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インディーズゲームの小部屋:Room#72「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜 一巻」
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印刷2009/01/07 18:00

連載

インディーズゲームの小部屋:Room#72「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜 一巻」



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 皆様,あけましておめでとうございます。よいお正月休みをお過ごしになれましたでしょうか。筆者は,年末に始めた,ここ数年来で最も大規模な大掃除が年を明けても終わらず,正月もひたすら部屋の片付けに追われていました(それでもまだ終わらない)。そんな筆者の2009年の目標は,ゲームを積まずにプレイすることです。

 とまあ,長い前フリで文字数を稼ぎつつ,本年最初となる「インディーズゲームの小部屋」の第72回は,無限逃避級数の「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜 一巻」を紹介しよう。本作はその名のとおり,日本文学最大の古典小説「源氏物語」を題材としたノベルゲーム。基本的には文章を読み進めるだけでゲーム性は低いが,和服姿の美少女が多数登場する,お正月にぴったり(?)の作品だ。

画像集#030のサムネイル/インディーズゲームの小部屋:Room#72「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜 一巻」 画像集#033のサムネイル/インディーズゲームの小部屋:Room#72「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜 一巻」

 原作の源氏物語は「光源氏」の生涯と,その子「薫」の前半生を,五十四帖,約百万文字で綴った大長編の王朝物語。内容は,源氏の恋と栄華を描いた第一部,源氏がそれまでの罪を悔い,出家して死にいたるまでを描いた第二部,薫を中心に,源氏の周辺の人々のその後の暮らしを描いた第三部に大きく分けられ,とくに第三部にあたる最終十帖を指して,「宇治十帖」と呼ぶことがある。

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 11世紀初頭に紫式部によって書かれ,2008年にその執筆からちょうど千年を迎えたと考えられており,本作もこの源氏物語千年紀に合わせて,2008年末のコミックマーケットで発表された作品だ。
 本作では,原作の第一部に登場する三人のヒロイン(といって差し支えないだろう)のエピソードを中心とした,三つのシナリオが楽しめる。物語序盤で,その三人の中から一人を選択することになるのだが,まずは左の選択画面を見てほしい。

 いきなり誰が誰やら分からないが,左から「葵の上」「花散里」「空蝉」だ。黒髪の花散里はともかく,葵の上は茶髪,空蝉にいたってはピンク色の髪と,平安貴族どころかもはや日本人ですらない。だが,そこがいい。ちなみに,花散里は“はなちるさと”,空蝉は“うつせみ”と読むのが正しい。

 原作を大胆に翻案した本作では,葵の上はデレ成分が極めて少ないツンデレキャラ,花散里は,おっとりしているように見えて,時折真顔でさらりと怖いことを言う大和撫子,空蝉はいたずら好きで,“びーえる”と呼ばれる絵や文章を書く天真爛漫キャラとして描かれている。

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 文章やセリフ回しなども,極めて現代風にアレンジされており,ところどころに現代をネタにしたジョークが含まれていたりするのが本作の特徴。原作には登場しない,神出鬼没の謎の異国人紳士(?)サンジェルマンも登場し,時折ストーリーに介入してくるなど一見ハチャメチャだが,物語の流れは原作にかなり忠実に沿っている。
 本作には,全編を通じてただ1か所の選択肢しか存在しないが,そちらでは本来であれば「六条御息所」の生霊に取り殺されてしまう葵の上が,生存するルートが用意されている。えーと,六条御息所は“ろくじょうのみやす(ん)どころ”と読むそうだ。

 それぞれのエピソードの時系列は相互に重なり合う部分があるものの,三人のシナリオはどれから読み始めてもいい。原作の流れに準拠して考えるならば,空蝉,葵の上,花散里と読み進めるのがいいだろう。本作ではこれら三つのシナリオを通じて,おおむね第一帖「桐壺」から第十帖「賢木」あたりまでの物語が収録されている。

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 もちろん,ゲームで描かれているのは第十帖までのエピソードの一部にすぎず,長大な源氏物語のほんの触りの部分でしかない。しかし本作の価値は,原作をまったく知らない人でも楽しめ,源氏物語への興味を持つきっかけを与えてくれる作品に仕上がっている点にある。

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 ちなみにかの有名な,光源氏がかっさらって自分好みの女性に養育し,しかるのちに自分の妻とした十歳くらいの少女(のちの紫の上)は,葵の上や花散里のシナリオでその存在がほのめかされる程度で,まだ本格的には登場しない。

 “まだ”と書いたのには理由があり,無限逃避級数では2009年夏のコミックマーケットに向けて,本作の「二巻」を制作中だからだ。そちらでは,いよいよ紫の上が登場することは間違いないだろうというか,ぜひ登場させてほしいというか,いや,紫の上が作中の最重要人物の一人であるからであって,けっして筆者がロリコンだからというわけではないので変な勘違いはやめてほしい。

 いずれにせよ,続編が楽しみに待たれる本作だが,「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜」の公式サイトでは本作の体験版が配布されているので,興味を持った人はまずはそちらからお試しあれ。また,製品版は1050円(税込)にて発売されている。
 最後に筆者からの要望を一つ。第二巻では人物辞典や用語集といったリファレンス要素が充実されると,物語の理解の役に立ち,筆者も大変助かるので嬉しいところだ。

■「夢の浮橋 〜新釈源氏物語〜」公式サイト
http://genji.shinshaku.net/

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