったり,ゲームを遊んでもらえるようになっているのではと思います」
再びカルチャライズの話が出たが,日本ではクローズドβテストを2度行ってから,オープンβテストに進み,本日の正式サービスにこぎ着けている。これは,日本では他国に比べてより慎重にサービスインするために決めたそうだ。
「以前,別のスタジオにいたときに,日本市場にチャレンジしたことがありました。そのときは,日本市場を把握しきれなかったり,カルチャライズをきちんと行えなかったりしたことなどが原因で,満足のいく結果を残せませんでした」(Joon min氏)
自らの苦い経験を話すJoon min氏は,本作のリリース以降,インドネシアやトルコ,中南米など,FPSがあまり流行っていなかった場所でも,カルチャライズをしっかりとすれば成功するという確信を得たのだという。日本における本作のサービスインは,氏にとってのリベンジともなるわけだが,分析を続けながら慎重に展開を進めたいと話していた。
FPSでは異色のディノエスケープは,パブリッシャの要望だった
ここで改めて,本作について紹介しておこう。
本作は,デスマッチや爆破,破壊ミッションなど,2つの陣営に分かれて戦う,オーソドックスなオンラインFPSだが,それ以外にも,恐竜(側のプレイヤー)と戦うディノエスケープやディノクロスカウンターといった異色のモードも存在する。リアル系のFPSで恐竜と戦うモードは,タイトルのイメージからかけ離れているのでは? と聞いてみたところ,実はパブリッシャからの要望で実装されたものなのだという。
「ほかのタイトルとの差別化というのもありますが,(ディノエスケープなどは)実はパブリッシャからの要請で開発されたものなんです。最初はコンセプトと合わないと思ったのですが。しかし,いまでは本作の基本コンセプトのひとつとして認識して楽しんでもらえています(笑)。今後も,いろいろな恐竜を追加していくのでお楽しみに」(Hong氏)
「各モードのプレイ状況を比較すると,やはり大会で使われる爆破モードやデスマッチが人気です。ディノエスケープなどの利用率は全体の20%前後と,大会などに使われるモードに比べれば低いですが,それらのプレイに疲れたときの息抜きとして楽しんでくれているようです」(Joon min氏)
カルチャライズの一環……と言って良いのかは分からないが,ともあれ要望に応じて新たなゲームモードを作ってしまうというのは驚きだ。ディノエスケープ以外にも,ゾンビモードや,まだ実装されていないモードも多数あるのだという。
本作の特徴として,もう一つ挙げておきたいのが「icube」という独自のゲームエンジンだ。このゲームエンジンでは,マップ上にプレイヤー自身の判断で破壊可能な壁などの特定オブジェクトが配置できるようになっており,それにより戦術の幅も広がっている。ゲームとしての奥深さを担うとともに,低スペックPCでもプレイ可能にするという一面を持ち合わせたゲームエンジンになっているそうだ。
「グラフィックボードの載っていないCore-i5ぐらいのノートPCでも,サクサク遊べますよ」(Hong氏)
と,インタビューのときに持ち合わせていたノートPCを例に話していた。先ほど本作の強みの一つとして「低スペックPCで遊べる」ことが挙げられていたが,これが多くの国でサービスできている要因になっているのは間違いない。
先にも述べたように,本作の初リリースは2007年。FPSタイトルとしては8年前の作品であり,現状に見合う高クオリティなグラフィックスが楽しめるとは言いがたい作品だ。しかし,安定して動作すること,その動作が軽いことは,低スペックPCがまだまだメインであろう東南アジア諸国や発展途上国でもプレイヤー数の獲得が期待できるということでもある。単純にプレイヤー数が増えれば,FPSを楽しむ対戦ツールとして盛り上がるのは間違いないだろう。
「低スペックでもプレイできるというのも大きいですが,オンライン,オフラインのどちらでも多くの大会を開催しているので,もう少し頑張れば,どれかの大会に出場できるかも,とプレイヤーに思ってもらえることが大きいのではないでしょうか」(Joon min氏)
ちなみに,インドネシアで開催された2015年のPBICでは,約3万人の観客動員数(会場に入場できる人数)があり,さらに会場に入りきらない観客のために大型モニターを外に設置し,パブリックビューイングが行われたという。日本では少し考えられないほどの大盛況ぶりだ。Joon min氏は本作を通じて,日本でもe-Sports文化を定着させたいという思いがあるという。
「本作では,チームを構成すれば,誰でも大会に参加できますし,我々も,そしてパブリッシャもプレイヤーさんがチームを組みやすくするために,コミュニティを活性化させることに注力しているんですよ。そうして,PBIC大会を始め,プレイヤーが一緒になって参加,観戦するお祭的な大会を世界各地で定期的に行っています」(Joon min氏)
「日本のプレイヤーに向けた大会も予定していますよ。いずれはPBICの代表を決める日本王座決定戦を実施します。ほかにも,いろいろな形で大会を実施していきます。ただ,日本のプレイヤーさんはソロプレイを楽しまれる方が多いと思います。そういうプレイヤーのために,少人数でも楽しめるような1対1や2対2といった大会も考えています。そこからステップアップして,最終的にPBICと同じ5対5の大会に出てほしいですね。我々GMも強くなって,プレイヤーの皆さんと一緒に,PvPを盛り上げていきたいです。ひとまずの目標としては,武道館でPBICを開催したいです(笑)」(Goanglok氏)
一方,e-Sportsの日本での認知度は徐々に高まりつつはあるものの,まだまだ“ゲームの大会”であり,スポーツ競技という認識には至っていないだろう。
「PBICは,最初から2015年のような規模だったわけではありません。地道に努力を重ねた結果,あれほど盛り上がるようになりました。e-Sportsという名のとおり“スポーツ”としていろいろなプレイヤーさんに見てもらいたいです。
その一環として,今年のPBICでは,通常のスポーツ競技と同様にドーピング検査(※)も行いました。台湾ではe-Sportsはスポーツの協会にも認定されていまして,スポーツのイベントなどにも参加しようと準備しています。日本は長い時間が必要になるとは思いますが,これから始めていくことで,いずれ良い結果が出せるのではないかと思います。そのきっかけの一翼を本作が担えればと嬉しいですね」(Joon min氏)
※集中力を強化するような成分を対象としたもの
正式サービス開始後は,プレイヤーの要望次第でさまざまなコンテンツが追加実装される?
本作における今後の展開についても聞いてみた。日本での正式サービスを開始するにあたり本作では,先述のとおり他国と比べて慎重にテストが実施されてきた。その理由として,正式サービス前に本作をプレイしてもらって,運営に必要なデータを集め,プレイヤーにはゲーム自体になじんでもらいたいという意図もあったそうだ。
「まだプレイで武器が足りないといった意見がありましたら,公式サイトやGMを通してメッセージをいただければ,追加実装を考えていくつもりです。また,新たなシステムやモードも追加して,POINT BLANKを楽しんでもらえるようにしていきたいです」(Goanglok氏)
ちなみに新たなモードというのは,前述したゾンビモードや,まだ他国でも実装されていない「感染モード」「奪取モード」といった,名前だけが明らかにされた数々のモードのこと。それらの日本での実装が決まったわけではないが,プレイヤーからのアプローチ次第で決まる可能性もあるのだとか。
公式サイトでは公開されていないモードも多々あるようなので,アラリオの情報公開を待ちつつ,要望を投げかけたいところだ。
ほかにも,サクラ模様や忍者のアバター,苦無(くない)などの日本風武器も多数用意されているとのこと。もちろん,他国で実装されているアバターも導入される予定もあるそうだ。これらについてもプレイヤーからの要望次第で実装が早い段階で実現するかもしれないとのことだった。
最後に,本作の正式サービス開始にあたり,その意気込みとともに,日本のファンへのメッセージをお伝えして本稿を締めよう。
「日本でPOINT BLANKのサービスを開始するにあたり,一生懸命準備してきました。日本の皆さんに本作を楽しんでいただければと思います」(Hong氏)
「日本でサービスを行うのに8年も経ってしまいましたが,その分,十分な準備ができたと思います(笑)。まだまだ足りないところがあるかもしれませんが,日本の皆さんが本作を楽しめるように,今後も準備していきますのでご期待ください。そして,アラリオさんと日本の皆さんとともに,日本でもe-Sportsが文化として認められるよう活動していきたいと思いますので,ご協力お願いします。PBICでお会いしましょう!」(Joon min氏)
「本作は誰でも楽しめるオーソドックスなFPSです。操作もシンプルで,手軽にプレイできるので,ぜひ一度プレイしてみてください。すぐにゲームに慣れると思います。運営するのはアラリオで,開発するのはZepettoさんですが,ゲームを作っていくのはプレイヤーの皆さんだと思っています。皆さんに,コミュニティの活性化などで力を貸していただければと思います」(Goanglok氏)
「POINT BLANK」公式サイト
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