連載
インディーズゲームの小部屋:Room#256「To the Moon」
本作の舞台となるのは,人生の最後に思い残すことなく死を迎えさせてあげるために,特別な装置を使って現実とは異なる思い出を人工的に作り出せる近未来の世界。その装置を用いて依頼主の記憶を少しずつ遡り,記憶の奥深くに思い残した願いを設定すると,その人が叶えたかった願いへと向かう架空の人生が意識の中で再生されるのだ。
この“ライフジェネレーション”のエージェントであるエヴァと,専門技術者のニールのもとにやってきた今回の依頼は,すでに昏睡状態にあるジョニーという老人の「月に行きたい」という願いを叶えてあげること。彼はなぜ,月に行きたいと願ったのか? 実際の彼はどのような人生を歩んできたのか? そして,彼の願いは果たして叶えられるのか? プレイヤーはエヴァとニールの2人を操作して,ジョニーの記憶を遡っていく。
本作は「RPGツクール」の海外版であるRPG Makerを使って制作されており,ゲーム画面だけを見ると見下ろし型のRPGのようだが,戦闘は一切ない純粋なアドベンチャーゲームとなっている。ゲームの舞台の大半はジョニーの記憶の中の世界で,マップのあちこちを探索してジョニーの思い出の品を見つけ出しながら,徐々に過去の記憶へと迫っていく。一つの年代から別の年代へと記憶を移動するときには,ちょっとしたパズルが用意されているが,それほど難解なものではないので,すぐに解けるだろう。
プレイヤーはジョニーの記憶を辿る過程で,彼と,彼の亡き妻リヴァーとの思い出に触れることになる。ネタバレになってしまうので,あまり詳しくは書けないが,物語の大きな鍵となっているのは折り紙で作ったウサギと,カモノハシのぬいぐるみ,そしてオリーブの瓶詰めだ。ゲームのあちこちで登場する,これらのアイテムが持つ意味を理解したとき,月に行きたいと願ったジョニーの人生に隠された,すべての謎が明らかにされる。
過去の回想シーンをメインにしたストーリーは,全体的にどこか切なく,大どんでん返しの末に迎えるラストでは思わず涙ぐんでしまうこと間違いなし。また,「Plants vs. Zombies」のエンディングテーマでおなじみのローラ・シギハラ(Laura Shigihara)さんが歌うテーマ曲を始めとした,心に染みる楽曲の数々も,本作の大きな魅力となっている。そんな本作の日本語版は,PLAYISMにて980円(税込)で発売中。英語ではつかみにくかった細かいニュアンスがすんなりと頭に入ってくる,分かりやすい日本語訳が好印象で,英語が苦手でプレイをためらっていたという人にもオススメの一本だ。
■「To the Moon」公式サイト
http://freebirdgames.com/to_the_moon/- この記事のURL:
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